- Professional DTP - はじめに
この文章は、1992年にJICC出版(現・宝島社)より発刊した「プロフェッショナルDTP」(著者・松山俊一)から本文を抜粋してまとめたものです。内容に少し加筆編集を加えていますが、概ね原文のまま掲載しました。執筆時期が1992年なので、書かれている内容・情報はかなり古くなっていることにご注意ください。
はじめにコンピュータの登場は、世の中をさまざまな形に変革している。パーソナル・コンピュータ(パソコン)に代表される小型コンピュータがビジネスや家庭に深く入り込み気づかない間に生活を変えていることなど、いまさら言うまでもないことだろう。
印刷の分野ももちろん例外ではない。と言うより、電子化の波を最も強烈にかぶってしまった分野といえる。
コンピュータはまず文書作成機(ワード・プロセッサ:ワープロ)としての効用から認められ、一般に普及していった。それまで印刷業者なしには決して活字のようなきれいな文字を並べた文書の印刷ができなかった。しかし今は、コンピュータによる文書処理技術の発達により、誰でも実に手軽に文書作りができるようになった。
さらにコンピュータの普及が進むに連れ、一般企業において高性能なワープロやデスクトップ・パブリッシング(DTP:DeskTop Publishing)と呼ばれる企業内印刷システムが普及した。高品質な出力機も比較的簡単に手に届くようになり、印刷の“素人”でもそれなりの品質で印刷ができるようになった。
一方、専門技術者向けにはCTS(Computerised Type Setting)をはじめとした専用コンピュータ・システムが発達し、いくばくかの批判を浴びながらも従来型システムに置き替わっていった。その間、コンピュータならではの特徴が生かされ、文字処理だけでなく画像処理を含めたトータルなシステムへと移り変わりつつある。
印刷業者と印刷を発注するクライアント側の双方がこうした電子化に踏み出した結果、両者の関わり方は変質した。プロとしての印刷業者に求められる役割も、DTPシステムを擁するデザイナーや編集者達の役割も急速に変わりつつある。従来型印刷の枠は崩れてしまった。― 電子出版 ―の時代に入ったのだ。
本書は、こうしたコンピュータを応用した各種印刷システムの内容と、導入について解説した入門書である。システムの選択/導入のポイントやその際の問題点について、実践的なガイドとなることを目指している。読者対象としては、組版業者、製版業者、軽印刷業者など印刷のプロフェッショナルと言える方々だけでなく、広告代理店や出版社、制作プロダクション、編集プロダクション、さらには一般企業でDTPを本格活用しようとなさっている方々を想定している。
これまでDTPシステムに関する書物は数多く出版されている。Macintosh(マッキントッシュ)パソコンとポストスクリプトの利用ノウハウについても情報は少なくはない。だが、コンピュータ処理がプロの印刷業者にとってどのような意味を持つのかを解説した書籍はそれほど多くはないようだ。また、電算写植を視野にいれながらどのようにDTPシステムを位置付ければよいかについても、一部の専門家以外にとって情報が不足している。「プロフェッショナルDTP」という書名の意味は、印刷業務にとってシステムがどういう役割をするのか、またはどのように導入し業務改善を図ればよいのかに基本的な切り口を求めているところにある。コンピュータに詳しくない方々にとっても理解できるよう、なるべく平易な表現をするよう心掛けたつもりである。
筆者は印刷に関するプロフェッショナルでもコンピュータ技術者でもなく、さまざまな業種の企業経営をお手伝いさせていただいているコンサルタントである。そのため、第一線で活躍している印刷のプロフェッショナルやコンピュータ技術者とは、やや事実のとらえ方が異なるかも知れない。
しかし視点が異なるからこそ、印刷現場とシステムのミスマッチや組織と技術のせめぎ合いといった、今まであまり書物で表現されることのなかった問題について触れることができたのではないかと考えている。この視点が、お読みいただいた方々に少しでも参考になれば幸いである。
最後に、この本の執筆にあたり取材に快く応じていただいた多くの関係者の皆様には深く御礼を申し上げたい。特に第3章<事例研究>に取り上げた各企業の担当者の方々には、記事掲載のために尽力いただけて誠に感謝の念にたえない。
また、JICC出版局の江澤隆志マーケティング部長には企画から編集の最終段階まで綿密なご協力をいただいた。シンプルプロダクツ平田憲行社長には企画段階からさまざまなアドバイスと情報を提供していただいた。この執筆企画自体、江澤氏と平田氏なしには実現しなかったものであり、その意味で筆者はプロジェクトの一翼を担ったに過ぎない。
あらためて多くの関係者の方々に感謝の意を表する次第である。
松山 俊一
1992年7月