コンビニ 6-“本部には内緒にしてね!”

コンビニでも個店重視の動きが高まっているようです。しかしチェーン一律均一のFCシステムで、個性を出すことは可能なのでしょうか。システム作りの過程で、電子マネーもその一翼を担うことになるのでしょう。

CVSマップ3
〔システム作りを踏まえた小売店舗チェーン作り〕

■店オリジナル? のファスト・フード現わる
コンビニ 4-個性の追求は難しいで、「コンビニは、標準化された便利さの代わりに、個々の商店の個性や面白さを犠牲にしている」といったシニカルな表現をしました。

しかし、このところの各コンビニ本部の動きをみると、地域や個々の環境によって店作りに違いを出そうとする方向性が強まっています。まだまだ胎動期かもしませんが、コンビニ・チェーンの将来像を示唆しているのでしょう。

つい最近セブン-イレブンのある店内で見かけたのが、ストア・オリジナルとも思わせるあるファスト・フード。
「当店だけで扱っている商品です。本部には内緒にしてね」
という手書きのPOPが掲げられていました。全国的に一律で販売されている商品だけではなく、その店でしか売っていない商品もあるようにアピールされると、やはりその店に足を運んでみたくなるものです。

もっともこのケースでは、POPにあるような「本部には内緒」ではなかったはずです。本部のスーパバイザーは頻繁に店に訪れその商品を目にするはずですし、もし本当に店の独断でオリジナル商品を売りたかったらそんなPOPを掲げるはずもありません。その店はセブン-イレブンでも日販100万円近くいく優良店と思われます(※注)ので、たぶん本部(少なくとも地域の統括部)もグルになった実験的な試みだったのだろうと思われます。

※ セブン-イレブンの場合、都市の標準的なモデル店舗で日販60万円強、それ以外のコンビニ・チェーンでは日販45万円前後という。

■セブン-イレブンが個店対応の動き
コンビニの店作りについて、コンビニ 1-新業態、増えるコンビニ 2-付加価値型の“実験店”コンビニ 3-生鮮品揃えと均一価格、といった事例を記事にしてきました。しかし業界リーダーのセブン-イレブン(およびファミリーマート)は安易な新業態作りには踏み出さず、「コンビニ基本型」育成に注力しているようです。生鮮食料品やファスト・フード(対面カウンターから提供するという意味で「カウンター・フード」と呼んでいるらしい)についてそれぞれ既存店で実験しているようですが、それによって新業態を立ち上げようとはしていません。

だからといってセブン-イレブンが保守的というわけではありません。飽和状態のコンビニの将来が悲観的にみられるなかで、鈴木敏文セブン&アイ会長はマスコミのインタビューに答えて「コンビニはまだまだ未完成である」といった旨の発言をしているようです。これは例えば生鮮小売店なりファスト・フードなり、その他個性のある小売店が日常的に提供しているサービスのなかで、今のセブン-イレブンが役割として提供できていないものがあることを認識しているからでしょう。

今セブン-イレブンが力を入れているのは
・デリバリーと御用聞き
・カウンター・フード
・電子マネーnanacoの普及
でしょうか。あと、日本ではありませんが、中国に進出したセブン-イレブンの店では
・量り売り
も実現されているようです。

大きくみれば、個々の店の個性作り(その前提として個々の顧客への対応力、付加価値型のオペレーション充実)に方向性が向いているのではないかと推測します。

■コンビニのシステム作りはまだまだこれから?
冒頭の図〔上〕のマップは、コンビニ 4で作成した図と同じものです。

生鮮コンビニはある一定数の店舗が展開されていますが、“提供している商品・サービスの価値が不十分”であることが常に課題になっています。ローソンは生鮮コンビニのSHOP99(99プラス)に資本提携したことで、「ローソンストア100」の展開は“打ち止め”となりました。「Gooz」や「ForkTalk」は、“コンビニ派生型”という枠の外に行ってしまった感があります。女性向けコンビニ「Happily」は、ターゲットの絞りすぎなどが原因で“売上を落とした店”と認識されているようです。ようするに数々出現したコンビニ新業態は、結局コンビニと基本的に別の業態になるか、または基本型に舞い戻るかのどちらかに向かっていると思われます。

これらと違ってセブン-イレブンは、冒頭の図〔下〕のようなイメージでアプローチしているように思えます。つまり、他業態の成功をみて平面的に展開しようとしたローソン、サークルKサンクス、am/pm、スリーエフと異なり、「基本型のさらなるシステム化」を追求し、図で言うと“業態の平面”から抜けて立体的な仕組み作りをすすめている。そしてワープしたように個性重視型店舗を出現させる。それが結果的に生鮮小売店やファスト・フードに対抗できるような店になっている…。

なんて言うとセブン・イレブンばかり優れた戦略をとっているかのような言い方になってしまいますが、そう言いたいのではありません。ようするに「コンビニはまだまだ未完成である」という鈴木会長の言葉はおそらく正解で、高度になったと思われているコンビニのシステムも、小売システムとしてはまだまだ不十分なものということなのだと思います。

今後、とくに電子マネーnanacoは、セブン-イレブンの店舗個性作りに大きな役割を担うのかもしれません。「商品」を切り口に売れ筋の分析をしてきたPOSの機能と併せて、「顧客」を切り口にニーズ分析する機能を持ちうるわけですから。

もっともそれは売る側からみたときのメリットにすぎません。顧客からみたらnanacoを所有することの価値はどこまであるのか、かなり疑問もあることでしょう。