「客観的なアセスメント」タグアーカイブ

「人間特性データベース」

サイト紹介:製品評価技術基盤機構が公開している、身体寸法や体力などの測定結果データベース。無料で利用できます。

http://www.tech.nite.go.jp/human/
nite人間特性データベース画面例

「標準的な人間の身体特性」をWeb上で検索することができます。快適な生活を送るための製品作りや生活空間作りなどに役立てることが主目的とされています。当ブログでは「身体を測る」をテーマの一つにしていますが、実際に存在する人の具体的な測定結果を簡単に確認するのに便利なサイトでしょう。

データベースの各項目を選ぶことで、平均値や標準偏差などの統計値を簡単に確認できます。元データをダウンロードすることも可能です。

データベースに掲載されている項目は、次の通りです。

・人の身体寸法(身長、体重、体脂肪率、身体の各部位の長さなど)
・体力測定(肺活量、血圧、握力、視力、聴力など)
・最大発揮力(手、肩、肘、足、腹など曲げたり伸ばしたりする力)
・手足の関節の動く角度(自力、および外からの力を加えた場合)
・指や手で押したりひねったりする力

やや心配なのは、このデータベースは数年前から公開されているわりに、その後あまり拡充されているようにみえないことでしょうか。測定項目や検索条件は少し充実されたかもしれませんが、全体のデータ件数は約1000件(人)程度であまり増えていないようです。例えば年齢、性別などいくつかの属性で絞り込むと、検索されるデータ数がすぐに2~3件とかになってしまい、統計的な数字は意味を成さなくなります。昨今、公的団体の活動は予算面などでなかなか難しいところがあるのかとも推測しますが、社会的に価値あるデータベースになっていくことを期待したいところです。

▽追加情報
・AIST人体寸法データベース(産業技術総合研究所 デジタルヒューマン研究センター)http://www.dh.aist.go.jp/AIST91DB/
・高齢者対応機器の設計のための高齢者特性の解明に関する調査研究(人間生活工学研究センター)http://www.hql.jp/project/funcdb2000/

「体力・運動能力測定法」

ビジネス書ではありませんが、本blogの「身体を測る」および「人事測定」というテーマつながりでご紹介します。

tairyokusokutei_s.jpg
「スポーツ選手と指導者のための 体力・運動能力測定法 ― トレーニング科学の活用テクニック」
【鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター(編)、2004年刊、大修館書店】

■理論と実践
ジャンル分けをすれば「専門書」なのでしょうが、人の身体や運動を測るさまざまな仕組み、および測定の実践手法をわかりやすくまとめてある本です。全体で180ページ弱、章にして全21章、1トピック(1章)あたり7~8ページとコンパクトな構成。もちろん理論的な話も書かれていますが、専門的過ぎず、結構幅広く一般に役立つのではないでしょうか。本blogでは適当にしか説明していない体組成率とか乳酸、全身持久力などの背景と理論がきちんと解説されています。

〔目次〕
第1部 身体のかたちを知る
形態計測
体脂肪量
骨密度
第2部 身体の機能を知る
運動機能(筋力、持久力)
運動生理(血糖、乳酸、スポーツ心臓)
栄養
第3部 身体の動きを知る
バイオメカニクス(速度、動作、ジャンプ力、地面反力)
第4章 筋・感覚機能・心の動きを知る
筋機能(筋電図)
感覚(運動視機能)
心理
第5部 身体活動と環境の関係を知る
環境生理(高所トレーニング、水中の身体機能)
第6部 トレーニング計画を立てる
トレーニング学(医科学サポート、トレーニング計画・実際)

■測定の基礎概念はビジネスにも役立つ
「測定器」を用いた身体の物理的測定に加え、心理測定についても簡単に触れられています。ここではスポーツ選手に必要な心理テストの紹介が主ですが、メンタル面からどのように人間を把握していくかという基本的な考え方が役立ちます。

たとえば
・「特性」(その人の一般的な行動傾向など。日々変化するものではなく安定した数値として計測されるもの)

・「状態」(ある特定の場面での反応など、むしろ刻々と変化しうる測定値)
とを概念的にはっきり区別し、それらを選手育成にいかに活かせばよいかなどが解説されています。

一般企業の人事評価の場面でも、意外にこうした基礎概念をあいまいにしてしまいがちです。その結果、あまり意味のない評価に至ったり、被評価者に納得されない結果がでてきたりする危険があります。非常に基本部分だからこそ(かつ、成果が数字で見えやすいスポーツという世界での話でもあるので)、ビジネスパーソンでもはっと思い至るところがあるのではないかと思います。

身体を測る 05-健康状態がわかる睡眠シート

寝ている時の睡眠の深さがわかる、ベッドに敷いているだけで身体の状態を測定するシートが実用化しはじめました。

sleepmon01_s.jpg

■大げさな睡眠測定装置だと眠れなくなる?
現代人の4人に1人はなんらかの睡眠障害を持つともいわれています。不眠、睡眠リズムのずれ、睡眠時無呼吸症候群などさまざまな障害があります。一応健康な人であっても、夜きちんと眠れたかどうかは結構気になるものでしょう。床に入っていた時間くらいなら簡単に記録できますが、できれば睡眠の“質”という観点からも自分の健康状態をつかんでおきたいと思いませんか。

睡眠の深さや状態を測定する機械というと、研究所などで頭に電極をつけて測る本格的なシステムを思い起こします。そのシステムを「PSG」(睡眠ポリグラフ、またはポリソムノグラフィ)と呼ぶそうで、頭、額、目、あご、心臓などに電極をつけて脳波と心電図を測るほか、鼻と口の気流をみて呼吸を測定し、睡眠状態を分析します。

しかし、言うまでもなくPSGのような大げさな睡眠測定装置で検査するとなると、専門の医療機関や研究所まで出向いて、1~2泊して、(場合によっては研究員の終夜立会いのもとで)測定しなければなりません。しかも前述のように、実験台で張り付けにされたように、身体のあちこちにセンサーをつけることが求められます。いつもと違う状態で、いかめしい実験台の中におかれると、結局良く眠れないとか、少なくとも自宅で寝る時と異なる睡眠状態となってしまいがちです。どんな状態でも簡単に眠ることができる人ならともかく、そもそも睡眠障害の疑いのある人がそんな状態で正確な測定ができるものではなかなかありません。

ここで挙げる睡眠シートは、いわば“いつもどおりの”睡眠環境で測ることができるセンサーといってよいでしょうか。寝床の下(商品によっては、敷き布団のさらに下においてもよいタイプのものもある)に敷くだけで呼吸と心拍を中心に計測でき、その結果から睡眠の質などを分析することができます。写真はスリープシステム研究所開発のもので、介護支援システムなどにすでに実用化しているタイプのシートです。

■介護、看護に応用
PSGのように、たとえば覚醒/REM睡眠/浅いノンREM睡眠~深いノンREM睡眠というような何段階もの綿密な測定ができるものもあり、それらはPSGの代わりに本格的な睡眠測定に応用することができます。しかしさすがにそこまで綿密な測定を要する場面でなければ、もう少し簡易化された睡眠シートのほうが安価で、いくつかの場面に応用が利きます。

とくに応用の範囲が広そうなのが介護や看護の分野です。たとえば、高齢者や身体を悪くしている患者さんのベッドに睡眠シートを敷いて離れた場所からウォッチすれば、その人が夜中に突然体調が悪くなった時の緊急の対処とか、逆にベッドにいない(またはいても寝ていない)ことのチェック、さらには健康障害が出る前に察知しての対処とか、いろいろな対策に役立てることができます。

そのような用途から、睡眠測定シートの利用は老人ホームや病院など事業者中心の利用がほとんどです。さすがに個人で簡単に導入できるというものではなさそうですが、睡眠チェック機能のあるベッドなどを導入したいとするニーズは結構あるのではないかと思われます。

一例ですが、松下電工は「快眠システム」という触れ込みで、部屋そのものを睡眠に合わせて自動制御するシステムを提案しています。睡眠・覚醒のリズムに合わせて光の強さと室温を変化させ、たとえば起きる時間に近づいたら徐々に照明を明るくするといった制御ができる部屋作りが可能です。その自動制御の一つのパーツとして、やはりベッドに敷く睡眠センサーシートが用意されています。しかし、これはまたこれで“大げさ”ですよね。数百万円とか数千万円とかかけてそうした寝室を作りこむのは、一部の富裕層や高級ホテル以外ではありえないでしょう。

■心拍や呼吸から異常を感知できる
前回の記事と同じく、このテーマに関連する商品例を、
生体測定 製品・サービス一覧
に一覧として挙げました。リストは今後もupdateする予定です。

リストをみただけではよくわからないかもしれませんが、商品によって、身体の動きを監視することが主なもの、睡眠の深さを精度良く監視できるものなど差があります。また、いずれの商品も単体で機能するというものではなく、データを解析するソフトウェアや連動するシステムがあってこそ有効に利用できるものであることにご注意ください。さらにはどんな睡眠状態のときに危険があるのかの判断などは、それぞれの提供元が持つ専門的なノウハウにも依存することになります。

なお「対象者がベッドにいるかどうかだけ判断する」ためには睡眠モニターまでは必要なく、たんに圧力の“on/off”だけが信号として届けばよいわけで、そのためには「離床センサー」と呼ばれるシートを使えば十分です。ただしこの場合、仮に寝床で被験者が亡くなって動かなくなってしまった場合、それを判断することはできません。呼吸や心拍を測定しているセンサーならば、その異常状態を感知できます。

この記事でのテーマ“身体測定のパーソナル化”となるまでは少しだけまだ時間が必要かもしれませんが、睡眠測定が結構身近な環境まで近づいていることは確かなようです。

身体を測る 03-体組成計はまだまだ進化する?

さまざまな種類の身体測定装置を一覧表にまとめてみました。

fig0608-05.gif
[体組成の計測]

■高機能化する体組成計
測定器の小型化・一般化について、「身体を測る 02-身体測定のパーソナル化?」で話を始めました。その話題の中で触れたいくつかの身体測定装置の例を、本blogと並行して運用している生体測定 製品・サービス一覧に挙げてみました。もちろんここに拾い出した商品はごく一部にすぎません。(徐々に改訂し、情報を増やしていく予定です)

これをもとに、少し取りとめもない話を続けます。

家庭用の体組成計に関する情報はweb上に多数あるので、あえて少し本格的な業務用のもの…「身体を測る 01」で紹介したものを中心に掲載しました。

この前の記事で、身体測定器の用途を次の5つに分類しました。
1.緊急用:いざというときのために用意しておくべき測定器
2.健康診断向け:日常的な健康状態を測るために常備しておく測定器
3.スポーツ向け:スポーツでの競技力向上に便利な測定器
4.介護・支援向け:要介護者などの身体状態や見守りのための機器
5.専門医療用

家庭用体組成計の用途は、ほとんどが「2.健康診断向け」になるでしょう。しかし上記の表に上げた商品は主に業務用なので、「3.スポーツ向け」や「5.専門医療用」といったものも含まれます。安価な家庭用体組成計でも多機能化、精密化が進んできているようで、今の業務用体組成計の測定レベルはどんどん家庭用でも実現されていくのではないでしょうか。

■なぜ身長や年齢を入力するのか
ところで、BIA法(biometric impedance analysis法)で、身体に流した微弱電流の電導率(逆数でいえば「インピーダンス」…交流電流における抵抗値)で脂肪部分と筋肉部分の割合がわかるなら、あとは体重の実測値がわかれば体脂肪量(率)が割り出せそうな気がします。

しかし多くの体組成計では、測定の前提として性別・年齢・身長を入力します。これは、ようするに電導率だけでは正確な計測ができないので、性別・年齢・身長で補正しているということになります。というより、先に性別・年齢・身長という条件を決め、その条件の上で適合するパラメータもしくは換算テーブルをあてはめていると考えられます。

体組成計の計測データがどのように関係しているかを、冒頭のように図示してみました。かなりいい加減な図式なのはご了承ください m(__)m 。

ためしに脚だけで測る家庭用体組成計で、自分の性別・年齢・身長をわざと入れ替えて測ってみたら、次のようになりました(いずれも入れ替えた設定値以外の条件は正しい設定値のまま)。

・正しい性別・年齢・身長で「体脂肪率:14.5%」

・性別を 女性 にすると「体脂肪率:25.5%」
・年齢を 15歳若く すると「体脂肪率:15.0%」
・身長を 10cm高く すると「体脂肪率:21.1%」
・身長を 10cm低く すると「体脂肪率:7.4%」

このとき計測された体重はもちろん一定です。計測された電導率(インピーダンス)も等しいはずです。しかし換算された体脂肪率はかなり変化します。あたりまえといえばあたりまえなのですが、見方を変えると「世間的な平均値」に無理やり変換されたと考えることもできます。

事実、体組成計を研究・開発しているあるところの担当者に話を聞いたところ、「高い精度で実測ができれば、年齢と身長は判定に必要ない。むしろ実測値のみに基づいているという意味で正確な数値になるはず」とのことでした(性別については聞き忘れました)。つまり、上の図で「手入力による設定…性別・身長・年齢」部分を外してきちんと測定できるような測定理論と精度の高いセンサーを用意することも、高性能化を目指す一つの作戦になるわけです。

■動物用の体組成計?
またしても余談ですが、動物用の体組成計というのを作ったら、ビジネスにはならないものでしょうか?

人間用の体組成計に犬とか猫とか動物を乗せて測っても、当然ながら正確な数値は測定できません。そもそもおとなしく体組成計に乗ってくれそうにありません(笑)。

現代のペットブームは、ニーズさえあれば愛犬、愛猫に人間並みの投資をすることも珍しくありません。一方“生活習慣病”の犬や猫が増えている昨今、ニーズは十分にありそうです。しかも、商品化のプロセスは(人間用の商品開発を通じて)ほとんど確立されているわけです。

あとは、
・ペットの種類や体長別にさまざまな測定データを蓄積すること
・ペットが素直にセンサーをあててくれる方法を見つける(たとえば四肢にクリップを挟むなど)
といった課題が解決できればよさそうな気もします。どうでしょうか?

身体を測る 01-理屈に裏づけられた測定術

人の物理的な特性を測るだけでも、「正確に測る」ために理論的なバックグラウンドが必要であることにかわりありません。

fig0608-03.gif
[体組成の測定例]

■直接測ることができる数値は意外に少ない
「人事測定(≒アセスメント)」についていくつか話をしてきました。ここまでは概ね心理的特性の測定または能力の測定といった“精神的な何か”を測ることを考えてきましたが、今回はもう少し話を身近にして、人の身体的な特性の測定についてみてみます。

身体的な特性とは、ようするに身長、体重といった物理的な量のことです。長さや重さならば、メジャーとか重量計とかがあれば簡単に「客観的な値」を測ることができるわけですから、とても簡単そうに思えます。たしかに、心理測定よりはずっと簡単に測定できる場合が多いでしょう。

しかしよく考えてみると、直接測ることができる身体的特性というと、身体の各部分の長さと全体の体重くらいではないでしょうか。最近は体脂肪率、筋肉量、骨量などの体組成の測定がかなり一般的になりましたが、もちろん身体から筋肉だけを取り出して重量を測っているわけではありません。

家庭用の一般的な体脂肪計では、微弱な電流を身体に流して身体の導電率を調べることで、間接的に体脂肪率などを推定しています(BIA法)。医療用など本格的な測定器でも、電気・磁気・光などを介して間接的に身体の性質を測っていることにかわりありません。

■さまざまな測定法
それでも「身体の特性を測っている」といえるのは、その背景に「理屈」があり、その理屈に則って数値を計算または換算することにより体脂肪率などを推定できるからにほかなりません。体脂肪率でいえば、

・筋肉は電気を通しやすいが、脂肪は電気を通さない
・両足(または両腕)の間の導電率を測ることで、身体全体の導電率を推定できる
・身長、体重、年齢によって、導電率と体脂肪率の対応を推定できる

といった考え方で、瞬時に「生(なま)の測定数値」を「推定体脂肪率」に換算しているというわけです。何事も、「測る」作業の裏には「理屈」があるのです。

いいかえると、その「理屈」の組み立て方次第で、測定された数値の信頼性(同じ条件で測ったときに同じ数値が導かれる度合い)や妥当性(知りたい特性をきちんと測っているのかの度合い)が良かったり、悪かったりします。

・BIA法:身体の導電率から推定する
以外にも、以下のようにさまざまな「理屈」があります。
・水中体重測定法:・上と水中の重さの違いから計算する
・キャリパー法:皮膚などの厚さを測る
・CTスキャン法:スキャンした身体の脂肪部分の断面積を直接観察する
・DXA法:2つの異なるエネルギーを持つX線で組成成分などを測る

皆さんがよく目にする家庭用体脂肪計の計測数値の場合、測るたびに異なった数値がでてくることは誰もが経験していることでしょう。その意味で必ずしも信頼性・妥当性が高い測定方法とはいえません。少し本格的な体組成計で測れば信頼性は高くなりますが、それでも測定方法によってばらつきがあります。

■比べてみた
ほとんど余談になってしまいますが、筆者自身の身体について、次の3種類の体組成計で測った数値を比べてみました(いずれもBIA法のもの)。

・医療機器承認もされている専門家向けの体組成計
InBody720(バイオスペース社):両手両脚の計8点の電極から測定。多周波数測定方式
・スポーツジムなどにある業務用体組成計
BODYSCAN(コナミスポーツ&ライフ社):両手両脚の計8点の電極から測定。多周波数測定方式
・家庭用の体組成計
BC-513(タニタ製):両脚の計4点の電極から測定。直流・交流成分に分解して測定。

その結果は上図の通りでした。完全に測定対象項目が一致していない要素がありますが、ここでは細かい違いは無視して比べています。

それぞれ少しずつ測る条件が違いますが、その割には安価な体重計モドキでも本格的な測定器でも、基本的な数値に極端な違いはなさそうです。もちろん、本格的な測定器のほうがここに現れている数値以外にもさまざまな測定値がでます(両手・両脚ごとの筋肉バランスなど)。

…人事アセスメントに限らず、「人間を知る」という広い視点から、今後も人の身体を測ることをテーマとして取り上げていきます。