「ストレス測定法」

ストレス測定に関して本格的に学びたい人向けの専門書をご紹介します。前回の記事「身体を測る 09-ストレスの強さを測る」つながりです。

ストレス測定法・表紙
「ストレス測定法 ― 心身の健康と心理社会的ストレス」
【Sheldon Cohen、Ronald C. Kessler、Lynn Underwood Gordon(編著)、小杉正太郎(監訳)、1999年、川島書店】

■深く研究したい人向けの入門書
原題は”Measuring – Stress A guide for Health and Social Scientists”(1995年刊)。

〔目次〕
第1部 ストレスの概念化・ストレスと疾患との関係
第1章 疾患研究におけるストレス測定方略
第2部 環境的視点
第2章 チェックリスト法を用いたストレスフル・ライフイベントの測定
第3章 インタビューによるストレスフル・ライフイベントの測定
第4章 日常的なイベントの測定
第5章 慢性ストレッサーの測定
第3部 心理学的視点
第6章 ストレスアプレイザルの測定
第7章 感情反応の測定
第4部 生物学的視点
第8章 ストレスホルモンの測定
第9章 心臓血管系の反応の測定
第10章 免疫応答の測定
付録1 本書で言及されている尺度
付録2 わが国で開発、翻訳、発表されている尺度

目次をみるだけでも「読みこなすには気合がいりそう」と思いますが、まあ専門書(しかも翻訳物)ですので仕方がありません。

■測定の理論的背景
本書では、ストレスを測るための理論的な大枠として次のようなモデルが示されています(第1章 図1.1 を思いっきり簡略化したもの)。

(1) 外部・環境から刺激が加わる

(2) 刺激をどの程度敏感に受け取り、受け流すか

(3) 身体や心に隠し切れない影響が現れる

このそれぞれの段階で、ストレス測定が考えられるということになります。

■環境面、心理面、身体面からの視点
(1)ストレスをもたらす要因ごとに影響力を測定
外部・環境から刺激が加わると考え、それぞれの影響度を測定します。例えば、次のような事柄について一般的にどのくらい強いストレスをもたらすかを尺度化しておくわけです。

・人生のイベント:「引っ越し」「昇進・降格」「勤める会社の倒産」「定年退職」「離婚」「配偶者の死」…
・日常的な事象:「仕事で叱責を受けた(褒められた)」「運動した(しなかった)」「天気が悪い(良い)」…
・慢性的なストレス要因:「常に締め切りに追われている」「仕事に飽きてしまった」「同僚とそりが合わない」…

(2)対象者ごとに、ストレスから受ける強さを評価する
同じストレス要因(刺激)であっても、人によってその受け止め方の度合(自覚的または無自覚的な評価…「アプレイザル」と呼んでいる)は大きく異なり、それによって生じるストレスの強さに大きな差が出てくるとしています。そこで、各人にとってのアプレイザルを測定しようということです。

アプレイザルの測定は、例えば「次に挙げる事柄を-3点(非常に強い否定的なインパクトがある)~0点(特にインパクトなし)~+3点(非常に強い肯定的なインパクトがある)の間でチェックしてください」とかいう質問を対象者に投げかけて、その答から行うことになります。

その結果、もともとのストレス要因が持つストレスレベル((1)で測定した値)と、その人が受けるストレス(アプレイザルの値)を足したものが総合ストレスレベルになる、といった説明がされています。

(3)身体や行動への反応、疾患の様子など、現象からストレスの強さを測定する
これが、前回の記事で触れた「唾液からストレスレベルを客観的に測る」とか「自律神経系のデータからストレスレベルを判定する」といった方法です。ストレスマーカーとなる物質(主としてホルモン)は多数あるものの、測定値の解釈にはかなり注意が必要であることなどが説明されています。

■実用サービスの可能性
この本の原著が出たのがすでに10年以上前。その後実証的な研究が盛んに進められている(らしい)ことから、もしかしたら近い将来には、物理的なストレス測定手段が今よりずっと多数開発されているかもしれません。それを期待させるような、研究領域の豊かさを感じることができます。

個人的に面白かったのは、第7章で「感情の測定」「気分の測定」なんてものにも言及しているところでしょうか。感情を計量的にとらえることの難しさや限界などもふまえたうえで、その可能性や考え方の枠を示しています。面白いテーマですが、さすがに専門的すぎて、私には本当のところよくわかりませんが…。

素人考えですが、現代のコンピュータを利用したパターンマッチングの技術の発展とあいまって、意外に高度な仕組みが実現できていくのかもしれません。いかがわしいビジネスとしてではなく、かといって過剰に大げさ(高価すぎたり、専門家でしか扱えなかったり)でもない機器やサービスが、これからビジネスとして成り立つ余地があるように思われます。