「アジア」タグアーカイブ

“アジアで働く、日本で働く-シンポジウム”より

日本企業は、東南アジア人材獲得に本気になりつつある。東南アジアでの日本語学習者は増えている。でもその裏には、人材のミスマッチ、ピントの外れた人材採用、ステレオタイプなイメージと現実の違いも…。

JapanFoundation symposium
[「アジアで働く、日本で働く」シンポジウム]

シンポジウム「アジアで働く、日本で働く」(主催:日本経済新聞、共催:国際交流基金日本語国際センター Aug.20 2014)より。日本企業、海外からの留学生それぞれにとって、グローバル人材の採用/就職の状況はどうなのかが話し合われました。例によって、以下は私の個人的なメモです。発言者名省略。

■日本に馴染みすぎた人材採用は異文化の導入にならない?

日本企業と(日本企業への就職を目指す)学生とのギャップはある。例えば、企業は“日本人化した留学生”を採用したいのか、それとも多様な文化で生活経験のある留学生を採用したいのか。建前として後者を採るようなことを言っている企業も、本音では前者を選ぶことがある。

企業から見ると、文化の違いが大きい外国人を雇用しても、考え方がぶつかってなかなか使いこなせないことがある。しかし、初めから日本文化に馴染んで“日本人化”してしまっている人を採ったら、あまり意味がないのではないか。組織内での化学変化が起こらないのではないか。会社の文化など、入社した後で学べば良いではないか。

学生から見ると、日本企業の情報は非常に少ない。(東南アジアの優秀な学生は、急いで海外人材を求める日本企業から)安易な内定をもらいがち。その結果ミスマッチも増えている。人間関係で辞める人も多い。できれば、学生時代にインターンシップで(規模や業種の違う)3社位で働いてみるのがよいかもしれない。

→(松山コメント:)グローバル化などと旗を上げても、やはり企業側に異なる価値観や多様性を受け入れ、組織自体を変化させていく心構えがないとだめということでしょうね。

■日本の大企業が積極的に東南アジア人材を探している

5年前に日本で就職するのは中小企業の例が多かったが、今は大企業が増えた。いくつかの日本企業は、日本への留学生だけでなく、自ら積極的に現地にアプローチして人材を探している。東南アジアの学生で日本企業に入りたい人なら、今がチャンスだ。

東南アジアから日本企業に勤めようとする動機は、給料の高さでなく、欧米企業に比べ人間を大切にしてくれるという(ステレオタイプな)イメージがあるから。急激な変動が少ないので、一気に責任ある立場に立ちたいという人より、安心して長期的に勤めたいという人が日本企業を選ぶ。

ワーカーとして日系企業に勤めたいという人は減っている。例えばマレーシアでは今年最低賃金制度が導入され、日本でワーカーとして働くメリットは賃金水準の上からも小さい。

→(松山コメント:)欧米の合理主義・スピード優先の人材管理手法に染まっていないことが、意外にも日本企業の独自性としてプラスに働く場面があるといえそうです。しかし実態はステレオタイプのイメージだけでないブラックな体質もあるはずなので、そのあたり、後々悪イメージに転化しないか不安も残ります。

■日本文化への興味が、日本語学習者増に

(登壇者の出身地であるベトナム、ネパールでは)日本語を学ぶ人はかなり増えている。就職のためというより、日本文化・ポップカルチャーへの好奇心がきっかけになっている。

現地の日本語学校は増えた。ただし日本語をきちんと教えられる先生が少なく、教師の質は落ちている。(ベトナムの)大学では、質の高い日本語教師がなかなか雇えない。

→(松山コメント:)現在増えている日本語学習者は、日本語を専門的なレベルで話せる人が増えているというより、どちらかというと日常会話などライトなレベルの日本語や、言葉というより日本文化への理解者が増えているということなのかもしれません。それでも、裾野が広がるという意味で、長期的には十分に歓迎すべきことなのでしょう。

Nikkei Asian Review誌の冠がついたシンポジウムでした。

国際交流基金日本語国際センター25周年記念シンポジウム

“アジア人材を考える勉強会”より

「日本人と違い、どこそこの国の人の性格はこうだ」といった表現がよくあります。実際、国や地域で共通する性質があるのは事実だと思いますが、それ以上に個人の資質や状況の違いを無視してはいけません。パターン化したイメージに囚われていけないのは、国内外を問わないということでしょう。

asia_standard_IT
〔研究会の資料抜粋〕

「アジアスタンダードを考える企業の人材育成」(NPO法人 アジアITビジネス研究会)(Mar.27)より。

講師は中川直紀氏(グローバル人材活性化プロジェクト代表)。研究会をリードする吉村章氏(台北市コンピュータ協会駐日代表)の解説とともに、示唆に富んだ意見交換がなされていました。中川氏のblog「ふすまを開けて世界に出よう!」に発表の内容が記されています。

同研究会に参加することができましたので、少しメモを残しておきます。以下は発表者の表現そのものでなく、例によって本blog(松山)のフィルターを通じて編集したものですので、その点ご承知おきください。

■異文化の理解に向けて
“ハイコンテキスト理論”によると、文化には次のタイプがある。
(1)ハイコンテキスト:多くの情報・言葉を軸にするというより、聴き手が話の文脈・隠れた意味など読み取ってコミュニケーションをとっていく
(2)ローコンテキスト:曖昧な表現や表情に頼らず、明示的に言葉に出し、情報を示すことでお互いのコミュニケーションをとっていく

一般に欧米はローコンテキスト文化、日本はハイコンテキスト文化で、そこにコミュニケーション上の誤解が生じると言われる。アジアの国でも、例えばインドネシアなどはハイコンテキストの文化だ、といった表現がある。それはその通りかもしれないが、よく見ればハイコンテキストの米国人もいるし、ローコンテキストの日本人もいる。個人の性格でかなりの違いがある。

ようするに、“異文化”は(海外といわず国内でも)どこにでもある。アジアでのビジネス展開や人材確保を考えるときにも同様である。国という属性だけでパターン化した見方をしてはいけない。

グローバルビジネス感覚は、MBAとかで学べるものではなく、現場で苦い経験をしながら得ていくものだ。ただ、背景は違っても、同じ土俵で戦うことは重要。ビジネスの共通項としてのルールがある。日本では(社会に出る前にほとんど教えられていないので)Off-JTによる研修でそうしたルールを学ぶことが肝要。

■国単位、組織単位、個人単位、それぞれの理解を
チームワークの形やリーダーの役割の違いを見ると、例えば日本と中国とインドネシアを比較しても、それぞれ大いに違う。欧米の場合と比べて、軸の取り方はかなり違うのではないだろうか。

ハイコンテキスト(→集団主義など)、ローコンテキスト(→個人主義など)という切り口についても、国単位で一括りに判断はできない。会社単位での性格(企業文化など)もあるが、それだけでも不十分。個人単位での理解も必要となる。

異文化を理解する切り口にはいくつかあるが、今までの切り口でアジアを判断できるかというと、再考する余地がある(中川氏、吉村氏をはじめとして、「グローバル人材活性化」のためのスタンダード作りを進めておられるとのことです)。

*  *  *

この「アジアITビジネス研究会」は吉村氏を中心に興味深い研究会を長く続けておられ、安価な参加料で勉強会に参加できるようです。私もこの日の研究会のほか、その前週「台湾活用型によるビジネス展開の有効性/現場の事例から」に参加させていただきました。現場からの興味深い報告を聴くことができます。アジアビジネスを検討されている方に参考になろうかと思います。