ミール研究所 MIR МИР

1-3 印刷とは情報伝達である

電子化により、印刷の進め方がどのように変革されていくのかを簡単にまとめました。


1-3 印刷とは情報伝達である

■印刷はコミュニケーションに使命がある
 印刷業は、もとを正せば文字やイメージといった各種情報を他人に伝達することが使命である。人と人とのコミュニケーションを有効に働かせる手段として、紙媒体への印刷を行ってきた。なにしろ紙というものは非常に便利な媒体であり、これからも決してすたることはないだろう。だが、コンピュータはコンピュータで、情報を収集、加工、伝達する道具としては他に類を見ない卓越した能力を持っている。
 印刷とコンピュータとは、表現する媒体に違いがあるにしても、「情報伝達」という側面でほぼ同様の機能を果たすものなのである。むしろ情報伝達こそが印刷やコンピュータを必要とする根源的なコンセプトなのだ。
 ところが、従来から印刷業者はコンピュータ化に必ずしも積極的だったとはいえない。と言うより、コンピュータという複雑怪奇な機械を理解し、日常作業レベルに持ち込むには、技術的側面のみならず、人間的側面、経済的側面において越えるべきハードルがあまりにも数多くあり過ぎたのだ。だが、これからは、従来のままの印刷、組版といった範囲から意識が抜け出ない業態では、その価値を失うことになるだろう。
 かといって、印刷業は業界内で互いに仕事を受発注する構造になっているため、業者が一人で力コブを作ってもラチがあくものではない。最終ユーザーを含めた業界の意識改革が必要条件である。そして、その必要条件はまさにいま整いつつある。
 大日本印刷、凸版印刷をはじめとした大手印刷会社は、とっくに事業範囲を大きく拡大しており、電子化システムを多数導入している。建設業で言えばゼネコン、あるいは総合商社的な立場にある大手商社が準備を整えた今、次は中小印刷業が電子化を進める段階である。コンピュータ・システムの技術的環境も整いつつあり、比較的安価な価格でシステム導入が可能になったことも、印刷業一般の近代化を促進している要素である。
 そして何よりも、顧客や関連業種、異業種が従来型の印刷業の範囲を侵食しつつあることが大きい。すでに印刷システムを業界だけで完結したものとしてとらえることができなくなった。そういった環境変化のもとで、印刷の電子化を考える必要がある。

■「電子出版」の概念とは
 一般に使われている電子出版(Electronic Publishing)という言葉には、本章で既に説明した2種類の意味、すなわち
(1) DTPなどコンピュータを利用して出版物を作ること
(2) CD-ROMなど電子媒体を対象に出版すること
がある。
 印刷業者一般から見ると、雑誌、書籍などの「出版物」は印刷業が扱う業務全体のうち約20%に過ぎず、チラシ、パンフレット、カタログなどの広告物、ハガキ、名刺などの“端物”、ポスター、ビジネスフォームといった商業印刷物が大半をしめる(表1-1)。ここで、出版物にとらわれた考えに傾かないようにしたい。つまり、
(1)コンピュータを使って印刷物を作ること
(2)電子媒体を対象に印刷をすること
を含めて電子出版と呼ぶ。

――― 表1-1 印刷物の種類 ―――
表1-1

 本書ではこのうち(1)「コンピュータを使って印刷物を作る」を主たる話題としてとりあげる。コンピュータ印刷システムにはどのような種類のものがあり、どのように導入すればよいか、業務改善をどのように図ればよいかが中心テーマであり、第2章でその内容を検討する。
 第3章では、現実にある事例を基に第2章を裏付けることが目的である。印刷業界だけでなく業界外(周辺)における実例を計9社研究することで、読者が電子出版を身近にとらえることができることを狙っている。単にノウハウの解説というより、現場のエピソードなどを交えながら、ケースごとにいきさつをみていくことにする。
 (2)の「電子媒体への印刷」については、主に第4章で「未来像」として解説する。CD-ROM出版がやや関心を集めるようになったとはいえまだ本当に実用的といえる事例は少ない。第3章で事例として一部触れているが、将来像として概略のみに触れることにする。
 第5章は「むすび」に位置づけられる章である。コンピュータ印刷システムの運用が経営と不可分のものであることは疑いようもないことなので、あらためて印刷業の経営と環境要因について概略をまとめた。
 図1-1をさらに発展させてマルチメディア化を含めて印刷の概念図を描けば、図1-5のようになるだろう。

――― 図1-5 電子化がもたらす印刷の変革概念図(2) ―――
図1-5

 「印刷とは情報伝達である」ことを念頭に置きながら、以下の章に進むことにしよう。


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お知らせ他

この文章は、1992年にJICC出版(現・宝島社)より発刊した「プロフェッショナルDTP」(著者・松山俊一)から本文を抜粋してまとめたものです。内容に少し加筆編集を加えていますが、概ね原文のまま掲載しました。執筆時期が1992年なので、書かれている内容・情報はかなり古くなっていることにご注意ください

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