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恵方巻2010(コンビニ)

恵方巻の品揃えは、コンビニチェーンによって方針に違いが見られます。どちらかというと本来の丸かぶり寿司からスイーツや惣菜系に力が入るようになっている流れは、今年も変わっていません。商品によってはもはや恵方巻の範疇から完全に逸脱か(笑)

恵方巻パンフ2010年
〔コンビニの恵方巻パンフレット、2010年〕

■7-11の寿司アイテムは実質1種類に収束
なぜか毎年続けている(勢いで続けざるを得なくなっている?)恵方巻の話(07年08年09年その109年その2)の2010年版です。今年もコンビニ各チェーンのパンフを集めて比較をしてみました。あくまでも品揃えとプロモーション(と商標)の話であって、味の比較ではありませんので悪しからず。

昨年はサークル・ケイ・サンクス(CKS)がトルティーヤで当たった気配があった(?)ので、「次は惣菜系が増えるだろう」と予測しました。実際、とんかつなど揚げ物を巻いた恵方巻もどきが、寿司系以外のチェーンで少しずつ広まっているようです。しかしセブンイレブン(7-11)以外のコンビニチェーンは特に追いかけてはきませんでした。

7-11は、「牛しぐれ煮恵方巻」という、明らかに惣菜系に分類できる商品を出してきました。その代わり(サイズ違いやセットを無視すると)本来の太巻き寿司はついに実質1種類に収束することとなりました。対してデイリーヤマザキ(D-Y)やファミリーマート(FM)は、本来の太巻き寿司が中心になっています。とはいえ、恵方巻寿司のアイテムは、今後もうあまり増えそうにありません。

■全面展開型のCKS、周辺商品依存型のLawson
以下、各チェーンの商品について横並び比較、昨年の比較をしてみます。「寿司」「蕎麦」「スイーツ」「その他」それぞれの商品アイテム数を下に列挙しました。

アイテムは、共通して“松” “竹” “梅”で表現することにします。

梅:長さが15~18cmの長いもので、恵方巻としてスタンダードな商品
竹:大半が“海鮮”を売りにしているもの。7.5cmから9cmのハーフサイズがほとんどで、短い分、梅と単価はさほど変わらないか、もしくは安い場合もあります
松:竹に何らかのプラスがされた贅沢版で、やはりハーフサイズがほとんどです

実際には必ずしも上中下の差がないかもしれませんし、チェーンによって横並びできない感もありますが、便宜的にこのように記させてください。また、以下の説明で「3本セット」「2本セット」といった商品は、アイテムとして一切数えていません。

◇サークルケイサンクス(CKS)…計10アイテム(寿4、蕎2、ス2、他2)
全面展開型。昨年に続き最も商品種が多いチェーンです。寿司は松竹梅と梅ハーフの4アイテム。蕎麦の種類が昨年から2減の2アイテムとなったかわりに、ロールケーキ1増とすきやき丼が加わり、トータル10アイテム。

昨年に続き「トルティーヤ」があるのがこのチェーンの特徴です。ただし昨年のトルティーヤは長さ14cm×直径5cmだったのが、今年は15.5cm×3.5cmと細長くなりました(理由は不明)。新たに加わったロールケーキ「黒豆と栗の和ロール」は、昨年からLawsonが出している黒豆入りのロールケーキと少し似ていますが、スポンジの生地が海苔のように黒くなっているあたりがユニーク。

また、どうでもよい話題かもしれませんが、CKSのパンフレットがほんの少しだけ昨年より凝った作りになっています。A4判2つ折ですが、中心から折らずに「ご予約特典」が書かれた部分が折っても見えるような工夫がされています(冒頭写真中央下あたり)。

◇セブンイレブン(7-11)…計7アイテム(寿2、蕎3、ス1、他1)
話題作り型。昨年の有名人路線(森公美子プロデュース恵方巻)を踏襲し、今年はグッチ裕三監修の「牛しぐれ煮恵方巻」が前面に出ています。すでに触れた通り、これは本来の寿司ではなく“惣菜系”に分類できます。本来の「丸かぶり寿司」はレギュラーとミニサイズの2種類こそあれ、実質的には1種類(竹)しかなくなってしまいました。あとはほぼ昨年と同様の商品構成ですが、昨年あった「とん汁」がなくなり7アイテムとなりました。

◇ローソン(Lawson)…計7アイテム(寿2、蕎3、ス2、他0)
周辺商品依存型。昨年と同じ7アイテムで、内容的にはほとんど違いはありません。寿司は竹と梅の2アイテム。ただし、商品名が「丸かぶり寿司」から「恵方巻」に変わりました。バンフは昨年の2つ折り(見た目にはA5判サイズ)からA4判を折らない体裁に変わりました。個人的な感想ですが、ここが最も(本来の)恵方巻寿司に力を入れず、スイートと蕎麦に頼っている気がします。

◇スリーエフ(3F)…計6アイテム(寿3、蕎1、ス2、他0)
中庸型。昨年と同じ6アイテム。寿司は松竹梅の3種。ロールケーキの価格などが変わった以外、ほとんど違いがありません。パンフレットの体裁も見事に同じで、写真も昨年と同じものを全くそのまま使っています。いや、だから悪いというのではなく、定番化したらあえて金かけて毎年内容や写真に手を加えなくてもいいじゃないか、という意味でむしろ納得します。

なお3F系列の生鮮コンビニq’smart(キューズマート)でも、同じ恵方巻を扱っていました。ただし松と蕎麦(と3本セット)以外の4アイテムのみ。パンフはやはり3Fのものを流用していますが、片面印刷にしてコストを抑えています。なんだか、片面に情報が集まっているq’smartのパンフほうがかえってわかりやすい気がします。

生鮮コンビニで恵方巻を扱っていたチェーンは、確かめた限りではq’smart以外になかったようでした。「100円コンビニ」の路線とは合わないであろうことは容易に想像できますが…

◇エーエムピーエム(ampm)…計6アイテム(寿3、蕎1、ス2、他0)
中庸型。寿司は松竹梅の3種で大きな変化はありませんが、ロールケーキのプレミアム版が新たに加わり、昨年より1アイテム増の6アイテム。しかしこのプレミアム版は直径6.5cmと極太で、すでにかぶりつくものではなくなっているようです。単に切って食べるロールケーキを便乗して加えているだけと思われます。なお、報道されている通り、ampmはFMに吸収合併されました。現在の商品構成は今年で終わりとなるかもしれません。

◇ミニストップ(MiniS)…計4アイテム(寿2、蕎1、ス1、他0)
小規模型。商品構成もパンフも体裁も、昨年とほとんど同じ。寿司は竹と梅。

◇ファミリーマート(FM)…計3アイテム(寿3、蕎0、ス0、他0)
原点回帰型。3本入りセットの価格のみ若干値下げされていますが、それを除けば、価格や具の内容まで昨年とまったく同じの松竹梅。昨年も書きましたが、このチェーンは本来の寿司に特化している点で、CKSやLawsonと全く違う方針をとっています。

■サラダ巻! 穴子!
もう1件、昨年まで全然チェックしていなかったチェーン。

◇デイリーヤマザキ(D-Y)…計6アイテム(寿4、蕎1、ス1、他0)
原点重視型。松竹梅のほかに「丸かぶり寿司 サラダ巻」というものがあります。ツナとカニかまは入っているけど、下手に穴子とかもたれそうな海鮮モノを満載していないスッキリ感に好印象を持ちます。もしかしたら、このチェーンが最も「寿司」の王道を行っていそうな感じがあります(昨年以前の状況はまったく把握していません)。

さらにもう一つ、当サイトでしか注目しないくだらない視点(笑!)、「穴子が入っていない商品」を挙げると以下の通りです(なぜ穴子なのかについては、過去の記事とコメントを参照)。

→ CKSの竹、3Fの竹、ampmの竹、MiniSの竹、FMの松と竹、D-Yの竹とサラダ巻

先に触れたD-Yのサラダ巻を別にすると、これらのほとんどが「海鮮○○」で、サーモン、ししゃも、漬けマグロあたりが主役となった商品です。

*  *  *

恵方巻関連のこの春のニュースとしては、すでに09年その2のコメントで触れたように、「招福巻」商標に関する控訴審でイオンが鮨萬(すしまん)に逆転勝利したことでしょうか。コンビニ以外の恵方巻の件と商標の件は、記事を改めて書くことにします。

▽関連記事:
恵方巻2010(つづき)

雲のつぶやき

雲

2010年。新年あけましておめでとうございます。

初日の出前、東京でははっきりと月食が見えます。
21世紀もすでに10年目に入りました。
形にとらわれない雲の如く、社会の価値観にも変化が求められることでしょう。

  当社は本年、郵便による年賀状を省略しました。
  このサイトにて、皆様にご挨拶させていただきます。

年末の築地2009

年末の築地は元気です。場内場外とも賑わいをみせています。年々、訪れる一般客は増えていて、店や商店街も徐々にそうしたニーズに対応していることでしょう。市況の変調、市場設備の老朽化、新しい市場ビジョンなど、話題は尽きません。

市場写真4点
〔築地市場の風景4題〕

■“アメ横”化する? 築地界隈
昨年一昨年に続き、2009年もこの時期に築地中央卸売市場および築地場外商店街を見に行ってきました。商店の店先で景気を聞く限りでは「昨年より売り上げは上がっていない」とのことですが、ほかの商業地に比べるとこの賑わいはハンパではありません。もともとはプロが商売をする場であったこの地域に一般客が多数訪れるようになりました。様子がある日突然変わるというのではなく、年々少しずつ変化しているように思えます。

築地場内(中卸)と場外(商店街)において、
プロ向け(卸売):一般向け(小売)
の商売の軸足はどの程度の比率にあるのでしょうか。

売上高とか顧客数とかではなく、商売の重要度みたいなものをイメージしてみてみましょう。あくまでも個人的な印象ですが、次のように表現できそうです。
・10年前… 場内 10:0 、場外 9:1
・5年前… 場内 9:1 、場外 8:2
・今(日常)… 場内 9:1 、場外 7:3
・今(年末)… 場内 7:3 、場外 5:5

昨年の記事でも書きましたが、場内奥深くまで子供連れの家族が多数入り込んでいます(写真右上)。外国人客が多いのはいつものことですが、たとえば、場内の中卸人がマグロなどの解体をしている現場を家族で見学している(写真左上)なんて風景も全然珍しくありません。場内でさえこれですから、場外はもうアメ横状態です。

「年末は築地へ行こう!=場外市場で「安い魚」をゲット」(時事ドットコム)リンク切れ

中央卸売市場は30日が年内最終市となるため、場外市場の店もほとんどが同日で年内の営業を終えていたが、「近年は31日も多くの消費者が築地へやってくるため、店を開けるところが増えた」(同協議会事務局)と話す。

ある方に伺ったら「これまでも31日に店を開いているところは多数あった。でも31日は掃除とかが主で、本気で商売しているとはいえない。むしろ休市日に扱っている商品は“売れ残り品”の類かもしれず、アヤシイ」との意見も。確かに、市場ありきで考えればそうかもしれません。でも、いまや冷凍・チルドの技術も上がっているし、場内はともかく場外市場は生鮮より加工品の店が多いですから、大晦日まで真面目に商売をやろうとすれば、それは決して難しいことではないはず。一方、築地を“アメ横”視して訪れる一般客が多数いるのは確実なだけに、たぶん今後、大晦日の場外市場は地域全体で一般客対応の(本気の)商売が進むと予測します。

■年末に売れるはずのものが売れない
築地に限りませんが、経済状況の影響で生鮮品の市況は変調をきたしているようです。これまではいくら不況でも年末には必ず売れていた商品が、昨年くらいから動かないとの声が多数でています。

「デフレ裏付ける生鮮市況」(日本経済新聞2009/12/01朝刊)
「マグロ卸値が下落 冷凍メバチ、前週比13%安」(日本経済新聞2009/12/22朝刊)リンク切れ

歳末商戦を迎えた12月にマグロの価格が下がる「異例の事態」が2年連続で起こっている。

従来なら、歳末のように需要が集中する時期や供給が減る事態があれば、市場原理が働いて卸値が上昇し売上高も増えたとされます。しかし今はそれでも卸値が下がったり売れ行きが見込めないという異変に直面することが多く、その影響は昨年以上とのこと。卸の売り上げが伸びないとすれば、築地の業者がせっかく訪れる一般向けチャンスを見逃す選択肢はありません。もっとも、一般客向けの売り上げは卸以上にとらえどころが難しいかもしれませんが…

■老朽化する築地の設備
築地の豊洲移転はますます混迷しています。しかしながら、これも昨年の記事で触れましたが、築地の建物の老朽化は何とかしなければなりません。

「築地市場で事故続発、過密深刻化」(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/091225/tky0912251833009-n1.htm

先月から今月にかけ鉄板などが落下する事故が続発し、年末の緊急点検と修理に追われている。落下したのは約1メートル幅約8センチの薄い鉄板と、長さ約15センチ縦横約5センチのコンクリート片。

幸いけが人はなかったようですが、少し大きな地震がきたら簡単に落ちるところが出てきそうです。落下物を受け止める網を張ったり、モルタルによる補修工事をすることで対応しているそうですが、これは何とかしなければなりませんね。冒頭写真の左下はこの事故の対応個所ではないと思いますが、こんなふうに応急的と思われる対応個所はあちこちにありそうです。

築地再整備だ豊洲移転だと、政治的意図を背景にした人たちが不毛な戦いをしているようです。東京都議会でも主導権を握った民主党が「移転を強引に進める予算は計上するな」と要望を出しているようです。結局中央卸売市場という形態が(たぶん予想を超えて)大きく質的量的に変化していくのでしょうから、どちらに市場があっても官営である限りは衰退が約束されているようなものです。どうせなら、危機対応(早期決着)を優先させて、ジャンケンで決めてみてはいかがでしょうか。

農林水産省ではこの秋から「卸売市場の将来方向に関する研究会」なるものを精力的に進めているようです。
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/ryutu/sizyou_kenkyu/index.html

ほかにも民間主導で、「市場流通ビジョンを考える会」といった組織が、これからの流通ビジョンをとりまとめようとしてるとの報道がありました。これらについて、詳細な情報が出てくるのを待ちたいところです。

*  *  *

最後に、冒頭写真の右下。築地場内で見た大きなマンボウの写真です。「写真料払ってね!」などと、店の人から冗談を飛ばされました。いつも刺激があり、面白い場所です。

▽関連情報
築地場外市場~変化こそ常道 築地市場現在地再整備案公表

脳測定を技能向上・伝承に生かせないか

個人の頭の中に閉じ込められている技を他人に伝えたり、言葉にしにくいものをなんとか言葉にしていく…。脳科学を応用してそのプロセスをスマートに進めることはできないものでしょうか。

(今回の記事は、個人的な観測ばかり含めた内容です。紹介している本と記事の内容に強いつながりがあるとは言えませんので、その点ご容赦を)

言語習得に関連する書籍2点
〔日本語は論理的である、脳科学からの第二言語習得論〕

■個人を対象にした脳科学の応用
脳科学の社会への応用が進んでいることを「身体を測る 11-脳の非侵襲的測定」「脳測定とマーケティング」で触れました。ニューロ・マーケティングやニューロ・エコノミクスは普通、多数の人や組織を対象にして、社会の中で戦略・戦術を考える場面で応用されます。

一方、個人を対象とした分野にも脳科学はもちろん応用でき、“脳トレ”がその応用例にあたります。ただし、一足飛びに結果を求める脳トレにまがい物があふれていることは否定しようがありません。現実の科学ではもっと地味な研究が一歩一歩進められているところでしょう。本サイトのテーマからすると、例えば

(1) 個人のより客観的な心理アセスメント
(2) 技能技術の伝承や、暗黙知の形式知化

につながるきっかけを脳科学に期待したいところです。

■技の伝承をスムーズに進めたい
上記2つのテーマのうち(2)、つまり個人がどのように特定の技能を習得していけばよいか、あるいは言葉で伝えにくい技を人に伝承させていけばよいかについて、最近発表されてくる脳科学研究を役に立てることはできないものでしょうか。“ニューロ・ワーディング”(neuro-wording)とでも名付けましょう(つい今しがた、この原稿を書いている間にひねり出した完全な造語です)。

これは一つの問題意識を示しただけで、その確固たる手がかりが私(松山)にあるわけではありません。実際の企業内での人材育成、技術伝承の手法を考えるときには、作業標準・作業手順書の作成、計画的なOJT、小集団活動といった従来からある手法を用い、一歩一歩地道な改善に取り組むといった姿勢が求められます。画期的な“改革”のような手段は、まずありません。

だからこそ、脳科学の研究から、よりスムーズに技の高度化、客観化ができるヒントを得たいと考えています。自分は脳科学者でも臨床精神科医でも何でもないので、たんに“あったらいいな”という希望を述べているに過ぎませんが…

※ wordingは“言葉遣い、言い回し”といった意味ですが、ここではやや広い意味でとらえ、言語だけでなくビデオ映像や録音、再現可能な動きを含めたなんらかの客観的な表現手法を含めて指すことにします。つまり、無理すれば言葉にできなくはないが、手間とわかりやすさを勘案するとその一歩手前で止めておいた方が利用価値がある表現もwordingの対象として分類します。“可視化(見える化)”と似た概念かもしれません。

※ 一つだけむりやりこじつけてしまうと、前回の記事「高田瑞穂著「新釈現代文」」で示されている「内面的運動感覚」なるものを発揮することが、ニューロ・ワーディングを的確に進める原動力になるような… (^_^)v

■言語習得の研究に脳科学
地に足が着いていない観測ばかりを言っても仕方ないので、少し現実に戻り、言語技能の習得と脳の関係が研究されている書籍を2冊ほど紹介します。

「脳科学からの第二言語習得論の研究」NIRSによる脳活性化の研究
【大石晴美(著)、2006年、昭和堂】

一言で言うと「日本人が英語のリスニングとリーディングをしたときの脳血流の活性度合いを測った実験結果」を解説した専門書です。NIRS(光トポグラフィー)を中心にいくつもの実験がされていますが、その実験結果からは例えば次のようなことが見出せたとされています。

・上級学習者では、右脳側面より左脳側面の血液増加量の割合が多かった。これは左脳にある「ウェルニッケ野」が活発に活動していたことを示唆している
・(短期記憶をつかさどる)前頭葉と(言語野がある)左脳側面の血流増を比較すると、中上級学習者は前頭葉より左脳側面に反応が強かった。上級学習者となると言語野近辺に選択的に血流増加がみられた
・大きくみると、
学習し始めたばかりの初学者…無活性型(どこも反応が鈍い)
初学者~中級学習者…過剰活性型(脳のあちこちが反応している)
中級以上の学習者…選択的活性型(言語野に限って強く反応している)
上級…自動活性型(強く反応する部分はかえって少なくなっていく)

「日本語は論理的である」
【月本洋(著)、2009年、講談社刊】

昔も今も「日本語は論理的でない」という誤解が時々語られますが、言語である以上、そんなことはまずありません。もし論理的でない日本語が蔓延しているとすれば、それは日本語の特性からくるものではなく、使う人の姿勢や教育の問題といえるでしょう。本書は、そのあたりを確かめながら、脳科学の視点から日本語の特性や教育論について解説している本です。脳測定の話が多数出てきます。

以前から研究結果として知られていたこと(角田仮説)をあらためてMEG(脳磁図計)などによる実験をした結果、次の事実が確認できたとされています。

・日本語(やポリネシアの言語)を母国語とする人は、母音を左脳で聴く
・英語人をはじめ他の多くの言語を母国語とする人は、母音を右脳で聴く

その他の検討と併せ、次のような考え方ができるとしています。

・人は発話開始時に最初に母音を「聴覚野」で聴く
・「自分と他人を分離して認識する」概念は右脳の聴覚野のすぐ隣で処理される
・右脳で母音を聴くと「自他分離」を処理する野が刺激され、人称代名詞などを多用しやすくなる
・左脳で母音を聴く日本人(やポリネシア人)はその逆に、自他の識別を示す言葉を積極的に使わない傾向がある

これが日本語で主格(主語)が省略されやすい仕組みだとしています。著者の主張については専門家からの異論も相当あるようですが、あくまで一つの仮説として考えるなら興味深い内容といえそうです。

■将棋名人の頭の中は
これらの研究とはまったく別のものですが、将棋の羽生善治名人を被験者の一人にして、脳活性の様子をfMRIで観察した研究がされています(理化学研究所脳科学総合研究センター)。fMRIに入ったままで詰め将棋などを解き、脳の反応を測定したものです。NHKの番組でも採り上げられたのでご存知の方も多いかもしれません。(NIRSではなく)fMRIなので脳の具体的個所や深部まで測定できています。結論として次のようなことが導けたとされています。

・アマチュア棋士は、前頭前野を中心に活性化がみられた
・プロの棋士は、脳のもっと深い大脳基底核尾状核が活性化した
・さらに羽生名人の場合に限っては、海馬にある嗅周皮質や脳幹にある網様体が活性化していた

ようするに何かを深く極めていく過程で、短期的な記憶→長期的な記憶→習慣的な行動や思考→本能的な行動や思考、へと脳内で主に働く部分が変化(高度化・自動化)していくことが示唆されます。常識と照らし合わせても十分納得できる仕組みでしょう。

*  *  *

言語技能や将棋の技能に限らず、高度な技を身に付けた人は、きっと頭の中の活性個所が初心者とも中級者とも異なることでしょう。また、技の伝承が得意な人は、理にかなった言葉の使い方や見せ方ができるものと推測します。

この分野についてもっと詳しい方に、ぜひご意見を伺いたいところです。

高田瑞穂著「新釈現代文」

30年くらいぶりに文庫として復刻された参考書。「大学入試用」とされていますが、もっとずっと広い読者に役立つ書籍だと思われます。さまざまな文章表現について、その読み取り方のコツを掴めるかもしれません。社員教育にも…?

新釈現代文カバー
〔旧版「新釈現代文」カバー、価格は450円〕

■50年前の参考書の復刻
実は30年以上前に購入した版を私(松山)は未だに持っていて、しかもしまい込まず、手にとって読める本棚にずっと置いてあります。でも、この本が世の中で「伝説の参考書」と呼ばれていたことは、今日までまったく知りませんでした。個人的な意見を先に出すと、「文章で表現された何がしかの“考え”を掴み取るコツ」を解説した解説書兼トレーニング本だと思っています。

「新釈 現代文」(ちくま学芸文庫)【高田瑞穂(著)、筑摩書房刊、2009年】

「新釈 現代文」【高田瑞穂(著)、新塔社刊、1959年】
〔旧版の目次〕
第一章 予備
一、公的表現
二、筆者の願い
第二章 前提
一、問題意識
二、内面的運動感覚
第三章 方法
一、たった一つのこと
二、追跡
三、停止
第四章 適用
一、何をきかれているか
二、どう答えるか
三、適用
後期にかえて
一、近代文学をどう読むか
二、近代文学の何を読むか

復刻版はまだ見ていませんが、内容的な違いはないという前提で上の目次を挙げました。本書の軸となる部分は、

・問題意識を持ち
・内面的運動感覚を発揮して
・筆者の足跡を追跡していく…

という手法です。入試現代文の読解対策が目的ですが、非常に基本的な考え方であるがゆえに、実際にはもっとずっと応用の利くものであると考えられます。近代文学の範囲に留まらず、ビジネス文書や新聞記事の解読の基礎にもなりえます。もっと勝手に拡大解釈してしまうと、外国語の読解にも、聴き言葉(ヒアリングにおける相手の主張の読み取りなど)にも、やはり同じ原則が適用できるように思えます。

私にとって「国語」は専門外かつ興味薄な科目でした。また“入試(テスト)対策のための勉強”というものには学生時代から今に至るまでかなり懐疑的で、参考書やノウハウ本の類を積極的に読むことはあまりなく、不要になったらすぐに捨ててました。教科書だってもちろん残っていません。にもかかわらず、本書を読んで感じるところがあり、30年以上も捨てずに手元においていたわけです。おそらく10代半ばに購入して今も保存している本は、何冊かの小説を除けばこれ1冊だけだと思います。

たんなる「文章読解ノウハウ」のようなものを期待してこの本を手にしたら、失望するかもしれません。文章構造の解析テクニックなら、他にさまざまな解説書があることでしょう。試験のテクニックとしても、数多の参考書があることでしょう。でも、小手先の話とか目先の損得ではなく「人の意見をよく汲み取る」といったもっと本質的な姿勢を整えようとするとき、立ち返る原点のようなものを本書から得られるかもしれません。

数年前にこの本のことをネット上で検索したとき、まったく何の手がかりも得られなかった記憶があります。それが思いもかけず復刻されていた…、この本を高く評価する人たちがたくさんいた…、ことを初めて知って、大変驚いています。ページ数は(旧版で)180ページ弱。肝となる部分の解説はせいぜい50ページ程度の薄い本です。一般のビジネスパーソンの基礎訓練テキストとしても成立するのではないかと、かねがね思っています。