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恵方巻2010(つづき)

雑誌「食品商業」2010年4月号で『恵方巻き、一本勝負』なる特集記事が組まれています。スーパーの恵方巻28社60本を一気食い、とのこと。これとは別に、恵方巻からみの商標は、この1年でまたも動きがありました。

恵方巻特集雑誌とスーパーのパンフ
〔「食品商業」(左下)と、スーパー/惣菜店の恵方巻パンフレット〕

■オペレーションレベルで出来栄えに差
当サイトのようにパンフだけで判断する空論と違い(笑)、実際に手に入れて、寿司の巻き具合、商品パッケージの体裁、味などを試しているのはやはり目を惹きます。スーパーマーケットの恵方巻は、コンビニ商品と比べるとバリエーションがあります。スーパー自身が企画・製造しているというより、系列の惣菜業者または委託した先の寿司店の商品といえます。

同特集記事を読むと、スーパーとはいえセンター(工場)調理のものもインストア調理のものいずれもあるようです。同じストアでも適性により作り分けているそうです。ある業者の例では、「インストアでは中巻きが中心。特に具材に生魚を使うネギトロ巻きなどを製造し、鮮度追求する。工場では、加熱した具材を使った商品や、より複雑な工程の商品を製造する」とのこと(フードマーケット・クリエイティブ太田美和子氏の記事)。

インストア調理であればこそ利用できる食材も少なくないと思いますが、一方で、その店の調理技術レベルまたはオペレーション能力レベルに左右されるところがあるようです。例えば、しゃり(酢飯)も柔らかかったり固かったり、店によっては前日のしゃりを使用していると推測できるところとかあったようです。巻き方については、未熟な店だと海苔の外にしゃりがあふれていたり、具が偏っていたり…(城取フードサービス研究所城取博幸氏の記事)。特に高額品は実に多数の具材を巻かなければいけないため、出来そこないも多い様子が窺われます。

そんなことなので、たまたま良い出来の店のものを記事で手に入れたか、そうでなかったかも影響しているかもしれませんが、一応記事で良い評価を受けたものを挙げると次のあたりのようです。

・三徳「田舎巻寿司」480円
・コモディイイダ「招福恵方巻」598円
・いなげや「八宝開運巻」698円
・クイーンズ伊勢丹「海鮮太巻」1000円

その他、詳しい内容はぜひこの雑誌から確かめてみてください。もっとも、業界関係者以外の人に役に立つのかどうかわかりませんが…

■変り種タイプ
当サイト前回記事「恵方巻2010(コンビニ)」でも採り上げたイトーヨーカドー(=? セブンイレブン)の変り種タイプ「牛しぐれ煮恵方巻」も、記事で割合高い評価がされています。

スーパーではないので記事にはありませんが、「さぼてん」がとんかつを具材とした恵方巻を扱っていました。これまでもあったのかもしれませんが、惣菜系(変り種タイプ)の恵方巻として、このような商品が今後も増えるかもしれません。

また、予約制の恵方巻のほか、予約品とは別種の恵方巻を当日店売りする例があります。イオン(ジャスコ)では実に8種類。定番の恵方巻のほかカツ巻、サラダ巻など、それも18cmのフルサイズのほかハーフサイズも用意しているとか。イオンに限らず、当日の店舗でそこまで数が揃っているのなら、消費者はもう予約などしなくてもよさそうなものと思うところ。でも店の側からすると、年に1日のイベントに対して予約システムは必須ととらえているようです。

■「招福巻」商標事件で逆転判決
(以下、「食品商業」の記事から離れます)
そのイオン、数年前に販売していた「十二単の招福巻」の名称に対して、「招福巻」商標の権利者である鮨萬(すしまん)が損害賠償請求を起こし、2008年10月2日大阪地裁の判決でイオンが敗訴しています(昨年の記事「スーパーマーケットの恵方巻」)。ところが2010年1月、控訴審でイオンが逆転勝訴となりました。

◎「招福巻」(区分29,30,31,32)登録#2033007
権利者は「小鯛雀鮨 鮨萬」(大阪市)。1988年登録

一審での賠償金額はわずか50万円強、対象となった「十二単の招福巻」販売本数は2年間でわずか6000本程度だったことを考えると、よくイオンも控訴したものだと思いますが、そのあたりの経緯をどなたかご存知の方いらっしゃるでしょうか。また、二審で逆転した理由は、
a.「招福巻」は普通名称である、と判断された
b.「十二単の」の部分に自他識別力がある、と判断された
のいずれかと考えられますが、どちらなのでしょう。

なお、イオンの件とまったく別に、「招福」という商標がすしの区分でも認められています。

◎「招福」(区分30 ぎょうざ、サンドイッチ、すし、…ほか略)登録#5174859
権利者は「加藤照康」。2008年10月24日登録

この「招福」商標は実はいったん登録が拒絶されていました。その理由がまさに鮨萬の「招福巻」商標とのバッティングだったようですが、それが不服審査で覆り、

「ショウフクマキ」と「ショウフク」の両商標が称呼上類似するとした原審の判断は妥当ではない

と判断されたとのこと。

(参考:商標審決データベースのここ

ほぼ同じ時期に先のイオン敗訴の一審があったわけです。素人感覚ですが、「招福」と「招福巻」がそれぞれ別の商標として判断されたのであれば、「十二単の招福巻」もまた別の商標と見られて不思議ではありません。一方、特許電子図書館のデータベースでは鮨萬の「招福巻」登録商標は生きています。どうも二審逆転の理由は「b」の可能性が高い気がします(確かめていません)。

まさかこれが上告されるとも思えませんが、どうなったことでしょう。鮨萬が「招福巻」商標を確実に保持していると仮定すれば、(裁判が報道されることによる告知効果もあったので)鮨萬の逆転敗訴はこの名称が少し広く使われる可能性が増え、鮨萬自身にとってむしろプラスなのではないかと思ってしまいます。素人考えでしょうか?

■関連商標がちらちら登録、出願
その他、次のような商標が登録、または出願、または出願後拒絶査定されていることを付け加えておきます。

◎「開運恵方ロール」(区分30 ロール状の菓子及びパン)登録#5273116
権利者は「開運堂」(長野県松本市)。2009年10月16日登録
◎「恵方スイーツ」(区分30 菓子)商標出願#2008-104232
出願者は「モンテール」(東京都足立区)。2008年12月26日出願
◎「来福恵方巻」(区分30 巻きすし、巻きすしを主とするべんとう、区分43 飲食物の提供)商標出願#2009-001362
出願者は「日本レストランエンタプライズ」(東京都港区)。2009年1月9日出願、2009年11月13日拒絶査定

なんだか、自分の仕事と直接関係ないにも関わらず毎年チェックしているのも疲れてきました(笑)。事実の最終確認、状況の変化までは責任持てません。もし間違ったところや変化がありましたら、ぜひコメントなどでご指摘ください。また、ビジネスで参考にされるときは、それぞれ当事者の責任で最終的な判断をされてください。

と、免責条項らしき一言を付け加えてさせてもらいました (^_^;)

スーパーマーケットの恵方巻

スーパーとコンビニの恵方巻商品と比べてみると、それぞれの特徴も見えてきます。センター調理品だと恵方巻のような食品は扱いにくいもの。その他、老舗寿司店と大手スーパーの商標での係争、コンビニ仕掛人の話…

スーパーの恵方巻
〔スーパー、ビッグストアの恵方巻パンフ、2009年〕

パンフ写真は左上から順に
ビッグストア(GMS):ダイエー、イトーヨーカドー、西友、イオン
大手スーパー(SM):ピーコック、ライフ、東急ストア、マルエツ
地域スーパー(地域SM):ポロロッカ、京急ストア、文化堂、OKストア

■センター調理ではネタ的にも限界?
コンビニの恵方巻と商標について3年続けて記事にしました。今回はスーパーマーケット関連の話。コンビニが仕掛けた恵方巻ブームにもちろんスーパーも積極的に対応しています。

コンビニの場合はもちろん厨房がなく、外部の協力会社(惣菜工場)から出来合いで届けられる商品をそのまま販売します。一方厨房を持つスーパーの場合は、一部セントラル・キッチンからパックされたものが届けられているようですが(※注1)、おそらく大半は、
・食材がパーツとして届けられて
・店の厨房で加工する
という形をとるのだと推測されます。

そのためもあり、恵方巻のネタ(具材)自体が、コンビニの提供するものと微妙に異なります。といいますか、当然ながら生もののバリエーションは多く豪華です。コンビニ版の魚介類というと、穴子のほかはせいぜいサーモン、あるいはマヨネーズ和えの半加工品しか使われていないのに対し、スーパー版では貝類や生の甘エビ、いくら、真鯛、イカ、ズワイガニなどが使われます。そのほかにも大葉、くき若芽などに違いが目立ちます。

地域密着型のスーパーとなると、チェーン単位でなく店舗単位で工夫している様子が見られます。パンフもオフセット印刷ではなくカラープリンターからの片面少部数印刷が主。ある地域スーパーではパンフさえ置かず、「当店オリジナル恵方巻」という貼り出しを店の入り口に掲げていました。

これらと比べると、苦し紛れに穴子ばかり(?)に頼るコンビニ恵方巻の限界が見えるようです。記事「コンビニの恵方巻 -2009年」で触れたように、コンビニの恵方巻はアイテム数が頭打ちですが、ネタの種類においても限界があるのでしょう。コンビニの限界というより、センター調理の限界です。

もっとも、おでんやおにぎりのように、以前「コンビニでは品質の高いものを置くのは不可能」といわれていた商品なのにいまやコンビニの看板商品になっている例は数々あります。とはいえ、年に1回だけの恵方巻にこれ以上コンビニがシステム化の労力を費やすことができるのでしょうか。疑わしいところです。

■「恵方巻」は普通名詞だが、「招福巻」は登録商標
商標関連では、「恵方巻」は普通名詞として共通認識ができたようです(参考記事「「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう」)が、同じ丸かぶり寿司を意味するらしい「招福巻」は登録商標として認識されたようです。

大手スーパーのイオンは「十二単の招福巻」の名称で2006年、07年に恵方巻を販売しました。ところがこれに対し、「招福巻」商標の権利者で、江戸時代創業の老舗「小鯛雀鮨鮨萬」(鮨萬=すしまん)が損害賠償訴訟に持ち込みました。結論として昨08年10月2日に大阪地裁でその判決が下り、イオンが敗訴。「商標権の侵害を認め、名称の使用差し止めと賠償を命じた」とのことです。

・「招福巻」(区分29,30,31,32 登録#2033007)
権利者は「小鯛雀鮨 鮨萬」(大阪市)。1988年登録。

鮨萬は、07年頃にイオンを含めた複数の流通業者に「招福巻」名称は同社の登録商標であるとの警告を送っていたようです。他のスーパーなどはこの名称の使用を止めたけれど、イオンのみが(大っぴらに?)継続してこの名称を使っていた模様。「招福巻の名称を使った巻きずしは他のスーパーなどでも販売されており、商標登録は無効」というのがイオン側の言い分。ここでは2つの主張をしています。

(1)「招福巻」は普通名詞である(だから登録商標としては無効なはず)
(2)仮に「招福巻」が登録商標だとしても「十二単の招福巻」は異なる名称である

裁判所の判決(事件番号[平成19(ワ)7660])から読み取ると、次のような判断がされたようです(細かい部分は少し表現を変えていますので、正確を期すには元の判決文をあたってください。判決文はインターネットからも読めます)。

■「招福巻」は普通名詞ではない
・04年以前「招福巻」という表記をしていた業者は少ない(04年のダイエーなどは使っている)。そしてその表記がある場合、一般的な普通名詞ではなく商品名として使われていると推定される。
・05年以降は、結構多くの例で「招福巻」が使われている(06年大丸ピーコック、07年小僧寿し、08年なだ万…など)。
・07年2月、商品名として使われている場合の「招福巻」について、使用する業者に対して鮨萬が警告を行い、今後「招福巻」を使用した巻きずしを販売しないなどの確約を得ている。つまり商品名として認識されたという状況証拠になりうる。
・08年1月発行の広辞苑第6版では「恵方巻」が載っている。つまり普通名詞として認められる。一方、広辞苑に「招福巻」はない。つまり普通名詞でないという状況証拠になりうる。

■「十二単の招福巻」は「招福巻」商標に類似している
・「招福巻」という部分に自他識別力がある。
・一方、「十二単の」の部分に自他識別力があるとは認められない。要するにたんに(12種類の具材が入っているという)数を表しているだけ。つまり類似していると判断できる。

ということだそうです。皆さんはどう思われるでしょうか。確かに「招福巻」は「恵方巻」に比べると限られた機会にしか目にしないので、商標として成立しそうです。でも「十二単」という基数に商品として他と識別する能力がないというのならば、何か大変ユニークな形容詞を招福巻の前につけた独特の商品名にすれば権利侵害を逃れられるのかな、とか勝手に想像します(^_^;)

まあ、鮨萬がイオンに求めた損害賠償の金額は2300万円だったのに対し、地裁判決ではイオンに命じられた支払額は51万4825円(※2)。たかがこの金額のために争うのは無駄なことでしょう(売上の詳細本数まで明らかにしたのに…)。かえって「招福巻」という言葉が権利者以外では世の中で使われず、マイナーな名称として落ち着くことになりそうな気がします。権利者が本当に得した判決だったのかどうか、よくわかりません…

■恵方巻仕掛け人の本当の真実
もう1つ、全然違う話ですが、こんな面白い記事が日経トレンディネットにありました。
予約殺到のコンビニ「恵方巻」の意外な仕掛け人を発見! 商品化に至った理由とは?
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20090121/1022966/
(すでにリンク切れ?)

「コンビニ経営者から聞いたその名前をきっかけに、ここ数年抱いていた『恵方巻の謎』はいっきに氷解した」とあります。

コンビニで初めて「恵方巻ビジネス」を仕掛けた張本人を探り出した興味深い記事です。誰もが知りたかった情報ですが、あえてわざわざ調べてもねぇ~と、皆思っていたのではないでしょうか。そこを果敢に攻めた上記記事の筆者(放送作家のわぐりたかしさん)に感謝です。

【注記】
※1 今年(09年)春のイトーヨーカドー、セブン・イレブン連合のように、同じ「森恵方巻」を両社で共通して売るような例もあります。
※2 イオンが06年、07年に販売した「十二単の招福巻」はそれぞれ3514本と2527本。売上は2年分計で629万6507円(消費税込み)。「本件商標の使用料相当額は,売上金額(消費税込み)の5%相当額と認めるのが相当」から0.05を掛けて31万4825円。代理人費用を20万円と見積もって足し、合計で51万4825円。

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