「恵方巻」タグアーカイブ

恵方巻2010(つづき)

雑誌「食品商業」2010年4月号で『恵方巻き、一本勝負』なる特集記事が組まれています。スーパーの恵方巻28社60本を一気食い、とのこと。これとは別に、恵方巻からみの商標は、この1年でまたも動きがありました。

恵方巻特集雑誌とスーパーのパンフ
〔「食品商業」(左下)と、スーパー/惣菜店の恵方巻パンフレット〕

■オペレーションレベルで出来栄えに差
当サイトのようにパンフだけで判断する空論と違い(笑)、実際に手に入れて、寿司の巻き具合、商品パッケージの体裁、味などを試しているのはやはり目を惹きます。スーパーマーケットの恵方巻は、コンビニ商品と比べるとバリエーションがあります。スーパー自身が企画・製造しているというより、系列の惣菜業者または委託した先の寿司店の商品といえます。

同特集記事を読むと、スーパーとはいえセンター(工場)調理のものもインストア調理のものいずれもあるようです。同じストアでも適性により作り分けているそうです。ある業者の例では、「インストアでは中巻きが中心。特に具材に生魚を使うネギトロ巻きなどを製造し、鮮度追求する。工場では、加熱した具材を使った商品や、より複雑な工程の商品を製造する」とのこと(フードマーケット・クリエイティブ太田美和子氏の記事)。

インストア調理であればこそ利用できる食材も少なくないと思いますが、一方で、その店の調理技術レベルまたはオペレーション能力レベルに左右されるところがあるようです。例えば、しゃり(酢飯)も柔らかかったり固かったり、店によっては前日のしゃりを使用していると推測できるところとかあったようです。巻き方については、未熟な店だと海苔の外にしゃりがあふれていたり、具が偏っていたり…(城取フードサービス研究所城取博幸氏の記事)。特に高額品は実に多数の具材を巻かなければいけないため、出来そこないも多い様子が窺われます。

そんなことなので、たまたま良い出来の店のものを記事で手に入れたか、そうでなかったかも影響しているかもしれませんが、一応記事で良い評価を受けたものを挙げると次のあたりのようです。

・三徳「田舎巻寿司」480円
・コモディイイダ「招福恵方巻」598円
・いなげや「八宝開運巻」698円
・クイーンズ伊勢丹「海鮮太巻」1000円

その他、詳しい内容はぜひこの雑誌から確かめてみてください。もっとも、業界関係者以外の人に役に立つのかどうかわかりませんが…

■変り種タイプ
当サイト前回記事「恵方巻2010(コンビニ)」でも採り上げたイトーヨーカドー(=? セブンイレブン)の変り種タイプ「牛しぐれ煮恵方巻」も、記事で割合高い評価がされています。

スーパーではないので記事にはありませんが、「さぼてん」がとんかつを具材とした恵方巻を扱っていました。これまでもあったのかもしれませんが、惣菜系(変り種タイプ)の恵方巻として、このような商品が今後も増えるかもしれません。

また、予約制の恵方巻のほか、予約品とは別種の恵方巻を当日店売りする例があります。イオン(ジャスコ)では実に8種類。定番の恵方巻のほかカツ巻、サラダ巻など、それも18cmのフルサイズのほかハーフサイズも用意しているとか。イオンに限らず、当日の店舗でそこまで数が揃っているのなら、消費者はもう予約などしなくてもよさそうなものと思うところ。でも店の側からすると、年に1日のイベントに対して予約システムは必須ととらえているようです。

■「招福巻」商標事件で逆転判決
(以下、「食品商業」の記事から離れます)
そのイオン、数年前に販売していた「十二単の招福巻」の名称に対して、「招福巻」商標の権利者である鮨萬(すしまん)が損害賠償請求を起こし、2008年10月2日大阪地裁の判決でイオンが敗訴しています(昨年の記事「スーパーマーケットの恵方巻」)。ところが2010年1月、控訴審でイオンが逆転勝訴となりました。

◎「招福巻」(区分29,30,31,32)登録#2033007
権利者は「小鯛雀鮨 鮨萬」(大阪市)。1988年登録

一審での賠償金額はわずか50万円強、対象となった「十二単の招福巻」販売本数は2年間でわずか6000本程度だったことを考えると、よくイオンも控訴したものだと思いますが、そのあたりの経緯をどなたかご存知の方いらっしゃるでしょうか。また、二審で逆転した理由は、
a.「招福巻」は普通名称である、と判断された
b.「十二単の」の部分に自他識別力がある、と判断された
のいずれかと考えられますが、どちらなのでしょう。

なお、イオンの件とまったく別に、「招福」という商標がすしの区分でも認められています。

◎「招福」(区分30 ぎょうざ、サンドイッチ、すし、…ほか略)登録#5174859
権利者は「加藤照康」。2008年10月24日登録

この「招福」商標は実はいったん登録が拒絶されていました。その理由がまさに鮨萬の「招福巻」商標とのバッティングだったようですが、それが不服審査で覆り、

「ショウフクマキ」と「ショウフク」の両商標が称呼上類似するとした原審の判断は妥当ではない

と判断されたとのこと。

(参考:商標審決データベースのここ

ほぼ同じ時期に先のイオン敗訴の一審があったわけです。素人感覚ですが、「招福」と「招福巻」がそれぞれ別の商標として判断されたのであれば、「十二単の招福巻」もまた別の商標と見られて不思議ではありません。一方、特許電子図書館のデータベースでは鮨萬の「招福巻」登録商標は生きています。どうも二審逆転の理由は「b」の可能性が高い気がします(確かめていません)。

まさかこれが上告されるとも思えませんが、どうなったことでしょう。鮨萬が「招福巻」商標を確実に保持していると仮定すれば、(裁判が報道されることによる告知効果もあったので)鮨萬の逆転敗訴はこの名称が少し広く使われる可能性が増え、鮨萬自身にとってむしろプラスなのではないかと思ってしまいます。素人考えでしょうか?

■関連商標がちらちら登録、出願
その他、次のような商標が登録、または出願、または出願後拒絶査定されていることを付け加えておきます。

◎「開運恵方ロール」(区分30 ロール状の菓子及びパン)登録#5273116
権利者は「開運堂」(長野県松本市)。2009年10月16日登録
◎「恵方スイーツ」(区分30 菓子)商標出願#2008-104232
出願者は「モンテール」(東京都足立区)。2008年12月26日出願
◎「来福恵方巻」(区分30 巻きすし、巻きすしを主とするべんとう、区分43 飲食物の提供)商標出願#2009-001362
出願者は「日本レストランエンタプライズ」(東京都港区)。2009年1月9日出願、2009年11月13日拒絶査定

なんだか、自分の仕事と直接関係ないにも関わらず毎年チェックしているのも疲れてきました(笑)。事実の最終確認、状況の変化までは責任持てません。もし間違ったところや変化がありましたら、ぜひコメントなどでご指摘ください。また、ビジネスで参考にされるときは、それぞれ当事者の責任で最終的な判断をされてください。

と、免責条項らしき一言を付け加えてさせてもらいました (^_^;)

恵方巻2010(コンビニ)

恵方巻の品揃えは、コンビニチェーンによって方針に違いが見られます。どちらかというと本来の丸かぶり寿司からスイーツや惣菜系に力が入るようになっている流れは、今年も変わっていません。商品によってはもはや恵方巻の範疇から完全に逸脱か(笑)

恵方巻パンフ2010年
〔コンビニの恵方巻パンフレット、2010年〕

■7-11の寿司アイテムは実質1種類に収束
なぜか毎年続けている(勢いで続けざるを得なくなっている?)恵方巻の話(07年08年09年その109年その2)の2010年版です。今年もコンビニ各チェーンのパンフを集めて比較をしてみました。あくまでも品揃えとプロモーション(と商標)の話であって、味の比較ではありませんので悪しからず。

昨年はサークル・ケイ・サンクス(CKS)がトルティーヤで当たった気配があった(?)ので、「次は惣菜系が増えるだろう」と予測しました。実際、とんかつなど揚げ物を巻いた恵方巻もどきが、寿司系以外のチェーンで少しずつ広まっているようです。しかしセブンイレブン(7-11)以外のコンビニチェーンは特に追いかけてはきませんでした。

7-11は、「牛しぐれ煮恵方巻」という、明らかに惣菜系に分類できる商品を出してきました。その代わり(サイズ違いやセットを無視すると)本来の太巻き寿司はついに実質1種類に収束することとなりました。対してデイリーヤマザキ(D-Y)やファミリーマート(FM)は、本来の太巻き寿司が中心になっています。とはいえ、恵方巻寿司のアイテムは、今後もうあまり増えそうにありません。

■全面展開型のCKS、周辺商品依存型のLawson
以下、各チェーンの商品について横並び比較、昨年の比較をしてみます。「寿司」「蕎麦」「スイーツ」「その他」それぞれの商品アイテム数を下に列挙しました。

アイテムは、共通して“松” “竹” “梅”で表現することにします。

梅:長さが15~18cmの長いもので、恵方巻としてスタンダードな商品
竹:大半が“海鮮”を売りにしているもの。7.5cmから9cmのハーフサイズがほとんどで、短い分、梅と単価はさほど変わらないか、もしくは安い場合もあります
松:竹に何らかのプラスがされた贅沢版で、やはりハーフサイズがほとんどです

実際には必ずしも上中下の差がないかもしれませんし、チェーンによって横並びできない感もありますが、便宜的にこのように記させてください。また、以下の説明で「3本セット」「2本セット」といった商品は、アイテムとして一切数えていません。

◇サークルケイサンクス(CKS)…計10アイテム(寿4、蕎2、ス2、他2)
全面展開型。昨年に続き最も商品種が多いチェーンです。寿司は松竹梅と梅ハーフの4アイテム。蕎麦の種類が昨年から2減の2アイテムとなったかわりに、ロールケーキ1増とすきやき丼が加わり、トータル10アイテム。

昨年に続き「トルティーヤ」があるのがこのチェーンの特徴です。ただし昨年のトルティーヤは長さ14cm×直径5cmだったのが、今年は15.5cm×3.5cmと細長くなりました(理由は不明)。新たに加わったロールケーキ「黒豆と栗の和ロール」は、昨年からLawsonが出している黒豆入りのロールケーキと少し似ていますが、スポンジの生地が海苔のように黒くなっているあたりがユニーク。

また、どうでもよい話題かもしれませんが、CKSのパンフレットがほんの少しだけ昨年より凝った作りになっています。A4判2つ折ですが、中心から折らずに「ご予約特典」が書かれた部分が折っても見えるような工夫がされています(冒頭写真中央下あたり)。

◇セブンイレブン(7-11)…計7アイテム(寿2、蕎3、ス1、他1)
話題作り型。昨年の有名人路線(森公美子プロデュース恵方巻)を踏襲し、今年はグッチ裕三監修の「牛しぐれ煮恵方巻」が前面に出ています。すでに触れた通り、これは本来の寿司ではなく“惣菜系”に分類できます。本来の「丸かぶり寿司」はレギュラーとミニサイズの2種類こそあれ、実質的には1種類(竹)しかなくなってしまいました。あとはほぼ昨年と同様の商品構成ですが、昨年あった「とん汁」がなくなり7アイテムとなりました。

◇ローソン(Lawson)…計7アイテム(寿2、蕎3、ス2、他0)
周辺商品依存型。昨年と同じ7アイテムで、内容的にはほとんど違いはありません。寿司は竹と梅の2アイテム。ただし、商品名が「丸かぶり寿司」から「恵方巻」に変わりました。バンフは昨年の2つ折り(見た目にはA5判サイズ)からA4判を折らない体裁に変わりました。個人的な感想ですが、ここが最も(本来の)恵方巻寿司に力を入れず、スイートと蕎麦に頼っている気がします。

◇スリーエフ(3F)…計6アイテム(寿3、蕎1、ス2、他0)
中庸型。昨年と同じ6アイテム。寿司は松竹梅の3種。ロールケーキの価格などが変わった以外、ほとんど違いがありません。パンフレットの体裁も見事に同じで、写真も昨年と同じものを全くそのまま使っています。いや、だから悪いというのではなく、定番化したらあえて金かけて毎年内容や写真に手を加えなくてもいいじゃないか、という意味でむしろ納得します。

なお3F系列の生鮮コンビニq’smart(キューズマート)でも、同じ恵方巻を扱っていました。ただし松と蕎麦(と3本セット)以外の4アイテムのみ。パンフはやはり3Fのものを流用していますが、片面印刷にしてコストを抑えています。なんだか、片面に情報が集まっているq’smartのパンフほうがかえってわかりやすい気がします。

生鮮コンビニで恵方巻を扱っていたチェーンは、確かめた限りではq’smart以外になかったようでした。「100円コンビニ」の路線とは合わないであろうことは容易に想像できますが…

◇エーエムピーエム(ampm)…計6アイテム(寿3、蕎1、ス2、他0)
中庸型。寿司は松竹梅の3種で大きな変化はありませんが、ロールケーキのプレミアム版が新たに加わり、昨年より1アイテム増の6アイテム。しかしこのプレミアム版は直径6.5cmと極太で、すでにかぶりつくものではなくなっているようです。単に切って食べるロールケーキを便乗して加えているだけと思われます。なお、報道されている通り、ampmはFMに吸収合併されました。現在の商品構成は今年で終わりとなるかもしれません。

◇ミニストップ(MiniS)…計4アイテム(寿2、蕎1、ス1、他0)
小規模型。商品構成もパンフも体裁も、昨年とほとんど同じ。寿司は竹と梅。

◇ファミリーマート(FM)…計3アイテム(寿3、蕎0、ス0、他0)
原点回帰型。3本入りセットの価格のみ若干値下げされていますが、それを除けば、価格や具の内容まで昨年とまったく同じの松竹梅。昨年も書きましたが、このチェーンは本来の寿司に特化している点で、CKSやLawsonと全く違う方針をとっています。

■サラダ巻! 穴子!
もう1件、昨年まで全然チェックしていなかったチェーン。

◇デイリーヤマザキ(D-Y)…計6アイテム(寿4、蕎1、ス1、他0)
原点重視型。松竹梅のほかに「丸かぶり寿司 サラダ巻」というものがあります。ツナとカニかまは入っているけど、下手に穴子とかもたれそうな海鮮モノを満載していないスッキリ感に好印象を持ちます。もしかしたら、このチェーンが最も「寿司」の王道を行っていそうな感じがあります(昨年以前の状況はまったく把握していません)。

さらにもう一つ、当サイトでしか注目しないくだらない視点(笑!)、「穴子が入っていない商品」を挙げると以下の通りです(なぜ穴子なのかについては、過去の記事とコメントを参照)。

→ CKSの竹、3Fの竹、ampmの竹、MiniSの竹、FMの松と竹、D-Yの竹とサラダ巻

先に触れたD-Yのサラダ巻を別にすると、これらのほとんどが「海鮮○○」で、サーモン、ししゃも、漬けマグロあたりが主役となった商品です。

*  *  *

恵方巻関連のこの春のニュースとしては、すでに09年その2のコメントで触れたように、「招福巻」商標に関する控訴審でイオンが鮨萬(すしまん)に逆転勝利したことでしょうか。コンビニ以外の恵方巻の件と商標の件は、記事を改めて書くことにします。

▽関連記事:
恵方巻2010(つづき)

スーパーマーケットの恵方巻

スーパーとコンビニの恵方巻商品と比べてみると、それぞれの特徴も見えてきます。センター調理品だと恵方巻のような食品は扱いにくいもの。その他、老舗寿司店と大手スーパーの商標での係争、コンビニ仕掛人の話…

スーパーの恵方巻
〔スーパー、ビッグストアの恵方巻パンフ、2009年〕

パンフ写真は左上から順に
ビッグストア(GMS):ダイエー、イトーヨーカドー、西友、イオン
大手スーパー(SM):ピーコック、ライフ、東急ストア、マルエツ
地域スーパー(地域SM):ポロロッカ、京急ストア、文化堂、OKストア

■センター調理ではネタ的にも限界?
コンビニの恵方巻と商標について3年続けて記事にしました。今回はスーパーマーケット関連の話。コンビニが仕掛けた恵方巻ブームにもちろんスーパーも積極的に対応しています。

コンビニの場合はもちろん厨房がなく、外部の協力会社(惣菜工場)から出来合いで届けられる商品をそのまま販売します。一方厨房を持つスーパーの場合は、一部セントラル・キッチンからパックされたものが届けられているようですが(※注1)、おそらく大半は、
・食材がパーツとして届けられて
・店の厨房で加工する
という形をとるのだと推測されます。

そのためもあり、恵方巻のネタ(具材)自体が、コンビニの提供するものと微妙に異なります。といいますか、当然ながら生もののバリエーションは多く豪華です。コンビニ版の魚介類というと、穴子のほかはせいぜいサーモン、あるいはマヨネーズ和えの半加工品しか使われていないのに対し、スーパー版では貝類や生の甘エビ、いくら、真鯛、イカ、ズワイガニなどが使われます。そのほかにも大葉、くき若芽などに違いが目立ちます。

地域密着型のスーパーとなると、チェーン単位でなく店舗単位で工夫している様子が見られます。パンフもオフセット印刷ではなくカラープリンターからの片面少部数印刷が主。ある地域スーパーではパンフさえ置かず、「当店オリジナル恵方巻」という貼り出しを店の入り口に掲げていました。

これらと比べると、苦し紛れに穴子ばかり(?)に頼るコンビニ恵方巻の限界が見えるようです。記事「コンビニの恵方巻 -2009年」で触れたように、コンビニの恵方巻はアイテム数が頭打ちですが、ネタの種類においても限界があるのでしょう。コンビニの限界というより、センター調理の限界です。

もっとも、おでんやおにぎりのように、以前「コンビニでは品質の高いものを置くのは不可能」といわれていた商品なのにいまやコンビニの看板商品になっている例は数々あります。とはいえ、年に1回だけの恵方巻にこれ以上コンビニがシステム化の労力を費やすことができるのでしょうか。疑わしいところです。

■「恵方巻」は普通名詞だが、「招福巻」は登録商標
商標関連では、「恵方巻」は普通名詞として共通認識ができたようです(参考記事「「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう」)が、同じ丸かぶり寿司を意味するらしい「招福巻」は登録商標として認識されたようです。

大手スーパーのイオンは「十二単の招福巻」の名称で2006年、07年に恵方巻を販売しました。ところがこれに対し、「招福巻」商標の権利者で、江戸時代創業の老舗「小鯛雀鮨鮨萬」(鮨萬=すしまん)が損害賠償訴訟に持ち込みました。結論として昨08年10月2日に大阪地裁でその判決が下り、イオンが敗訴。「商標権の侵害を認め、名称の使用差し止めと賠償を命じた」とのことです。

・「招福巻」(区分29,30,31,32 登録#2033007)
権利者は「小鯛雀鮨 鮨萬」(大阪市)。1988年登録。

鮨萬は、07年頃にイオンを含めた複数の流通業者に「招福巻」名称は同社の登録商標であるとの警告を送っていたようです。他のスーパーなどはこの名称の使用を止めたけれど、イオンのみが(大っぴらに?)継続してこの名称を使っていた模様。「招福巻の名称を使った巻きずしは他のスーパーなどでも販売されており、商標登録は無効」というのがイオン側の言い分。ここでは2つの主張をしています。

(1)「招福巻」は普通名詞である(だから登録商標としては無効なはず)
(2)仮に「招福巻」が登録商標だとしても「十二単の招福巻」は異なる名称である

裁判所の判決(事件番号[平成19(ワ)7660])から読み取ると、次のような判断がされたようです(細かい部分は少し表現を変えていますので、正確を期すには元の判決文をあたってください。判決文はインターネットからも読めます)。

■「招福巻」は普通名詞ではない
・04年以前「招福巻」という表記をしていた業者は少ない(04年のダイエーなどは使っている)。そしてその表記がある場合、一般的な普通名詞ではなく商品名として使われていると推定される。
・05年以降は、結構多くの例で「招福巻」が使われている(06年大丸ピーコック、07年小僧寿し、08年なだ万…など)。
・07年2月、商品名として使われている場合の「招福巻」について、使用する業者に対して鮨萬が警告を行い、今後「招福巻」を使用した巻きずしを販売しないなどの確約を得ている。つまり商品名として認識されたという状況証拠になりうる。
・08年1月発行の広辞苑第6版では「恵方巻」が載っている。つまり普通名詞として認められる。一方、広辞苑に「招福巻」はない。つまり普通名詞でないという状況証拠になりうる。

■「十二単の招福巻」は「招福巻」商標に類似している
・「招福巻」という部分に自他識別力がある。
・一方、「十二単の」の部分に自他識別力があるとは認められない。要するにたんに(12種類の具材が入っているという)数を表しているだけ。つまり類似していると判断できる。

ということだそうです。皆さんはどう思われるでしょうか。確かに「招福巻」は「恵方巻」に比べると限られた機会にしか目にしないので、商標として成立しそうです。でも「十二単」という基数に商品として他と識別する能力がないというのならば、何か大変ユニークな形容詞を招福巻の前につけた独特の商品名にすれば権利侵害を逃れられるのかな、とか勝手に想像します(^_^;)

まあ、鮨萬がイオンに求めた損害賠償の金額は2300万円だったのに対し、地裁判決ではイオンに命じられた支払額は51万4825円(※2)。たかがこの金額のために争うのは無駄なことでしょう(売上の詳細本数まで明らかにしたのに…)。かえって「招福巻」という言葉が権利者以外では世の中で使われず、マイナーな名称として落ち着くことになりそうな気がします。権利者が本当に得した判決だったのかどうか、よくわかりません…

■恵方巻仕掛け人の本当の真実
もう1つ、全然違う話ですが、こんな面白い記事が日経トレンディネットにありました。
予約殺到のコンビニ「恵方巻」の意外な仕掛け人を発見! 商品化に至った理由とは?
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20090121/1022966/
(すでにリンク切れ?)

「コンビニ経営者から聞いたその名前をきっかけに、ここ数年抱いていた『恵方巻の謎』はいっきに氷解した」とあります。

コンビニで初めて「恵方巻ビジネス」を仕掛けた張本人を探り出した興味深い記事です。誰もが知りたかった情報ですが、あえてわざわざ調べてもねぇ~と、皆思っていたのではないでしょうか。そこを果敢に攻めた上記記事の筆者(放送作家のわぐりたかしさん)に感謝です。

【注記】
※1 今年(09年)春のイトーヨーカドー、セブン・イレブン連合のように、同じ「森恵方巻」を両社で共通して売るような例もあります。
※2 イオンが06年、07年に販売した「十二単の招福巻」はそれぞれ3514本と2527本。売上は2年分計で629万6507円(消費税込み)。「本件商標の使用料相当額は,売上金額(消費税込み)の5%相当額と認めるのが相当」から0.05を掛けて31万4825円。代理人費用を20万円と見積もって足し、合計で51万4825円。

▽関連記事:
恵方巻2010(つづき)

▽関連情報:
「招福巻」は普通名称、イオンが逆転勝訴

恵方巻2009(コンビニ)

節分に発売される恵方巻。スイーツやトルティーヤへと商品範囲が広がっていますが、肝心の寿司はアイテム数が微減です。コンビニ・チェーンにより対応の違いもみられます。商標についてはあらかた結論が出たようです。

恵方巻パンフ2009年
〔コンビニの恵方巻パンフレット、2009年〕

■恵方巻の種類はやや減
一昨年の「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう、昨年の恵方巻商戦は定着したのかに続く記事です。コンビニ各社の恵方巻ビジネスと商標利用の様子をあらためて確かめてみました。

首都圏主要7社(冒頭パンフ参照)の予約販売パンフおよびニュースリリースをみると、節分の予約可能商品のアイテム数が毎年増えています。といっても、スイーツや蕎麦類が加わって増えているのであり、寿司としての恵方巻のアイテム数は減少気味です。概ね次の3アイテムで打ち止めのようです。

・スタンダード(ロングサイズ)…並
・ハーフサイズ(主に海鮮巻)…中
・ハイグレード(大きさはハーフ)…上

セブンイレブン(7-11)は有名人プロデュース版に走りましたが、アイテム数は1減です。スリーエフ(3F)も1アイテム減。ローソン(Lawson)は昨年出した「上海鮮」がなくなり1減で2アイテムに。ミニストップ(MiniS)はもともと2アイテム。サークルKサンクス(CKS)のみがスタンダード版にロングサイズとハーフサイズがあり計4アイテムになっています。

増えているのが節分蕎麦の種類。CKSは4アイテムもあります。一方、一昨年から注目されている恵方もどきスイーツ商戦にエーエムピーエム(ampm)が参戦し、7社中ファミリーマート(FM)を除く6社に1~2アイテムのロールケーキが準備されています。

■恵方トルティーヤの次は何だ!
さらにCKSは「恵方トルティーヤ」なる新製品を加えました。この恵方トルティーヤが今年の“当たり商品”と評判で、予約状況は好調とのこと。まちがいなく来年は、この手の惣菜ものを他のチェーンも出してくることでしょう。恵方トルティーヤではないかもしれませんが、恵方タコスか、恵方ピザか、はたまた恵方コロッケロール、恵方ホットドッグ、恵方しゅうまい、恵方シシカバブ…(???)。

まとめてみると、次の通りです(セットを除く)。
CKS…計10アイテム(寿4、蕎4、ス1、他1)
7-11…計8アイテム(寿3、蕎3、ス1、他1)
Lawson…計7アイテム(寿2、蕎3、ス2、他0)
3F…計6アイテム(寿3、蕎1、ス2、他0)
ampm…計5アイテム(寿3、蕎1、ス1、他0)
MiniS…計4アイテム(寿2、蕎1、ス1、他0)
FM…計3アイテム(寿3、蕎0、ス0、他0)

FMだけが“律儀に”恵方巻文化の王道を守っているかのようです(笑)。以前あった蕎麦はとうにリストから外れていますし、関連商品として用意しているらしいスイーツ(チョコデニッシュロールとチョコバナナロール)も、パンフの予約販売品としては掲げていません。流行り廃りに変に惑わされた方針をとることが少ないこのチェーンらしさを感じます。

■パンフが大きくなった
消費者にはどうでもよいことかもしれませんが、FM、3F、Lawsonなどのパンフのサイズが、昨年のB5またはA5判からA4判へと大きくなりました。7社中6社がA4判サイズです(ampmのみA5判)。アイテム数が増えたことと関連しているのかどうか。あるいは恵方巻だけの問題ではなく、標準的なパンフを入れるラックの大きさに関係しているのか、真相は確かめていません。

一昨年と昨年でパンフの体裁がほとんど変化なかったこと(昨年の記事参照)と比べると、今年は各社とも恵方巻商戦のPR方法を少し練り直している気配があります。今後も、毎年ではなく2年くらいのサイクルでパンフの体裁の変化があるのかもとか、くだらぬ予測をしてみます。

■すし「恵方巻」はOKだが「恵方」はNG?
もともとこのサイトで恵方巻を採り上げたのは、恵方巻そのものに対する興味というより、「恵方巻」という名称が防御的な立場から商標出願され、その登録が07年1月に拒絶→(出願者の思惑通り)事実上普通名詞として認められた、というニュースを書いたことにありました(一昨年の記事参照)。

ここ数年について各社のニュースリリースから判断すると、商品の基本表記は次の通り。3Fのみがズバリ「恵方巻」表記を続けています。

7-11…「丸かぶり寿司(恵方巻)」
FM…「まるかぶり寿司」
Lawson…「丸かぶり寿司」
CKS…「丸かぶり恵方寿司」
3F…「恵方巻」
MiniS…「幸福恵方巻」
ampm…07年まで「節分丸かぶり寿司」→08年「恵方巻」→09年「節分恵方巻」

ampmを除き各社5年位変化はありません。「恵方巻」派より「丸かぶり」派が多数を占めますね。ampmのみここ2年微妙に動いています。
また、ミツカングループが権利者とした商標

・「丸かぶり」(区分29,30、ただし「すしを除く」 登録#5000706)

の登録が2006年に成立していることを昨年の記事で触れましたが、やはり同じミツカングループが次の登録をしていました。

・「恵方」(区分29,30 登録#5044683)

出願が06年2月、登録が07年4月なので、昨年の記事執筆時点ですでに公開されていたはずですが、当方では見落としていたようです。「丸かぶり」が「すし」について他者からの異議申立の審査を通じて商標登録が取り消されたのに対し、「恵方」についてはそのような情報は見当たりません。つまり寿司として「恵方巻」や「丸かぶり」の商品名は安心して使えますが「恵方」とすると商標権者の権利に引っかかる可能性があるということになります。ホントかな。

■「恵方ロール」表記はNGか?
ほかに関連した登録商標としては次のものが見つかりました。

・「恵方ロール」(区分30 ロール状の菓子及びパン 登録#4820803)
権利者は「倉田包装株式会社」(東京都台東区)。04年11月登録。
・「サザエ\恵方巻」(区分30 巻きすし、いなり 登録#5109502)
・「百味千菜\恵方巻」(区分30 巻きすし、いなり 登録#5109501)
いずれも権利者は「サザエ食品株式会社」(札幌市)。08年2月登録。

「恵方ロール」については今後注意が必要そうですね。といっても、絶対的に価値のある名称ではないでしょう。いまさらこれらの商標利用が不如意になったとしても、ビジネスに影響はほとんどないだろうと予測します。

もう1つ、「招福巻」という登録商標があります。これに関して係争が起こり、昨年10月に出た判決では、被告である大手スーパーイオンが敗訴しました。この件については、記事をあらためて書くことにします。

▽関連記事:
スーパーマーケットの恵方巻

恵方巻商戦は定着したのか

今年も恵方巻商戦が華やかでした。1年前に「「恵方巻」商標は登録ならず…」という記事を書きましたが、その後大きな変化はないようです。各社知恵を出して付加価値をつけた恵方巻商品を出しているようですが、少し迷走している気がしないでもありません。

恵方巻パンフ2008年
〔コンビニの恵方巻パンフ、2008年〕

■昨年とほとんど変わらないパンフ
ちょうど1年前に「「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう」という記事を書きました。「恵方巻」商標(区分30 すし)が出願されたが、登録されなかったこと。出願は寿司関連の業界団体と関連のある企業が防御的な立場から出願したもので、「特定企業などに独占させない」が目的だったこと。結果的にその目的が達せられ、この言葉を誰もが安心して使えるようになったことを説明しました。

今年の節分もまた、いろいろな企業が恵方巻のお客さん獲得に奔走しています。1年経って何か変わったかというと、商品名がらみではほとんど変わりないようですね。「恵方巻」と呼ぼうが「まるかぶり寿司」と呼ぼうが、いまさらあまり大きな問題ではないのでしょう。コンビニ各社についていえば、エーエム・ピーエムが商品の名称を「まるかぶり寿司(恵方巻)」から「恵方巻」に変えたことくらいです。昨年のパンフと今年のものを比べてみても、ほとんど違いがないようです。

そもそもコンビニ各社の恵方巻パンフは、キャッチコピーばかりでなく、パンフの体裁や写真の撮り方までもほとんど昨年と同じ。“面倒なので昨年のやり方をそのまま踏襲しました”という雰囲気です。営業的にもルーチン化しているのでしょう。

商標登録に関して、昨年ご紹介したものほかに、次のようなものがあるようです。

・「恵方巻き」(区分30 菓子)
出願人は岡山の源吉兆庵という和菓子の製造販売の会社のようです。昨年紹介した「恵方巻」商標が拒絶された2007年1月16日のすぐ翌日、1月17日に出願しているあたりに何らかの意図も感じさせますが、これも昨12月21日に拒絶査定がでています。

・「丸かぶり」(区分29、区分30)
ミツカングループが権利者で、登録は2006年に成立しています。多数の商品ジャンルが対象になっているようですが、「すしを除く」とのことです(※)。

(※) どうもこの件は、「すし」についてのみ、異議申立の審査を通じて商標登録が取り消されたようです。
参考:商標審決データベース

■ロールケーキ増える
コンビニ商品で変わったという意味では、各社の商品種が増えています。傾向は次の2点。

・“上”ランク
ファミリーマートの「上恵方巻」、サークルKサンクスの「極(きわみ)の恵方寿司」、ローソンの「ふっくら煮穴子の上海鮮丸かぶり寿司」。いずれも高級なバージョンです。昨年までに各社からほぼ出揃っていたハーフサイズの「海鮮恵方巻」や通常の「恵方巻」とあわせ、“上” “中” “下”のようなランク付けが定着したということなのでしょうか。

・甘党向きのケーキ
昨年セブン・イレブンとスリーエフが恵方巻と似たロールケーキを発売しましたが、今年はローソンとサークルKサンクスが追いかけ、同じような「節分ロールケーキ」を発売しています。スリーエフについては、昨年の「丸かぶりロール」に加え「プレミアム丸かぶりロール」なる“ケーキの上”バージョンが加わり2種類出しています。

■太巻きでなくなりつつある?
なおセブン・イレブンは恵方巻にあたるものは昨年と価格も商品名もまったく同じですが、「節分手巻寿司3本」というハーフサイズよりさらにわずかに小ぶりの普通の巻き寿司がパンフに加わっています。普通すぎて恵方巻と名付けるほどでもないのでしょうか。であれば、わざわざ「恵方巻」と名付けられていなくても、通常の巻寿司なり何なりを食べればよいような。

市場で受け入れられる恵方巻を追求したら、ケーキになってしまったり、短くなったり、細くなったり…。コンビニではなくダイエーの話ですが、今年出した恵方巻は「京都の清水寺で祈祷した海苔」を使っていることを売りにしているとか…。付加価値のつけ方もいろいろあるようですが、少し迷走している気がしないでもありません。

ともあれ、今年も恵方巻商戦の前線では、ノルマを達成するために何本も買い、数日間恵方巻を食べ続ける人がいることでしょう。まぁ、イベント物となれば、恵方巻に限らない話かもしれませんが。