「ビジネスと社会の動き」カテゴリーアーカイブ

昭和レトロ 4-和惣菜と懐かしさの組み合わせ

和惣菜と「昭和レトロ」は、誰が考えても相性が良い組み合わせだと思われます。落ち着いた雰囲気が店舗作りに生かされているようです。

高見屋
〔ゴハンノオカズ 高見屋(北千住丸井)〕

■和惣菜と“懐かしさ”のイメージの取り合わせ
居酒屋」「定食店」に続き、今度は昔風の店作りをした惣菜店をご紹介します。

写真は、北千住丸井にある「ゴハンノオカズ 高見屋」の店舗写真です(写真そのものは数年前の撮影で、現在はディスプレイなど少し異なっています)。この店はベーシックな和惣菜を中心にして、さらに焼き魚や煮魚の種類を取り揃えている惣菜店で、“昔懐かしいオカズ”というコンセプトが店舗作りにも反映されています。中心となるお客さんは40代以上の女性と思われます。

「昭和」という括りではなく「江戸の味」という呼び方をしている点で本blogの切り口「昭和レトロ」とは少し異なるかもしれませんが、消費者が持つ懐かしさを醸し出していることに違いはありません。なお「ゴハンのオカズ 高見屋」はここだけで、チェーン店として展開しているとはいえません。といいますか、銀座三越、新宿高島屋、池袋東武など“デパ地下”に複数の店を構える和惣菜店「おふくろの味 高見屋」が基本形で、その別フォーマットといったほうがよいでしょう。同店の経営主体は、主に築地で卸売・小売を手がける北田水産です。

■和のおかずに“昔風”は当たり前すぎ?
同じように懐かしさを前面に出している和惣菜店はいくつかあります。多店舗化している店でいえば、アトレ大森、そごう柏、そごう大宮、船橋西武などにある「大森オカズ本舗」(佃浅商店)がその例でしょう。「大森オカズ本舗」は高見屋同様、デパ地下(上野松坂屋、銀座松坂屋、大井阪急など)にベーシックな和惣菜店を展開する「佃浅」の別フォーマットです。ほか、個店の惣菜店でレトロ風な店構えの店となると、おそらく多数あるはずです。

ただ少し謎なのは、“懐かしさ”が必ずしもこれら惣菜店のコンセプトと強く結びついていないように思われる点です。私的な感想として、たとえば「大森オカズ本舗」の某店は、当初かなり昭和の懐かしさが強い店作りと商品が置かれていたように思えましたが、数年した今は普通の惣菜店と大して変わらない商品の品揃えとイメージに落ち着いていってしまったようにみえます。「ゴハンノオカズ 高見屋」にしても、“レトロ感”は顧客層を広げることが狙いではないようです(どちらかというと「既存の顧客層に安心して購入してもらうためのイメージ作り」といった意味)。

多数の店舗を見て回っているわけではないのであくまでも限られた範囲での感想に過ぎませんが、ベーシックな和惣菜と昭和レトロの組み合わせはあまりに当たり前すぎるのでしょうか。もしくは、和惣菜はずっと受け継がれているイメージ(言葉は悪いかもしれませんが“古臭いイメージ”)が特に若い人たちにはあるので、あえてレトロ風を前面に出しても効果が少ないということなのでしょうか。

デパ地下の惣菜店一般としては、新しい時代のイメージが強い「柿安ダイニング」(柿安本店)や「RF1」(ロックフィールド)が広く成功しています。もしくは、「なだ万厨房」(なだ万)、「美濃吉」(美濃吉食品)といった関西風、特に京都風の高級イメージのほうがインパクトは強いかもしれません。名古屋に本拠を持つ「まつおか」(まつおか)なども、関東で増えています。

それらに比べると、関東風・江戸風の見せ方は(少なくとも関東人にとって)懐かしさの度合いが弱すぎるとも言えなくありません。日常的に食する和惣菜を求めるお客さんの集客を狙うか、ハレの時の高級和惣菜を求めるお客さんを狙うかでも少し違うでしょう。いずれにしても、店の雰囲気や見せ方だけでなくもう一つ工夫が必要なのかもしれません。

銅板建築 3-また1軒消えた!

最近まであった銅板建築の家が、また1軒解体されてなくなってしまいました。貼ってあった立派な銅板はその後どうなったのか、気になります。

消えた銅板建築
〔ある銅板建築物、解体前後の写真〕

■100軒を超えた銅板建築リスト
記事「銅板建築 1-“昭和元年”が次々消えていく」を書いて以来、機会があるごとに銅板建築の写真を撮影し、銅板建築一覧に追加掲載してきました。半年あまりで掲載写真は100枚を超えました。都内だけで100軒を軽く超える数の銅板建築が現存していると証明されたことになります。

これまで移動の合間などに銅板建築を見つけて写真を撮るだけで、銅板建築がある場所にそのためだけに出向いて写真を撮ることはまれでした。あるとわかっていてもリストアップしていない銅板建築はまだ多数存在しています。それらを網羅するためには、意識的にそういった地区に出向かなければならないかもしれません。「ここに銅板建築があるよ」という情報がありましたら、ぜひお知らせください。大歓迎です。

もう一つ気がかりなのは、撮影した銅板建築がいつの間にかなくなっている可能性があることです。冒頭の写真は品川区某所にあった銅板建築の住宅で、昨年暮(06年12月末)には前と変わらず建っていたはずの家が、あっという間に取り壊されて駐車場と化してしまいました。また1軒、昭和の風景がなくなってしまったことになります。これ以外にも1~2軒、すでに消滅している銅板建築があるかもしれません。

■貴重な銅資源
ここ数年、鉄、アルミ、銅など金属の需要が世界的に膨らみ、価格は高騰したようです(今現在は少し落ち着いているようですが)。日本国内でも銅線が大量に盗まれるといった犯罪が起きているそうですね。今や銅というだけでも立派な資源。解体後の銅板にはさらに付加価値も緑青も(笑)付いているわけですが、その後どう処理されていったのでしょうか。

建築廃棄物の処理は相当厳密に規定されています。排出事業者がその後の処理の行方について基本的な責任を持っているとともに、処理経過は「マニフェスト」と呼ばれる管理票で記録されます。記録として必ず残っているはずなので、解体された銅板がその後どうなっていくのかも調べればわかるのかもしれません。基本的な金属資源がリサイクルされる割合は相当に高く、銅はほぼ100%リサイクルされるとも聞いています。

写真の建物はすでに老朽化していたようでしたので、遅かれ早かれ取り壊さざるを得なかったでしょう。何でもかんでも古い状態で残ればよいとはもちろん思っていません。でも、以前の記事でも触れたように、この家に貼ってあった年季の入った銅板を、金属資源としてのリサイクルでなく、歴史的建材のリサイクルとしてそのまま“昭和レトロ”風の店に転用できたら、きっと味のあるものになるのではないかと思うわけです。

ただし銅板は内装ではなく外装なので、居酒屋や定食店の店内とかに持ち込むものではないでしょうし、中途半端に外装に銅板を貼っても汚くみられるだけかもしれません。なかなか難しいのか…。

昭和レトロ 3-多店舗展開する定食店

多店舗展開を目指す「昭和レトロ」は、定食店にもみられます。居酒屋とはまた違った形で、昭和風店舗フォーマットの確立を目指している様子がうかがわれます。

モダン食堂 東京厨房
〔モダン食堂 東京厨房 目黒店〕

■コンビニ・チェーンの新事業
昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋」で「半兵ヱ」などの居酒屋チェーンを採り上げました。今回は、定食を中心とした外食チェーン「モダン食堂 東京厨房」をみてみます。2006年春ごろから急速にフランチャイズ・チェーン(FC)化が推し進められ、07年1月現在で都心を中心に11店ほどあるようです(直営3店)。

このチェーンを展開しているのは「新鮮組本部」。といっても、ここには近藤静也も猪首も肘方も生倉もいません………(すみません、ボケかましました。映画・ドラマ版「静かなるドン」を結構楽しんで見ていたクチだったもので)。

同社は、東京・千葉・神奈川に約60店舗(「新鮮組」と「ジャストスポット」)を展開するコンビニ・チェーン。コンビニに加え惣菜店や外食店の事業を本格化させるなかで、今最も力を入れている(ようにみえる)のが「東京厨房」です。店のキャッチフレーズは「現代によみがえる下町の洋食」。看板は、文字がわざと“右から左”に書かれていたりします。media for you(m4u)という映像制作会社のページに、社長インタビューを含めたわかりやすいFC募集用動画があります。

新鮮組本部 http://shinsengumihonbu.com/
m4u東京厨房FC募集用動画 http://mediaforyou.tv/2007/01/cm_8.html

■店内と弁当販売の2本柱
メニューのほとんどはセットになった定食です。から揚げ定食、ハンバーグ定食、野菜炒め定食、ねぎとろ丼定食など定番物ばかり。価格はほとんどが680円か780円と「少し安め」のレベル。ほぼ同様のメニューがテイクアウト用弁当として用意されています。昼時は、ずいぶん人が並んでいることがあります。

店内には、昭和の雰囲気を醸し出す小物や写真が飾られています。ポスター類は少ないですが、「アース製薬」の看板など定番モノがあちこちにみられます。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てきたような、東京タワーの建築途中の大きな写真などが貼られています。店内に駄菓子コーナーが設けられていて、“ついで買い”を誘います。

来店客は、昼時はやはりビジネス・パーソン(男女)が多いようです。50代から60代の1人客も目に付きました。昼時は酒メニューを前面に出していません。夕方以降になると当然アルコール類での売り上げも期待されるのでしょうが、「半兵ヱモデル」とは異なり、例えば「ホッピー」など昭和コテコテの酒類はあまり置いていないそうです。

ある収支モデルでは次のような数字になっています(項目は簡略化し数字は丸めてある。1カ月)
売上 ―――――――― 650万円
粗利益 ――――――― 460万円
人件費 ――――――― 190万円
その他一般管理費 ―― 150万円
営業利益 ―――――― 120万円

そもそもコンビニの新鮮組は、店内に厨房を持ち、デリコーナーで惣菜を量り売りしているのが特徴です。つまりコンビニとしてはやや特殊なチェーンで、いわば「コンビニ標準型」と「オリジン弁当」との中間的な業態とも言えます。そうした弁当や惣菜を取り扱うノウハウを東京厨房にも生かしていると推測されます。

■昭和の力は多店舗化にプラス? マイナス?
半兵ヱが昭和に出来る限りこだわって店作りしているのに対し、東京厨房はあえてそこまでディープになっていません。昭和レトロ度をむりやり数字化してみると(あくまでも私的な感触ですが)、半兵ヱを「100」としたときに東京厨房は「60~70」といったところでしょうか。悪く言えば“中途半端”、良く言えば“落ち着いた程度”。中高年のお客さんが酒抜きで安心して食事できる場所、という雰囲気が強いといったらよいでしょうか。

昭和の時代から営業されている何の変哲もない定食店は、今もあちこちに残っています。それがブラッシュアップされた形態と考えればよいでしょうか。ちょうど古い雑貨店・青果店・酒店がコンビニに置き換わっていったように、もしかしたら古い定食店がこうした標準フォーマットの店に置き換わっていくのかもしれません。

・比較的安めの定食セット
・定番メニューを常時提供
・ビジネス街の昼食または家庭の日常食に対応

「昭和レトロ」にとらわれず思い起こしてみると、こうした庶民派的な特徴を力にして発展した定食チェーンはいくつもありました。都市部で言えば「大戸屋」、地方で言えば「ジョイフル」など、また以前すかいらーくが低価格店として展開した「ガスト」も該当するかもしれません。

これらのチェーンは、一時期急激に店舗数が増えました。そして地元に根付くことで消費者の確かな支持を得られるのですが、ある時期を過ぎると多店舗化の弊害や、定番メニューであるが故の消費者の飽きが出てくることも避けられません。東京厨房はまだ10店舗そこらですからそうした壁に直面する時期はまだ先かもしれませんが、「昭和レトロ」の力が標準フォーマットの定着にプラスに働くのか、逆にマイナスになるのか…。

やってみなければわからないかもしれませんね。何となく、ショッピングセンターのような商業集積に急いで多店舗出店するより、地味な場所や二等地への出店で固定客を獲得する戦略をとったほうがよいような気もしますが(単なる思い付きの感想でした)。

「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう

「恵方巻」の名称が商標出願されていたのをご存知でしたか? そしてこの1月、審査により登録に至らず、拒絶となったようです。

恵方巻パンフ
[主なコンビニ・チェーン各社の「恵方巻」パンフレット]

■コンビニが仕掛けた? 「恵方巻」ブーム
節分の恵方巻(丸かぶり太巻き寿司)が、ここ数年で全国的に広がりました。どうも仕掛人はコンビニのようです。1989年に広島のセブンイレブンが恵方巻きの販売を開始し、その後10年以上かけて全国まで広げたとの情報が伝わっています。いまや節分を前に太巻き寿司を大々的に扱うことが、コンビニ、寿司店、中食(惣菜・弁当)店、食品スーパーなどで一般化しました。冒頭の写真のように、コンビニ各社は早くから積極的にパンフを配り、予約獲得に躍起です。

食品業界に限らず、社会が商業的な思惑から「イベント」を欲しています。かつて「バレンタイン・デー」なるイベントを(一部の人が)作り普及に成功したことで、2月14日前後にチョコレートが大量に売れるようになりました。同様に、「節分には豆まきだけでなく恵方巻も食べる」という新しい風習が生まれたといってよさそうです。

新しい季節のイベント作りは、元から生活に根付いた風習であるかどうかは必ずしも関係ないみたいです。少なくとも私の周囲で、数年前までは「恵方巻」という言葉を知っていた人さえいませんでした。私も、あるとき仕事でデパ地下の惣菜店巡りをしていて、節分の日に突然あちこちで行列ができているのを見て、初めてこの商品を知った次第です。

もちろん、いくら関係者が汗をかいても、一部の人たちの思惑だけで市場は動きません。おそらく時代のトレンドにうまく乗っていかないと、こうした仕掛は点火しないでしょう。その点、恵方巻イベントが一つの新しい風習として育ったことは、かなりの成功といえます。消費者からみても、なかなか楽しいものだと思われます。

■広島のIT系企業が商標出願した「恵方巻」
恵方巻の行事が全国的に盛り上がっていく中で、2005年7月に「恵方巻」を商標出願する者が現れました。

・「恵方巻」(出願番号2005-72920、区分30 すし)

出願人は広島の株式会社アットという会社(位置づけとしては米デラウェア州アットインク社の日本支社)です。一見、寿司ともコンビニとも関係ないIT系企業だったこともあり、一部でその成り行きが注目されていました。

もし審査によりこの商標登録が認められ、かつ出願人が商標権を強く主張することになったら、今後日本全国で寿司に気安く「恵方巻」という名をつけることができなくなってしまいます。ある店では、昨年から「恵方巻」と名付けるのをやめて「丸かぶり寿司」+カッコ付けで「恵方まき」としたとか。

しかし結論として、寿司としての「恵方巻」商標を特定の企業が独占する懸念はなくなったと考えられます。上記の商標出願は、当事者の株式会社アットの説明によると、

・本商標は平成19年1月16日付けで拒絶された
・本査定についての不服申し立てをする予定はない

とのこと。これまでこの件でなかなか正確な情報が伝わっていなかったので不安がありましたが、今後は安心して「恵方巻」という名称を使えそうです。

■特定企業による独占を“防ぐ”ための出願だった
誤解してはならないのは、この件で出願人は「恵方巻」商標を独占しようとしたのではないという点です。逆に特定の業者に商標登録されないよう、防御的な意味で出願したようです。出願人のアットは広島県すし商生活衛生同業組合の顧問企業という経緯があり、同組合にかわって商標登録を行ったとのこと。「仮に出願が通った場合は組合に権利譲渡する予定」だったと、同社代表取締役から説明をいただきました。

このように防御的な意味合いで業界団体などが商標出願する例は珍しくありません。公的で代表的な位置にいる団体の管理下で出願が通れば、全国の関係者は安心してその名称を利用できる可能性が高くなります。また、拒絶されれば、逆に他の業者が出願しても同様に拒絶されることが明確になるので、やはり安心してその名称を利用できると判断できます。今回は、このうち後者の結果になったということのようですね。恵方巻でビジネスをされている全国の方々は、アットさんに感謝するべきかもしれません(!)。

なお、類似の名称で、次のものはすでに商標登録が成立しています。

・「恵方柿」(区分30 柿を原材料に使用してなる菓子及びパン)
・「恵方餅」(区分30 餅菓子,餅入りのパン)

そして、次のものが商標出願されています。

・「恵方巻」(区分29 かまぼこ,ちくわ,その他の加工水産物,肉製品)
・「恵方」(区分29 加工水産物、加工食品、…ほか多数)
・「笑方巻」(区分30 菓子及びパン、すし、べんとう、…ほか多数)

■商標に注意しなければならない名称
余談になるかもしれませんが、鰻の蒲焼を細く刻んでご飯にまぶした料理「ひつまぶし」は、加工食品などの区分で、老舗日本料理店の「合名会社蓬莱軒」(あつた蓬莱軒)というところが、1987年に商標出願し登録されています。

・「ひつまぶし」(区分:32 食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品)

ただし、05年に同じ会社が飲食物提供の区分(サービスマーク)で出願した「ひつまぶし」は、06年10月に拒絶査定されました。こちらはその後、出願人が不服審判にもちこんだようです。

・「ひつまぶし」(区分:43 飲食物の提供)

ほかに「浅草ひつまぶし」「海鮮ひつまぶし」など、登録商標または商標出願中のものがいくつかあります。「ひつまぶし」については、商標権の侵害について注意を払わなければならないといえそうです。

■甘党にうれしいロールケーキ
ややこしい話は置いて恵方巻の話に戻ると、コンビニ各社は商品のバリエーションにいろいろ工夫している様子が見られます。「丸かぶり寿司1本」はさすがにヘビーなのか、ハーフサイズあたりが今後受けそうな気がします。

今年はセブンイレブンやスリーエフが「丸かぶりロールケーキ」なるものを出してきました。寿司ではなくケーキ。甘党にはきっとケーキの方がうれしいでしょう。もしかしたら何十年後かには、節分のロールケーキとバレンタインのチョコレートが、2月の2大スイート・イベントとなっていたりして…。

▽追加情報
東急東横店は、恵方巻にみたてた「巻きピザ」を出したとのこと。イタリアで縁起物のレンズ豆などをピザ生地で恵方巻のように巻いたもので、大きさはエクレアくらい。2/2、2/3の両日、30本限定販売だったとか。新しいアイデアはいろいろでてくるものですね。

▽関連記事:
恵方巻商戦は定着したのか
恵方巻2009(コンビニ)
スーパーマーケットの恵方巻
恵方巻2010(コンビニ)

昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋

懐かしい昭和風の店舗を形式化して、フランチャイズ展開を始めている企業があります。

半兵ヱ

■フランチャイズに足を進める
以前の記事「昭和レトロ 1-昭和風の外食店増える」で、秋葉原UDXビルの「アキバ・イチ」を例に挙げて、昭和レトロ風の趣が強い外食店および商店街が増えていることを書きました。そんな昭和レトロを切り口にして繁華街に店を持ち、本格的なフランチャイズ(FC)展開まで足を進めている外食チェーンが現れています。

冒頭の写真は、居酒屋「半兵ヱ」渋谷店の店内。半兵ヱは、秋田に本拠を持つドリームリンクという会社がチェーン展開をしています。直営店20店のほか、すでにFC店が10店。半兵ヱ以外にもテーマパーク型居酒屋(銀座カンカン)、駄菓子バー、ラーメン店などの外食業態を開発していて、それらを併せると、2007年1月時点で直営店35店、FC店50店とのことです。

半兵ヱ http://www.hanbey.com/index.html
(株)ドリームリンク http://www.dreamlink.co.jp/

半兵ヱのエリア・フランチャイズ制による多店舗化を目指して、この1月から各都道府県のエリア本部募集を開始しました。

外食チェーンのFC展開自体はもちろん珍しいものでなく、事業拡大の一歩と位置づけられるでしょう。やはりここで注目したいのは、「昭和レトロ」の定番作りに踏み出していることです。同社にFC本部(フランチャイザー)としての実力がどの程度あるかは何も確かめていませんが、直営からFC、さらにエリアFCへと体制を構築できるということは、とにかくも店舗の運営をフォーマット化(標準化)していると考えられます。

■ひと月に21回訪れた客がいた
店内の様子は見ての通り。壁は多数のポスターや看板(日活映画、ソース・醤油、洗剤・薬、赤玉スイートワインの有名な女性ポスター…)でいっぱいです。止まった時計、映らないテレビ、コカコーラの250ml復刻缶、鉄腕アトムの人形など、小物・大物がそこかしこにあります。BGMはもちろん昭和の歌謡曲、童謡の類で、次々に懐かしい曲が流れてきます。

メニューは実に多種多様。焼き鳥、串焼き、おでん、鉄板焼き、刺身、漬物、揚げ物、駄菓子、酒(ホッピーや電気ブランから定番ウイスキーまで各種)…。「のりたまご飯」(卵ではなく「のりたま」がかかっているご飯)「永谷園のお茶漬け」「大塚のボンカレー」など、目を惹くものだけでも挙げればきりがありません。

値段は、焼き鳥1本50円、目玉焼90円、“高級ねこまんま”180円、ウイスキーのショット290円、よっちゃんイカ30円…。客単価は2000円前後と一般の居酒屋より安く、酒抜きなら1000円強で済ませることもできるでしょう。「酒を飲みに行く」という感覚より「夕食を食べに行く」気持ちにもなろうものです。

実際、ある店ではひと月に21回も来店した“サラリーマン”(あえて「ビジネスパーソン」という表現を使ってません)がいたそうです。店の人も心得たもので、そのお客さんが「いつものください」と言うだけで、ちゃんと「その人にとっての定番メニュー」が出てくるようになったとか…。ここまでくれば、もう「馴染みの定食屋」を超えて「夕食を食べる別邸」というような存在かもしれません。

お客さんは、昭和を懐かしむオジサンだけでなく、けっこう若い人や女性もいるようです。私が訪れたときには、高校生かと思われるカップルが(もちろん酒ではなく)食事しに来ていました。基本的には昼は店を開けず午後5時以降の開店のようです(店によって違うかも)。2時間の時間制限あり。

■オペレーションに工夫
FC本部の資料によると、「素人でもできるシンプルなオペレーション」で「1カ月の研修で開業可能となる」とのこと。たとえば“お通し”については、生キャベツがテーブルに始めからゴソッと置かれていて客が勝手に好きな量を食べることになっています(自動的にお通し各人380円ナリ)。焼き鳥など料理が出てくる入れ物は、なんて呼べばよいのでしょうか、弁当箱の蓋に網を置いたような金属製の皿です。多くの食材を同じ入れ物で提供できるようにしながら、洗い場の面倒もかけないような工夫がみられます。

オペレーションを単純化しながら多数の「昭和の本物」に近いメニューを提供できる仕組みを工夫して作り上げている様子が伺われます。一つの収支モデルとして、次のような数字が同社の資料に示されています(数字は簡略化し、一部丸めている。1カ月)。

売上高 ――――――― 400万円
売上総利益 ――――― 280万円
人件費 ――――――― 100万円
その他一般管理費 ――  75万円
営業利益 ―――――― 105万円

■濃いレトロ、薄いレトロ
あくまでも外部から見た感想に過ぎませんが、いくつか懸念材料も感じられます。

メニューが非常に多いこと、および薄利多売であることなどからは、厨房で調理をする人の労働負担にかなり頼っているところがありそうです。お客の数がさほど多くない時間帯でも、少し注文が重なると、料理が出てくるのが遅くなってしまったりする可能性があるでしょう。単品の焼鳥屋さん、お好み焼き屋さん、バーとかならカウンター越しにさっと注文してさっと食べることができるのと比べ、顧客にいらいらさせてしまう頻度が高くなってしまうことはないのでしょうか。

もう1つの懸念は、店の運営ではなく店舗コンセプトに関してです。昭和レトロのポスター、料理、小物が、これでもかと店内に満ち溢れているととても面白いのですが、一つ間違って“やりすぎ”にならないかと心配します。単独店で少数の固定客を長くつなぎとめることに成功している店ならともかくも、繁華街を中心に多店舗展開して広く顧客を集めるとしたら、際立って面白い作りは濃すぎて、逆に“飽き”を生じさせるもとになるのではないかと思われます。

つまり、いままでの昭和レトロが「特に意識して訪れる場」「遊園地のように遊びに行く場」つまり“ハレ”の場として注目されていたものだとしたら、「飽きのこない日常集う場」「安心して毎日定食を食べられる場」つまり“ケ”の場としての店舗開発をしていくことが、息の長いフォーマットとして根付くための重要な視点ではなかろうかと思うわけです。「ナンジャタウンの福袋商店街」や「台場1丁目商店街」とは求めるものが少し違うはずです。

でもまあ、それは次のステップなのかもしれません。今は少し尖がっていた方が注目も浴びるし、まだまだ飽きもこないでしょうから…。

■多店舗展開しやすいフォーマットはどれか
他に昭和レトロ居酒屋として次のようなところが挙げられます。

・ハッピー
五反田と新宿(2店、うち1店は立ち飲み店)の計3店。NKG & アソシエイツという会社がプロデュース。マスコミによく取り上げられる店としてはこちらもかなり有名です
NKG & アソシエイツ http://www.nkg.gr.jp/shop/happy.html
五反田ハッピー店長blog http://g-happy.cocolog-nifty.com/blog/
・まんぷく食堂 有楽町コンコース
・朝日食堂 六本木
・ラッキー酒場 麻布十番
・三茶氣 三軒茶屋。経営はエイジア・キッチン
・昭和横丁 蒲田

これも挙げればきりがありません。web上の情報とかを見る限り、“昭和度”の濃さ/薄さ、酒中心/食事中心、価格帯など違いがあります。多店舗化を考えるかどうかは経営者の考え方によるでしょうが、標準フォーマットとして成立しやすい業態はどのあたりにあるのでしょうね。