昭和レトロ 3-多店舗展開する定食店

多店舗展開を目指す「昭和レトロ」は、定食店にもみられます。居酒屋とはまた違った形で、昭和風店舗フォーマットの確立を目指している様子がうかがわれます。

モダン食堂 東京厨房
〔モダン食堂 東京厨房 目黒店〕

■コンビニ・チェーンの新事業
昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋」で「半兵ヱ」などの居酒屋チェーンを採り上げました。今回は、定食を中心とした外食チェーン「モダン食堂 東京厨房」をみてみます。2006年春ごろから急速にフランチャイズ・チェーン(FC)化が推し進められ、07年1月現在で都心を中心に11店ほどあるようです(直営3店)。

このチェーンを展開しているのは「新鮮組本部」。といっても、ここには近藤静也も猪首も肘方も生倉もいません………(すみません、ボケかましました。映画・ドラマ版「静かなるドン」を結構楽しんで見ていたクチだったもので)。

同社は、東京・千葉・神奈川に約60店舗(「新鮮組」と「ジャストスポット」)を展開するコンビニ・チェーン。コンビニに加え惣菜店や外食店の事業を本格化させるなかで、今最も力を入れている(ようにみえる)のが「東京厨房」です。店のキャッチフレーズは「現代によみがえる下町の洋食」。看板は、文字がわざと“右から左”に書かれていたりします。media for you(m4u)という映像制作会社のページに、社長インタビューを含めたわかりやすいFC募集用動画があります。

新鮮組本部 http://shinsengumihonbu.com/
m4u東京厨房FC募集用動画 http://mediaforyou.tv/2007/01/cm_8.html

■店内と弁当販売の2本柱
メニューのほとんどはセットになった定食です。から揚げ定食、ハンバーグ定食、野菜炒め定食、ねぎとろ丼定食など定番物ばかり。価格はほとんどが680円か780円と「少し安め」のレベル。ほぼ同様のメニューがテイクアウト用弁当として用意されています。昼時は、ずいぶん人が並んでいることがあります。

店内には、昭和の雰囲気を醸し出す小物や写真が飾られています。ポスター類は少ないですが、「アース製薬」の看板など定番モノがあちこちにみられます。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てきたような、東京タワーの建築途中の大きな写真などが貼られています。店内に駄菓子コーナーが設けられていて、“ついで買い”を誘います。

来店客は、昼時はやはりビジネス・パーソン(男女)が多いようです。50代から60代の1人客も目に付きました。昼時は酒メニューを前面に出していません。夕方以降になると当然アルコール類での売り上げも期待されるのでしょうが、「半兵ヱモデル」とは異なり、例えば「ホッピー」など昭和コテコテの酒類はあまり置いていないそうです。

ある収支モデルでは次のような数字になっています(項目は簡略化し数字は丸めてある。1カ月)
売上 ―――――――― 650万円
粗利益 ――――――― 460万円
人件費 ――――――― 190万円
その他一般管理費 ―― 150万円
営業利益 ―――――― 120万円

そもそもコンビニの新鮮組は、店内に厨房を持ち、デリコーナーで惣菜を量り売りしているのが特徴です。つまりコンビニとしてはやや特殊なチェーンで、いわば「コンビニ標準型」と「オリジン弁当」との中間的な業態とも言えます。そうした弁当や惣菜を取り扱うノウハウを東京厨房にも生かしていると推測されます。

■昭和の力は多店舗化にプラス? マイナス?
半兵ヱが昭和に出来る限りこだわって店作りしているのに対し、東京厨房はあえてそこまでディープになっていません。昭和レトロ度をむりやり数字化してみると(あくまでも私的な感触ですが)、半兵ヱを「100」としたときに東京厨房は「60~70」といったところでしょうか。悪く言えば“中途半端”、良く言えば“落ち着いた程度”。中高年のお客さんが酒抜きで安心して食事できる場所、という雰囲気が強いといったらよいでしょうか。

昭和の時代から営業されている何の変哲もない定食店は、今もあちこちに残っています。それがブラッシュアップされた形態と考えればよいでしょうか。ちょうど古い雑貨店・青果店・酒店がコンビニに置き換わっていったように、もしかしたら古い定食店がこうした標準フォーマットの店に置き換わっていくのかもしれません。

・比較的安めの定食セット
・定番メニューを常時提供
・ビジネス街の昼食または家庭の日常食に対応

「昭和レトロ」にとらわれず思い起こしてみると、こうした庶民派的な特徴を力にして発展した定食チェーンはいくつもありました。都市部で言えば「大戸屋」、地方で言えば「ジョイフル」など、また以前すかいらーくが低価格店として展開した「ガスト」も該当するかもしれません。

これらのチェーンは、一時期急激に店舗数が増えました。そして地元に根付くことで消費者の確かな支持を得られるのですが、ある時期を過ぎると多店舗化の弊害や、定番メニューであるが故の消費者の飽きが出てくることも避けられません。東京厨房はまだ10店舗そこらですからそうした壁に直面する時期はまだ先かもしれませんが、「昭和レトロ」の力が標準フォーマットの定着にプラスに働くのか、逆にマイナスになるのか…。

やってみなければわからないかもしれませんね。何となく、ショッピングセンターのような商業集積に急いで多店舗出店するより、地味な場所や二等地への出店で固定客を獲得する戦略をとったほうがよいような気もしますが(単なる思い付きの感想でした)。