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昭和レトロ 3-多店舗展開する定食店

多店舗展開を目指す「昭和レトロ」は、定食店にもみられます。居酒屋とはまた違った形で、昭和風店舗フォーマットの確立を目指している様子がうかがわれます。

モダン食堂 東京厨房
〔モダン食堂 東京厨房 目黒店〕

■コンビニ・チェーンの新事業
昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋」で「半兵ヱ」などの居酒屋チェーンを採り上げました。今回は、定食を中心とした外食チェーン「モダン食堂 東京厨房」をみてみます。2006年春ごろから急速にフランチャイズ・チェーン(FC)化が推し進められ、07年1月現在で都心を中心に11店ほどあるようです(直営3店)。

このチェーンを展開しているのは「新鮮組本部」。といっても、ここには近藤静也も猪首も肘方も生倉もいません………(すみません、ボケかましました。映画・ドラマ版「静かなるドン」を結構楽しんで見ていたクチだったもので)。

同社は、東京・千葉・神奈川に約60店舗(「新鮮組」と「ジャストスポット」)を展開するコンビニ・チェーン。コンビニに加え惣菜店や外食店の事業を本格化させるなかで、今最も力を入れている(ようにみえる)のが「東京厨房」です。店のキャッチフレーズは「現代によみがえる下町の洋食」。看板は、文字がわざと“右から左”に書かれていたりします。media for you(m4u)という映像制作会社のページに、社長インタビューを含めたわかりやすいFC募集用動画があります。

新鮮組本部 http://shinsengumihonbu.com/
m4u東京厨房FC募集用動画 http://mediaforyou.tv/2007/01/cm_8.html

■店内と弁当販売の2本柱
メニューのほとんどはセットになった定食です。から揚げ定食、ハンバーグ定食、野菜炒め定食、ねぎとろ丼定食など定番物ばかり。価格はほとんどが680円か780円と「少し安め」のレベル。ほぼ同様のメニューがテイクアウト用弁当として用意されています。昼時は、ずいぶん人が並んでいることがあります。

店内には、昭和の雰囲気を醸し出す小物や写真が飾られています。ポスター類は少ないですが、「アース製薬」の看板など定番モノがあちこちにみられます。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てきたような、東京タワーの建築途中の大きな写真などが貼られています。店内に駄菓子コーナーが設けられていて、“ついで買い”を誘います。

来店客は、昼時はやはりビジネス・パーソン(男女)が多いようです。50代から60代の1人客も目に付きました。昼時は酒メニューを前面に出していません。夕方以降になると当然アルコール類での売り上げも期待されるのでしょうが、「半兵ヱモデル」とは異なり、例えば「ホッピー」など昭和コテコテの酒類はあまり置いていないそうです。

ある収支モデルでは次のような数字になっています(項目は簡略化し数字は丸めてある。1カ月)
売上 ―――――――― 650万円
粗利益 ――――――― 460万円
人件費 ――――――― 190万円
その他一般管理費 ―― 150万円
営業利益 ―――――― 120万円

そもそもコンビニの新鮮組は、店内に厨房を持ち、デリコーナーで惣菜を量り売りしているのが特徴です。つまりコンビニとしてはやや特殊なチェーンで、いわば「コンビニ標準型」と「オリジン弁当」との中間的な業態とも言えます。そうした弁当や惣菜を取り扱うノウハウを東京厨房にも生かしていると推測されます。

■昭和の力は多店舗化にプラス? マイナス?
半兵ヱが昭和に出来る限りこだわって店作りしているのに対し、東京厨房はあえてそこまでディープになっていません。昭和レトロ度をむりやり数字化してみると(あくまでも私的な感触ですが)、半兵ヱを「100」としたときに東京厨房は「60~70」といったところでしょうか。悪く言えば“中途半端”、良く言えば“落ち着いた程度”。中高年のお客さんが酒抜きで安心して食事できる場所、という雰囲気が強いといったらよいでしょうか。

昭和の時代から営業されている何の変哲もない定食店は、今もあちこちに残っています。それがブラッシュアップされた形態と考えればよいでしょうか。ちょうど古い雑貨店・青果店・酒店がコンビニに置き換わっていったように、もしかしたら古い定食店がこうした標準フォーマットの店に置き換わっていくのかもしれません。

・比較的安めの定食セット
・定番メニューを常時提供
・ビジネス街の昼食または家庭の日常食に対応

「昭和レトロ」にとらわれず思い起こしてみると、こうした庶民派的な特徴を力にして発展した定食チェーンはいくつもありました。都市部で言えば「大戸屋」、地方で言えば「ジョイフル」など、また以前すかいらーくが低価格店として展開した「ガスト」も該当するかもしれません。

これらのチェーンは、一時期急激に店舗数が増えました。そして地元に根付くことで消費者の確かな支持を得られるのですが、ある時期を過ぎると多店舗化の弊害や、定番メニューであるが故の消費者の飽きが出てくることも避けられません。東京厨房はまだ10店舗そこらですからそうした壁に直面する時期はまだ先かもしれませんが、「昭和レトロ」の力が標準フォーマットの定着にプラスに働くのか、逆にマイナスになるのか…。

やってみなければわからないかもしれませんね。何となく、ショッピングセンターのような商業集積に急いで多店舗出店するより、地味な場所や二等地への出店で固定客を獲得する戦略をとったほうがよいような気もしますが(単なる思い付きの感想でした)。

「恵方巻」商標は登録ならず。安心して使えそう

「恵方巻」の名称が商標出願されていたのをご存知でしたか? そしてこの1月、審査により登録に至らず、拒絶となったようです。

恵方巻パンフ
[主なコンビニ・チェーン各社の「恵方巻」パンフレット]

■コンビニが仕掛けた? 「恵方巻」ブーム
節分の恵方巻(丸かぶり太巻き寿司)が、ここ数年で全国的に広がりました。どうも仕掛人はコンビニのようです。1989年に広島のセブンイレブンが恵方巻きの販売を開始し、その後10年以上かけて全国まで広げたとの情報が伝わっています。いまや節分を前に太巻き寿司を大々的に扱うことが、コンビニ、寿司店、中食(惣菜・弁当)店、食品スーパーなどで一般化しました。冒頭の写真のように、コンビニ各社は早くから積極的にパンフを配り、予約獲得に躍起です。

食品業界に限らず、社会が商業的な思惑から「イベント」を欲しています。かつて「バレンタイン・デー」なるイベントを(一部の人が)作り普及に成功したことで、2月14日前後にチョコレートが大量に売れるようになりました。同様に、「節分には豆まきだけでなく恵方巻も食べる」という新しい風習が生まれたといってよさそうです。

新しい季節のイベント作りは、元から生活に根付いた風習であるかどうかは必ずしも関係ないみたいです。少なくとも私の周囲で、数年前までは「恵方巻」という言葉を知っていた人さえいませんでした。私も、あるとき仕事でデパ地下の惣菜店巡りをしていて、節分の日に突然あちこちで行列ができているのを見て、初めてこの商品を知った次第です。

もちろん、いくら関係者が汗をかいても、一部の人たちの思惑だけで市場は動きません。おそらく時代のトレンドにうまく乗っていかないと、こうした仕掛は点火しないでしょう。その点、恵方巻イベントが一つの新しい風習として育ったことは、かなりの成功といえます。消費者からみても、なかなか楽しいものだと思われます。

■広島のIT系企業が商標出願した「恵方巻」
恵方巻の行事が全国的に盛り上がっていく中で、2005年7月に「恵方巻」を商標出願する者が現れました。

・「恵方巻」(出願番号2005-72920、区分30 すし)

出願人は広島の株式会社アットという会社(位置づけとしては米デラウェア州アットインク社の日本支社)です。一見、寿司ともコンビニとも関係ないIT系企業だったこともあり、一部でその成り行きが注目されていました。

もし審査によりこの商標登録が認められ、かつ出願人が商標権を強く主張することになったら、今後日本全国で寿司に気安く「恵方巻」という名をつけることができなくなってしまいます。ある店では、昨年から「恵方巻」と名付けるのをやめて「丸かぶり寿司」+カッコ付けで「恵方まき」としたとか。

しかし結論として、寿司としての「恵方巻」商標を特定の企業が独占する懸念はなくなったと考えられます。上記の商標出願は、当事者の株式会社アットの説明によると、

・本商標は平成19年1月16日付けで拒絶された
・本査定についての不服申し立てをする予定はない

とのこと。これまでこの件でなかなか正確な情報が伝わっていなかったので不安がありましたが、今後は安心して「恵方巻」という名称を使えそうです。

■特定企業による独占を“防ぐ”ための出願だった
誤解してはならないのは、この件で出願人は「恵方巻」商標を独占しようとしたのではないという点です。逆に特定の業者に商標登録されないよう、防御的な意味で出願したようです。出願人のアットは広島県すし商生活衛生同業組合の顧問企業という経緯があり、同組合にかわって商標登録を行ったとのこと。「仮に出願が通った場合は組合に権利譲渡する予定」だったと、同社代表取締役から説明をいただきました。

このように防御的な意味合いで業界団体などが商標出願する例は珍しくありません。公的で代表的な位置にいる団体の管理下で出願が通れば、全国の関係者は安心してその名称を利用できる可能性が高くなります。また、拒絶されれば、逆に他の業者が出願しても同様に拒絶されることが明確になるので、やはり安心してその名称を利用できると判断できます。今回は、このうち後者の結果になったということのようですね。恵方巻でビジネスをされている全国の方々は、アットさんに感謝するべきかもしれません(!)。

なお、類似の名称で、次のものはすでに商標登録が成立しています。

・「恵方柿」(区分30 柿を原材料に使用してなる菓子及びパン)
・「恵方餅」(区分30 餅菓子,餅入りのパン)

そして、次のものが商標出願されています。

・「恵方巻」(区分29 かまぼこ,ちくわ,その他の加工水産物,肉製品)
・「恵方」(区分29 加工水産物、加工食品、…ほか多数)
・「笑方巻」(区分30 菓子及びパン、すし、べんとう、…ほか多数)

■商標に注意しなければならない名称
余談になるかもしれませんが、鰻の蒲焼を細く刻んでご飯にまぶした料理「ひつまぶし」は、加工食品などの区分で、老舗日本料理店の「合名会社蓬莱軒」(あつた蓬莱軒)というところが、1987年に商標出願し登録されています。

・「ひつまぶし」(区分:32 食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品)

ただし、05年に同じ会社が飲食物提供の区分(サービスマーク)で出願した「ひつまぶし」は、06年10月に拒絶査定されました。こちらはその後、出願人が不服審判にもちこんだようです。

・「ひつまぶし」(区分:43 飲食物の提供)

ほかに「浅草ひつまぶし」「海鮮ひつまぶし」など、登録商標または商標出願中のものがいくつかあります。「ひつまぶし」については、商標権の侵害について注意を払わなければならないといえそうです。

■甘党にうれしいロールケーキ
ややこしい話は置いて恵方巻の話に戻ると、コンビニ各社は商品のバリエーションにいろいろ工夫している様子が見られます。「丸かぶり寿司1本」はさすがにヘビーなのか、ハーフサイズあたりが今後受けそうな気がします。

今年はセブンイレブンやスリーエフが「丸かぶりロールケーキ」なるものを出してきました。寿司ではなくケーキ。甘党にはきっとケーキの方がうれしいでしょう。もしかしたら何十年後かには、節分のロールケーキとバレンタインのチョコレートが、2月の2大スイート・イベントとなっていたりして…。

▽追加情報
東急東横店は、恵方巻にみたてた「巻きピザ」を出したとのこと。イタリアで縁起物のレンズ豆などをピザ生地で恵方巻のように巻いたもので、大きさはエクレアくらい。2/2、2/3の両日、30本限定販売だったとか。新しいアイデアはいろいろでてくるものですね。

▽関連記事:
恵方巻商戦は定着したのか
恵方巻2009(コンビニ)
スーパーマーケットの恵方巻
恵方巻2010(コンビニ)

「ビジネス能力検定1級テキスト」

「マネジメントの基本」という副題がついています。単なる検定試験用の教科書ではなく、いくつか実践的に役立つ内容が盛り込まれています。

Bken1級テキスト
「ビジネス能力検定1級テキスト2007年版 マネジメントの基本」
【財団法人専修学校教育振興会(監)、2007年、日本能率協会マネジメントセンター刊】

■問題解決法、コーチング、交渉術、財務計画書…
ビジネス能力検定(略して「B ken」。1級、2級、3級)は、もうすでに結構長い間行われている検定試験です。毎年この試験用の教科書が各級別に発行されていますが、2006年に大改定がありました。当社では、1級テキストの一部について少しだけお手伝いさせていただきました(内容の大半は別の方が執筆されています)。

〔目次〕
第1編 マネジメントの基本とビジネス技法
1 課題解決と知的技法
2 情報力と提案力
3 キャリアマネジメント
第2編 組織とリーダーシップ
4 職場を変革するリーダーシップ
5 ビジネス交渉術
6 活力ある組織の運営
第3編 事業プランニング
7 マーケティングと経営戦略
8 事業推進のための財務
9 経済・経営の一般知識

目次にあるようにカバーしている分野は広範囲ですが、実践的な情報や事例および今日的な話題がいくつか盛り込まれています。たとえば、コーチングの進め方、外部との交渉術、目標管理制度、ビジネス法務、内部統制システムの仕組み、ビジネスプランや財務計画書の作り方など、入門的な内容とはいえ、多くの一般ビジネスパーソンに役立つところがあるでしょう。

■ドキュメンテーションのイロハから、体系だった提案書まで
以前の記事(書評)「RFP入門 ― はじめての提案依頼書」で、ビジネス・ドキュメントの題材が実践面で役立つことに触れました。本書では、提案依頼書より多くの人が作成に携わるであろう「提案書」について、8ページほど使って構成例が解説されています。冒頭の写真がその一部です(小さくて読めないと思いますが…)。

このテキストシリーズは、1級から3級までこうしたビジネス・ドキュメントの実例が示されていることが一つの特徴といえるかもしれません。文書作りの“イロハ”である定型的文書から、級が上がる順に複雑で非定型的な文書へとステップアップしていくことになります。

・3級テキスト
(社内向)業務日報、議事録、通知書、報告書
(社外向)請求書、業務依頼書、照会書、挨拶状、招待状、礼状、年賀状
・2級テキスト
(社内向)議事録、報告書
(社内外向)企画書
(社外向)督促状、詫び状、謝絶状、見舞状
・1級テキスト
(社内外向)提案書

かなり長い間ビジネスの世界にいても、日々の業務は意外と限られた範囲にとどまっていて、あらためてこうした文書作成に直面すると戸惑ってしまう経験が誰にもあるものです。文書の書き方は組織や環境によって“流儀”が大きく異なるものなので、文書例によっては「ずいぶん古臭い書き方だ」とかいろいろ感じる部分もあるかもしれません。でも、文例集とは違った意味で役立つ書物になっているように思われます。

昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋

懐かしい昭和風の店舗を形式化して、フランチャイズ展開を始めている企業があります。

半兵ヱ

■フランチャイズに足を進める
以前の記事「昭和レトロ 1-昭和風の外食店増える」で、秋葉原UDXビルの「アキバ・イチ」を例に挙げて、昭和レトロ風の趣が強い外食店および商店街が増えていることを書きました。そんな昭和レトロを切り口にして繁華街に店を持ち、本格的なフランチャイズ(FC)展開まで足を進めている外食チェーンが現れています。

冒頭の写真は、居酒屋「半兵ヱ」渋谷店の店内。半兵ヱは、秋田に本拠を持つドリームリンクという会社がチェーン展開をしています。直営店20店のほか、すでにFC店が10店。半兵ヱ以外にもテーマパーク型居酒屋(銀座カンカン)、駄菓子バー、ラーメン店などの外食業態を開発していて、それらを併せると、2007年1月時点で直営店35店、FC店50店とのことです。

半兵ヱ http://www.hanbey.com/index.html
(株)ドリームリンク http://www.dreamlink.co.jp/

半兵ヱのエリア・フランチャイズ制による多店舗化を目指して、この1月から各都道府県のエリア本部募集を開始しました。

外食チェーンのFC展開自体はもちろん珍しいものでなく、事業拡大の一歩と位置づけられるでしょう。やはりここで注目したいのは、「昭和レトロ」の定番作りに踏み出していることです。同社にFC本部(フランチャイザー)としての実力がどの程度あるかは何も確かめていませんが、直営からFC、さらにエリアFCへと体制を構築できるということは、とにかくも店舗の運営をフォーマット化(標準化)していると考えられます。

■ひと月に21回訪れた客がいた
店内の様子は見ての通り。壁は多数のポスターや看板(日活映画、ソース・醤油、洗剤・薬、赤玉スイートワインの有名な女性ポスター…)でいっぱいです。止まった時計、映らないテレビ、コカコーラの250ml復刻缶、鉄腕アトムの人形など、小物・大物がそこかしこにあります。BGMはもちろん昭和の歌謡曲、童謡の類で、次々に懐かしい曲が流れてきます。

メニューは実に多種多様。焼き鳥、串焼き、おでん、鉄板焼き、刺身、漬物、揚げ物、駄菓子、酒(ホッピーや電気ブランから定番ウイスキーまで各種)…。「のりたまご飯」(卵ではなく「のりたま」がかかっているご飯)「永谷園のお茶漬け」「大塚のボンカレー」など、目を惹くものだけでも挙げればきりがありません。

値段は、焼き鳥1本50円、目玉焼90円、“高級ねこまんま”180円、ウイスキーのショット290円、よっちゃんイカ30円…。客単価は2000円前後と一般の居酒屋より安く、酒抜きなら1000円強で済ませることもできるでしょう。「酒を飲みに行く」という感覚より「夕食を食べに行く」気持ちにもなろうものです。

実際、ある店ではひと月に21回も来店した“サラリーマン”(あえて「ビジネスパーソン」という表現を使ってません)がいたそうです。店の人も心得たもので、そのお客さんが「いつものください」と言うだけで、ちゃんと「その人にとっての定番メニュー」が出てくるようになったとか…。ここまでくれば、もう「馴染みの定食屋」を超えて「夕食を食べる別邸」というような存在かもしれません。

お客さんは、昭和を懐かしむオジサンだけでなく、けっこう若い人や女性もいるようです。私が訪れたときには、高校生かと思われるカップルが(もちろん酒ではなく)食事しに来ていました。基本的には昼は店を開けず午後5時以降の開店のようです(店によって違うかも)。2時間の時間制限あり。

■オペレーションに工夫
FC本部の資料によると、「素人でもできるシンプルなオペレーション」で「1カ月の研修で開業可能となる」とのこと。たとえば“お通し”については、生キャベツがテーブルに始めからゴソッと置かれていて客が勝手に好きな量を食べることになっています(自動的にお通し各人380円ナリ)。焼き鳥など料理が出てくる入れ物は、なんて呼べばよいのでしょうか、弁当箱の蓋に網を置いたような金属製の皿です。多くの食材を同じ入れ物で提供できるようにしながら、洗い場の面倒もかけないような工夫がみられます。

オペレーションを単純化しながら多数の「昭和の本物」に近いメニューを提供できる仕組みを工夫して作り上げている様子が伺われます。一つの収支モデルとして、次のような数字が同社の資料に示されています(数字は簡略化し、一部丸めている。1カ月)。

売上高 ――――――― 400万円
売上総利益 ――――― 280万円
人件費 ――――――― 100万円
その他一般管理費 ――  75万円
営業利益 ―――――― 105万円

■濃いレトロ、薄いレトロ
あくまでも外部から見た感想に過ぎませんが、いくつか懸念材料も感じられます。

メニューが非常に多いこと、および薄利多売であることなどからは、厨房で調理をする人の労働負担にかなり頼っているところがありそうです。お客の数がさほど多くない時間帯でも、少し注文が重なると、料理が出てくるのが遅くなってしまったりする可能性があるでしょう。単品の焼鳥屋さん、お好み焼き屋さん、バーとかならカウンター越しにさっと注文してさっと食べることができるのと比べ、顧客にいらいらさせてしまう頻度が高くなってしまうことはないのでしょうか。

もう1つの懸念は、店の運営ではなく店舗コンセプトに関してです。昭和レトロのポスター、料理、小物が、これでもかと店内に満ち溢れているととても面白いのですが、一つ間違って“やりすぎ”にならないかと心配します。単独店で少数の固定客を長くつなぎとめることに成功している店ならともかくも、繁華街を中心に多店舗展開して広く顧客を集めるとしたら、際立って面白い作りは濃すぎて、逆に“飽き”を生じさせるもとになるのではないかと思われます。

つまり、いままでの昭和レトロが「特に意識して訪れる場」「遊園地のように遊びに行く場」つまり“ハレ”の場として注目されていたものだとしたら、「飽きのこない日常集う場」「安心して毎日定食を食べられる場」つまり“ケ”の場としての店舗開発をしていくことが、息の長いフォーマットとして根付くための重要な視点ではなかろうかと思うわけです。「ナンジャタウンの福袋商店街」や「台場1丁目商店街」とは求めるものが少し違うはずです。

でもまあ、それは次のステップなのかもしれません。今は少し尖がっていた方が注目も浴びるし、まだまだ飽きもこないでしょうから…。

■多店舗展開しやすいフォーマットはどれか
他に昭和レトロ居酒屋として次のようなところが挙げられます。

・ハッピー
五反田と新宿(2店、うち1店は立ち飲み店)の計3店。NKG & アソシエイツという会社がプロデュース。マスコミによく取り上げられる店としてはこちらもかなり有名です
NKG & アソシエイツ http://www.nkg.gr.jp/shop/happy.html
五反田ハッピー店長blog http://g-happy.cocolog-nifty.com/blog/
・まんぷく食堂 有楽町コンコース
・朝日食堂 六本木
・ラッキー酒場 麻布十番
・三茶氣 三軒茶屋。経営はエイジア・キッチン
・昭和横丁 蒲田

これも挙げればきりがありません。web上の情報とかを見る限り、“昭和度”の濃さ/薄さ、酒中心/食事中心、価格帯など違いがあります。多店舗化を考えるかどうかは経営者の考え方によるでしょうが、標準フォーマットとして成立しやすい業態はどのあたりにあるのでしょうね。

「RFP入門 ― はじめての提案依頼書」

発注者自らが、求めるシステムやサービスの仕様・条件をドキュメントとしてまとめきるのは、けっこう労力が必要です。

RFP入門・表紙
RFP入門 ― はじめての提案依頼書
【Bud Porter-Roth(著)、渡部洋子(監訳)、2004年、日経BPソフトプレス刊】

■ドキュメント化の重要性
Request for Proposal(RFP)とは、「システムなど何か複雑なものを導入・購買する際に、提供してくれる業者を選ぶため(入札するため)発注者が用意するドキュメント」とでもいえばよいでしょうか。安直な表現をすれば「提案書を書いてもらうためのガイドライン」です。

中小企業や小規模な調達実務を想定すると、業者から提案書さえ受けるとは限らず、場合によると口頭説明と見積書だけで済ませてしまうことも多いものです。提案書を出す前に発注側から「提案依頼書」を出すとなると、「少し大げさ」と感じられる場合もあるでしょう。

でも、特に技術的内容を含む取引では、相互の意思疎通の過程をドキュメントとして残すことの重要性は高いものです。記録として残す習慣があることで、ビジネスの進め方もシステマチックになっていくものと思われます。当ブログの別の記事(※など)で、マニュアル化を重視することで成功したNASAの仕事の進め方について触れました。宇宙に飛ぶロケットや人工衛星となると、それこそ膨大な技術ドキュメントが必要となり、業者の選択では多くのRFPが用意されてプロジェクトが進んでいることでしょう。

「日本企業はNASAの危機管理に学べ」

本書は、RFPの書き方を具体的に説明した実用書です。事務的事項、管理的事項、技術的事項それぞれについて、文書例、必要条件、注意事項などがまとめてあります。本書の事例では、情報システム構築プロジェクトのようなものが想定されています。

■RFPの章立て構成
本書では、RFPの枠組みとして次のような構成例が挙げられています。ただし、以下は本書に書かれている内容そのものでなく、一部を(ブログの筆者である私が)勝手に取捨選択しているとともに、タイトルなど本書に書かれている用語をそのまま使わず“意訳”しています。

[RFPの章立て例] …本書自体の目次ではありません
第1章 概要説明と事務的事項
当社の現状
プロジェクトの背景
提案してもらいたい事項
言葉の定義
提案書の書き方
入札の締め切りと当社の質問窓口
採用決定通知までの手順
第2章 技術的な仕様詳細
プロジェクトの目的と目標
現在のシステムおよび業務の内容
提案書に求められるシステムおよび業務の技術的要件の詳細
機能・性能・業務範囲等に関する条件
第3章 管理面での仕様詳細
現在想定しているプロジェクト計画案
提案書に求められる管理的要件の詳細
(日程、投入する人員・リソース、手法など)
スケジュール全体・納品・保守・文書化等に関する条件
第4章 参加資格
入札に参加できるための条件、資格
第5章 提案者の企業情報
提案書とともに提供してほしい企業情報について
(企業沿革、財務情報、組織人員体制、過去の実績など)
第6章 価格提示のための書式
価格を算出・提示するための明細項目
価格を算出するための注意点説明
契約 契約書(購買契約、保守契約、機密保持契約など)の書式または要件
付録 ワークフローや検討資料、Q&A

中心部分は、第2章と第3章です(本書自体の目次でいうと、第4章と第5章にそれらの説明がある)。「広すぎず狭すぎず、具体的でありながら硬直化していない条件を表現する」ことで、発注者としての意図をきちんと示すことができるでしょう。こうした枠組みと実例が、実際にRFPを書くために参考になると思われます。取引の内容により構成や表現はさまざまであるべきなので「このサンプルのまま使っちゃあかんで…」という意味の注意が書かれていますが、場合によってはここで書かれている実例をなぞるだけでうまくRFPをまとめられるかもしれません。

同時に、読んで試して書いてみるほどに、サンプル文章の言葉の入れ替えだけでは提案依頼書が書けないことも実感できます。こうしたドキュメントをまとめきるには、やはり何度も同様のドキュメントを過去に作った経験がものをいうことでしょう。

■ビジネス・ドキュメントの実用題材に
本書は海外本の訳書のため、直訳したような言葉が多いのが難点です。ビジネスの現場では正直ピンとこない言い回しがけっこうあり、文章の意味を解釈するのに時間がかかることがあります。この本を使いこなすには、書かれている言葉をあらためて実践的な言い回しに頭の中で“翻訳”するステップが必要かもしれません(上に示した[RFPの章立て例]のように…)。

それでも、この種のビジネス・ドキュメントを書いたことがない若手ビジネスパーソンなどにも、構造的なビジネス・ドキュメントの枠組みとか、要件の記述方法とかを学ぶよい題材になると思われます。システマチックにドキュメントを書くことの少ない「ベテラン」より、本書をつてにして構造的に文書を構成しようとする経験不足の若手ビジネスパーソンのほうが、案外良い提案依頼書や提案書を書けるかもしれません。