年末の築地2008

世界金融危機はいち早く生鮮品卸売市場の取引に影響したと言われることがありますが、部外者には築地界隈はなかなか繁盛しているように見えます。NHKの特番やテレビ東京のアドマチなど、少しマニアックなテレビ番組も放映されました。

築地場外入口看板
〔築地場外市場商店街入口にかかる横断幕〕

■意気込みが見える場外市場の横断幕
昨年(年末の築地の街)に続き、年末の築地を徘徊しました。不況とはいえ、やはり結構賑わっていると感じられます。今年は中旬の平日に出掛けたのですが、外国人観光客はもちろん、一般消費者の姿がけっこうみられました。

前回の記事(市場長が書いた「築地といちば」)でも書きましたが、築地の豊洲移転問題は少し流れが変わったかのように感じられます。本当のところどう転ぶかわかりませんが、東京都の問題というより国の問題として、再度(卸売市場法のあり方など)根本問題から考え直すチャンスがくればよいと思っていますがどうでしょう。

もっとも、現実の生鮮品流通システムを間断なく維持しなければならないことを考えると、頭でっかちに理想だけを語っていても仕方ありません。いつか来る次の東京大震災までに間に合うのかどうか…

冒頭の写真のように、築地場外市場商店街の入り口に横断幕が掲げられていました。場外は場外として自立している商店街です。日本橋魚河岸が移転しても日本橋が賑わっているように、築地市場の移転の有無に関わらず今後もずっとここで商人たちは商売を続けていくことでしょう。市場本体はともかく、「築地」ブランドを受け継いでいく主力は今の場外市場商店街の方々になるのでしょう。

■築地を追求したテレビ番組
いわゆる「グルメ紹介」「安い買物紹介」のような番組で築地が取材対象になるのは日常茶飯事のことです。しかしこの12月は、築地に関するテレビ番組がいくつか続きました。マニアックとはまではいえないかもしれませんが、少し踏み込んだ興味深い番組が続いたようです。

12月中旬のテレビ東京のアドマチック天国は、テーマがずばり「築地場外」。市場本体には入らず、場外だけに絞っていました。ランキングは食べ物屋さんばかりですが、いくつか面白いエピソードが散りばめられていました。吹田商店さんの若旦那が話す「石川五右衛門の命日が書かれたお札」(を貼り忘れた年に限って、貼り忘れた場所から泥棒が入ってきたという話)は、「本当かいな?」とついつっこみたくなるところ(笑)

そして年末、NHKで放映された市場(場内)の紹介兼ドキュメント的な番組「築地市場大百科AtoZ」は、踏み込んだ話にもかかわらず肩を張らずに見られた良い番組でした。計2時間近くにわたり、築地の職人、技術、人の動きなどが採り上げられていました。プロから見れば“しょせん上辺だけの説明”と受け取れるのかもしれませんが、日本人でも普通はなかなか入り込めない市場の“ひだ”のような部分を垣間見られたことは、きっと築地はじめ各地の市場にとって、広報的な意味でプラスなのだろうと思われます。

テオドル・ベスターさん(テオドル・ベスター著「築地」 参照)が築地通の一人として出演していました。ロシアのチェリストで日本通だった故ロストロポービッチさんが感じた市場の“音”の話は雰囲気とともに心に沁みます。外国人が評価する日本文化という側面が強く出ていたようです。

2人のマグロせり人が上質のマグロ1本をめぐり駆け引きをする話は、この番組の見せ所だったでしょう。せり一つにもいくつもの深謀遠慮があることは興味深かったところです。ただし、この駆け引きのなかに卸売市場というシステムの“プラス面”だけでなく“マイナス面”を読み取った視聴者も少なくないと思います。生産者から消費者に商品が届く過程で中間流通業者が入ることのメリット(リスクヘッジなど)を感じることもできれば、プロでしかタッチできない流通過程での不透明さを感じる向きもあったかもしれません。

そんなこんなを含めた世界が、現在の日本の卸売市場というものなのでしょうか。