ビジネス文書をわかりやすく書くための技術がコンパクトにまとめられている実践書。「論理的でわかりやすい文書」を書きたいと考える方に役立つ本でしょう。報告書や提案書の組み立て方を事例とともに解説している点などが特に役立ちます。
【高橋慈子(著)、2009年、秀和システム刊】
■具体的事例から気軽に読み進める
「ロジカルな考え方」というものを大上段に振りかざした書籍は世の中にたくさんありますが、本書についてはあまり構えて考える必要はありません。タイトルからして「ロジカル・ライティング」の基本を示している本ですが、抽象論でなく事例を主に解説されていて、気軽に読み進めることができます。簡易トレーニングブックのような位置付けにも、実際に文章を書くときに横において参照するハンドブック的な役割にもなりそうです。
〔目次〕
第1章 「ロジカル(論理的)」である強みを知ろう
第2章 ロジカル・シンキングの基本を体験しよう
第3章 ロジックを「見える化」しよう
第4章 ロジックを「文書」に落とし込もう
第5章 わかりやすく簡潔に──ライティング技術1
第6章 文章の説得力を高める──ライティング技術2
大きく分けると、第1~3章が「論理的に考え方をまとめる」ための意識付けとテクニック、第4~6章が「考えを文章という表現に変えていく」ための構成方法やテクニックの解説です。
たとえば第4章では「議事録」「報告書」「提案書」について、ロジックの組み立て方から具体例の提示などが示されています。オーソドックスですが、あらためて読んでみると参考になる説明が書かれています。
当サイトでは以前「ビジネス能力検定1級テキスト」というテキストをご紹介しました(この記事を書いている弊社松山は著者の一人)。同テキストシリーズに盛り込まれているビジネス・ドキュメントの各実例が参考になることを記しましたが、文書作成に至る流れや具体的説明のきめ細かさについては、こちら(高橋さんの本)の方がしっかりしているでしょう。
■身体で覚えている暗黙知を文書化するには?
以下、本書のテーマからは少し外れるかもしれません(いつもながら、書評そのものではなく別の話に膨らんでしまうことをお許しください)。
ビジネスと言ってもさまざまな現場があります。日常的に多種類の文書を作ることが仕事となっている企画・マーケティング・財務といったデスクワーク主体の職種、コンピュータのプログラマー、データ解析を日常的に行っている技術職など、それぞれ高度な文書作成能力を必要とします。そんな方々には本書をはじめとしたロジカル・ライティング、ロジカル・シンキングの指南書は、けっこう実践的なものになります。
一方で、工場や店舗、出先など現場で働いているフィールド・ワーカー、技(技術でなく技能)を肌で獲得しながらそれを次世代に伝える役割も持つ職人、感性の世界で日々仕事を進めているクリエーター…。そんな方々の頭と身体の中にある暗黙知を、一部だけでもよいから文書などの形式知になんとか落とし込みたいという場合、アカデミックな匂いのする解説書はほとんど役に立たないことが多いものです。
「もやもやしている頭の中をうまく整理する」という以前に、そもそも言葉として表現できるのかとか、できるとしても現場で役立つ表現になりうるのかとか、前提条件からして不確定です。しかも、現場仕事の片手間にそんな難しい文書作成をすることなどとてもできそうもない…
本書のような実践書なら役立つ手がかりが含まれていそうですが、それでもなお“技の表出”に至るまではステップが必要になります。今後急速に進むと推測される熟練技能者の大量定年を前に、そんな「現場に密着した暗黙知の形式化」につながるドキュメント作成ノウハウが整理されていってほしいものです。
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技の伝承と人材育成1(JILPT調査より)