身体を測る 02-身体測定のパーソナル化

身体の測定に関連する装置を調べていくと、結構面白い商品に出会います。いずれ自分の健康を自分で管理する“測定器のパーソナル化”が進むのではないかと推測します。

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[測定器の商品化までの流れ]

■測定装置を列挙してみる
前回の記事「身体を測る 01」で、体脂肪率をはじめとした体組成率の計測について触れました。体脂肪率ほど一般的ではありませんが、世の中をみてみるといろいろ面白い(役に立つ人には役に立つ)身体測定装置があることがわかります。

少し専門的な目的を持つ装置も多く必ずしも一般人が手軽に手に入れることができるとは限りませんが、なかには体組成計のように個人でも手に届くくらいの廉価な価格で商品化されているものもあります。あるいは個人で測定器を日常的に使うというまでにはいかなくても、小規模な診療所や健康センターのような施設で使うことができたり、あるいは測定サービスとして事業化されていたりするものもあります。

やや恣意的な選択と分類(!?)かもしれませんが、身体測定ができる主な器材を列挙してみました。

【ごく一般的なもの】
・身長計、メジャー(身長、座高、胸囲、腹囲、腕脚の長さ…の測定)
・体重計
・体温計
・血圧計(血圧High/Low、心拍数の測定)
・体組成計(体脂肪量、骨量、水分量などの測定)
・万歩計

【少し専門的なもの】
・血糖値計
・ハートレートモニター(心拍数の連続的な測定、消費カロリーの測定)
・パルスオキシメーター(血中酸素飽和度の測定)
・血中乳酸値測定器(最大酸素摂取量、無酸素性作業閾値の測定)
・加速度計(1次元または3次元で身体の動きを測定)
・筋力測定器
・姿勢測定装置

【専門的なもの】
・心電図計
・脳波計
・肺活量測定器
・呼気代謝測定装置(最大酸素摂取量、無酸素性作業閾値の測定)
・血液検査装置(γ-GTP、コレステロール値などの生化学検査、ヘモグロビン量、白血球数など血球・血清検査ほか)
・尿検査装置
・自律神経の活性度測定器(交感神経、副交感神経)
・睡眠深度測定器
・唾液の成分測定器

さらには超音波エコー、CT、X線撮影機なども含まれてくるのでしょうが、このあたりで止めておきます。

■用途としての将来性
これらが使われる場面を用途別にみると、大きく「緊急用」「健康診断向け」「スポーツ向け」「介護・支援向け」「専門医療用」といった分け方ができるでしょうか。

1.緊急用:いざというときのために用意しておく測定器
上記のうちではパルスオキシメーターがその代表例となるでしょうか。パルスオキシメーターで測る「血中酸素飽和度」(「血中酸素濃度」「SaO2」ともいう)とは、血液に溶け込んでいる酸素量の度合のことで、健康な人は通常100%となるはずですが、酸素が何らかの理由で身体に取り入れられていかないと低下します。よく救急救命のドラマなどで「(患者の)脈拍150、サチュレーション90。危険な状態で…」なんていうセリフが出てきますが、この「サチュレーション(saturation))」のことです。

この測定は、血液を採取しなくても、クリップみたいな装置を指先にはさむことで、血液の流れを周波数の違う数種類の赤外線の吸収率から血中酸素飽和度を簡単に測ることができます。非常に手軽に扱える測定器の一つといってよいでしょう。さすがに家庭では緊急のためにわざわざ購入することは少ないでしょうが、学校や職場、公共施設など多くの人が集まる場所に備え付けておくべきものといった位置づけになりうるものではないかと思います。

2.健康診断向け:日常的な健康状態を測るために用意しておく測定器
すでに何度も話題としてでている体組成計のほか、体温計、血圧計、そして糖尿病を持病として持つ人には血糖値計など。予防医療や健康維持の意識が強まってくると、必ずしも身体に病気を持っている人だけでなく健康な個人・家庭でも使われるようになるかもしれません。

3.スポーツ向け:日常的な体力維持または専門スポーツでの競技力向上のために便利な測定器
スポーツの分野では、ハートレートモニターがかなり一般的なものになってきました。普及型のハートレートモニターにもいろいろありますが、胸などに心拍を感知するセンサーを貼り、腕時計式の計測器で心拍数を記録・計算するタイプの商品が多数出回っています。スポーツジムの運動マシンも当たり前のように心拍測定機能がついていますが、それを独立させたようなもののことです。

最大酸素摂取量(VO2max)や無酸素性作業閾値(LT)は、全身持久力の程度を表す指標です。身体に負荷をかけながら、血中の乳酸値または吐き出す息のなかの酸素や二酸化炭素の量を調べることで測定できます。身体内部の測定というより身体能力の特性の一部といったほうがよいかもしれません(ここではあまり厳密に区分けしません)。じつはこれらの測定数値は、スポーツをやっている者にとってかなり重要な指標になりうるものです。スポーツ関連については、まだまだ測定器のパーソナル化の需要がある分野と思われます。

4.介護・支援向け
あまり広くは知られていませんが、高年齢者の介護などに、加速度計や睡眠深度測定器といった人体センサーが用いられることがあります。これについてはあらためて詳しく記事にします。

5.専門医療用
今回の話は測定器のパーソナル化が主なテーマなので省略します。

■ニーズ開拓がカギ
上に挙げた用途別の説明もあくまで例に過ぎません。測定器はツールであり、必要性とアイデア次第で、複数の用途に対して利用技術を開拓できるでしょう。

たとえば「緊急用」として挙げたパルスオキシメーターも、たとえばある程度標高の高い山に挑戦する登山者たちが、高山病を防ぐために利用しているそうです(スポーツ向け)。また、睡眠時無呼吸症候群にかかっていると血中酸素濃度が低くなるということから、睡眠中に連続測定するためにも使われています(健康診断向け)。

そしてこうした一般向けの商品化ができるかどうかは、当然ながら一般社会でその商品に対するニーズがあるのかどうかがカギとなります。

■パーソナル測定器の商品化
体組成計にしてもパルスオキシメーターにしても、人体が発する信号を、電流や電波(光)を使ってセンサーで物理的に測定し、それを科学的な測定理論にあてはめて結果を出すという意味では、仕組みは同じようなものです。

商品化に至るまでの流れを冒頭の図のように一般化してみました。

つまり、
(A) (光や電流など)物理的に測ることができる数値と測定対象となる特性を結びつける測定理論があり、そのロジックをマイクロチップなどに埋め込む
(B) 理論を元に実際にサンプル測定をしたり実証試験をしたりして、実地に正しい数値が導けることを証明し、必要とあれば換算テーブルなどに反映させる
(C) センサーを小型化するなどして扱いやすい形にする。さらにそれを量産することでパーツとして低い原価で手に入れられるようにする

(A)と(B)を併せてソフト的なパーツ、(C)がハード的なパーツ、になろうかと思います。個人にも手に届くパーソナル測定器として成立するためには、このソフト、ハードをリーズナブルな投資でまかえなければなりません。

■小型化、一般化
思い返してみれば、つい10年くらい前までは個人や家庭で体脂肪率を測ることさえまれでした。今後も健康管理志向が社会全体で進むと仮定すると、今は専門家向けに特殊な用途として用いられている測定器も、ニーズさえ高まれば意外に早く一般化する(普及する)こともありうるのではないでしょうか。

血糖値計は相当の数の測定器が一般向けに商品化されていますが、ほんのわずかであっても針で採決をしなければならないようです。「全身持久力」の測定でも、今はまだ、わずかながら血液を採取する必要があったり(乳酸値測定器の場合)、吐き出す息を集めるためにマスクをかけたりしなければならなかったりします。しかしもっと手軽に、小型の装置でこれらの値を測定できるようになれば、パーソナル向けとして十分需要が掘り起こされると考えるのですが、いかがなものでしょうか。