寝ている時の睡眠の深さがわかる、ベッドに敷いているだけで身体の状態を測定するシートが実用化しはじめました。
■大げさな睡眠測定装置だと眠れなくなる?
現代人の4人に1人はなんらかの睡眠障害を持つともいわれています。不眠、睡眠リズムのずれ、睡眠時無呼吸症候群などさまざまな障害があります。一応健康な人であっても、夜きちんと眠れたかどうかは結構気になるものでしょう。床に入っていた時間くらいなら簡単に記録できますが、できれば睡眠の“質”という観点からも自分の健康状態をつかんでおきたいと思いませんか。
睡眠の深さや状態を測定する機械というと、研究所などで頭に電極をつけて測る本格的なシステムを思い起こします。そのシステムを「PSG」(睡眠ポリグラフ、またはポリソムノグラフィ)と呼ぶそうで、頭、額、目、あご、心臓などに電極をつけて脳波と心電図を測るほか、鼻と口の気流をみて呼吸を測定し、睡眠状態を分析します。
しかし、言うまでもなくPSGのような大げさな睡眠測定装置で検査するとなると、専門の医療機関や研究所まで出向いて、1~2泊して、(場合によっては研究員の終夜立会いのもとで)測定しなければなりません。しかも前述のように、実験台で張り付けにされたように、身体のあちこちにセンサーをつけることが求められます。いつもと違う状態で、いかめしい実験台の中におかれると、結局良く眠れないとか、少なくとも自宅で寝る時と異なる睡眠状態となってしまいがちです。どんな状態でも簡単に眠ることができる人ならともかく、そもそも睡眠障害の疑いのある人がそんな状態で正確な測定ができるものではなかなかありません。
ここで挙げる睡眠シートは、いわば“いつもどおりの”睡眠環境で測ることができるセンサーといってよいでしょうか。寝床の下(商品によっては、敷き布団のさらに下においてもよいタイプのものもある)に敷くだけで呼吸と心拍を中心に計測でき、その結果から睡眠の質などを分析することができます。写真はスリープシステム研究所開発のもので、介護支援システムなどにすでに実用化しているタイプのシートです。
■介護、看護に応用
PSGのように、たとえば覚醒/REM睡眠/浅いノンREM睡眠~深いノンREM睡眠というような何段階もの綿密な測定ができるものもあり、それらはPSGの代わりに本格的な睡眠測定に応用することができます。しかしさすがにそこまで綿密な測定を要する場面でなければ、もう少し簡易化された睡眠シートのほうが安価で、いくつかの場面に応用が利きます。
とくに応用の範囲が広そうなのが介護や看護の分野です。たとえば、高齢者や身体を悪くしている患者さんのベッドに睡眠シートを敷いて離れた場所からウォッチすれば、その人が夜中に突然体調が悪くなった時の緊急の対処とか、逆にベッドにいない(またはいても寝ていない)ことのチェック、さらには健康障害が出る前に察知しての対処とか、いろいろな対策に役立てることができます。
そのような用途から、睡眠測定シートの利用は老人ホームや病院など事業者中心の利用がほとんどです。さすがに個人で簡単に導入できるというものではなさそうですが、睡眠チェック機能のあるベッドなどを導入したいとするニーズは結構あるのではないかと思われます。
一例ですが、松下電工は「快眠システム」という触れ込みで、部屋そのものを睡眠に合わせて自動制御するシステムを提案しています。睡眠・覚醒のリズムに合わせて光の強さと室温を変化させ、たとえば起きる時間に近づいたら徐々に照明を明るくするといった制御ができる部屋作りが可能です。その自動制御の一つのパーツとして、やはりベッドに敷く睡眠センサーシートが用意されています。しかし、これはまたこれで“大げさ”ですよね。数百万円とか数千万円とかかけてそうした寝室を作りこむのは、一部の富裕層や高級ホテル以外ではありえないでしょう。
■心拍や呼吸から異常を感知できる
前回の記事と同じく、このテーマに関連する商品例を、
生体測定 製品・サービス一覧
に一覧として挙げました。リストは今後もupdateする予定です。
リストをみただけではよくわからないかもしれませんが、商品によって、身体の動きを監視することが主なもの、睡眠の深さを精度良く監視できるものなど差があります。また、いずれの商品も単体で機能するというものではなく、データを解析するソフトウェアや連動するシステムがあってこそ有効に利用できるものであることにご注意ください。さらにはどんな睡眠状態のときに危険があるのかの判断などは、それぞれの提供元が持つ専門的なノウハウにも依存することになります。
なお「対象者がベッドにいるかどうかだけ判断する」ためには睡眠モニターまでは必要なく、たんに圧力の“on/off”だけが信号として届けばよいわけで、そのためには「離床センサー」と呼ばれるシートを使えば十分です。ただしこの場合、仮に寝床で被験者が亡くなって動かなくなってしまった場合、それを判断することはできません。呼吸や心拍を測定しているセンサーならば、その異常状態を感知できます。
この記事でのテーマ“身体測定のパーソナル化”となるまでは少しだけまだ時間が必要かもしれませんが、睡眠測定が結構身近な環境まで近づいていることは確かなようです。