ミール研究所 MIR МИР

3-3事例9 ポストカードの文字組版を内製化

最後の事例は、印刷関連の大手企業が手がけたポストカードの例です。今では普通に広く普及してあたりまえになったサービスですね。


―― 事例9 ポストカードの文字組版を内製化 ――J社(写真関連商品販売)

■爆発的に拡大したポストカード市場
 「最近のハガキにはきれいな写真が刷り込まれたものが増えた」。年を追うごとにそう感じている人も多いことだろう。特に年賀状や結婚の挨拶状など、かなりの数が写真入りの「ポストカード」として印刷されるようになった。実際、この市場は毎年高い伸びを示しており、平成3年で約3億5000万枚にまで拡大している。年賀状だけで見ると40億枚のうちの約6.5%、2億6000万枚がポストカードで作られている。業界の観測によるとまだ当分ポストカードの需要は伸びるとされている。このため、大手フィルム・メーカーをはじめ関連各社は、どこもポストカード市場のシェア確保に懸命だ。
 J社では、こうしたポストカード制作の一部にパソコンDTPを利用している。ポストカードには、当然ながらカラー写真の脇に名前や住所、挨拶文を入れる必要があるが、この組版作業を正確かつ合理的に進めるのが一つの目的だ。

■文字要素を組版処理
 J社は、フィルム・メーカー国内大手メーカーの子会社で、印画紙(ペーパー)や機材等の写真用商品の販売・保守およびラボ(現像所)の指導、援助を行っている。親会社では印刷、製版用システムを扱っているが、ここでは特にそれと関係なくポストカードの制作について触れる。
 ポストカードは、日本全国のサービス・ショップで原稿と写真を受け付け、それを一般の写真現像焼き付けと同様に地域のラボで取りまとめて処理する。ラボはそれぞれ地域の印刷会社を利用しながら組版処理を行うが、J社では組版処理の大部分を自動化するシステムを組み上げた。
 現在の全体的な制作工程は図3-42のようになっている。

(図3-42 ポストカード作成の手順)

 お客さんからラボに集められた注文書は、特定のフォーマットに合わせて住所や挨拶文などが書き込まれている。まず、この注文書を元に文字要素をコンピュータに入力する。現在はパソコン・ベースのシステムで入力を行っている。ここで入力したデータはそのままデータベースとして蓄えられることになり、顧客データ管理、工程管理に利用される。
 入力されたデータは独自のプログラムを通して自動的に組版処理が施される。さらにデータ変換ソフトで電算写植機用データに形が変えられて、出力サービスを行っている印刷会社に出力を外注、写植機からフィルムで出力する。これを写真のネガまたはポジ・フィルムと合わせ、後は一般の写真と同様に印画紙に焼き付けてポストカードが出来上がる。
 このシステムは、組み上がり確認から写植出力データの作成に、パソコンDTPのWAVE:ACADなど市販ソフトが使われているが、自動処理のプログラムは社内で自社開発したものだ。以前、ポストカードの需要がそれほど多くない頃は組版を下請けに出していたというが、爆発的な取り扱い量の増加により、合理的なシステム構築を迫られた。「お客さんにより高品質でより早くポストカードをお届けするにはどうすればよいかを追及すれば、やはりそれに応じたシステムを組まなくてはいけない。コンピュータ処理し電算写植に持っていくことで、最終ユーザーにとってメリットのあるものになる」(販売技術部M主査)。システム構築では外部の印刷会社と共同開発するような可能性ももちろんあったが、全国の各ラボがそれぞれ別個の印刷業者を利用していることもあり、社内で開発するに至った。同社の場合、別に内製化を目指したわけではないが、ポストカード制作技術を向上するため必要に迫られて研究したところ、結果的に組版処理を外注から内製化に移行することとなった。
 また、原稿入力段階で顧客の名前と住所がデータベースされるため、これをマーケティング・データとして活用することも出来る。このシステムを入れているラボのいくつかは、時期が来ると前年の顧客データを元にポストカード注文書を封入したDMを発送する。このDMの応答率は何と「60%から65%」(S販売技術部長)という高率に達するという。
 大企業では人的、金銭的リソースをうまく使って、ごく自然に企業内印刷の実現や印刷関連業務の合理化で内製化を果たしてしまうことがある。高価な写植出力機を社内利用のために購入している大企業も増えてきたという。他で取り上げた事例と同様、ここでも印刷業者がスキップされる傾向がみえる。

■“店頭DTP”の可能性も
 筆者の蛇足になるかもしれないが、DTPの応用として、ポストカードの注文時に店頭で仕上がりイメージをお客さんに見せてしまうようなシステムを作ることは考えられないだろうか。
 注文時に、キーボードで住所氏名、挨拶文などを入力してしまう。写真はイメージ・スキャナーでラフ取り込み、文字と併せて画面でレイアウトしてみせる。必要ならば、カラー・プリンターで出来上がりサンプルを印刷してお客さんに確認してもらう。つまり注文の時点でカラー校正まで済ましてしまうわけだ。もし店頭で入力した文字やレイアウト情報を通信でラボに送ることができれば、ラボ側の入力、指定ミスも解消される。
 現在のポストカードでは、お客さんが手書きで注文書に必要事項や挨拶文を書き入れて写真と一緒に店に提出する。その段階でお客さんは出来上がりイメージを頭に描くものの、出来上がりまで一切校正に触れるわけではない。そのため、写真のトリミングが予期した通りのものにならないこともあるし、少し印刷や写真にうるさい顧客ならば、文字組みやフォント、カラー色調といった部分に大きな不満を持つこともあるだろう。
 しかし、氏名や住所が間違って印刷されているなど明確なミスならともかく、一般には少しばかり文字や写真が気に入らないからと言ってもあきらめざるを得ない。「出来上がりが確認できなければ注文する気にはならない」との意見を実際に聞いたこともある。これでは“こだわり派”をポストカードのお客さんとして取り込むのは難しいのではないだろうか。
 そんな不満は“店頭DTP”を開発すればかなり防げるはずだ。デモンストレーション効果もあり、店の売上増につながるのではないだろうか。キーボードで難しい漢字も正確に入力できなければいけないとか、カラーの正確な色調まで店頭で校正することができないとか問題点はあるだろうが、可能性は十分にあると予想できる。


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お知らせ他

この文章は、1992年にJICC出版(現・宝島社)より発刊した「プロフェッショナルDTP」(著者・松山俊一)から本文を抜粋してまとめたものです。内容に少し加筆編集を加えていますが、概ね原文のまま掲載しました。執筆時期が1992年なので、書かれている内容・情報はかなり古くなっていることにご注意ください

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