ららぽーと豊洲と新中央卸売市場の計画

ららぽーと豊洲の開業と新築高層マンションの増加がきっかけで、豊洲が注目されています。一方中央卸売市場の豊洲移転も2012年開業を目指し具体的になってきました。

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まだほとんど空き地状態の豊洲新中央卸売市場予定地[撮影:2006年8月]

■新市場の基本設計決定
「基本設計が決定された」との報道がありました。とは言ってもこれまでに公表されていたプランの認証のようなものかもしれませんが、行政の情報として2006/10/13付けで第12回新市場建設協議会資料が掲載されています(中身は配置図などが中心で、特に一般向けに目を引くドキュメントではありません)。

このプロジェクトの中心はあくまでも卸売市場の機能整備ですが、例の「先客万来ゾーン」(一般消費者も訪れる賑わいゾーン)について先に考えてみます。近くにららぽーと豊洲という強力な賑わいゾーンが現実化したわけですが、それが豊洲新市場の賑わいゾーンをイメージしやすくしているような気がします。

参考:豊洲市場はパラドックスを解けるか?

数年前から行われている議論の中では、
・消費者と市場業者が交流するための施設が必要
という声とともに
・「千客万来」とは市場本来の生鮮食品の流通業務が評価された結果であって、市場本来の機能とは別に消費者のための施設を設けることが必要なのか疑問
という否定的な意見も確かにあったようです。

しかし結局、「買出人にとって魅力のある市場を作りたい」という狙いから、賑わいゾーンを設ける方向で議論は進んできました。「日々新しいものが発見できるとか、買出人に来てもらうような仕掛けが必要ではありませんか ~(中略)~ だったらこれを千客万来ゾーンの中に入れて、一緒にやった方がよりメリットが出ると思っています」(資料2003年「第9回新市場建設基本問題検討会議事録要旨」

また、市場部分の目隠し、つまり物流活動に伴う騒音や匂いなどを「表玄関」から遮断するための緩衝帯が欲しいといった理由があったようです。どうしても雑然としてしまいがちな卸売市場の見栄えの悪さを目隠ししておくに越したことはないということになります。見ようによっては、銀座、築地、晴海、東雲、有明、台場といったベイサイドの商業地・住宅地に囲まれた中心地域とも言える場所ですから、大田市場のような卸機能onlyという選択は、やはりとれないのかもしれません。

■矛盾をはらむイメージ作り
議事録など関係者の発言を見てみると、「マスコミは千客万来ゾーンばかりを強調してしまう」という傾向を危惧し、原則的には市場関係者が商売しやすい環境作りに重きを置きたい様子が窺われます。市場内の事業者からすると、本来の商売と競合するような店が千客万来ゾーンに入ってしまっては困ることにもなります。

一方、施設配置は(いくつかあった案のうち)「千客万来施設などの賑わいゾーン機能を流通機能と重層化して配置する案」(B案)が採用されました。「『食』をコア・コンセプトとした、オープンスペースを兼ね備える、複合的な賑わい施設」という千客万来ゾーンの基本コンセプトを素直に受け取る限り、一般向けに広く開放した商業施設がイメージされます。実際、過去の資料のパース図を見ると“ららぽーと豊洲をまねたか”と思うようなイラストが描かれています(時期的にはららぽーとよりこっちが先だと思いますが…)。

卸売市場という専門的な機能を前面に出すと、賑わいを創り出す力は弱くなりかねない。しかし賑わいを創り出そうとするPR努力は、卸売市場の業者の利害と反するところがある…。PR戦略一つをとっても、やはりどこか矛盾する方向性を内包している議論のように思えます。

“自由経済圏”築地(場外商店街など自然発生的に生まれた賑わいゾーンがあるという意味)でさえ、卸の専門機能と一般小売機能の共存に常に頭を悩ましています。
“計画経済圏”豊洲(なんて言ってしまうと怒られそうですね!)では、どのような展開を見せるのでしょうか。

なんとかして民間の力 ― PFI(Private Finance Initiative:民間の資金・経営ノウハウを活用して公共施設などの建設・運営などを行う事業手法) ― を取り入れ、賑わいを作り出そうとしています。PFIについても実現できるかどうか悲観的な見方があったようですが、やはりこのあたりが成否の鍵となっていくのかもしれません。

■ららぽーととの比較
豊洲市場の千客万来ゾーンの計画書に、ゾーンが持つべき機能や役割が具体的に挙げられています。

(a) 産地・出荷者の消費者情報に対するニーズに応える
(b) 小売・買出人の産地情報等に対するニーズに応える
(c) 上記2点を自らの営業に活かす→アンテナショップの設置、イベントの開催
(d) 消費者との直接的接点を得る→児童向けの料理実習、課外教室などの実施
(e) 全国、海外の市場情報・食材情報、食材サンプル等が入手できる機会を提供する
(f) 流通業者を中心に、業界内異業種間の情報交換の場を提供する→情報交流センターの提供
(g) 消費者の嗜好に応えることのできる多様なリテール支援をソフト・ハードの両面から行う
(h) キャッシュレスシステムの導入
(i) 小口買出人利便性を向上する→ワンストップショッピング売場の設置
(j) 現物や対面の取引をより重要視する
(k) 商社等の市場外の食関連事業者にオフィス、会議室、ランチミーティング等のスペースの提供

またしても“無理やり”の比較になりますが、まさに実現されたばかりのららぽーと豊洲を思い浮かべ、これらの内容について両者の力関係を想像してみました。

○千客万来ゾーンの方が優れた(もしくはこちらにしかない)機能
→ (a) (b) (f)
○千客万来とららぽーとの両者にあり、共存できそうな機能
→ (c) (e) (i) (k)
○ららぽーとの方が間違いなく優れている機能
→ (d) (g)
○一般的な機能であり、比較する意味があまりなさそうな機能
→ (h) (j)

ららぽーとで話題の「キッザニア」なんて、まさに(d)を完全にカバーしてしまっているのではないでしょうか。(g)については勝負になりません。少なくとも、ららぽーとで長時間費やす一般消費者が、豊洲の千客万来ゾーンにわざわざ立ち寄るシチュエーションは限られるかと想像します。

なんてこと勝手に言っていますが、これらは単なる思考実験ですので、悪しからず(笑)。