いわゆる「失敗学」という分野が注目されていますね。本書は、マネジメントの視点から失敗のパターンを端的に解説しているあたりが興味深い内容になっています。
「組織行動の「まずい!!」学」 ― どうして失敗が繰り返されるのか
【樋口晴彦(著)、2006年刊、祥伝社新書】
■リスク管理の本質
失敗から学べることは数々あります。当ブログの書評でくどいほど触れた「ドラゴンフライ」なども、成功というより失敗に近い事例から組織やマネジメントを学ぶことができる書籍の類でしょう。
本書は、「ドラゴンフライ」のように1つの事例について深く追っているというより、さまざまな事件・事故を例として挙げて説明している一種の事例集といえます。
チェルノブイリ原発事故
JR福知山線脱線事故
三菱重工・大型客船火災事故
高病原性鳥インフルエンザ発症事件
スペースシャトル・チャレンジャー打上失敗事故
スペースシャトル・コロンビア帰還失敗事故
「えひめ丸」衝突事故
日航123便墜落事故
東海村・核燃料加工工場における臨界事故
関西電力・美浜原発事故
不正経理事件と監査法人の問題
耐震強度偽装事件
…
これら事故の原因、とりわけ表面的な現象の後ろにあるマネジメント面での問題からリスク管理につながる教訓が引き出されているあたりが、多くの組織人には興味深く感じられるのではないでしょうか。
■集団となることで生じる思わぬ判断ミス
たとえばスペースシャトルの事故。この件ではよく、「スケジュールに迫られたNASAがサプライヤーに圧力をかけた」といったニュアンスが原因説明の前面に出がちです。しかし本書では、チャレンジャー号の爆発事故について“グループシンク”の結果だったという点が強調されています。
※ グループシンク…「凝集性が高い集団において、集団内の合意を得ようと意識するあまり、意思決定が非合理的な方向にゆがめられてしまう現象」
ようするにNASAから(事故の原因となった部品の)製造元への一方的な圧力とかいうものではなく、むしろ「これだけ皆がシャトル打ち上げの同意をしているのに自分のところが今さら反対できない」といった目に見えない力が、意思決定に間違いをもたらした。一体感のある集団となることに成功したからこそ発生した浅慮だったということです。
■成果主義がうまくいかないパターンの分析
このほか、コストダウンの連続が知らず知らずに安全管理に破綻をもたらしてしまうパターン。現場の綿密な管理が必要といっても、「現場を支える」と「現場を支配する」の違いが成否を大きく分けてしまうパターン。「もったいない」精神はとてもよいことだが、それを一つ間違えて「過去に対する執着」を持つと失敗につながりうるというパターン。いろいろな失敗パターンが語られています。
成果主義がうまくいかない場面についても「目標押し付け症」「総合評価濫用症」「管理職不適応症」などいくつかのパターンで解説されています。人事政策や評価に関わっている立場の者にとって、それぞれの説明にうなずける部分が多くあるでしょう。
当ブログでは“人の身体や特性を測る”ことを一つのテーマとして繰り返し採り上げています。本書の「必ずしも数値で計測できるものばかりではないのに、あらゆる部署に目標管理を適用しようとする」といった失敗事例からは、あらためて人事測定・評価の難しさが認識されます。
さまざまな事故・事件について著者がどう“料理”しているかは、ぜひ本書を読んでみてください。一つひとつの事例を深追いしたい方にはやはり少し物足りないところがあるかも知れませんが、それでもさまざまなエッセンスが煮詰まって入っていると思われるのではないでしょうか。一般向け新書判なので分量は少なく、かつ分かりやすい表現になっているので、一気に読むこともできます。頭がスキッとする気がします。