「ものづくり、システム」カテゴリーアーカイブ

高齢者を見守るハイテク・システム

一人住まいの高齢者が増えた現代ですが、ハイテクを駆使して家族や介護関係者が遠隔地から安否確認をするサービスが多数登場してきました。

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■センサー技術と通信性能の向上
少し前に記事として「社会安全システム」という本をご紹介しました。同書にもさまざまな事例が書かれていたように、情報技術と通信ネットワークをうまく利用することで人の安否情報や行動情報を離れた場所に伝えることができます。緊急事態があったときに即座に対処したり、危険や病気が発生しそうなときに前もって状況を分析したりと、役に立ちそうです。

見守りシステムの基本的な仕組みは、わかりやすいものだと思います。単純化すれば、

・何らかのセンサーで人の行動や状態を検知する
(または対象者自身がボタンなどを押して意思表示する)
・検知した情報を無線または有線で家族や介護者に伝える
(即座にメールする、コンピュータ・サーバーに蓄積するなど)
というだけの話です。

センサー技術と、通信ネットワークの性能・使い勝手が向上したことで、意外と簡単に上記システムが組めるようになってきたわけです。現在すでに事業化または試験運用されている見守りサービスの例を一覧にまとめました。

見守りサービス・システム

このリストは網羅されたものでなく、掲載されたシステム・サービス以外にもまだ多数あるはずです。同リストは、順次更新する予定です。

見守りサービスを2つの観点から分類したのが冒頭の図です。縦軸は「情報の内容・深さ」、横軸は「対象者と保護者との距離」とでも表現できましょうか(あまり厳密な軸の定義ではありませんが)。

■センサーの組み合わせで検知レベルが異なる
見守りサービスに使われうるセンサー(または検知システム)は、多数多様です。

・監視カメラ
・人の動きを検知するもの
圧力センサー
フロアマット(マットセンサー)
ベッド用マット(ベッドセンサー)
車椅子用センサー
トイレ用センサー
位置センサー、行動センサー
加速度センサー
音波センサー
赤外線センサー
感熱センサー
PHSによる位置特定システム
生体センサー
心拍計、血圧計その他各種身体測定機器
睡眠センサー
おむつセンサー
・生活関連製品の利用状態を検知するもの
電気利用を感知する装置
電気コードやスイッチから電流を感知する装置
家電製品そのものに組み込まれる装置
水道利用を感知する装置(…水道局が試験的に実施中)
ガス利用を感知する装置

あと、センサーというわけではありませんが、見守りシステムの重要な要素として

・対象者自らの合図
コールボタン(いわゆる「ナースコール」のようなもの)
電話

が挙げられるでしょう。

人の「存在」のみを検知するものから、存在だけでなく室内行動または室外での移動を検知するもの、さらには健康状態まで知ることができるものなど、検知レベルには深さ浅さがあります。これらの組み合わせ方で、見守りシステムの性格が異なってきます。

本blogでは「身体を測る」というテーマで、物理的・客観的に生体情報を測定する手法や実例を紹介していますが、たとえば記事の一つ「身体を測る 05-健康状態がわかる睡眠シート」で採り上げた睡眠センサーが、見守りシステムにも使われています。

■人的な面、利用技術が有効利用のカギ
見守りサービス・システムをどのような人がどのような立場で利用するかによって、位置付けが異なります。ここでは大きく3種類に分類してみました。

a 施設内管理
介護施設や高齢者住宅、病院の内部で、そこに居住・滞在している人たちを集中管理するための見守りシステム。「見守りシステム」として切り分けて呼ぶより、施設内(院内)システムの一部と捉えたほうがよいかもしれません。
なお、(独居世帯でない)一般世帯の家庭内でも同様のシステムを取り入れることができるかもしれません。ただし、家族が同居しているという状況から高度な管理システムの必要性は必ずしも高くなく、またコストを考えると小規模なセンサー・システムで十分ともいえます。事業性という観点からは、家庭内見守りサービスが広く普及する可能性は、今のところはまだ低いだろうと考えられます。

b 地域における介護支援
介護サービス会社、社会福祉団体、地域医療サービスの団体などが地域の独居者(その他健康に注意すべき人がいる世帯)を見守るシステム。各地で今、この種のサービスが少しずつ研究されているところだと思います。

c 遠隔地見守り
離れて暮らしている独居高齢者の安否や健康を、家族が遠隔地から日常的に確認するためのシステム。仕組みとしては b とほとんど同じようなものと考えられます。ニーズはある程度高いものの、やはりコストとの兼ね合いが一つの課題となるでしょう。

■人的な面、利用技術が有効利用のカギ
見守りシステムは機械だけ揃えば済むといった話でないのが、実用的な運用をするために難しいところです。いくらセンサーで得た情報を伝達しても、人的な面からの運用ノウハウがないと、おそらくいざというときに役立ちません。

上記分類(施設内、地域介護、遠隔地)にしても、機械装置の面からみると本質的な違いはさほどないのかもしれません。むしろ人的関係や社会的コミュニティを形成しながらいかに利用技術を積み上げるかという点が重要とされるでしょう。

「社会安全システム」

人・社会の安全を守るシステム。関連する情報技術が実用段階に入り、いよいよ身近な生活と関連してくるようになりました。

社会安全システム
「社会安全システム ― 社会、まち、ひとの安全とその技術」
【中野潔(編著)、安藤茂樹、井出明、小林正啓、瀬田史彦、高畑達、田口秀勝、西岡徹、宮野渉(著)、2007年、東京電機大学出版局】

■「安全学」の教科書
大阪市立大学大学院創造都市研究科の教授陣が中心となってまとめられた専門書。「安全とはどんな状態を指すのか」から始まり、安全を守るシステムのあり方を情報技術面、法的な側面、まちづくり・環境の視点などから多面的に論じています。

目次にあるようにさまざまなテーマで安全が語られているわけですが、とくに児童・生徒の安全確保に関する実例や、カメラ・センサーを中心とした防犯システムについての事例・課題などに多面的な観察がされています。

〔目次〕
序章
第I部 社会の安全とまちの安全
第1章 安全学総論
第2章 情報化社会における安全
第3章 法における安全の意味)
第4章 防犯と安全・安心まちづくり
第5章 防災,環境,社会的弱者と安全・安心まちづくり
第II部 まちの安全とひとの安全
第6章 情報通信技術による社会安全システムの現実
第7章 ネットワークロボットの法的問題について
―ネットワーク監視カメラ・防犯カメラの設置運用基準―
第8章 防犯カメラの運用に関する公的規則
第III部 安全のための情報と通信
第9章 ユビキタスコンピューティング技術と社会安全
第10章 防犯・防災および食の安全分野におけるRFIDを中心とする情報通信技術の活用
第11章 情報通信技術による防犯実証実験
終章 安全安心関連およびリスク情報についての社会的伝達における人材育成

■安全確保の“根幹”とは
一般的にはあまり「安全学」という言葉は使われませんが、こうして人と社会の安全に関する事象が学問として体系化されていくところをみるとやはり奥深いものだと思われます。

関連テーマの広さも見逃せません。たとえば、高齢者や子供をモニターする「安否確認サービス」(見守りサービス)がいくつかの側面から紹介されています。

・カメラ(モニター)による映像監視システム
・GPSやICタグを被監視者に持たせた居所確認型のシステム
・ベッドなどに取り付けられたセンサーに連動するシステム
・電気ポットのような生活用品に連動するシステム

それぞれ異なる特徴があるわけですが、いずれも有効なシステムとして運用するためには、次のような要素を考慮する必要があることがわかります。

・センサー技術(状態の監視、行動の検知…)
・検知情報の利用ノウハウ(何をもって安否状態を判断するのか)
・伝達手順(携帯電話、無線、人…)
・プライバシー確保

さらに、ごく一部だけですが、経済面から検討されている個所があります。たとえばある中学校のシステムと関連して次のような試算が示されています。

・保護者が児童生徒の安全システムの利用について負担可能な金額は月額で1000円以下
・システム導入の初期費用は数百万円~数千万円、月額運営費数十万円~百数十万円
・仮に児童生徒500人から月額1000円集めても、初期費用はおろか運営費用さえ賄えない

それゆえ、次のような提言が(同じ中学校の事業調査報告書から)引用されています。

・当面は、行政や公共サービス企業との相乗り
・中期的には、事業リスクを避けるための保険導入
・長期的には、行政や地域住民などが協調して事業を行える枠組み制度の構築

個人的には、こうしたビジネスモデル確立に関わる考察はもっと深く知りたいところがあります。また、何を「標準化」(またはドキュメンテーション化)し、何をシステムに埋め込み「自動化」し、何を「人材教育」に委ねればよいのかといったあたりに興味があるのですが、本書はそれを考えるための枠組みを示してくれているようです。本blogでとりあげている「失敗学」「生体測定」「ドキュメンテーション」「コンビニ」「宇宙飛行」「組織開発」それぞれのテーマとのつながりが感じられました。

広範囲な領域に話が膨らむだけに、本書はそのほんの入口を示しているに過ぎません。また、情報技術の変化は激しいだけに実用情報はすぐに古くなるかもしれません。でも安全確保をするための“根幹”となる考え方は、そう劇的に変化するものではないだろうと推測します。そんな「安全システムを考えるときの拠所」が、こうした研究を通じて体系化されていくことを期待したいものです。

「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう

「恵方巻」の名称が商標出願されていたのをご存知でしたか? そしてこの1月、審査により登録に至らず、拒絶となったようです。

恵方巻パンフ
[主なコンビニ・チェーン各社の「恵方巻」パンフレット]

■コンビニが仕掛けた? 「恵方巻」ブーム
節分の恵方巻(丸かぶり太巻き寿司)が、ここ数年で全国的に広がりました。どうも仕掛人はコンビニのようです。1989年に広島のセブンイレブンが恵方巻きの販売を開始し、その後10年以上かけて全国まで広げたとの情報が伝わっています。いまや節分を前に太巻き寿司を大々的に扱うことが、コンビニ、寿司店、中食(惣菜・弁当)店、食品スーパーなどで一般化しました。冒頭の写真のように、コンビニ各社は早くから積極的にパンフを配り、予約獲得に躍起です。

食品業界に限らず、社会が商業的な思惑から「イベント」を欲しています。かつて「バレンタイン・デー」なるイベントを(一部の人が)作り普及に成功したことで、2月14日前後にチョコレートが大量に売れるようになりました。同様に、「節分には豆まきだけでなく恵方巻も食べる」という新しい風習が生まれたといってよさそうです。

新しい季節のイベント作りは、元から生活に根付いた風習であるかどうかは必ずしも関係ないみたいです。少なくとも私の周囲で、数年前までは「恵方巻」という言葉を知っていた人さえいませんでした。私も、あるとき仕事でデパ地下の惣菜店巡りをしていて、節分の日に突然あちこちで行列ができているのを見て、初めてこの商品を知った次第です。

もちろん、いくら関係者が汗をかいても、一部の人たちの思惑だけで市場は動きません。おそらく時代のトレンドにうまく乗っていかないと、こうした仕掛は点火しないでしょう。その点、恵方巻イベントが一つの新しい風習として育ったことは、かなりの成功といえます。消費者からみても、なかなか楽しいものだと思われます。

■広島のIT系企業が商標出願した「恵方巻」
恵方巻の行事が全国的に盛り上がっていく中で、2005年7月に「恵方巻」を商標出願する者が現れました。

・「恵方巻」(出願番号2005-72920、区分30 すし)

出願人は広島の株式会社アットという会社(位置づけとしては米デラウェア州アットインク社の日本支社)です。一見、寿司ともコンビニとも関係ないIT系企業だったこともあり、一部でその成り行きが注目されていました。

もし審査によりこの商標登録が認められ、かつ出願人が商標権を強く主張することになったら、今後日本全国で寿司に気安く「恵方巻」という名をつけることができなくなってしまいます。ある店では、昨年から「恵方巻」と名付けるのをやめて「丸かぶり寿司」+カッコ付けで「恵方まき」としたとか。

しかし結論として、寿司としての「恵方巻」商標を特定の企業が独占する懸念はなくなったと考えられます。上記の商標出願は、当事者の株式会社アットの説明によると、

・本商標は平成19年1月16日付けで拒絶された
・本査定についての不服申し立てをする予定はない

とのこと。これまでこの件でなかなか正確な情報が伝わっていなかったので不安がありましたが、今後は安心して「恵方巻」という名称を使えそうです。

■特定企業による独占を“防ぐ”ための出願だった
誤解してはならないのは、この件で出願人は「恵方巻」商標を独占しようとしたのではないという点です。逆に特定の業者に商標登録されないよう、防御的な意味で出願したようです。出願人のアットは広島県すし商生活衛生同業組合の顧問企業という経緯があり、同組合にかわって商標登録を行ったとのこと。「仮に出願が通った場合は組合に権利譲渡する予定」だったと、同社代表取締役から説明をいただきました。

このように防御的な意味合いで業界団体などが商標出願する例は珍しくありません。公的で代表的な位置にいる団体の管理下で出願が通れば、全国の関係者は安心してその名称を利用できる可能性が高くなります。また、拒絶されれば、逆に他の業者が出願しても同様に拒絶されることが明確になるので、やはり安心してその名称を利用できると判断できます。今回は、このうち後者の結果になったということのようですね。恵方巻でビジネスをされている全国の方々は、アットさんに感謝するべきかもしれません(!)。

なお、類似の名称で、次のものはすでに商標登録が成立しています。

・「恵方柿」(区分30 柿を原材料に使用してなる菓子及びパン)
・「恵方餅」(区分30 餅菓子,餅入りのパン)

そして、次のものが商標出願されています。

・「恵方巻」(区分29 かまぼこ,ちくわ,その他の加工水産物,肉製品)
・「恵方」(区分29 加工水産物、加工食品、…ほか多数)
・「笑方巻」(区分30 菓子及びパン、すし、べんとう、…ほか多数)

■商標に注意しなければならない名称
余談になるかもしれませんが、鰻の蒲焼を細く刻んでご飯にまぶした料理「ひつまぶし」は、加工食品などの区分で、老舗日本料理店の「合名会社蓬莱軒」(あつた蓬莱軒)というところが、1987年に商標出願し登録されています。

・「ひつまぶし」(区分:32 食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品)

ただし、05年に同じ会社が飲食物提供の区分(サービスマーク)で出願した「ひつまぶし」は、06年10月に拒絶査定されました。こちらはその後、出願人が不服審判にもちこんだようです。

・「ひつまぶし」(区分:43 飲食物の提供)

ほかに「浅草ひつまぶし」「海鮮ひつまぶし」など、登録商標または商標出願中のものがいくつかあります。「ひつまぶし」については、商標権の侵害について注意を払わなければならないといえそうです。

■甘党にうれしいロールケーキ
ややこしい話は置いて恵方巻の話に戻ると、コンビニ各社は商品のバリエーションにいろいろ工夫している様子が見られます。「丸かぶり寿司1本」はさすがにヘビーなのか、ハーフサイズあたりが今後受けそうな気がします。

今年はセブンイレブンやスリーエフが「丸かぶりロールケーキ」なるものを出してきました。寿司ではなくケーキ。甘党にはきっとケーキの方がうれしいでしょう。もしかしたら何十年後かには、節分のロールケーキとバレンタインのチョコレートが、2月の2大スイート・イベントとなっていたりして…。

▽追加情報
東急東横店は、恵方巻にみたてた「巻きピザ」を出したとのこと。イタリアで縁起物のレンズ豆などをピザ生地で恵方巻のように巻いたもので、大きさはエクレアくらい。2/2、2/3の両日、30本限定販売だったとか。新しいアイデアはいろいろでてくるものですね。

▽関連記事:
恵方巻商戦は定着したのか
恵方巻2009(コンビニ)
スーパーマーケットの恵方巻
恵方巻2010(コンビニ)

「失敗知識データベース」

サイト紹介:科学技術振興機構が掲載している「失敗事例」のデータベースです。無料で利用できます。

http://shippai.jst.go.jp/
JST失敗知識データベース画面例

「失敗学」といえば、日本では畑村洋太郎氏の名がまず挙がると思いますが、その畑村氏により構成された事例集といえばよいでしょうか。当ブログでたびたび採り上げているアポロやスペースシャトルの事故をはじめ、国内国外の興味深い事例と、その本質的な原因を追究した解説を読むことができます。

カテゴリーやキーワードで事例を検索できるとともに、「失敗まんだら」と名付けられた分類図から探すことができるのが特徴的です。例えば「個人に起因する原因」「組織に起因する原因」「個人・組織のいずれの責任にもできない原因」「誰の責任でもない原因」それぞれについてさらに中分類、小分類といった要素を指定し、それに該当する事例を抽出することができます。

ビジネスの実践的な場面からこれらのデータがどのように役立つのかは、正直よくわかりません。でも少なくとも内容的に大変面白く、また勉強になるサイトだと思われます。

「Microsoft Excel ビジュアル活用法」

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【志村修一(著)、日経BP出版センター刊、1995年/1996年】

仕事仲間でもある志村さんの著書です。当社ではこの書の編集という立場で少しお手伝いさせていただきました。

〔目次〕
序章 ビジュアルフォームとは
第1章 ビジュアル経営分析
第2章 損益分岐点の分析
第3章 即効! ビジュアルフォーム集
第4章 小規模事業向け給与計算
第5章 宛名印刷付き簡易住所録
第6章 売上管理プロトタイプ

(1) 損益分析や給与計算といったビジネス分野のフォーム集で
(2) VBAプログラムリストでExcelデータを加工処理方法まで学べる

のですが、個人的には何より

(3) ビジュアルに描かれている表現が、見て楽しい!

ことが特徴と思っています。表計算ソフトというツールでここまでビジュアルに楽しく情報を表現できるのか~、というのが少し驚きです。

写真は「Excel5.0」版ですが「Excel7.0」版および「Lotus 1-2-3」版もあります。とはいっても、この本も出版してすでに10年経ってしまいました。今でしたら「Web上で数字データをいかに表現するか」、といった場面で参考になるかもしれません。