人の物理的な特性を測るだけでも、「正確に測る」ために理論的なバックグラウンドが必要であることにかわりありません。
[体組成の測定例]
■直接測ることができる数値は意外に少ない
「人事測定(≒アセスメント)」についていくつか話をしてきました。ここまでは概ね心理的特性の測定または能力の測定といった“精神的な何か”を測ることを考えてきましたが、今回はもう少し話を身近にして、人の身体的な特性の測定についてみてみます。
身体的な特性とは、ようするに身長、体重といった物理的な量のことです。長さや重さならば、メジャーとか重量計とかがあれば簡単に「客観的な値」を測ることができるわけですから、とても簡単そうに思えます。たしかに、心理測定よりはずっと簡単に測定できる場合が多いでしょう。
しかしよく考えてみると、直接測ることができる身体的特性というと、身体の各部分の長さと全体の体重くらいではないでしょうか。最近は体脂肪率、筋肉量、骨量などの体組成の測定がかなり一般的になりましたが、もちろん身体から筋肉だけを取り出して重量を測っているわけではありません。
家庭用の一般的な体脂肪計では、微弱な電流を身体に流して身体の導電率を調べることで、間接的に体脂肪率などを推定しています(BIA法)。医療用など本格的な測定器でも、電気・磁気・光などを介して間接的に身体の性質を測っていることにかわりありません。
■さまざまな測定法
それでも「身体の特性を測っている」といえるのは、その背景に「理屈」があり、その理屈に則って数値を計算または換算することにより体脂肪率などを推定できるからにほかなりません。体脂肪率でいえば、
・筋肉は電気を通しやすいが、脂肪は電気を通さない
・両足(または両腕)の間の導電率を測ることで、身体全体の導電率を推定できる
・身長、体重、年齢によって、導電率と体脂肪率の対応を推定できる
といった考え方で、瞬時に「生(なま)の測定数値」を「推定体脂肪率」に換算しているというわけです。何事も、「測る」作業の裏には「理屈」があるのです。
いいかえると、その「理屈」の組み立て方次第で、測定された数値の信頼性(同じ条件で測ったときに同じ数値が導かれる度合い)や妥当性(知りたい特性をきちんと測っているのかの度合い)が良かったり、悪かったりします。
・BIA法:身体の導電率から推定する
以外にも、以下のようにさまざまな「理屈」があります。
・水中体重測定法:・上と水中の重さの違いから計算する
・キャリパー法:皮膚などの厚さを測る
・CTスキャン法:スキャンした身体の脂肪部分の断面積を直接観察する
・DXA法:2つの異なるエネルギーを持つX線で組成成分などを測る
皆さんがよく目にする家庭用体脂肪計の計測数値の場合、測るたびに異なった数値がでてくることは誰もが経験していることでしょう。その意味で必ずしも信頼性・妥当性が高い測定方法とはいえません。少し本格的な体組成計で測れば信頼性は高くなりますが、それでも測定方法によってばらつきがあります。
■比べてみた
ほとんど余談になってしまいますが、筆者自身の身体について、次の3種類の体組成計で測った数値を比べてみました(いずれもBIA法のもの)。
・医療機器承認もされている専門家向けの体組成計
InBody720(バイオスペース社):両手両脚の計8点の電極から測定。多周波数測定方式
・スポーツジムなどにある業務用体組成計
BODYSCAN(コナミスポーツ&ライフ社):両手両脚の計8点の電極から測定。多周波数測定方式
・家庭用の体組成計
BC-513(タニタ製):両脚の計4点の電極から測定。直流・交流成分に分解して測定。
その結果は上図の通りでした。完全に測定対象項目が一致していない要素がありますが、ここでは細かい違いは無視して比べています。
それぞれ少しずつ測る条件が違いますが、その割には安価な体重計モドキでも本格的な測定器でも、基本的な数値に極端な違いはなさそうです。もちろん、本格的な測定器のほうがここに現れている数値以外にもさまざまな測定値がでます(両手・両脚ごとの筋肉バランスなど)。
…人事アセスメントに限らず、「人間を知る」という広い視点から、今後も人の身体を測ることをテーマとして取り上げていきます。