スーパーとコンビニの恵方巻商品と比べてみると、それぞれの特徴も見えてきます。センター調理品だと恵方巻のような食品は扱いにくいもの。その他、老舗寿司店と大手スーパーの商標での係争、コンビニ仕掛人の話…
〔スーパー、ビッグストアの恵方巻パンフ、2009年〕
パンフ写真は左上から順に
ビッグストア(GMS):ダイエー、イトーヨーカドー、西友、イオン
大手スーパー(SM):ピーコック、ライフ、東急ストア、マルエツ
地域スーパー(地域SM):ポロロッカ、京急ストア、文化堂、OKストア
■センター調理ではネタ的にも限界?
コンビニの恵方巻と商標について3年続けて記事にしました。今回はスーパーマーケット関連の話。コンビニが仕掛けた恵方巻ブームにもちろんスーパーも積極的に対応しています。
コンビニの場合はもちろん厨房がなく、外部の協力会社(惣菜工場)から出来合いで届けられる商品をそのまま販売します。一方厨房を持つスーパーの場合は、一部セントラル・キッチンからパックされたものが届けられているようですが(※注1)、おそらく大半は、
・食材がパーツとして届けられて
・店の厨房で加工する
という形をとるのだと推測されます。
そのためもあり、恵方巻のネタ(具材)自体が、コンビニの提供するものと微妙に異なります。といいますか、当然ながら生もののバリエーションは多く豪華です。コンビニ版の魚介類というと、穴子のほかはせいぜいサーモン、あるいはマヨネーズ和えの半加工品しか使われていないのに対し、スーパー版では貝類や生の甘エビ、いくら、真鯛、イカ、ズワイガニなどが使われます。そのほかにも大葉、くき若芽などに違いが目立ちます。
地域密着型のスーパーとなると、チェーン単位でなく店舗単位で工夫している様子が見られます。パンフもオフセット印刷ではなくカラープリンターからの片面少部数印刷が主。ある地域スーパーではパンフさえ置かず、「当店オリジナル恵方巻」という貼り出しを店の入り口に掲げていました。
これらと比べると、苦し紛れに穴子ばかり(?)に頼るコンビニ恵方巻の限界が見えるようです。記事「コンビニの恵方巻 -2009年」で触れたように、コンビニの恵方巻はアイテム数が頭打ちですが、ネタの種類においても限界があるのでしょう。コンビニの限界というより、センター調理の限界です。
もっとも、おでんやおにぎりのように、以前「コンビニでは品質の高いものを置くのは不可能」といわれていた商品なのにいまやコンビニの看板商品になっている例は数々あります。とはいえ、年に1回だけの恵方巻にこれ以上コンビニがシステム化の労力を費やすことができるのでしょうか。疑わしいところです。
■「恵方巻」は普通名詞だが、「招福巻」は登録商標
商標関連では、「恵方巻」は普通名詞として共通認識ができたようです(参考記事「「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう」)が、同じ丸かぶり寿司を意味するらしい「招福巻」は登録商標として認識されたようです。
大手スーパーのイオンは「十二単の招福巻」の名称で2006年、07年に恵方巻を販売しました。ところがこれに対し、「招福巻」商標の権利者で、江戸時代創業の老舗「小鯛雀鮨鮨萬」(鮨萬=すしまん)が損害賠償訴訟に持ち込みました。結論として昨08年10月2日に大阪地裁でその判決が下り、イオンが敗訴。「商標権の侵害を認め、名称の使用差し止めと賠償を命じた」とのことです。
・「招福巻」(区分29,30,31,32 登録#2033007)
権利者は「小鯛雀鮨 鮨萬」(大阪市)。1988年登録。
鮨萬は、07年頃にイオンを含めた複数の流通業者に「招福巻」名称は同社の登録商標であるとの警告を送っていたようです。他のスーパーなどはこの名称の使用を止めたけれど、イオンのみが(大っぴらに?)継続してこの名称を使っていた模様。「招福巻の名称を使った巻きずしは他のスーパーなどでも販売されており、商標登録は無効」というのがイオン側の言い分。ここでは2つの主張をしています。
(1)「招福巻」は普通名詞である(だから登録商標としては無効なはず)
(2)仮に「招福巻」が登録商標だとしても「十二単の招福巻」は異なる名称である
裁判所の判決(事件番号[平成19(ワ)7660])から読み取ると、次のような判断がされたようです(細かい部分は少し表現を変えていますので、正確を期すには元の判決文をあたってください。判決文はインターネットからも読めます)。
■「招福巻」は普通名詞ではない
・04年以前「招福巻」という表記をしていた業者は少ない(04年のダイエーなどは使っている)。そしてその表記がある場合、一般的な普通名詞ではなく商品名として使われていると推定される。
・05年以降は、結構多くの例で「招福巻」が使われている(06年大丸ピーコック、07年小僧寿し、08年なだ万…など)。
・07年2月、商品名として使われている場合の「招福巻」について、使用する業者に対して鮨萬が警告を行い、今後「招福巻」を使用した巻きずしを販売しないなどの確約を得ている。つまり商品名として認識されたという状況証拠になりうる。
・08年1月発行の広辞苑第6版では「恵方巻」が載っている。つまり普通名詞として認められる。一方、広辞苑に「招福巻」はない。つまり普通名詞でないという状況証拠になりうる。
■「十二単の招福巻」は「招福巻」商標に類似している
・「招福巻」という部分に自他識別力がある。
・一方、「十二単の」の部分に自他識別力があるとは認められない。要するにたんに(12種類の具材が入っているという)数を表しているだけ。つまり類似していると判断できる。
ということだそうです。皆さんはどう思われるでしょうか。確かに「招福巻」は「恵方巻」に比べると限られた機会にしか目にしないので、商標として成立しそうです。でも「十二単」という基数に商品として他と識別する能力がないというのならば、何か大変ユニークな形容詞を招福巻の前につけた独特の商品名にすれば権利侵害を逃れられるのかな、とか勝手に想像します(^_^;)
まあ、鮨萬がイオンに求めた損害賠償の金額は2300万円だったのに対し、地裁判決ではイオンに命じられた支払額は51万4825円(※2)。たかがこの金額のために争うのは無駄なことでしょう(売上の詳細本数まで明らかにしたのに…)。かえって「招福巻」という言葉が権利者以外では世の中で使われず、マイナーな名称として落ち着くことになりそうな気がします。権利者が本当に得した判決だったのかどうか、よくわかりません…
■恵方巻仕掛け人の本当の真実
もう1つ、全然違う話ですが、こんな面白い記事が日経トレンディネットにありました。
予約殺到のコンビニ「恵方巻」の意外な仕掛け人を発見! 商品化に至った理由とは?
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20090121/1022966/
(すでにリンク切れ?)
「コンビニ経営者から聞いたその名前をきっかけに、ここ数年抱いていた『恵方巻の謎』はいっきに氷解した」とあります。
コンビニで初めて「恵方巻ビジネス」を仕掛けた張本人を探り出した興味深い記事です。誰もが知りたかった情報ですが、あえてわざわざ調べてもねぇ~と、皆思っていたのではないでしょうか。そこを果敢に攻めた上記記事の筆者(放送作家のわぐりたかしさん)に感謝です。
【注記】
※1 今年(09年)春のイトーヨーカドー、セブン・イレブン連合のように、同じ「森恵方巻」を両社で共通して売るような例もあります。
※2 イオンが06年、07年に販売した「十二単の招福巻」はそれぞれ3514本と2527本。売上は2年分計で629万6507円(消費税込み)。「本件商標の使用料相当額は,売上金額(消費税込み)の5%相当額と認めるのが相当」から0.05を掛けて31万4825円。代理人費用を20万円と見積もって足し、合計で51万4825円。
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