身体を測る 11-脳の非侵襲的測定

脳の内部を客観的に測る装置として、fMRI、NIRSなどいくつもの測定器が普及しています。医学的な用途に限定されず、マーケティング、心理学、社会科学などさまざまな分野に応用されつつあります。ただし新たな“迷信”には騙されないよう。

脳測定
〔主な脳の内部測定機比較〕

■次々に研究される脳の内部
脳の内部を測定し画像などに投影する検査手法(脳イメージング技術)が、ここのところ注目を浴びています。脳を外科的に切り開くのではなく、電磁波や近赤外線などで非侵襲に測定できる技術で、行動と脳番地などとの関連を調べることができます。

これらは、例えばある種の心理学テストとか、アセスメント、アンケートやヒアリングを介した広告効果の測定といった方法に比べ、明らかに客観的な測定です。なにせ人間は、アンケートなどの答では意識的、無意識的にたくさんのウソをつきます。科学的定量的に測定しているつもりであっても、言葉を介した測定では本当の本音が埋もれてしまいかねないものです。それに比べると、脳の物理的な変化を直接汲み取った結果は、測定という意味においては確かに客観的です。

冒頭の表は次の6種類の装置(手法)を比較したものです。
・fMRI(機能的磁気共鳴画像法 :functional Magnetic Resonance Imaging)
・NIRS(近赤外線分光法 :Near InfraRed Spectroscopy;光トポグラフィー)
・PET(陽電子放射断層撮影法 :Positron Emission Tomography)
・X線CT(X線コンピューター断層撮影装置 :X-ray Computed Tomography)
・MEG(脳磁図 :Magnetoencephalography)
・脳波(EEG :Electroencephalogram)

それぞれ長所短所あります。fMRI、PET、X線CT、MEGの場合は、大きな測定装置の中に頭や身体を入れてじっとしていることが求められます。PETとX線CTは放射線による被曝が多少なりともあるという意味で、完全な非侵襲とはいえません。NIRSや脳波は、細かいイメージ解析というより、頭に10~30個つけたプローブ(センサー)単位での測定です。

MEGは装置が大げさな割に空間分解能が低く、医療的目的で使われることが多いようです。医療的な目的でない場合、被爆があるPETとX線CTは選ばれません。残るfMRI、NIRS、脳波計について、概ね次のように使い分けられているようです。

(a)少し大げさになってもよいから、何かの作業に対して脳のどの部位が反応したかといった細かい関係を分析したい → fMRI
(b)人間の行動を前提とする場面(例えば広告やコンテンツに対する反応を見ながら、リアルタイムでその反応を調べるといった場面)を想定 → NIRSまたは脳波測定

■気をつけたい「脳科学の迷信」
先にも触れように、脳内の物理的測定は「測定という意味において客観的」でしょう。でも、脳内物質の単なる数量化が直接意味のある何かを示しているとは限りません。条件次第で「アセスメント」になりえますが、「イバリュエーション」ではありません。測定結果を意味のある解釈につなげたり、現実の評価の根拠としたり、人の能力育成に反映させたりするには、事例ごとに注意深く準備し判断する必要があるはずです。

世間では「脳科学」というキーワードが花盛りです。上のような研究が進んできたことを受けて、専門家だけでなく一般の人も脳についての関心を高めているわけです。しかし一方で、一般受けする話は少し間違うと似非科学に陥りかねません。神経神話(neuromyths:ニューロミス)、ようするに現代の“迷信”がこれから山のように生み出され、それを信じてブームらしき傾向もでてくるでしょう。テレビのドラマやバラエティで採り上げられているいわゆる“脳科学”はこの種の神経神話ばかり、という批判も少なくありません。

似非科学とまではいわなくても、次のようなことは避けたいものです。
・測定結果から短絡的に結果を導いたレッテル貼り(性格や行動傾向の決めつけ)
・脳トレの他人への強要

くれぐれもご注意を。

▽参考図書:
「脳科学と心の進化」(心理学入門コース7)
【渡辺茂、小嶋祥三(著)、岩波書店、2007年】

「神経科学 ― 脳の探求」
【ベアー、コノーズ、パラディーソ(著)、加藤宏司、後藤薫、藤井聡、山崎良彦(監訳)、西村書店、2007年】

「図解入門ビジネス ロジカル・ライティングがよ~くわかる本」

ビジネス文書をわかりやすく書くための技術がコンパクトにまとめられている実践書。「論理的でわかりやすい文書」を書きたいと考える方に役立つ本でしょう。報告書や提案書の組み立て方を事例とともに解説している点などが特に役立ちます。

ロジカル・ライティングがよーくわかる本
【高橋慈子(著)、2009年、秀和システム刊】

■具体的事例から気軽に読み進める
「ロジカルな考え方」というものを大上段に振りかざした書籍は世の中にたくさんありますが、本書についてはあまり構えて考える必要はありません。タイトルからして「ロジカル・ライティング」の基本を示している本ですが、抽象論でなく事例を主に解説されていて、気軽に読み進めることができます。簡易トレーニングブックのような位置付けにも、実際に文章を書くときに横において参照するハンドブック的な役割にもなりそうです。

〔目次〕
第1章 「ロジカル(論理的)」である強みを知ろう
第2章 ロジカル・シンキングの基本を体験しよう
第3章 ロジックを「見える化」しよう
第4章 ロジックを「文書」に落とし込もう
第5章 わかりやすく簡潔に──ライティング技術1
第6章 文章の説得力を高める──ライティング技術2

大きく分けると、第1~3章が「論理的に考え方をまとめる」ための意識付けとテクニック、第4~6章が「考えを文章という表現に変えていく」ための構成方法やテクニックの解説です。

たとえば第4章では「議事録」「報告書」「提案書」について、ロジックの組み立て方から具体例の提示などが示されています。オーソドックスですが、あらためて読んでみると参考になる説明が書かれています。

当サイトでは以前「ビジネス能力検定1級テキスト」というテキストをご紹介しました(この記事を書いている弊社松山は著者の一人)。同テキストシリーズに盛り込まれているビジネス・ドキュメントの各実例が参考になることを記しましたが、文書作成に至る流れや具体的説明のきめ細かさについては、こちら(高橋さんの本)の方がしっかりしているでしょう。

■身体で覚えている暗黙知を文書化するには?
以下、本書のテーマからは少し外れるかもしれません(いつもながら、書評そのものではなく別の話に膨らんでしまうことをお許しください)。

ビジネスと言ってもさまざまな現場があります。日常的に多種類の文書を作ることが仕事となっている企画・マーケティング・財務といったデスクワーク主体の職種、コンピュータのプログラマー、データ解析を日常的に行っている技術職など、それぞれ高度な文書作成能力を必要とします。そんな方々には本書をはじめとしたロジカル・ライティング、ロジカル・シンキングの指南書は、けっこう実践的なものになります。

一方で、工場や店舗、出先など現場で働いているフィールド・ワーカー、技(技術でなく技能)を肌で獲得しながらそれを次世代に伝える役割も持つ職人、感性の世界で日々仕事を進めているクリエーター…。そんな方々の頭と身体の中にある暗黙知を、一部だけでもよいから文書などの形式知になんとか落とし込みたいという場合、アカデミックな匂いのする解説書はほとんど役に立たないことが多いものです。

「もやもやしている頭の中をうまく整理する」という以前に、そもそも言葉として表現できるのかとか、できるとしても現場で役立つ表現になりうるのかとか、前提条件からして不確定です。しかも、現場仕事の片手間にそんな難しい文書作成をすることなどとてもできそうもない…

本書のような実践書なら役立つ手がかりが含まれていそうですが、それでもなお“技の表出”に至るまではステップが必要になります。今後急速に進むと推測される熟練技能者の大量定年を前に、そんな「現場に密着した暗黙知の形式化」につながるドキュメント作成ノウハウが整理されていってほしいものです。

▽関連記事:
技の伝承と人材育成1(JILPT調査より)