そもそも「人を測定するためのテスト」とはどのようなもので、どのように行われるべきものなのでしょうか。「テスト基準」なるものが2006年4月に公開されていますので、興味がある方はぜひ読んでみて下さい。
「テストの開発、実施、利用、管理にかかわる基準」
日本テスト学会 http://www.jartest.jp/ から入って http://www.jartest.jp/testsite/testkijyun/testkijyun3.htm
直接テスト実施にかかわりがなくても、人事管理関連の仕事をされている方には基礎知識として役に立つでしょう。「基準」というくらいですから、考え方や手順を用語の定義をはっきりさせながら構造的にきっちりと表現しているのですが、ここではできるだけ「基準」に示されたとおりの用語を使いながらも、少し簡略化した書き方でアウトラインをご紹介します。
■テストの開発から実施すべての流れ
そもそもテストとは何かというと、「能力,学力,性格,行動などの個人や集団の特性を測定するための用具」(0.2節)です。本blogの視点で言うと、アセスメント(人事測定)に欠かせないツールと位置づけられます。
テストが現実に役立つものとなるためには、受検者が質問項目に応えた回答から直接得点化された素点を、意味ある数値である尺度得点に変換するプロセスすべてについて考えなければなりません。たんに「それらしきテスト問題を作ればよい」というものではないのです。
開発する者としては、次の流れを確実に視野に入れることが必要です。
●基本設計
●測定内容の定義
●テスト形式(質問形式、回答形式)の設計
●採点手続の設計
●尺度の構成、標準化、共通尺度化
●尺度得点の信頼性と妥当性の確認
●メンテナンス、改訂
利用者や実施者としては、次のような流れを踏まえていなければなりません。
●テストの選択
●テスト実施の準備、受検者への説明
●実施および受検にかかわるさまざまな配慮
●採点
●結果の分析、解釈、検証
●受検者への結果報告
●記録の保管と再利用
これらほとんどの要素について、項目別にそれぞれ2~3行の短い記述ですが、考え方の基本となる事柄がまとめられています。また、コンピュータを利用したテストのあり方についても少し触れられています。「基準」から導かれる詳細な「ガイドライン」は、現在開発中のようです。
■実際の企業の現場では
実際のビジネス・人事政策の現場では、こんな理想的な準備はなかなかできないのが現実です。多くの場合は“走りながら考える体制”をとらざるを得ないことが多く、しかも走ってしまった方向からやり直しがきかずに、仕方なく荒野を走り続けなければならないといったことも起こります。
その過程で、前回の記事でも書いたような「日本の企業社会では本能的に受け入れがたいもの」にもぶつかります。たとえば、わざわざ複雑な要素を欲張って取り込もうとする思惑が測定の切り口を鈍らせたり、独特なテスト問題作りに精を出しすぎて尺度の共通化を難しくしたりします。
特にビジネス系の各種アセスメント・テスト、アチーブメント・テストがうまく機能しないことがある原因の一つは、やはりこの「テスト基準」に示されたような長期的なテストのあり方が必ずしも十分に社会に認識されていない点にあるのでは…。
だからこそ、こうした「テスト基準」が社会に浸透することで、企業の人事政策でももう少し客観的な測定論、測定技術に目が向けられることを期待したいと考えていますが、いかがなものでしょう。
■測定技術はまだ向上できる
この基準を作成、発表した日本テスト学会の理事長は、前回ご紹介した書籍「テストの科学」の著者でもある池田央氏です。
また、今回の「テスト基準」や日本テスト学会と直接関係ない追加情報ですが、比較的最近の池田先生の興味深いインタビューが次にあります。
「NAPE(全米学力調査)に学ぶ学力調査の技術」
(ベネッセ教育情報サイト BERD No.3(2006年3月発刊)
BERD http://benesse.jp/berd/center/open/berd/index.html から入って
バックナンバーのNo.4、http://benesse.jp/berd/center/open/berd/2006/03/pdf/03berd_05.pdf
副題に「測定技術の進歩が未来の学力を提起する」とあるように、人の特性を測定する「テスト」の過去、現在、未来について、わかりやすいインタビューとしてまとまっています。サイトの性格上、主に学校教育を想定した議論のようですが、社会人の能力測定についても相当に当てはまる考え方だと思われます。ご参考まで。