技の伝承と人材育成3(指標化の試み-後編)

人材育成という観点から「個人力」「集団力」のどちらを重視するかを指標化し、統計数字から事業所特性別に計算してみました。業種・業態・規模などが異なる各企業の、モノづくり、ヒトづくりのヒントとして活かせるかもしれません。

分析図3-1
〔図3-1 貴事業所では、技能系正社員にどのような知識・技能を求めていますか〕

■指標算出の考え方は単純
前々回、JILPT(労働政策研究・研修機構)の調査「ものづくり産業における人材の確保と育成-機械・金属関連産業の現状-」(※1)を紹介しながら、技能者育成の2つの方向性(個人的伝承とシステム的伝承)について触れました。前回は、同調査結果のごく一部を使って、2つの方向性の目安となりうる「指標」作りを行いました。今回は、指標化したものを少し分析してみます。

前回少し面倒くさい計算をしましたが、考え方は単純です。ようするに「技能系正社員を対象に実施している教育訓練」の回答7つに対しプラスまたはマイナスの重みをかけて点数を足し合わせただけのこと。7つの選択肢とその「重み」にあたるものが冒頭の図3-1です(※2)。

図3-1で、下3つの選択肢にプラスの重みがかかっているのは、
(A) 個人力:熟練技の直接的な伝承。現場作業を通じて伝える。暗黙知 
に重点があること。上4つの選択肢がマイナスなのは、
(B) 集団力:技の標準化による伝承。文書化など共有財産にする。形式知
に重点があること、を意味します。

図3-2は、「技能系正社員に求めている知識・技能」の回答6つに答えた企業にする得点を意味します(※3)。図で、上の3つを選択肢として選んだ企業は「(A) 個人力」を重視する傾向があり、下3つを選択肢として選んだ企業は「(B) 集団力」を重視する傾向がある、と意味づけることができます。いや、意味づけ自体は少し主観的です。元の調査結果から立てた仮説に照らし合わせると、そんな判断ができるというわけです。

分析図3-2
〔図3-2 貴事業所では、技能系正社員を対象にどのような教育訓練を実施していますか〕

調査サンプル2015件全体について前回の式で計算をすると「-1.44」になりました(※4)。

■事業所の特性別に指標を計算
さて、分析対象となったJILPTの調査結果に、「技能系正社員を対象に実施している教育訓練」と事業所のいろいろな特性別にクロス集計をとった結果が掲載されています(図表7-1-1)(※5)。例えば「精密機械機器製造業」で「上司が部下を、先輩が後輩を日常的に指導」を選んだ事業所は「60.2%」、同「外部の教育訓練機関などが実施している研修を受講させる」は「49.4%」…などです。

これらの数字を使って、事業所特性別の指標を計算してみました。グラフにしたものが以下にあげる図3-3と図3-4です。

分析図3-3
〔図3-3 技能者育成の傾向(指数)1〕

全体平均と大きく離れた数字が出た特性は、何らかの意味を持っているとしたいところです。厳密に統計的に考えれば「なんとか検定」をして有意差があるとかないとか言わなければならないところでしょうが、ここではさすがにそこまで追求しません。全体の指標が「-1.44」(≒1.5)でしたので、ここはばっさり独断で、
・点数が-3.0以下なら、集団力重視
・点数が 0.0以上なら、個人力重視
の傾向があると判断することにしましょう。

例えば、【主要製品の製造に必要な技能】別に指標をとると、すべての特性について-0.66(測定・検査)から-2.07(プレス)と、平均値からさほど大きく離れていない数字が出ています。つまり、必要技能によってとくに「集団力←→個人力」のどちらかに偏る傾向は少ないということになります。

■自社ブランドを持つ会社は「個人力」重視?
【業種】でみると、特性別にけっこう差が出ています。図でわかるように、
・精密機械、輸送機械は「集団力」、
・工業用プラスチック、非鉄金属、電気機械は「個人力」
重視という結果になります。一つの見方としては、精密機械や輸送用機械はある程度まとまった量の標準化された製品を製造できる分野であり、一方プラスチックや非鉄金属は個々の仕事ごとに一品一品作りこむことが多い、ここから差が出た、とも受け取れます。それぞれの業種に関わっている方から、ご意見をお聞きしたいところです。

【業態】でみると、極端な差が見えます。「販社や他メーカーのブランドで販売」している会社は「集団力」、「自社ブランドで販売」している会社は「個人力」重視ということになります。これも、理由付けをしようと思えばいろいろできそうです。

■非正規労働者の比率や役割で大きな差
続きがあります。

分析図3-4
〔図3-4 技能者育成の傾向(指数)2〕

【事業所全体の従業員数】別では、明確に傾向が現れています。規模が小さい会社(50人以下)は「個人力」、規模が大きい会社(従業員100人以上)になると「集団力」が重視されるということになります。感覚的にもかなり納得のいく結果ではないでしょうか。ただし300人以上、もう中小企業とはいえない規模になるとまた事情は違ってくるのか、平均レベルの得点に戻っています。

【過去3年間の売上高・出荷額の推移】については、特性別にほとんど差はありません。

【技能者・技術者に占める非正規労働者比率】別にみると、10%未満か10%以上かでくっきり差が出ているのが面白いところです。非正規労働者比率が低い企業は「集団力」、高い企業は「個人力」重視ということになるのでしょうか。これもいろいろな解釈ができそうですね。

【技能者・技術者として働く非正規労働者の仕事】では、非正規労働者にも技能習得に年数がかかる仕事を担当させている事業所について、「個人力」重視という結果がでています。

【事業所の強み(複数回答)】別では、低コストが強みの会社は「集団力」、製造現場の技能が強みの会社は「個人力」重視となります。これまた、かなり納得できる結果ではないでしょうか。

■モノづくり、ヒトづくりのヒントに
「こんな指標、本当に意味があるか」と問われると、はっきり自信を持って答えられるまではいきません。あくまでも試みにすぎません。しかし、上であげた特性別の指標を計算のように、なかなか興味深い結果がでています。現実と照らし合わせて分析を深めると、さらに面白い考察ができそうです。

業種・業態・規模・志向性それぞれが異なる中小企業のモノづくり、ヒトづくりを考えるとき、手がかりを見出す一つのきっかけになるのではないかと思います。いかがでしょうか。

【注】
※1 JILPT「調査シリーズ No.44」
※2 図3-1の数値は、前回の図2-1の因子1方向(縦方向)の成分にあたります
※3 図3-2の数値は、前回の図2-2の因子1方向(縦方向)の成分にあたります
※4 点数は相対的なものなので、この点数がマイナスであることをもって「全体的には個人力(A群)より集団力(B群)が重視されている」という言い方はできません。しかし前々回の記事で触れたように、元の調査結果に戻って考えれば、「今積極的に手をつけていきたい課題はどちらかというと個人力(A群)より集団力(B群)」との傾向があると思われます。
※5 同調査p.112「現在、技能系正社員を対象に実施している教育訓練 回答事業所の特性による異同」


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