「銅板建築」カテゴリーアーカイブ

銅板建築 2-古い店舗を活用し地元活性化

銅板建築を活かして店を開いた例が品川にあります。古い老舗店が廃業した跡を、地元関係者がうまい形で活用しました。

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■地元の事業者たちがNPO法人を設立
場所は北品川。旧品川宿、旧東海道に程近い場所にある居酒屋「居残り連」がそれです。地元の商売人たちが作ったNPO法人「東海道品川宿」が事業主体となっています。写真左のように、正面の銅板はかなり明るい緑色で、そこそこ繁盛している様子です。この店のほかにも北品川にあと2店ほど、同法人が運営(プロデュース?)している店舗があります(ここ以外は銅板建築の店ではない)。

NPO法人東海道品川宿 http://www.ren-shinagawa.com/ren-top/ren-top.html

「居残り」というネーミングでピンときた人の多くは、きっと落語ファンでしょう。幕末の品川宿を舞台にした「居残り佐平次」という面白い落語があります。その落語の中で料理屋の名前が出てくるのですが、ほかでもない、それがこの店の前身である鰻屋「荒井屋」です。つまり、江戸時代から続く老舗の鰻屋がつい最近までここで営業していました。2004年に惜しまれながら閉店したのですが、その銅板建築の店舗を「居残り連」として再生したというわけです。

筆者は落語にも映画にも疎いのですが、落語「居残り佐平次」を下書きにして作られたモノクロ映画「幕末太陽傳」(1957年日活、川島雄三監督、フランキー堺主演)を面白く見たことがあり、そこから「居残り佐平次」に親近感があります。居酒屋としては、客のそんなさまざまな話題、薀蓄の一つひとつがきっと酒の肴になっているのでしょう。

■銅板建築に新しいイメージを
背景には、他に比べれば活気ある商店街とはいえ、やはり近年空き店舗が目立つようになったという事情があります。この店は商店街からは外れたところにあるのですが、旧東海道沿いの商店街で年々古い店の廃業が続くのは他の商店街と同様です。放っておけば廃れていくかもしれない商店街をいかに活性化するか。地元の人たちだけでなく、商業関係者にさまざまな商売のアイデアが求められています。

そんな意味で、「連」のような再生モデルは参考になるのではないでしょうか。“昭和レトロ”の主張、地元の話題の提供、手作り商品(料理)のイメージなどを切り口に、銅板建築を一つのシンボルにしてしまうなんてこともありえませんかね。古い形そのままを残すのも手ですが、少し見方を変えて銅板建築に新しいイメージを吹き込んでみたい気もします。

前の記事「銅板建築 1-“昭和元年”が次々消えていく」でも触れましたが、せっかくの銅板建築の店がこれからも消えていくことが予想されます。現に、いまにも解体されておかしくない閉じた店舗があちこちにあります。

当ブログと並行して制作しているwebsiteに、銅板建築の写真を掲載しています(今後もupdateする予定)。

銅板建築の写真一覧

写真一覧を見てもわかるように、商店街の角や大通りに面した場所などかなり価値のある場所にも、ひっそりと銅板建築がたたずんでいます。

▽関連情報
マチヅクリ http://blog.kansai.com/toshikeikaku/118
スージグヮー http://blog.so-net.ne.jp/suzygwa/2005-12-17
Kai-Wai 散策 http://mods.mods.jp/blog/archives/000117.html

機関庫裏のフォトブック http://numajiri.cocolog-nifty.com/sinagawa/cat3208964/index.html
建築探訪・縦横無尽 http://blogs.yahoo.co.jp/chipimaro22/folder/1453178.html
関心空間 http://www.kanshin.com/keyword/209227

鉄道模型にも、こんなミニチュアの看板建築があるようです。
KATO http://www.katomodels.com/product/nmi/kanban_bldg.shtml

銅板建築 1-“昭和元年”が消えていく

「銅板建築」というものをご存知でしょうか。古い店舗の建築様式ですが、今となっては希少価値もあり、ユニークな店作りに活かせるのではないかと予想します。

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■味のある深緑色の店舗兼住居
モルタルなどで作られた2階建てくらいの商店の外壁に銅板を貼ってある古いタイプの建物のことを「銅板建築」と呼びます。そのほとんどは店舗兼住宅で、主に東京周辺の古くからある商店街にみられます。銅板だから茶色か金色か、いわゆる真新しい銅の色をしているのかというと、さにあらず。長い間風雨にさらされて、写真のように深めの緑色をしているのが普通です。「ああ、そういえばそんな店が昔よくあったな」と記憶の中で思い至る方もいるのではないでしょうか。

銅板建築の店が建てられたのは例外なく昭和初期、それも昭和3年前後と決まっています。大正12年9月の関東大震災で東京の街が焼け、その後都市計画が整って盛んに新しい様式の商店が建てられた時期というわけです。

昭和初期に流行だったとはいえ、今となっては「古くさい建物」なのは否定しようもありません。戦争で焼け残り、高度成長時代にもとくに変化なく、バブルの荒波からも生き残ったとはいえ、いわば時代の流れから置いていかれた建築物です。今残っている銅板建築の店はおよそ“80歳”。老朽化により年々その数は減っているはずです。

しかし逆に今となってはその緑色と文様に風情があり“昭和レトロ”を感じませんか?

レトロ調の店舗設計が注目されつつある今、銅板建築の店がなくなっていくのはとてももったいない。希少価値を逆手にとって、ユニークな店作りに再活用したらよいではないかと切に思うのですが、いかがなものでしょう。

■また1軒、歴史になってしまうのか
冒頭の写真は都内南部、鉄道の駅の出入口真正面にある銅板建築の商店(タバコ店)ですが、見ての通り、店は完全に閉じられています。棟つながりの隣の店のシャッターに「永らくご愛顧いただきましたが、この度解体することになり…」といった意味の貼り紙がありました。この銅板建築も跡形がなくなってしまうのでしょうか。

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近づいてみると、文様の入った壁、コーナーの独特な模様、年季の入った黒ずんだ銅板、小さな天守閣のようにも見える3段目(木造住宅は原則2階建てで、3階とも見える部分は建前上“屋根裏部屋”のような位置づけが多かったそうです)。元の建物がそのまま残せないものならば、せめて表面と特徴のある部分だけ剥がして残しておき、新しい商店つくりに活かせばよいではないか~。

実際、古い建物を解体するときに建具や壁を保存しておき、新しい店作りで再活用するという手法は珍しくありません。資金力の乏しい中小商店を再生する一手法として、日本全国で(少しずつかもしれませんが)実現されているようです。それを専門に請け負っている建築家もいるみたいですね。

であれば、銅板のような年季の入った希少価値のあるパーツをみすみす捨ててしまってよいのか! 耐震設備も整ったしっかりした建物を建てて、その表面に古い銅板を貼るだけで、実に個性的な、いかにも伝統を引き継いだ雰囲気のある、でも庶民的な、経済的な、そんなレトロ調店舗が出来上がるではないですか。建築にド素人の私のような人間には、そんな気がしてなりません。

■見直されつつある看板建築
銅板建築に絞って話をしていますが、もう少し広い意味を持つ「看板建築」という用語があります。大正から昭和初期を中心に建てられた店舗兼住宅で、前面に屋号や看板を彫刻などで表現した店作りのことです。銅板のほか、レンガ、タイル、モルタルなどさまざまな素材で装飾がほどこされています。このテーマについては、次の書が有名です。

「看板建築」(藤森照信著、三省堂)

街並みウォッチャーや建築関係者にはそれなりに注目されていて、やはりそのユニークさや現存する建物の希少性から、価値が見直されているようです。

■銅板建築は何軒残っているか
看板建築のうち、とくに銅板建築に限ると、現存する建築物の数はどのくらいあるのでしょうか。一説によると80軒~100軒だとか、ある報道では50軒程度しかないとかされていました。でもちょっとわかる範囲で数えてみると、もう少し数は多いようです。

ここ1カ月くらい、都心(神田周辺)と都内南部(品川旧東海道地域など)で目に入る銅板建築の店を実見して数えてみた(写真を撮ってみた)のですが、すでに40軒ほど発見できています。文献や私の過去の記憶から(まだ実際に現場で改めて確認したわけではない)銅板建築の店を加えると70軒以上にはなるでしょうか。銅板建築は一般に集中して存在しており、目立つ1軒の近辺には文献などに載っていない銅板建築が結構存在しています。

まだ調査していない地域のことを勘案すると、都内だけでおそらく150軒~200軒はあるのではないかと推測しています。これまで撮影した銅板建築の写真の一部を一覧にして掲載しました。

銅板建築の写真一覧 (当website内)

まだ限定的に列挙しただけですが、いずれ少し説明も加えていく予定です。機会を見付けて銅板建築の写真を撮り、掲載数も増やすつもりです。

■希少価値に気付いて残してほしい
年々減りつつある銅板建築を保存して残せるのは、おそらく今が最後のチャンスでしょう。店舗作りのアイデアを探している専門家、再生を目指す中小商店の経営者、そしてなによりも今現在銅板建築に住んでいる方や家主。そうした関係者の方々には、その価値にぜひ気付いてほしいものです。