あとがきのような部分です。
5-3 むすび■水の表面に印刷!
茨城県の大子町では、豆腐や食べもの、さらには水の表面にまで印刷をしてしまう技術を開発した。昔から印刷は「水と空気以外ならなんでも印刷できる」と表現されてきたが、ついに水にまで印刷が出来るようになった。
と言っても、直接液体の表面を対象にインクを振りかけるというやり方ではなく、いったん地元名産のこんにゃくを加工した薄いフィルムに文字や絵を印刷する。それを水の表面に浮かべると、すぐにフィルム部分が水に解けて、後に文字や絵が残る。これで水の表面に印刷が出来るというわけだ。そこで水を振ってしまうとすぐに印刷された文字も散ってしまうが、じっとしておけばかなり長い間、水面の文字は残るという。文字や絵を描くインクも、クレソンなど地元で採れる野菜を加工して緑色、赤色など数種類を揃えた。食用なので、印刷済みのフィルムをお茶やお菓子、豆腐などに貼り付けてそのまま食べることが出来る。赤で「寿」という字が印刷された豆腐を結婚式などで出せば喜ばれるというわけだ。
大子町の例は印刷というには特殊なものかもしれないが、とにかく従来の常識が次々と覆されていくのが現代である。印刷のコンピュータ化がさらに進むと、予想も出来ない変革を生むかも知れない。■印刷システムから意識改革へ
しかし、企業としては、どんな変革にもついていける見識が必要である。また、企業経営ほど大袈裟に考えなくても、一つの事業の内部でどのような変革が進んでいるか、いつも何気なく使っているシステムが時代の流れの中で進んだものなのか遅れたものなのか、を知っておくことは損ではない。
本書では印刷業関係者を念頭に置きながら記述を進めてきたが、一般企業の文書課、PR部門、社内報等の作成に携わるビジネスマンにとっても、プロフェッショナルDTPをどのように使えばよいか、外部印刷業者をどのように使えばよいか、その際にどのような問題が発生するのかを知る上で参考になる部分もあったのではないかと思われる。
企業によっては、特に大企業で社員の平均年令が高い組織では、ワープロ一つ揃えるだけでも上司の理解が得られないという話をよく聞く。そういう組織とDTPシステムはややギャップがあり過ぎるかも知れないが、むしろ印刷の内製化によるメリットを前面に出すことで、社内OA化のトリガーとすることも可能ではないだろうか。OA化の効果は目に見えにくいが、印刷システムと限ったOA化なら、結果も見えやすいため、意外に理解されるのではないだろうか。進展によっては、印刷システムそのものが戦略的に位置付けられ、IT(Information Technology)の戦略的展開(はやり言葉で言えば「SIS」)が進むかも知れない。
そして、印刷システムを高度化、合理化しようとすれば、個々人のOA化に踏み込まざるを得ない。それこそ、社内の意識改革、組織活性化のチャンスでもある。
その意味で、「プロフェッショナルDTP」は、印刷のあり方だけでなく、あらためて広く企業活動を問い直す良い材料である。(完)