「人・組織の活性化」カテゴリーアーカイブ

「体力・運動能力測定法」

ビジネス書ではありませんが、本blogの「身体を測る」および「人事測定」というテーマつながりでご紹介します。

tairyokusokutei_s.jpg
「スポーツ選手と指導者のための 体力・運動能力測定法 ― トレーニング科学の活用テクニック」
【鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター(編)、2004年刊、大修館書店】

■理論と実践
ジャンル分けをすれば「専門書」なのでしょうが、人の身体や運動を測るさまざまな仕組み、および測定の実践手法をわかりやすくまとめてある本です。全体で180ページ弱、章にして全21章、1トピック(1章)あたり7~8ページとコンパクトな構成。もちろん理論的な話も書かれていますが、専門的過ぎず、結構幅広く一般に役立つのではないでしょうか。本blogでは適当にしか説明していない体組成率とか乳酸、全身持久力などの背景と理論がきちんと解説されています。

〔目次〕
第1部 身体のかたちを知る
形態計測
体脂肪量
骨密度
第2部 身体の機能を知る
運動機能(筋力、持久力)
運動生理(血糖、乳酸、スポーツ心臓)
栄養
第3部 身体の動きを知る
バイオメカニクス(速度、動作、ジャンプ力、地面反力)
第4章 筋・感覚機能・心の動きを知る
筋機能(筋電図)
感覚(運動視機能)
心理
第5部 身体活動と環境の関係を知る
環境生理(高所トレーニング、水中の身体機能)
第6部 トレーニング計画を立てる
トレーニング学(医科学サポート、トレーニング計画・実際)

■測定の基礎概念はビジネスにも役立つ
「測定器」を用いた身体の物理的測定に加え、心理測定についても簡単に触れられています。ここではスポーツ選手に必要な心理テストの紹介が主ですが、メンタル面からどのように人間を把握していくかという基本的な考え方が役立ちます。

たとえば
・「特性」(その人の一般的な行動傾向など。日々変化するものではなく安定した数値として計測されるもの)

・「状態」(ある特定の場面での反応など、むしろ刻々と変化しうる測定値)
とを概念的にはっきり区別し、それらを選手育成にいかに活かせばよいかなどが解説されています。

一般企業の人事評価の場面でも、意外にこうした基礎概念をあいまいにしてしまいがちです。その結果、あまり意味のない評価に至ったり、被評価者に納得されない結果がでてきたりする危険があります。非常に基本部分だからこそ(かつ、成果が数字で見えやすいスポーツという世界での話でもあるので)、ビジネスパーソンでもはっと思い至るところがあるのではないかと思います。

「ドラゴンフライ」3-官僚組織化する宇宙機関

ある時期の成功の代償として、長い間に組織が官僚的になる。宇宙機関に限らず、一般の組織でよく起こる現象なのでしょう。

「ドラゴンフライ ― ミール宇宙ステーション悪夢の真実」(上)(下)
【ブライアン・バロウ(著)、北村道雄(訳)、寺門和夫(監)、筑摩書房、2000年】

本書で描かれている問題発生の背景を簡単な図で表してみました(説明後述)。
Dragonfly-org.gif

■「組織を牛耳る影の支配者」
これまで2回の記事(「ドラゴンフライ」1「ドラゴンフライ」2)で、ミール・スペースシャトル・ミッション(フェイズ1プログラム)に関わった宇宙飛行士たちの醜態を紹介しましたが、本書ではNASA上層部についても容赦していません。とくに「組織を牛耳る影の支配者」ジョージ・アビーという男の話がとくに“いやらしく”描かれています。

詳細は本書第2章を読んでいただくとして、概ね次のような成り行きがあったとされています。

・アビーは飛行士選抜に決定的な権限を持っていた
・アビーに気に入られるかどうかが飛行士たちにとって重大な問題となった
・アビーは陰険なやり方で気に入らない人や意見を排除していった
・スタッフは常にアビーの顔色を窺いながら仕事を進めるようになった

アビーはいったんNASAから排除されワシントンで職につきますが、そこでかえって政府中枢に取り入れられるチャンスを得ます。1992年にNASA長官の懐刀のような立場でNASAに戻り、政治的な力をさらに振るうようになります。

■“伝説の管制官”物申す!
アポロ時代のNASA地上管制官のジーン・クランツという名前をご存知の方は多いと思います。映画「アポロ13」ではエド・ハリスが演じていた実在の人物です。本書にもクランツの証言がところどころに出てきますが、とくに次の証言に注目できます。

「20年前に私たちが仕事をしていた頃、管理職についていたのは下からはいあがってきた者ばかりで、部下から尊敬されていた。問題を解決するためにときには激しい言葉の応酬もあったが、率直に議論ができた。でも今は雰囲気が違う。管理職をやっているのは誰かの都合のいいように選ばれた者たちで、下積みの経験もなく十分なコミュニケーションのもととなる健全な敬意も持ち合わせていない。もはや自由で率直な話し合いをできない」

そしてその元凶がアビーだとしています。アビー自身はアポロ時代の現場から昇進していった人間なのですが、結果としてはNASA官僚組織化の道を敷いてしまう主役を演じたのかもしれません。

■じゃあ、昔は本当によかったのか?
もっとも、ここではアビー1人が完全なヒール(悪役)のように描かれていますが、実際の責任の所在はもっと複雑だったと個人的には推測します。少なくとも、アビーのやり方はクランツをはじめとした先人たちを受け継いだ結果であることは明らかです。

例えば「宇宙飛行士の人選に強大な権限を持っていた」というのは、アポロ時代のディーク・スレイトンやアラン・シェパードのやり方そのものではないのでしょうか(参考:「月の記憶 アポロ宇宙飛行士たちの『その後』」)。また、成功者として位置づけられているジーン・クランツとスペースシャトル時代の管制官とで、プロとしての意識の差がそんなにあるとは思えません(“体育会的な熱意”には差があったかもしれませんが…)。

おそらく…。(アビー側からの釈明がないので)勝手な推測ですが、アビーは官僚組織の元凶と本書に書かれていることを相当に“的外れ”と受け取っているのではないでしょうか。あえてアビーの肩を持つと「あんたら先人の成功したやり方を踏襲し、かつ政府が指示する予算削減と折り合いをつけ、かつ属人的にならないシステム作りに尽力した結果なのだ」なんて反論したくなるかもしれません。

そしてこうした、当事者にとっては理不尽とも思える経緯こそが“官僚組織化”の本質なのではないかとも思います。過去の成功や安定は、長い時間をかけてシステマチックになるなかで、結局マイナス面をもたらしていくものなのでしょう。

■ロシア側にも多くの問題
ロシア宇宙局についてはNASAほど詳細に描かれていませんが、「NASAよりさらに強固な官僚的習慣があった」とされています。飛行士が目の前で大きな危険に遭遇したとき、管制側がその報告を「誇張した夢物語」としか受け取らず信じなかったなどいう、それこそ信じられないことが結構あったようです。そのほか、ロシアの官僚組織としての弱点、国の資本主義化に伴う問題点などが次のように語られています。

・ミールの技術的情報は必ずしもドキュメントになっておらず、関係者の頭の中だけに存在していたものが多かった。しかも、技術上の秘密を守ることに極めて用心深く、米側の問い合わせに応じないことも少なくなかった
・ロシアの宇宙服や宇宙ステーションの欠点は、矮小化されたり非公開だったりした
・予算が削られる中、ミール維持のためにさまざまな方法で商売をしなければならなかった。
→CMの撮影優先や“お客さん”の招待(例えば日本のテレビ局の記者搭乗)など
・ロシアでも宇宙に飛び立つための「契約書」を飛行士と交わすようになった。
→実験の回数、船外活動の回数、失敗をした場合の罰金の取り決めができた。
→その結果宇宙飛行士は宇宙で都合の悪い情報を地上に伝えなくなるようになったり、準備不足の船外活動を強行したりするようになった

そのほか、ソビエト連邦の崩壊と民主化が組織を取り巻く環境に大きな影響を与えていたことがわかります。ミールの技術を実質的に引き継いでいたエネルギア社は民間企業へと転換しました。それまで“国内”だったウクライナ(ミールの自動ドッキング・システムを作っていた会社がありました)やカザフスタン(ロケットの打ち上げがされるバイコヌール宇宙基地があります)が外国となり、それぞれ複雑な交渉を必要とするようになっていきました。

■米ロの文化の違い
遡って1960年代米ソ宇宙先陣合戦の頃から、ソ連の宇宙計画全体に流れる人命軽視の空気に対して、アメリカ側は常に不安を持っていたとされています。実際、NASAは何か重大な(とくに人命に関連する)問題であれば、きちんとその原因を追求しその対応策を施すという姿勢があります。成功しているかどうかは別にして、たしかにチャレンジャー事故後は3年間、コロンビア事故後は2年半、スペースシャトル計画を中断してでも問題解決に時間を割いています。

一方ロシアは、何か事故が発生しても、外から見た目では何かよくわからない程度の改良を施したようなイメージで、ケロリとした顔をしてまた宇宙に飛び立っていくかのようにみえます。これが、NASAの宇宙飛行士たちに「ロシアは人命を軽視している」という不安を常に持たせることとなったようです。

「双方の考え方に絶えず断絶があった」のは、容易に想像できます。そして米ロ双方の組織風土や環境の変化や文化の違いが、フェイズ1プログラムのいざこざにつながっていったといえそうです。原因の一つひとつは“遠因”かもしれませんが、かなり本質的な原因として位置づけられるでしょう。

■官僚化による現場サポート機能の不全
望ましいサポート体制として、冒頭の図のような流れが考えられます。

・クルーが(事前準備も含め)何か問題に直面したとき、地上スタッフへ素早く状況報告や問題解決の依頼をする
・管制官など地上スタッフは必要十分な情報をクルーに提供し、現場段階で処置できるものは対応する
・組織的な(上層部の判断が必要な)対応が必要な問題については、それを組織に素直に依頼する
・組織としては、なるべく現場の負担軽減につながるようサポートする

しかし本書に描かれている数々のアクシデントおよびインシデントからは、次のような構図が見て取れます。

・組織から地上スタッフに、方針徹底などの強い命令が下される
・それを受けた地上スタッフは、クルーにあれこれ指示する。結果的に現場(宇宙)での活動そのものを制約していく
・クルーは身動きが取れなくなっても、正確な状況を報告できない。または報告しても解決されなかったり、地上からの情報提供が不十分であることが続いたりして、状況報告そのものをあきらめてしまう(自ら解決するしかないと考えるようになる)
・地上スタッフも上下から板ばさみになり、責任逃れが先にたつなどして、組織に対して有効な働きかけができなくなる

結局、クルーと地上スタッフ、その後ろの組織の3者間で誤解を生じ、深刻な対立関係を生むことになります。本書ではこれについて、関係者の次のような証言が紹介されています。

「ほとんどの場合、問題の出所は組織だ。クルーや地上チームが組織の上層部にサポートしてもらえていない。問題の80%はこうしたことから起こる」

宇宙飛行プログラムに限らず、一般企業でよく発生する構図ですね。その意味でも、本書で描かれている組織問題の数々は、我々組織人にさまざまな示唆を与えてくれるような気がします。

この本が書かれた後の話になりますが、NASAの組織的な問題点は、スペースシャトル・コロンビア号の事故にも確実に関連しているでしょう。また、現在進められているISS(国際宇宙ステーション)では、日本をはじめ数カ国の共同ミッションとなっています。米ロ2カ国であってもそれぞれの責任範囲が定まっているとそこに他者が口を出しにくくなることが本書から読み取れますが、本書に描かれているような危機的経験をぜひ教訓にして、ISSで同じような深刻な問題が起きないよう期待したいところです。

「ドラゴンフライ」の書評(+α)を3回に分けて長々と書きましたが、書評としてはこれで終わりです。でも、ここで出てきたテーマ(組織、人材、宇宙など)について、今後もいろいろ触れるつもりでいます。

身体を測る 07-心肺機能の測定とスポーツ

メタボリック・シンドロームを防ぐためだけではなく、スポーツ競技者の競技力向上にも、心肺機能の測定は有効です。

fig_at_vo2max.jpg

■さまざまな測定方法
一つ前の記事「身体を測る 06-メタボリ症候群と全身持久力」で、メタボリック症候群に関連して基礎代謝量や全身持久力の測定について話をしました。そもそも全身持久力というのがわかったようでよくわからない概念ですが、ここでは単純に、次のような指標(身体から測定できる値)を指すことにします。

・基礎代謝量:安静時に消費されるエネルギーの量
・無酸素性作業閾値(AT値):運動していて急につらくなるレベルにおける(酸素摂取量または血中乳酸濃度または心拍数などの)値
・血中乳酸蓄積開始点(OBLA):血中乳酸濃度が「4ミリmol/L」となる点
・最大酸素摂取量(VO2max):限界まで運動したレベルにおける酸素摂取量の値

上図で、運動強度を上げたときに線が折れ曲がっているところがありますが、ここが「AT」です。「OBLA」は、スポーツ競技者などが運動強度を見極めるときにAT値より参考になる運動レベルのことです。

厳密には、酸素摂取量、二酸化炭素排出量、血中乳酸濃度、心拍数がすべて同じ時点で連動して変化するわけではなく、ATについても「換気性作業閾値(VT)」とか「乳酸性作業閾値(LT)」とか呼び分けるようですが、ここではあまり区別せずにAT値という言葉で代表させてしまうことにします。

それぞれの運動強度の時に、このうちのどれかを測ればよいということなのですが、前回も説明したとおり、「酸素摂取量(または二酸化炭素排出量)」を調べるには大掛かりなシステムが必要で、体力測定サービスなどに頼らざるをえません。

「心拍数」は大変簡単に、常に調べることができます。スポーツジムなどで運動強度の目安を確かめるときには心拍数で判断することがほとんどでしょう。ただし、本当にAT、OBLA、VO2maxを意味する値がどこなのかは、体調や運動種類によって異なってくるため、必ずしも正確ではありません。

■無侵襲で乳酸を測定したい
スポーツ関係者にとって、科学的にかつ比較的手軽に測定できるのは「乳酸」かもしれません。ポケット型の乳酸測定器が1~2種類出回っていて、利用されているようです。代表的なものとして、次の商品が挙げられます。

ラクテートプロ(アークレイ社)
→http://www.arkray.co.jp/product/sports.html

しかしこの測定法でも、ほんのわずかですが指などから小さな針などで血液を出して測る必要があります。糖尿病の方がよく利用する簡易血糖値計とほぼ同じ方法ですね。被測定者に負荷があるという点だけでなく、血液を通じた感染症の感染などの観点からも、これだけで一般的には少し敬遠されてしまうものだと思われます。

以前も書きましたが、血液を直接摂取しなくても、血中酸素濃度を測るパルス・オキシメータのように、指などにクリップをはさむだけで(「無侵襲」で)乳酸濃度や血糖値が測ることかできる装置の登場が待たれます。というまでもなく、すでに無侵襲型乳酸計の研究はあちこちで行われているようです。

■安静時の呼吸測定
ATなどは測ることができませんが、安静時の呼吸測定なら、次のような小型の呼吸ガス測定器が商品化されています。

MedGem(エムピージャパン社)
→http://www.mpjapan.co.jp/product/medgem/medgem.html

この測定器は、手で持って口にマウスピースをあてることで、正確な酸素消費量を測定でき、基礎代謝量を割り出せるとしています。もっとも、こんな小型の測定器でも医療用具認証された業務用の測定器なのでかなり高価です(担当の方によると、価格は700万円?とかいうレベルの話でした)。

米国では、パソコンやPDAにPCカードとして直接差し込んで測定する、一種の“パソコン周辺機器”という形態で、面白い身体測定器がいくつか発売されています。次のものが「肺活量計」ですが、実用性はどうなのでしょう。実際に経験された方はいませんですかね。使用感などがあれば知りたいところです。

SpirCard(米QRSダイアゴノスティック)
→http://www.qrsdiagnostic.com/NewFiles/SpiroCard.html

身体を測る 06-メタボリ症候群と全身持久力

自らの基礎的な運動能力(基礎代謝量や全身持久力)を測ることは、一般人からスポーツ選手まで代謝状況を判断する上で重要なことだと考えています。

fig_metaboli.jpg

■メタボリ体質≒“黒字”体質?
“メタボリック・シンドローム”が流行言葉になっています。「内臓脂肪症候群」と意訳できるのでしょうか。日頃運動不足の人、見た目にはわからなくてもおなかの中に脂肪がついてしまっている人…。身体が消費するエネルギー量より摂取するエネルギー量のほうが多い生活を続けていくと、身体のどこかに余った脂肪がついてしまうという簡単なことです。
続きを読む 身体を測る 06-メタボリ症候群と全身持久力

身体を測る 05-健康状態がわかる睡眠シート

寝ている時の睡眠の深さがわかる、ベッドに敷いているだけで身体の状態を測定するシートが実用化しはじめました。

sleepmon01_s.jpg

■大げさな睡眠測定装置だと眠れなくなる?
現代人の4人に1人はなんらかの睡眠障害を持つともいわれています。不眠、睡眠リズムのずれ、睡眠時無呼吸症候群などさまざまな障害があります。一応健康な人であっても、夜きちんと眠れたかどうかは結構気になるものでしょう。床に入っていた時間くらいなら簡単に記録できますが、できれば睡眠の“質”という観点からも自分の健康状態をつかんでおきたいと思いませんか。

睡眠の深さや状態を測定する機械というと、研究所などで頭に電極をつけて測る本格的なシステムを思い起こします。そのシステムを「PSG」(睡眠ポリグラフ、またはポリソムノグラフィ)と呼ぶそうで、頭、額、目、あご、心臓などに電極をつけて脳波と心電図を測るほか、鼻と口の気流をみて呼吸を測定し、睡眠状態を分析します。

しかし、言うまでもなくPSGのような大げさな睡眠測定装置で検査するとなると、専門の医療機関や研究所まで出向いて、1~2泊して、(場合によっては研究員の終夜立会いのもとで)測定しなければなりません。しかも前述のように、実験台で張り付けにされたように、身体のあちこちにセンサーをつけることが求められます。いつもと違う状態で、いかめしい実験台の中におかれると、結局良く眠れないとか、少なくとも自宅で寝る時と異なる睡眠状態となってしまいがちです。どんな状態でも簡単に眠ることができる人ならともかく、そもそも睡眠障害の疑いのある人がそんな状態で正確な測定ができるものではなかなかありません。

ここで挙げる睡眠シートは、いわば“いつもどおりの”睡眠環境で測ることができるセンサーといってよいでしょうか。寝床の下(商品によっては、敷き布団のさらに下においてもよいタイプのものもある)に敷くだけで呼吸と心拍を中心に計測でき、その結果から睡眠の質などを分析することができます。写真はスリープシステム研究所開発のもので、介護支援システムなどにすでに実用化しているタイプのシートです。

■介護、看護に応用
PSGのように、たとえば覚醒/REM睡眠/浅いノンREM睡眠~深いノンREM睡眠というような何段階もの綿密な測定ができるものもあり、それらはPSGの代わりに本格的な睡眠測定に応用することができます。しかしさすがにそこまで綿密な測定を要する場面でなければ、もう少し簡易化された睡眠シートのほうが安価で、いくつかの場面に応用が利きます。

とくに応用の範囲が広そうなのが介護や看護の分野です。たとえば、高齢者や身体を悪くしている患者さんのベッドに睡眠シートを敷いて離れた場所からウォッチすれば、その人が夜中に突然体調が悪くなった時の緊急の対処とか、逆にベッドにいない(またはいても寝ていない)ことのチェック、さらには健康障害が出る前に察知しての対処とか、いろいろな対策に役立てることができます。

そのような用途から、睡眠測定シートの利用は老人ホームや病院など事業者中心の利用がほとんどです。さすがに個人で簡単に導入できるというものではなさそうですが、睡眠チェック機能のあるベッドなどを導入したいとするニーズは結構あるのではないかと思われます。

一例ですが、松下電工は「快眠システム」という触れ込みで、部屋そのものを睡眠に合わせて自動制御するシステムを提案しています。睡眠・覚醒のリズムに合わせて光の強さと室温を変化させ、たとえば起きる時間に近づいたら徐々に照明を明るくするといった制御ができる部屋作りが可能です。その自動制御の一つのパーツとして、やはりベッドに敷く睡眠センサーシートが用意されています。しかし、これはまたこれで“大げさ”ですよね。数百万円とか数千万円とかかけてそうした寝室を作りこむのは、一部の富裕層や高級ホテル以外ではありえないでしょう。

■心拍や呼吸から異常を感知できる
前回の記事と同じく、このテーマに関連する商品例を、
生体測定 製品・サービス一覧
に一覧として挙げました。リストは今後もupdateする予定です。

リストをみただけではよくわからないかもしれませんが、商品によって、身体の動きを監視することが主なもの、睡眠の深さを精度良く監視できるものなど差があります。また、いずれの商品も単体で機能するというものではなく、データを解析するソフトウェアや連動するシステムがあってこそ有効に利用できるものであることにご注意ください。さらにはどんな睡眠状態のときに危険があるのかの判断などは、それぞれの提供元が持つ専門的なノウハウにも依存することになります。

なお「対象者がベッドにいるかどうかだけ判断する」ためには睡眠モニターまでは必要なく、たんに圧力の“on/off”だけが信号として届けばよいわけで、そのためには「離床センサー」と呼ばれるシートを使えば十分です。ただしこの場合、仮に寝床で被験者が亡くなって動かなくなってしまった場合、それを判断することはできません。呼吸や心拍を測定しているセンサーならば、その異常状態を感知できます。

この記事でのテーマ“身体測定のパーソナル化”となるまでは少しだけまだ時間が必要かもしれませんが、睡眠測定が結構身近な環境まで近づいていることは確かなようです。