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銅板建築ライオン像が品川宿に移る

今日12月2日の日経新聞地方版(東京)に、「大井町駅近くでライオンのレリーフが見つかった」という記事がありました。まるで掘り出されたかのような書き方でしたが、この店舗、商店街近くにある銅板建築の店舗で普通に誰でも目にしていたものでした。私が作っている「銅板建築リスト」↓参照。写真撮影は2007年1月です。
銅板建築「素晴らしい装飾の平屋」

大井町ライオンレリーフ

なんだこれ。「見つかった」とかいう表現は… (というのが私の感想です)。

まあ、銅板建築の商店というとほとんどすべて2階建ての古ぼけた家なので、このような平屋でかつ新しい銅板を葺いている物件は珍しく、その由来はずっと疑問だったのは確かです。その由来が少し明らかになり、品川宿に移転され、多くの人の目に入るようになるというのは嬉しい限りです。また、住友不動産のニュースリリース↓によると、「開発が進む事業区域内にある看板建築を保存したい」との意向が前面に出ているとのこと。銅板建築の再活用も期待したいです。

住友不動産ニュースリリース「看板建築の一部である“ライオンのレリーフ”を旧東海道品川宿にある外国人向け宿泊施設へ移築保存した」

「グローバル・ニッチトップ企業論」

中小企業と言っても、昔からの下請型企業、特定工程に強い中小企業、ニッチトップ型企業、グローバル・ニッチトップ企業といった類型ごとに企業戦略として採るべきスタンスも異なる…。そんなヒントが、ケーススタディとともに多数示されています。

「グローバル・ニッチトップ企業論」書籍と講演
[グローバル・ニッチトップ企業論、細谷祐二著、白桃書房刊、2014年]

同書籍、および3月に開かれたシンポジウム「多摩の中小企業の知られざる国際化と経営者の姿」(主催:東京経済大学・多摩信用金庫)における同氏の基調講演を混ぜこぜにしたメモです。

■海外生産より海外販路開拓、ニーズ把握を
内容は、ざっくり言って「普通に良い中小企業」と「海外進出し高業績を示している中小企業」の差を分析したもの。ニッチだが世界で高いシェアを持つ製品を複数持つ“グローバル・ニッチトップ企業”には、次のような特徴が明らかだとされています。

・技術力(解決力)があるから、自然と取引先などから相談事(ニーズ)が持ち込まれてくる
・その(確実に存在する)ニーズとシーズを結びつける機能を持つ
「ニッチトップを目指して討ち死にする製造業も多い。逆説的だが、技術力(シーズ)がありそれを前面に押し出してしまうとワナがある。グローバル・ニッチトップは初めにニーズありきで、そこから解決法を作る(または他社から見つける)」

・輸出を早い時期から行いながらも、海外拠点設置はむしろ慎重
「以前から海外生産を展開できている企業はともかく、これからは得意先などの依頼・海外進出にたんに応じて海外生産を優先させる必要は必ずしもない。むしろ国内で生産し輸出することを基本戦略とする方が薦められるのではないか。一方、海外ニーズの把握、販路開拓といった部分は海外で活動を進めるのが望ましい」

■中小企業支援の「支援疲れ」
また、中小企業支援に対する問題意識から、次のような分析・提言があります。

・たんに補助金などの予算を確保し機会を増やすだけでは不十分
・「支援疲れ」「支援され疲れ」が生じている。補助金の多頻度利用企業は、必ずしも補助金の効果を実感できていない(空回りしている)
・グローバル・ニッチトップ企業は、海外見本市出展費用の経費補助ニーズが高い
・「優れた中小企業◯◯社表彰」といったものは単なるスナップショットに終わっている場合も多く、グローバル・ニッチトップほど継続的な成果を上げていない
・技術開発補助金の審査では、市場化という成果に結びつく見通しが十分に立っているかどうかをチェックすることが重要

著者はもともと経産省で中小企業政策に携わってきた幹部の方です。最後の項目 “技術開発補助金の審査では…” 部分の提言は、現在の補助金審査に間違いなく取り入れられていることでしょう。補助金申請中の方は、特にご注意を!

出港と鴎

東京湾。といっても湾の出口にあたる千葉県浜金谷の港です。

出港と鴎
[出港と鴎]

あけましておめでとうございます。
当社は、郵便による年賀状を省略しています。
このサイトにて、皆様にご挨拶させていただきます。

浜金谷の港からフェリーで出港する時の様子です。
背景に鋸山、船の後ろに波、目の上に鴎。
泰然として動かないもの、周りと影響し合い動くもの、自在に動くもの。

自分でControlできないもの、Controlできるもの、Controlすべきもの。
それぞれを賢く見分けていきたいですね。

当方からの情報発信は主に松山のFacebookで行っており、本blogは時々にしか更新していませんが、これからもまとめ記事やお知らせなどに使っていく予定です。
今後とも宜しくお願い申し上げます。

“アジアで働く、日本で働く-シンポジウム”より

日本企業は、東南アジア人材獲得に本気になりつつある。東南アジアでの日本語学習者は増えている。でもその裏には、人材のミスマッチ、ピントの外れた人材採用、ステレオタイプなイメージと現実の違いも…。

JapanFoundation symposium
[「アジアで働く、日本で働く」シンポジウム]

シンポジウム「アジアで働く、日本で働く」(主催:日本経済新聞、共催:国際交流基金日本語国際センター Aug.20 2014)より。日本企業、海外からの留学生それぞれにとって、グローバル人材の採用/就職の状況はどうなのかが話し合われました。例によって、以下は私の個人的なメモです。発言者名省略。

■日本に馴染みすぎた人材採用は異文化の導入にならない?

日本企業と(日本企業への就職を目指す)学生とのギャップはある。例えば、企業は“日本人化した留学生”を採用したいのか、それとも多様な文化で生活経験のある留学生を採用したいのか。建前として後者を採るようなことを言っている企業も、本音では前者を選ぶことがある。

企業から見ると、文化の違いが大きい外国人を雇用しても、考え方がぶつかってなかなか使いこなせないことがある。しかし、初めから日本文化に馴染んで“日本人化”してしまっている人を採ったら、あまり意味がないのではないか。組織内での化学変化が起こらないのではないか。会社の文化など、入社した後で学べば良いではないか。

学生から見ると、日本企業の情報は非常に少ない。(東南アジアの優秀な学生は、急いで海外人材を求める日本企業から)安易な内定をもらいがち。その結果ミスマッチも増えている。人間関係で辞める人も多い。できれば、学生時代にインターンシップで(規模や業種の違う)3社位で働いてみるのがよいかもしれない。

→(松山コメント:)グローバル化などと旗を上げても、やはり企業側に異なる価値観や多様性を受け入れ、組織自体を変化させていく心構えがないとだめということでしょうね。

■日本の大企業が積極的に東南アジア人材を探している

5年前に日本で就職するのは中小企業の例が多かったが、今は大企業が増えた。いくつかの日本企業は、日本への留学生だけでなく、自ら積極的に現地にアプローチして人材を探している。東南アジアの学生で日本企業に入りたい人なら、今がチャンスだ。

東南アジアから日本企業に勤めようとする動機は、給料の高さでなく、欧米企業に比べ人間を大切にしてくれるという(ステレオタイプな)イメージがあるから。急激な変動が少ないので、一気に責任ある立場に立ちたいという人より、安心して長期的に勤めたいという人が日本企業を選ぶ。

ワーカーとして日系企業に勤めたいという人は減っている。例えばマレーシアでは今年最低賃金制度が導入され、日本でワーカーとして働くメリットは賃金水準の上からも小さい。

→(松山コメント:)欧米の合理主義・スピード優先の人材管理手法に染まっていないことが、意外にも日本企業の独自性としてプラスに働く場面があるといえそうです。しかし実態はステレオタイプのイメージだけでないブラックな体質もあるはずなので、そのあたり、後々悪イメージに転化しないか不安も残ります。

■日本文化への興味が、日本語学習者増に

(登壇者の出身地であるベトナム、ネパールでは)日本語を学ぶ人はかなり増えている。就職のためというより、日本文化・ポップカルチャーへの好奇心がきっかけになっている。

現地の日本語学校は増えた。ただし日本語をきちんと教えられる先生が少なく、教師の質は落ちている。(ベトナムの)大学では、質の高い日本語教師がなかなか雇えない。

→(松山コメント:)現在増えている日本語学習者は、日本語を専門的なレベルで話せる人が増えているというより、どちらかというと日常会話などライトなレベルの日本語や、言葉というより日本文化への理解者が増えているということなのかもしれません。それでも、裾野が広がるという意味で、長期的には十分に歓迎すべきことなのでしょう。

Nikkei Asian Review誌の冠がついたシンポジウムでした。

国際交流基金日本語国際センター25周年記念シンポジウム

「宇宙飛行士の仕事力」

若田光一宇宙飛行士がISSの船長の役割を担い、活躍されています。一つのコミュニケーション・ミスが重大事件を引き起こしかねない宇宙では「誰がリーダーであるかを誇示する必要はない」。組織のあり方について、一つ先の未来モデルを示しているのかもしれません。

「宇宙飛行士の仕事力」p105と表紙
[宇宙飛行士の仕事力、林公代著、日経プレミアシリーズ、2014年]

■宇宙飛行士と管制官
本サイトで久しぶりに、宇宙もの書籍をご紹介します。宇宙ライター林公代氏の最新著。出版に際し4月22日に、東京の八重洲ブックセンターで「宇宙飛行士・管制官の仕事力に迫る!」というトークショーが開かれました。それも聴講してきましたので、本書とトークショーの内容を含めて少しだけメモをまとめてみました。

「宇宙飛行士の仕事力」目次
第1章 日本人初の「国際宇宙ステーション船長」誕生
なぜ船長に選ばれたのか
仕事は打ち上げ前に終わっている
一匹狼型チャレンジャーから協調型リーダーへ ほか
第2章 「1000分の3」の選抜試験
理想の宇宙飛行士8つの資質
覚悟をうながすチャレンジャー号事故の映像
ディスカッションで能力をあぶり出す
最後の合否を分けたもの ほか
第3章 「想定外」でも生きて帰るための訓練
最短4年半の訓練
本番より厳しいシミュレーション
リーダーの間違いを指摘できるか
ミスを極力減らす方法 ほか
第4章 仕事場は宇宙
「あうんの呼吸」の過信は禁物
短時間でチームワークを築くには
命令しないリーダーが一番 ほか
第5章 宇宙飛行士はつらいよ
大変なのに、つらそうに見えないわけ
宇宙飛行士の「引きこもり」事件
遠慮しすぎず、気にしすぎない ほか

■超現実の世界で通用するリーダー像
目次を見るだけでも、これが宇宙に関心のある人だけに役立つ話ではなく、一般の企業、組織、個人にとって多くの示唆があることがわかると思います。

地球上では、組織の中で少しくらいのコンフリクトがあっても、普通は当事者にとって逃げ場が全くないわけではありませんし、直に人の生命につながる場面は少ないでしょう。しかし宇宙では「ちょっとドアを出て外の空気を吸ってくるわ」とはいきません。また、ほんのちょっとのミスがクルー全員の命を危険にさらす可能性があります。この状態を、“生死と隣り合わせの中でごまかしのきかないミッションを遂行していく”という意味で、私はよく「超現実的な世界」と表現しています。

その超現実的な宇宙ミッションの世界にも、かつてのマーキュリー・アポロ計画/スプートニク・ボストーク計画の時代と今とでは、組織づくりに関して大きな考え方の変化があります。NASA(アメリカ航空宇宙局)もРоскосмос(ロシア連邦宇宙局)もそれぞれ失敗を重ねた上で、それぞれの長所を取り入れた運営システムに成長しています。JAXA宇宙飛行士の若田光一さんが日本人として初めて、かつ(軍出身でなく)文民出身として初めてISS(国際宇宙ステーション)の船長となったのは、若田さんの能力・人柄とともに、組織運営の考え方が変わってきた大きな流れの中にあると受け取ることが出来ます。

本書の中に「誰がリーダーであるかを誇示する必要はない。たとえるなら『透明な氷のような船長』でありたい」という若田さんの言葉が紹介されています。かといって、日本のくたびれた組織の管理職のように“いてもいなくても同じ”という存在ではもっと困ります。リーダーは一体何をする役目で、そのためにどんな考え方をもっていたらいよいのか。現代の一つのリーダー・モデルが本書の中で説明されているのではないかと感じられます。

林氏は4年前に「宇宙飛行士の育て方」という本を書かれていまして、その時も本ブログで紹介しようと思っていたのですが、書き逃していました。

■基礎訓練だけで1600時間強?
本書に、JAXA資料による「宇宙飛行士の訓練の流れ」(最短4.5年)と、そのうち基礎訓練(1.5年)の説明が記されています(冒頭の写真参照)。これによると、次のような訓練で構成されています(たぶんここに示されているもの以外にもカリキュラムがあるのだろうと推測します)。

・イントロダクション(163時間)
施設ツアーが105時間と多い
・基礎工学(45時間)
航空宇宙工学概論、電気・電子工学概論、計算機概論
・宇宙機システム・運用概要(53時間)
各国の宇宙機、ロケット等の概要
・ISS/きぼうのシステム(174時間)
ISS運用、ISSシステム、きぼうのシステム・運用訓練
・サイエンス(162時間)
宇宙科学研究、ライフサイエンス、微小重力科学、地球観測・宇宙観測
・基礎能力訓練(1031時間)
一般サバイバル技術訓練、体力訓練(104時間)、飛行機操縦訓練(240時間)、英語(200時間)、ロシア語(200時間)、メディア対応訓練、写真技術、水泳技術ほか

計算してみると計1600時間強。飛行機操縦、語学、および体力関連で全体の約1/2といったところでしょうか。項目を見るだけで我々一般人はため息をついてしまいそうです。もし私が候補生になったとしても、余裕を持って取り組めそうな時間は「水泳技術」(5時間)くらいしかなさそうです。ハァ…

これ以外にも、さまざまな情報が盛り込まれています。

■必要十分な情報を、相手を見て伝える技術
4月22日に行われた八重洲ブックセンターでのイベントは、林公代氏ともう一人JAXA管制官内山崇氏のトークショーで、内山氏は現場で起こるあれこれを結構生々しく話されていていました。内山氏は、自身が宇宙飛行士選抜試験の最終選考まで残った経験があり、その後日本実験棟「きぼう」やHTV「こうのとり」の管制官として活躍されています。

面白い話はいくつもあったのですが、以下に少しだけ挙げてみます(私のメモに基づいて再構成したもので、本人の発言通りではありません)。

まず、主に“管制官”に求められるコミュニケーションの話:
・限られた時間内にコミュニケーションを完了させなければならないので、短い言葉で的確に伝える必要がある。まず結論を言ってから、その理由などを説明する。事前にさまざまな訓練やコミュニケーションをとっていれば、(複雑な背景なども)結論を言った段階ですぐに理解してもらえることもある
・伝えておけば安全だが、忙しい中で当たり前のことを伝えても、無駄になりうる。かといって「彼は言われなくてもわかっているだろう」と安心しすぎてしまうのも、後で問題が起こりかねない。プライオリティの判断はフライトディレクターにかかっていて、重大である
・完璧すぎるリーダーに対しては特にその線引が難しい。現場(ここでは宇宙飛行士)の側としては、たとえわかりきったことを伝えられても、広く聴く姿勢が必要だろう

■マニュアルでもカバーしきれない状況
ついで、マニュアルとルール、リスク管理の話。

・「こうのとり」のマニュアルは、実にその95%がトラブル対処法についての記載である
・運用にあたって、確固としたフライトルールがあり、それに沿っている。リスク回避に関しても、例えば「1つ壊れたときは fail operative」「2つ壊れたときは fail safe」といった指針があり、それに従う。マニュアルにその場合の対処法を示してある(のでその記述が大半を占めてしまう)
・とは言いながら、運用の世界では何ヵ所壊れようが、簡単にミッションをあきらめるというわけにもいかない。マニュアルには1つ2つ壊れた後の対処法まで書かれているが、その先、追加で何をしていくべきなのかをリアルタイムで決めていくことが求められる

人材育成、組織開発、キャリア形成、コミュニケーション論など、いろいろな視点から参考になろうかと思います。