「人事評価/育成、組織」カテゴリーアーカイブ

“まちづくりとオープンデータ活用シンポ”より

まちづくりで、いわゆる“ビッグデータ”または広く標準的なデータに加え、それぞれの地域に密着した情報をいかに見える化し、実務に生かしていくかが求められています。「広域情報+ローカル情報」の組み合わせは、ものづくりIoTの現場や、人材アセスメント・評価での考え方と通じるところがありそうです。

グローバル・コンテンツとローカル・コンテキスト
〔グローバル・コンテンツとローカル・コンテキスト〕

「まちづくりとオープンデータ活用」シンポジウム(主催:Code for Suginami、杉並区産業商工会館にて、2017/9/22)を聴講しました。講演は、庄司昌彦GLOCOM准教授。その後のパネル・ディスカッションは、庄司准教授のほか、笹金光徳高千穂大学学長、杉並区役所の馬場氏、西武信金の山崎氏、モデレータとして新雅史東洋大学助教の5人。あまりまとまっていませんが、以下に気が付いたところを挙げてみました。

■オープンデータをまちづくりに生かすには

本シンポジウムのテーマは、地域社会(地方自治体)の衰退が課題となっている昨今、社会で役立つ調査結果や収集データを「オープンデータ」として整備し、それらをどのようにまちづくりに生かしていけばよいか、です。

なお、文章は話者の発言そのままではなく、筆者(松山)の解釈を含めた表現になっているところがありますので、ご容赦ください。

パネルディスカッションの様子
〔パネルディスカッションの様子〕

– 地域社会の衰退のスピードは変えられる。たとえば島根県海士町は、「島留学」や住民主導のまちづくりなどから、移住者が増えている。
– 日本の高齢者の25%は「友達が一人もいない」という。今後、人々が協調して活動する機会を増やすことが、重要な政策となるだろう。
– 「オープンデータ」とは、単に公開されたデータでなく、「開放(自由に使える)資料(イメージなどを含むさまざまなドキュメント)」である。
– 2016年末に施行された「官民データ活用推進基本法」において、都道府県におけるデータのオープン化計画づくりが義務とされた。

– 商店街の活性度や地域の元気度をどう測るか、「コミュニティカルテ」のようなものができないか研究している。
– 行政(杉並区)の情報政策課として、各部署に情報のオープン化を説得している(が、必ずしも理解が得られるとは限らない?)
– 金融機関はプライバシー情報が多いので、情報はほとんどがクローズドである。だが、金融庁森長官によって進められているディスクロージャーの動きから、銀行はどこもdiscloser誌(決算報告書のようなもの)を開示するようになった。

(参考)
「東京都オープンデータ推進 庁内ガイドライン」
http://opendata-portal.metro.tokyo.jp/www/contents/1491469912683/
「東京都オープンデータカタログサイト」
http://opendata-portal.metro.tokyo.jp/www/index.html
新雅史モデレータの興味深い著書
「商店街はなぜ滅びるのか」 facebook記事(2012年)

■局所的な文脈をいかに組み入れるか

いくつかのテーマのうち、講演者である庄司氏は「ビッグデータや広域で一律的に整備される標準データも必要だが、地域創生などには、それぞれの地域生活に密着した(地域企業が持っているような)ローカルデータが必要となる」という点を特に主張されていました。

中央からの発想、もしくはグローバルという視点を強く持ち出すと、ビッグデータや定量的な社会指標を重視しがちです。まちづくりの目標設定、たとえば補助金・助成金を受けるための目標設定などにおいて、地域の特性とはピントが外れた判断基準だけが一人歩きする危険があるわけです。しかし「想いやこだわりを地域や個店はしっかり持つべき。それなしにオープンデータ(広域・標準のデータ)を活用しようとしても、あまり意味がない」。

このあたりの考え方を自分なりに図式化してみたのが、冒頭の図の上部「まちづくり」として示した部分です。まちづくりにおける「広域・グローバル」データと「個別・ローカル」データのイメージとを対比させてみました。要素が必ずしも論理的に図式化されているわけではなく、概念的な項目と“RESAS”のような個別システム名が混じっています。あくまでもイメージに過ぎません。

個人的な意見になってしまうかもしれませんが、広域・グローバルな部分とは、膨大な「コンテンツ」として存在している、いわば客観的な“測定値”でしょう。一方、個別・ローカルな情報とは、外部から見れば理解しにくい「コンテキスト」(文脈)を含むもの。できるだけ客観化するに越したことはないのですが、必ずしも(普遍的に通用しそうな)客観性だけではなく、その地域、会社、グループ、個人といった粒度での主観性を併せ持つものだと思われます。

(参考)
RESAS:地域経済分析システム(内閣府 まち・ひと・しごと創生本部)」
https://resas.go.jp/

■ものづくり、ひとづくり、でもあてはまる枠組み

冒頭の図ですでに示しているように、筆者(松山)の感想としては、この枠組みはシンポジウムで論じられていた“まちづくり”の場面だけでなく、“ものづくり”(工場)、“ひとづくり”(人材育成)においても同じようなアナロジーができると思われます。

例えばものづくり企業のIT実践でも、米国的なビッグデータ構築や、ドイツ的なIndustry4.0標準化だけでなく、もう少しローカルな、個々の現場から上がってくる情報を組み合わせていくべきとの問題意識があり、日本の中小企業などが研究しています(IVI:インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ など)。

逆にものづくりの側から見ると、生産系の“どろどろしたデータ”は工場やラインの情報化で不可欠だという印象を持っていましたが、商業・マーケティング系でもやはり同じように「マクロで横並びになった情報」と「ミクロで文脈をさぐるような情報」の組み合わせが意識されていて、それがまちづくりというテーマで論じられるとこのシンポジウムのような議論につながってくるのかなと考えます。

さらに、当blogでは以前から何度も、ひとづくりを考える上で「アセスメント」(人事測定)と「イバリュエーション」(人事評価)の違いをテーマとしてきました。これも同じ枠組みで上の図に表現してみました。

(参考)
IVI:インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ
https://www.iv-i.org/
人事測定と人事評価の違い
http://mir.biz/2006/07/0418-5333.html

■ローカルベンチマークの枠組みとのアナロジー

さらにさらに、中小企業の経営状況を分析するツールとして経済産業省が打ち出してきた「ローカルベンチマーク」(通称:「ロカベン」)の枠組みも、同じように比較できそうです。ローカルベンチマークは、従来単に同業種比較で経営指標を見比べ、どこが勝っているのどこが劣っているのと一律の判断をしがちだった反省を踏まえ、定量的な情報(6つの指標)のほかに、定性的な情報(4つの視点)をできるだけわかりやすく枠組みに示したものといえます。

ローカルベンチマーク
〔ローカルベンチマーク〕

(参考)
ローカルベンチマーク(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/

最後にこんな記事をご紹介。コンテキストの必要性について述べた記事ですが、とても面白く読めます。
「紫式部は、なぜ源氏物語を書いたのか?」(池永寛明氏、日経新聞運営のサイトCOMEMO)

「今の日本は、コンテンツが中心で、「それはなぜか?」というコンテクスト(背景・文脈)を追いかけることが苦手な国になっている」
「「巨人の星」の星飛雄馬が1球投げるのに30分番組が終わるというような「長さ」がない」

厚生労働省の助成金体系が変わる

厚生労働省の雇用関係助成金の体系が2017年4月に大幅に見直されました。いくつかの助成金が統廃合されたほか、メニュー全体が整理されて項目数が減ります。また、「生産性要件」の適用拡大などが進められています。

雇用関係助成金改訂図1
〔雇用関係助成金の新旧比較-図1〕

■40種類くらいのメニューを約半減

用意した図3点は、新しく発表された平成29年度の体系(「新体系」と呼ぶことにします)と平成28年度の体系(「旧体系」と呼ぶことにします)を比較したものです。その他いくつか重要と思われる点について挙げてみます(以下、暫定情報を含む)。

厚労省の助成金の数は、数え方や範囲により異なるのですが、旧体系の大枠で30~40種類、細かいコース数で70~100種類と数多くあります。しかも似たような名称のものが多数あり、わけわからない状態になっていました。ずっと従来から引きずってきたのですが、わかりやすくなるように今回整理統合されることとなりました。新体系では23種類(+α)に分類されます。

助成金の見直しは、当然ながら政府政策を受けて進められています。たとえば現在重視されているのは、たんに既存業態のまま雇用を維持するというのではなく、雇用を必要としている分野への労働力のスムーズな移動、および女性・中高年・若年労働者の雇用促進といった観点からの施策の充実でしょう。「中途採用者の拡大」「長期不安定雇用者の雇用開発」「結婚・育児・介護などでいったん職を離れた人の再雇用者の評価処遇」などを目的とした助成金が新設されています。

■生産性要件の拡大

職業能力の開発という視点からは、長年行われてきた「キャリア形成促進助成金」の名称が「人材開発支援助成金」と変更されました。年々複雑化してきたコースも整理統合され、少しわかりやすくなったかもしれません。

雇用関係助成金改訂図2
〔雇用関係助成金の新旧比較-図2〕

助成の対象となる教育訓練は何でもよいわけでなく、図にあるようにいくつかの狙いに沿ったものであることが求められます。「若手育成」「技能継承」「グローバル人材」といった目的がコース名としても示されています。加えて今回注目できるのは「労働生産性の向上に直結する訓練」が新設されたことでしょう。

厚労省の助成金だけでなく、中小企業庁の補助金などを含め、現在の政府施策で非常に重視されているのが「生産性の向上」です。採択要件として生産性の向上指標が組み入れられてきた例が増えています。雇用関係助成金においては、目標とする生産性要件をクリアすれば助成額が割増しとなる助成金の仕組みが組み入れられてきています。

また、政府の「働き方改革実現会議」からもわかるように、非正規雇用者の雇用安定というだけでなく、多様な働き方へ対応できる経営体制へ変化することが日本企業に求められているとされます。「キャリアアップ助成金」「職場意識改善助成金」「両立支援等助成金」などにそれらの施策対応が強く組み込まれてきていることがわかります。

雇用関係助成金改訂図3
〔雇用関係助成金の新旧比較-図3〕

その他、今回というよりすでに数年前から行われていることですが、障害者の雇用促進、人手不足が懸念される建設業労働者に対する訓練環境整備、最低賃金の引き上げ支援などが厚労省系の助成金として用意されています。

※この記事は、初期の情報から、図および説明を一部更新しています(修正:2017年6月15日)。

“アジアで働く、日本で働く-シンポジウム”より

日本企業は、東南アジア人材獲得に本気になりつつある。東南アジアでの日本語学習者は増えている。でもその裏には、人材のミスマッチ、ピントの外れた人材採用、ステレオタイプなイメージと現実の違いも…。

JapanFoundation symposium
[「アジアで働く、日本で働く」シンポジウム]

シンポジウム「アジアで働く、日本で働く」(主催:日本経済新聞、共催:国際交流基金日本語国際センター Aug.20 2014)より。日本企業、海外からの留学生それぞれにとって、グローバル人材の採用/就職の状況はどうなのかが話し合われました。例によって、以下は私の個人的なメモです。発言者名省略。

■日本に馴染みすぎた人材採用は異文化の導入にならない?

日本企業と(日本企業への就職を目指す)学生とのギャップはある。例えば、企業は“日本人化した留学生”を採用したいのか、それとも多様な文化で生活経験のある留学生を採用したいのか。建前として後者を採るようなことを言っている企業も、本音では前者を選ぶことがある。

企業から見ると、文化の違いが大きい外国人を雇用しても、考え方がぶつかってなかなか使いこなせないことがある。しかし、初めから日本文化に馴染んで“日本人化”してしまっている人を採ったら、あまり意味がないのではないか。組織内での化学変化が起こらないのではないか。会社の文化など、入社した後で学べば良いではないか。

学生から見ると、日本企業の情報は非常に少ない。(東南アジアの優秀な学生は、急いで海外人材を求める日本企業から)安易な内定をもらいがち。その結果ミスマッチも増えている。人間関係で辞める人も多い。できれば、学生時代にインターンシップで(規模や業種の違う)3社位で働いてみるのがよいかもしれない。

→(松山コメント:)グローバル化などと旗を上げても、やはり企業側に異なる価値観や多様性を受け入れ、組織自体を変化させていく心構えがないとだめということでしょうね。

■日本の大企業が積極的に東南アジア人材を探している

5年前に日本で就職するのは中小企業の例が多かったが、今は大企業が増えた。いくつかの日本企業は、日本への留学生だけでなく、自ら積極的に現地にアプローチして人材を探している。東南アジアの学生で日本企業に入りたい人なら、今がチャンスだ。

東南アジアから日本企業に勤めようとする動機は、給料の高さでなく、欧米企業に比べ人間を大切にしてくれるという(ステレオタイプな)イメージがあるから。急激な変動が少ないので、一気に責任ある立場に立ちたいという人より、安心して長期的に勤めたいという人が日本企業を選ぶ。

ワーカーとして日系企業に勤めたいという人は減っている。例えばマレーシアでは今年最低賃金制度が導入され、日本でワーカーとして働くメリットは賃金水準の上からも小さい。

→(松山コメント:)欧米の合理主義・スピード優先の人材管理手法に染まっていないことが、意外にも日本企業の独自性としてプラスに働く場面があるといえそうです。しかし実態はステレオタイプのイメージだけでないブラックな体質もあるはずなので、そのあたり、後々悪イメージに転化しないか不安も残ります。

■日本文化への興味が、日本語学習者増に

(登壇者の出身地であるベトナム、ネパールでは)日本語を学ぶ人はかなり増えている。就職のためというより、日本文化・ポップカルチャーへの好奇心がきっかけになっている。

現地の日本語学校は増えた。ただし日本語をきちんと教えられる先生が少なく、教師の質は落ちている。(ベトナムの)大学では、質の高い日本語教師がなかなか雇えない。

→(松山コメント:)現在増えている日本語学習者は、日本語を専門的なレベルで話せる人が増えているというより、どちらかというと日常会話などライトなレベルの日本語や、言葉というより日本文化への理解者が増えているということなのかもしれません。それでも、裾野が広がるという意味で、長期的には十分に歓迎すべきことなのでしょう。

Nikkei Asian Review誌の冠がついたシンポジウムでした。

国際交流基金日本語国際センター25周年記念シンポジウム

“アジア人材を考える勉強会”より

「日本人と違い、どこそこの国の人の性格はこうだ」といった表現がよくあります。実際、国や地域で共通する性質があるのは事実だと思いますが、それ以上に個人の資質や状況の違いを無視してはいけません。パターン化したイメージに囚われていけないのは、国内外を問わないということでしょう。

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〔研究会の資料抜粋〕

「アジアスタンダードを考える企業の人材育成」(NPO法人 アジアITビジネス研究会)(Mar.27)より。

講師は中川直紀氏(グローバル人材活性化プロジェクト代表)。研究会をリードする吉村章氏(台北市コンピュータ協会駐日代表)の解説とともに、示唆に富んだ意見交換がなされていました。中川氏のblog「ふすまを開けて世界に出よう!」に発表の内容が記されています。

同研究会に参加することができましたので、少しメモを残しておきます。以下は発表者の表現そのものでなく、例によって本blog(松山)のフィルターを通じて編集したものですので、その点ご承知おきください。

■異文化の理解に向けて
“ハイコンテキスト理論”によると、文化には次のタイプがある。
(1)ハイコンテキスト:多くの情報・言葉を軸にするというより、聴き手が話の文脈・隠れた意味など読み取ってコミュニケーションをとっていく
(2)ローコンテキスト:曖昧な表現や表情に頼らず、明示的に言葉に出し、情報を示すことでお互いのコミュニケーションをとっていく

一般に欧米はローコンテキスト文化、日本はハイコンテキスト文化で、そこにコミュニケーション上の誤解が生じると言われる。アジアの国でも、例えばインドネシアなどはハイコンテキストの文化だ、といった表現がある。それはその通りかもしれないが、よく見ればハイコンテキストの米国人もいるし、ローコンテキストの日本人もいる。個人の性格でかなりの違いがある。

ようするに、“異文化”は(海外といわず国内でも)どこにでもある。アジアでのビジネス展開や人材確保を考えるときにも同様である。国という属性だけでパターン化した見方をしてはいけない。

グローバルビジネス感覚は、MBAとかで学べるものではなく、現場で苦い経験をしながら得ていくものだ。ただ、背景は違っても、同じ土俵で戦うことは重要。ビジネスの共通項としてのルールがある。日本では(社会に出る前にほとんど教えられていないので)Off-JTによる研修でそうしたルールを学ぶことが肝要。

■国単位、組織単位、個人単位、それぞれの理解を
チームワークの形やリーダーの役割の違いを見ると、例えば日本と中国とインドネシアを比較しても、それぞれ大いに違う。欧米の場合と比べて、軸の取り方はかなり違うのではないだろうか。

ハイコンテキスト(→集団主義など)、ローコンテキスト(→個人主義など)という切り口についても、国単位で一括りに判断はできない。会社単位での性格(企業文化など)もあるが、それだけでも不十分。個人単位での理解も必要となる。

異文化を理解する切り口にはいくつかあるが、今までの切り口でアジアを判断できるかというと、再考する余地がある(中川氏、吉村氏をはじめとして、「グローバル人材活性化」のためのスタンダード作りを進めておられるとのことです)。

*  *  *

この「アジアITビジネス研究会」は吉村氏を中心に興味深い研究会を長く続けておられ、安価な参加料で勉強会に参加できるようです。私もこの日の研究会のほか、その前週「台湾活用型によるビジネス展開の有効性/現場の事例から」に参加させていただきました。現場からの興味深い報告を聴くことができます。アジアビジネスを検討されている方に参考になろうかと思います。

人材活性化と個人のキャリア自律

「社内で人材を育て定年まで企業が面倒見る」といった人材管理のあり方はとうに崩壊しているはずですが、そのわりに企業の人材流動化が進んでいないことが日本経済の一つの課題とされています。要因は、組織・企業側にも、個人の意識の側にも、どちらにもあるようです(経産省のシンポジウムより)。

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[シンポジウムの資料抜粋]

■産業構造の変化に応じた人材流動化の必要性
“組織人材の活性化”と“個人の自律的なキャリア形成”を促す経産省の政策で「多様な『人活』支援サービスの創出・振興」というものがあります。事業の詳細や成果については、経産省のサイトでご確認いただくとして、ここでは先月行われた成果発表に位置付けられるシンポジウム
「新たな人材の流れを促す『人活』支援サービスの可能性~ミドルの自律的キャリア形成と移動がもたらす企業価値の向上」(Mar.18, 2014、主催:経産省、事務局:みずほ情報総研)
より、いくつかメモを書き出してみました。

この事業は、民間の人材紹介等会社を介し、「人材が豊富な経済セクターから、その人材の力を必要としている経済セクターへの、人の移動促進」を促すようなサービスの成功事例をつくろうという試みです。

あえて語弊のある表現をすると、次のような狙いがあるといえます。
・大中企業が持て余している40代~50代ミドルを、中小企業へ転職させる
・成熟企業に定年までしがみつこうとする社員を、成長産業へ転職させる
・組織の都合優先でヒトを考える企業に、個人主導のキャリア形成策を考えさせる
・社内育成した人材の外部流出に消極的な企業に、外部を含めた人材戦略を考えさせる

■政府予算を使った、丁寧な“お見合い”
この事業はH24年度に調査研究がまとめられ、その後に実証事業を展開。昨H25年度に3.5億円、今年度は2.9億円の政府予算がついています。H25年度は実施事業者(サービス提供会社)が8社、プログラム参加者(転職または出向を検討し、研修に参加した人)が約150人、受入候補企業(転職先または出向先として手を挙げた企業)が約270社・約400ポストだったとのこと。

Jinkatsu201403-2
[『人活』支援サービス創出事業の概要]

単に転職希望者と求人案件を集めるだけではなく、例えば、
・海外勤務経験やグローバルな事業展開に関わった経験がある人
・新規事業創出や事業撤退などの修羅場経験がある人
といった人材条件を決めて、
・主に大企業の人事部門にもちかけて出向希望者を募集
・参加者に「学び直し塾」や「成長分野実践研修」といった研修プログラムを実施
・一つひとつの案件に対して丁寧にマッチング提案をする
といったステップを踏んでいます。その結果、実施事業者のうち(株)インテリジェンスでは11人、(株)パソナでは3人、実際に成約に至った模様です。

シンポジウムでは、守島基博一橋大学教授の基調講演、経産省からの政策背景説明、実施事業者からの成果発表、そしてパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションでの登壇者は以下の通り。
(ファシリテーター)
 原正紀 氏(クオリティ・オブ・ライフ 代表取締役)
(パネリスト)
 守島基博 氏(一橋大学教授)
 高橋俊介 氏(慶大特任教授)
 平岡智信 氏 (インテリジェンス キャリアディビジョン 再就職支援事業部長)
 堂前隆弘 氏 (パソナ グローバル事業部 チーム長)

議論で出た発言を、発言者省略でいくつか下に記します。
(※以下は正確な発言そのものではなく、複数の発言趣旨をまとめたり、表現を調整していることをお断りします)

■社員の転職が外部ネットワークを広げる

この事業がアウトプレースメント(不要となった人材の削減)とは違うのか、という質問がよく来る。次の2点で違う。
 (1)組織として不要な底辺を押し出すことが目的ではない。組織として必要な優秀な人材でも、場合によって、大きな観点から流動化させることを意味する
 (2)組織が社員に約束していたはずの雇用契約を破るような(肩たたきのような)転職勧告ではなく、雇用責任は重視したうえで、人材戦略に沿って展開する

転出元と良い関係を保って外に出る(転職する)人材が一定程度いる会社は、外部ネットワークができやすく、長い目で見て組織としてのメリットも大きい。
一方、退職率が高いといっても、元の組織と良い関係が築けないまま退職させてしまう企業は、(ブラック企業的であり)良い訳はない。
ミドル以降の年齢になると、(転職による)採用機会が本当に少ない。それを整備する中でわかるのは、中小企業が大きな受け皿となりうること。海外進出などを目指し、グローバル人材を求めている。
求職側(受け入れ側)からの引き合いがある一方、転出元企業(またはチャレンジする人)の方が少ない。

■多様なキャリア形成
受け入れ側の中小企業にも、ダイバーシティ対応が問われる。つまり異文化で仕事をしてきた人材を受け入れられる環境がないと、せっかくの転職者(出向者)を生かせない。特に若い成長企業の場合、年配・ベテランをなかなか使いこなせない。逆に、これに対応できると、成長企業にとって大きなプラスとなるだろう。

現在のミドル個人個人は、自分のキャリアを自分でデザインしにくい時代になっている。そのためか、非常に功利的に(損得の問題として)キャリアを考える傾向がある。キャリア自律という言葉を大いに誤解しているのではないだろうか。若いうちから自ら仕掛けていく経験を踏むことが必要か。
研修では、語学や財務のようなスキル研修より、自己理解研修といった内容への反響が大きかった。今までキャリアの棚卸しをしたことがなかった人が多かったためと思われる。

転職は、決してドロップアウトでなく、多様なキャリアの一つであると捉えるべし。
産業構造の変化により、多人数の職種転換が必要となる。何も対策せずにいると、今の40代くらいの世代はあと10-20年経った時に(居場所がなくなり)、大問題になリかねない。

■企業の人材戦略の考え方が問われている
特定の技術知識・市場知識を身につけさせることは、(研修により)対応可能なことが多い。一方、もっと抽象性の高い能力(例えば、その人の持っている意識・性格に強く関連する部分)は、すぐに身につけられないものである。マッチングにあたっては、その見極めが重要。
マッチングにおいて重要なのは、“思い込み”をしないこと。個々の人ができる仕事の内容を分解し、例えば「ある地域で発揮した能力を、他の地域でも応用可能」と判断できることがある。
“To Be Hired”的(あるべき人材能力を厳格に規定してそれに合う人のみを採用する)な人材採用ではなく、今いる人材をこうして活かしていけばよいではないか、という提案がもっと必要だ。

人活産業としては、求人マッチングそのものより、その前工程部分(企業に対する人材コンサルティングや、就業者のキャリア自律支援)にどう取り組むべきかが重要となるだろう。

  *   *   *

以上、あまりまとまっていませんが、もっとあってしかるべき人材流動化に対し、企業側にも個人側にも課題があることがわかります。個人的な感想として、
「企業は、社員を強くコントロールできて当然などと誤解してはいけない」
「個人は、キャリアを積み上げる責任が自分自身にあることを意識せよ」
といったメッセージが聴こえる気がします。