ものづくりの復権 01-デジタルFabrication

「メーカー・ムーブメント(Maker Movement)」の話題が、一部の限られた人たちだけでなく、社会一般に広がる時を迎えました。日本では2012年後半くらいから、一般ビジネス誌でもこの流れを採り上げた記事が連続しています。

デジタルFabrication関連書籍
〔デジタルFabrication関連の書物〕

※「デジタルFabrication」「パーソナルFabrication」も「メーカー・ムーブメント」と概ね同じ文脈で使われます。本稿では「デジタルFabrication」という言葉を主に使うことにします。

■個人まで降りてきたデジタルものづくり
デジタルデータを基に3次元の物品を作り出す技術や機器はもちろん昔からあって、CAD(設計)、CAM(生産)、CAE(エンジニアリング …強度計算など)は半世紀近い歴史があります。昔は大型コンピューターが必須でした。それからミニコン、ワークステーション、パソコン~、とどんどん手元で扱えるよう進化しました。今では大規模製造業はもちろん、中小零細企業や、必ずしも高い専門製造技術を持たない企業であっても、当然のように使われる道具となりました。

しかし、さすがに個人がこれらの機材を扱うには費用面からも利用技術面からも高い壁があり、例えば家庭にそうした製造機械を持ってきたり、ものづくりの技術・技能を持たない一般人が使いこなしたりできる代物ではありませんでした。ほんの1~2年前までは…

その状況が大きく変化し、個人レベルでも何とか届くところに近づいています。それがまさに2013年の今、現在進行形の話です。象徴的な道具が「3Dプリンター」。デジタル化された物体のデータをパソコンからアウトプットし、3次元の物体を作ることができます。現在は熱で溶かしたプラスティック材料(ABS樹脂など)を精度よく固めて形作る方式が、普及型3Dプリンターの主流です。3Dプリンターの話題を耳にしない日は少なくなりました。

■Fabの世界がもたらす機会と脅威
デジタルFabricationによる社会環境の変化は、これまでものづくりをしてきた多くの関係者にいずれ大きな影響を与えることが確実です。とりわけ日本の中小製造業のようなこの新技術と隣接する世界で暮らしている人たちに、計り知れないほど大きな「機会(チャンス)」をもたらすはずです。同時に「脅威」にもなるでしょう。それに気づいている人と気づいていない人と、気づいているけれど考えないようにしている人(?)と、それぞれいるようです。

デジタルFabricationで一体何ができるかは、まだ混沌としていて分かりづらいところです。私もまだまだよく状況を理解していません。さまざまな事例が世界中に出てきていますので、いろいろと検索してみてください。

ただ、この流れを見て個人的に“実に似ている”と感じるのが、かつてDTP(デスクトップ・パブリッシング)が世の中で注目され始めた時の状況です。アップル社のパソコン(マック)とアルダス社のレイアウト・ソフトウェア(ページメーカー)、そして「PostScript搭載のレーザープリンター」の登場でDTPの世界が現実のものとなったのは1985-86年頃のこと。当時、印刷やデザインのプロからは「おもちゃ」程度にしか見られていなかったシステムでした。

■2次元から3次元へ
しかし徐々にDTPは本格化し、2次元の印刷物、文字組版、グラフィック・デザインの世界で、それまでのアナログ世界の常識を駆逐するに至りました。当時も印刷業者・関係者は、その流れに気づいて積極的に乗った人、反発していた者、たかをくくって無視をしていた者など、さまざまでした。そのせめぎあいの様子を経営の観点から私(松山)が本にまとめたのが1992年でした(本サイトのProfessional DTP参照)。

かつては2次元印刷物の世界(のみとは言いませんが、ほとんど)。そしてそこから20年以上経った今、3次元物体の世界へ。デジタル化とパーソナル化が既存の産業を底流から変革しようとしているという意味で、とても似た構図が描けるのではないかと思われます。
この話題について、過去に遡って思うところがさまざまあります。