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コンビニ 4-個性の追求は難しい

「コンビニは、仕方なく行く場所?」 いくらコンビニ基本型のビジネスモデルが優れているといっても、好んで行く消費者がどれほどいるものでしょうか。

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[CVS新業態の位置づけ2]

■結局“基本型”に回帰していくのか?
記事「コンビニ 1-新業態、増える」で、生鮮型コンビニやファストフード型コンビニの位置づけを試み、続く記事2本でそれぞれの実店舗の様子について軽く触れました。これらの中で「新業態は、その特徴を出そうとすればするほど他の業態に近づく」「基本型に収束していく可能性が強い」といった意見を書きました。

先に示したコンビニ新業態ポジショニング・マップを、冒頭の図のように少し単純化させました。コンビニと離れた新業態として“羽ばたっていく”ものを別にすれば、それぞれ関連業態をかすめてブーメランのように戻り、コンビニ基本型の強化として根付くのではないかと推測しています。

■生鮮棚をどう充実させるか
イートインを持つファストフード型コンビニ(図の左下方向)は、どこからみても売場面積に対する効率が低く、そのまま多店舗化するには無理があります。従来からミニストップがやっているような小ぶりなイートインにとどまらざるを得ないのではないかと推測されます。調理が必要な中食メニューなどは、うまい形で取り入れられるところもありそうです。

生鮮型コンビニ(図の右上方向)は、少なくとも店頭を見る限り生鮮品が置かれているがゆえの強みはあまり感じられず、均一料金も不徹底にならざるを得ない状態なので、コンビニ基本型と決定的な違いがよくわかりません。ただし、バックヤードや本部のオペレーションにはかなりの違いがあるはずで、そこをどう活かすかはチェーン全体の戦略として重要でしょう。

生鮮食品を安定的に取り入れるため、とくに青果物に関しては卸売市場など大量仕入に向くルートと契約農家など個別提携するルートとを併用する必要があるでしょう。いくつかリスク・テーキングをしながら仕入ルートを確保しなければなりません(すみません、このあたりの実態がどうなのかを当方は把握していません)。ここまでやれれば、本部としての機能が発揮できるということになるのでしょう。

また、雑貨や加工食品、日配品の一部では、売価を100円前後に揃えたPB(プライベート・ブランド)商品の存在価値も出てきそうです。そのためには、資本系列に総合スーパーがある7-11(イトーヨーカドー)、ローソン(ダイエー)、ミニストップ(イオン)あたりの方が商品企画力の上で有利でしょう。もっともPB商品は一つ間違うと“安売り”のための商品というイメージが強くなるかもしれません。

既報のように、ファミリーマートと7-11は、新業態開発ではなく既存の店舗に生鮮棚を入れる展開を進めているようです。スリーエフもq’s martでやや無理な多店舗展開を目指したことを反省し、既存店への生鮮品展開を重視する方向に舵を切ったようにみえます。

図の左上方向(100円ショップ型)については、これまでのコンビニ基本型でもかなりカバーしていた領域のような気がします。つまり売り方が異なるとはいえ、実に多種の雑貨をこれまでも取り扱ってきた経験があります。ただし品揃えの上で、コンビニは「買ってすぐ使うもの」のみ、100円雑貨ショップはそれに加え「いつ使うか必ずしもわからないが、買って楽しめそうなもの」という違いがあるでしょう。コンビニ側からすると、限られたスペースに生活雑貨をどう品揃えするかという“戦術”に拠るのではないかとも考えられます。

■店、従業員、客の個性
そして問題は右下方向です。ここで「生鮮小売店」としてあるのは、普通の青果店、精肉店、鮮魚店、惣菜店をイメージしています。または地域に根付いている食品スーパーも当てはまるかもしれません。ようするに
・本来の意味で新鮮な生鮮品が相当の量または種類並んでいる
・店の人が客の求めに応じて臨機応変にオペレーションしてくれる
・その店でしか手に入りにくい商品が(ときどきでも)ある
店です。

そのためには「個店の特徴を前面に出す」「従業員の個性を活かす」「顧客ごとに異なるサービスをすることを厭わない」「ストア・ブランドの商品を持つ」といった対応が必要でしょう。言い方を変えれば「オペレーションの標準化」というコンビニ(というより多店舗チェーン一般)の最も基本となる強みを否定するようなものです。どのコンビニ・チェーンも踏み出せない領域なのかもしれません。

たとえコンビニを多用している消費者でも、コンビニに行きたくて行くという人はかなりまれだと思われます。ほとんどのコンビニ客は
・すぐに必要なので仕方ないからコンビニで探す
・少し高くても仕方がないからコンビニで買う
・まずくても仕方がないからコンビニ弁当で済ます
ものですよね。

さらに異なる視点ですが、どこの地域にも、なぜか安く雑貨や食料品を売っている、どこか“いかがわしさ”のある店というものが存在します。そういう店は品揃えがあまり一定していないものの、逆にそれが時々行くときに「こんなもんもあるのか」といった面白さや驚きにもつながる、不思議な魅力があるものです。洗練されていない分、素朴ではあり、市場(いちば)というものの活気をどこか残しています。標準化されたフォーマットとは異なる魅力があるのだと思っています。

コンビニは「標準化された便利さ」の代わりに「面白さ」も「新鮮さ」も「個性」も犠牲にしてしまっているという意地悪な言い方も可能です。仕方がないといえば仕方がないのでしょう。でも、この方向(個性化の方向)に展開することはできないものなのでしょうか。皆さんは、どう思われますか?

うーむ、もともといい加減なポジショニング・マップを土台にして、さらに無理のある話の展開をしてしまったかもしれません(!)

コンビニ 3-生鮮品揃えと均一価格

これまで弱点だった生鮮品に力を入れたコンビニ新業態のニーズは確かにありますが、既存のコンビニ・フォーマットと結局あまり差がなくなるかもしれません。

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[生鮮型のコンビニ新業態 3種]

■多店舗化が始まる“生鮮型”のコンビニ
記事「コンビニ 1-新業態、増える」でコンビニの新業態を次の3種類に分類しました。

A コンビニ基本型の補強
B ファストフード型
C 生鮮ショップ型

このうち「B型」については、前回の記事「コンビニ 2-付加価値型の“実験店”」で触れました。では「C型」はどうでしょうか。具体的に挙げると、次のようなものがあります。
・LAWSON STORE100(ローソンストア100)…ローソン
・Food style(フードスタイル)…am/pm
・99イチバ(キューキューイチバ)…サークルKサンクス
・q’s mart(キュウズマート)…スリーエフ

前々回の記事で「多店舗化まで踏み込めた新業態は『A型』のみ」と説明してしまいましたが、「C型」もいつのまにか結構多店舗化しているチェーンがあります。

■100円、99円、98円…、の均一価格
LAWSON STORE100は2005年5月に第1号店がオープンし、06年11月末ですでに76店舗になりました。ローソン本部は、標準のローソンおよびナチュラルローソンと並ぶ3つ目の主要フォーマットと位置づけています。商品の多くは、価格が税抜100円で均一です(弁当などは200円~400円程度)。ローソンのPB商品(100円対応)がいくつも目に付きます。店によって若干品揃えが異なるかもしれませんが、昔からある“地元の何でも置いている店”(または八百屋さん)を少しだけシステマチックにしたといった感じです。ようするに「雑貨店+超小型スーパー」ですね。

Food styleがオープンしたのは05年3月で、写真の下目黒店が第1号店。06年12月時点で39店舗。首都圏が主ですが、広島県にもすでに複数店進出しています。もちろん生鮮品を置いてあることが大きな特徴ですが、かといって生鮮主体というわけではなく、むしろ日用品・雑貨が結構幅広くある100円ショップ(正確には税抜98円)といった感じです。たとえば下目黒店はすぐ近くに24時間営業の食品スーパーがありますが、そこと比べると生鮮品による集客力は限りなく弱いと言わざるを得ません(あたりまえか…)。「小型100円ショップ+α」といったほうがよいような気がします。

99イチバは06年2月に第1号店オープン。06年12月現在で16店舗です。ここも、やはり全体から見ると生鮮品の比率が高い印象は必ずしもありません。税抜99円の商品が多い(資料によると80%)とはいっても、価格はかなりバラけていて一定していないように見えます。1コインショップのような打ち出し方をしていますが、オペレーション自体が普通のコンビニに近いのではないかとも思われます。

■SHOP99に近づきたいのか、それとも…
生鮮コンビニの分野では、言わずと知れた先駆者「SHOP99」があります。ただしSHOP99は、初めから生鮮“コンビニ”になろうとしたというより、同社が小型食品スーパーのあり方を考えていくなかで、結果的にコンビニと100円ショップを組み合わせたような業態になっていったとされています。

そしてそれらの成功を見たコンビニ各社が、我々にもできるかもしれないとこぞって進出したのが「生鮮型コンビニ」ということになるのでしょう。

コンビニ側が作ろうとしている新業態は、「生鮮」の強みより「均一価格オペレーションの強み」作りが主眼ではないかとも考えられます。しかしそれにしては均一価格も不完全ですし、本部システムの視点からすると、コンビニ基本型の運営システムとどこまで相乗作用があるか、かなり不透明な気もします。

もともと一般のコンビニでも、とくに北海道を地盤としたセイコーマートや、ヤマザキパン系のデイリーヤマザキなどがずっと以前から生鮮品を積極的に扱っています。また、ファミリーマートは、コンビニ基本型の店舗の中に生鮮(基本野菜、キット食材など)の棚を入れる「ファミマフレッシュ」本格展開を発表しました。セブン・イレブンも、いくつかの既存店で生鮮の扱いを実験しているようです。

結局、多店舗化できる「生鮮型」フォーマットは、実質的に上記分類で言う「A型」(コンビニ基本型の補強型)に収束していくのではないかとも予想できます。

▽追加情報
スリーエフも、全店で生鮮品の取り扱いができるよう、生鮮品の集荷機能を物流センターに持たせることにしたそうです。q’s martとは違い、小パックの野菜や精肉などが中心になるようです。(日経MJ 2006/12/18号より)

コンビニ 2-付加価値型の“実験店”

オフィス街や女性のニーズ、付加価値サービス、昼食のバリエーションに応えようとしたとき、コンビニはやけに“すまし顔”になるようです。


[付加価値型のコンビニ新業態 3種]

■女性が主役だと、何もかもが贅沢になる?
1つ前の記事「コンビニ 1-新業態、増える」で、コンビニ新業態を次の3種類に分類しました。

A コンビニ基本型の補強
B ファストフード型
C 生鮮ショップ型

このうち「B型」を具体的に挙げると、次のようなものがあります。
・Gooz(グーツ)…スリーエフ
・HAPPILY(ハピリィ)…am/pm
・ForkTalk(フォークトーク)…サークルKサンクス

安易に「ファストフード型」と呼んでしまいましたが、これはGoozとForkTalkのイメージからくるものです。店内または店先に客席があるイート・インの店作りで、購入したばかりの食事類や飲食類を座ってすぐに食べることができます。

これらの店の最大のターゲットは20代~30代の女性。女性陣の要望にきちんと応えようとすると、どうしてもいろいろなところに贅沢さがでてきます。

■好きなコーヒーの種類を選べる
今年(2006年)5月に開店したGooz渋谷3丁目店は、一見スターバックスのようなコーヒーショップのようにも見えます(Goozの第1号店は2004年2月に横浜でオープン)。売り場面積130m2で、混雑時以外店内はゆったりしているようです。置いてある商品の多くは付加価値モノ(要するにやや高め)。そしてセルフのコーヒー・コーナーで多くの種類(17種類?)から好きなコーヒーを選ぶことができるというあたりが特徴的です。一言で言うと「スタバ+コンビニ」でしょうか。

同9月にオープンしたForkTalk八重洲通り店は、コーヒーショップというイメージはあまり強くありません。20席強の客席はゆったりしていて、長居したくなるほどです。店内調理でパスタなどをサービスできるのが特徴。店内調理品もすべてテイクアウト可。もちろん、カップラーメンなどインスタント食品を買って客席で食べても構いません。「小型パスタ店+コンビニ」といったイメージでしょうか。

HAPPILY(2005年12月オープン)は、上記2フォーマットとはかなり違います。イート・インはなく、広い店舗に約7000アイテムの商品を並べているようです(オープン時資料より)。コンビニ基本形が約3000アイテム、ForkTalkが約2000アイテムですから、品目はかなり多いことになります。惣菜類やデザートなども多数揃えていますが、“女性のためのコンビニ”と強く謳っているように、化粧品関連が非常に充実しているところが目立ちます。少し偏った表現かもしれませんが「小型ドラッグストア+コンビニ」のようにも思えます。

■実験店舗の域を脱出できるか
イート・インは、以前からミニストップが実践してきました。しかし、少なくとも都会ではどうしても広い客席を用意することができず、オフィス街で、もしくは女性が安心して利用する形にはなっていませんでした。多種類のコーヒーとか調理パスタなどは期待されていなかったわけです。その他、女性誌、アイスクリーム、サプリメント、あぶらとり紙(!)、など女性向けの商品があふれて“すまし顔”の各店は、それぞれの店の近場で働くビジネス・ウーマンにある程度支持されることでしょう。

しかし、これらすべては「実験店舗」。車で言えばコンセプトカーのような位置付けなのでしょう。都心ではあまりにも空間効率が悪すぎるでしょうし、商品戦略も明らかに試行錯誤をしているようです。これらの店がこのままのフォーマットで多店舗化されることは考えにくいでしょう。実際、一部はすでにフォーマットの見直しを進めているとも伝えられています。

東京日本橋では、託児所併設のコンビニ新業態「ハッピー ローソン」が今(12月15日)まさにオープンしようとしています。これも形を変えた「付加価値型の実験店」といえそうですね。土地利用の関係もあり、約6カ月の限定営業とのこと。ローソンは1年ほど前からこのタイプの店舗開発を発表していたことからすると、実験店の開店にたどり着くまでにも、予定より長い準備期間を要したようです。

実験店だからこそ挑戦できる試みは多いことでしょう。でも、もしかしたらフォーマットを試行錯誤した結果、“普通のコーヒー・ショップ”、“普通のパスタ店”、“普通のドラッグストア”、“普通の託児所”が店の軸足となるかもしれません。もちろんそれでも、トライする価値は多分にある…、と思っています。

▽関連情報
太田美和子の取材日記 Gooz渋谷3丁目店
http://blog.goo.ne.jp/momoboom/e/0754ed437af90f2980a2462096cc4774
…Goozに限らず、小売などに関する第三者的な記事多数

次世代コンビニの情報は『次世代コンビニブログ☆』 Fork Talk(フォークトーク)
http://ameblo.jp/next-conveni/entry-10018129447.html
…Fork Talkに限らず、各コンビニ店、コンビニチェーンの記事多数

小さな石ころの上で 女性のためのコンビニ「HAPPILY(ハピリィ)」
http://blog.fujii.org/?eid=405661
…HAPPILYに限らず、小売流通ほかビジネス情報各種

銅板建築 2-古い店舗を活用し地元活性化

銅板建築を活かして店を開いた例が品川にあります。古い老舗店が廃業した跡を、地元関係者がうまい形で活用しました。

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■地元の事業者たちがNPO法人を設立
場所は北品川。旧品川宿、旧東海道に程近い場所にある居酒屋「居残り連」がそれです。地元の商売人たちが作ったNPO法人「東海道品川宿」が事業主体となっています。写真左のように、正面の銅板はかなり明るい緑色で、そこそこ繁盛している様子です。この店のほかにも北品川にあと2店ほど、同法人が運営(プロデュース?)している店舗があります(ここ以外は銅板建築の店ではない)。

NPO法人東海道品川宿 http://www.ren-shinagawa.com/ren-top/ren-top.html

「居残り」というネーミングでピンときた人の多くは、きっと落語ファンでしょう。幕末の品川宿を舞台にした「居残り佐平次」という面白い落語があります。その落語の中で料理屋の名前が出てくるのですが、ほかでもない、それがこの店の前身である鰻屋「荒井屋」です。つまり、江戸時代から続く老舗の鰻屋がつい最近までここで営業していました。2004年に惜しまれながら閉店したのですが、その銅板建築の店舗を「居残り連」として再生したというわけです。

筆者は落語にも映画にも疎いのですが、落語「居残り佐平次」を下書きにして作られたモノクロ映画「幕末太陽傳」(1957年日活、川島雄三監督、フランキー堺主演)を面白く見たことがあり、そこから「居残り佐平次」に親近感があります。居酒屋としては、客のそんなさまざまな話題、薀蓄の一つひとつがきっと酒の肴になっているのでしょう。

■銅板建築に新しいイメージを
背景には、他に比べれば活気ある商店街とはいえ、やはり近年空き店舗が目立つようになったという事情があります。この店は商店街からは外れたところにあるのですが、旧東海道沿いの商店街で年々古い店の廃業が続くのは他の商店街と同様です。放っておけば廃れていくかもしれない商店街をいかに活性化するか。地元の人たちだけでなく、商業関係者にさまざまな商売のアイデアが求められています。

そんな意味で、「連」のような再生モデルは参考になるのではないでしょうか。“昭和レトロ”の主張、地元の話題の提供、手作り商品(料理)のイメージなどを切り口に、銅板建築を一つのシンボルにしてしまうなんてこともありえませんかね。古い形そのままを残すのも手ですが、少し見方を変えて銅板建築に新しいイメージを吹き込んでみたい気もします。

前の記事「銅板建築 1-“昭和元年”が次々消えていく」でも触れましたが、せっかくの銅板建築の店がこれからも消えていくことが予想されます。現に、いまにも解体されておかしくない閉じた店舗があちこちにあります。

当ブログと並行して制作しているwebsiteに、銅板建築の写真を掲載しています(今後もupdateする予定)。

銅板建築の写真一覧

写真一覧を見てもわかるように、商店街の角や大通りに面した場所などかなり価値のある場所にも、ひっそりと銅板建築がたたずんでいます。

▽関連情報
マチヅクリ http://blog.kansai.com/toshikeikaku/118
スージグヮー http://blog.so-net.ne.jp/suzygwa/2005-12-17
Kai-Wai 散策 http://mods.mods.jp/blog/archives/000117.html

機関庫裏のフォトブック http://numajiri.cocolog-nifty.com/sinagawa/cat3208964/index.html
建築探訪・縦横無尽 http://blogs.yahoo.co.jp/chipimaro22/folder/1453178.html
関心空間 http://www.kanshin.com/keyword/209227

鉄道模型にも、こんなミニチュアの看板建築があるようです。
KATO http://www.katomodels.com/product/nmi/kanban_bldg.shtml

銅板建築 1-“昭和元年”が消えていく

「銅板建築」というものをご存知でしょうか。古い店舗の建築様式ですが、今となっては希少価値もあり、ユニークな店作りに活かせるのではないかと予想します。

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■味のある深緑色の店舗兼住居
モルタルなどで作られた2階建てくらいの商店の外壁に銅板を貼ってある古いタイプの建物のことを「銅板建築」と呼びます。そのほとんどは店舗兼住宅で、主に東京周辺の古くからある商店街にみられます。銅板だから茶色か金色か、いわゆる真新しい銅の色をしているのかというと、さにあらず。長い間風雨にさらされて、写真のように深めの緑色をしているのが普通です。「ああ、そういえばそんな店が昔よくあったな」と記憶の中で思い至る方もいるのではないでしょうか。

銅板建築の店が建てられたのは例外なく昭和初期、それも昭和3年前後と決まっています。大正12年9月の関東大震災で東京の街が焼け、その後都市計画が整って盛んに新しい様式の商店が建てられた時期というわけです。

昭和初期に流行だったとはいえ、今となっては「古くさい建物」なのは否定しようもありません。戦争で焼け残り、高度成長時代にもとくに変化なく、バブルの荒波からも生き残ったとはいえ、いわば時代の流れから置いていかれた建築物です。今残っている銅板建築の店はおよそ“80歳”。老朽化により年々その数は減っているはずです。

しかし逆に今となってはその緑色と文様に風情があり“昭和レトロ”を感じませんか?

レトロ調の店舗設計が注目されつつある今、銅板建築の店がなくなっていくのはとてももったいない。希少価値を逆手にとって、ユニークな店作りに再活用したらよいではないかと切に思うのですが、いかがなものでしょう。

■また1軒、歴史になってしまうのか
冒頭の写真は都内南部、鉄道の駅の出入口真正面にある銅板建築の商店(タバコ店)ですが、見ての通り、店は完全に閉じられています。棟つながりの隣の店のシャッターに「永らくご愛顧いただきましたが、この度解体することになり…」といった意味の貼り紙がありました。この銅板建築も跡形がなくなってしまうのでしょうか。

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近づいてみると、文様の入った壁、コーナーの独特な模様、年季の入った黒ずんだ銅板、小さな天守閣のようにも見える3段目(木造住宅は原則2階建てで、3階とも見える部分は建前上“屋根裏部屋”のような位置づけが多かったそうです)。元の建物がそのまま残せないものならば、せめて表面と特徴のある部分だけ剥がして残しておき、新しい商店つくりに活かせばよいではないか~。

実際、古い建物を解体するときに建具や壁を保存しておき、新しい店作りで再活用するという手法は珍しくありません。資金力の乏しい中小商店を再生する一手法として、日本全国で(少しずつかもしれませんが)実現されているようです。それを専門に請け負っている建築家もいるみたいですね。

であれば、銅板のような年季の入った希少価値のあるパーツをみすみす捨ててしまってよいのか! 耐震設備も整ったしっかりした建物を建てて、その表面に古い銅板を貼るだけで、実に個性的な、いかにも伝統を引き継いだ雰囲気のある、でも庶民的な、経済的な、そんなレトロ調店舗が出来上がるではないですか。建築にド素人の私のような人間には、そんな気がしてなりません。

■見直されつつある看板建築
銅板建築に絞って話をしていますが、もう少し広い意味を持つ「看板建築」という用語があります。大正から昭和初期を中心に建てられた店舗兼住宅で、前面に屋号や看板を彫刻などで表現した店作りのことです。銅板のほか、レンガ、タイル、モルタルなどさまざまな素材で装飾がほどこされています。このテーマについては、次の書が有名です。

「看板建築」(藤森照信著、三省堂)

街並みウォッチャーや建築関係者にはそれなりに注目されていて、やはりそのユニークさや現存する建物の希少性から、価値が見直されているようです。

■銅板建築は何軒残っているか
看板建築のうち、とくに銅板建築に限ると、現存する建築物の数はどのくらいあるのでしょうか。一説によると80軒~100軒だとか、ある報道では50軒程度しかないとかされていました。でもちょっとわかる範囲で数えてみると、もう少し数は多いようです。

ここ1カ月くらい、都心(神田周辺)と都内南部(品川旧東海道地域など)で目に入る銅板建築の店を実見して数えてみた(写真を撮ってみた)のですが、すでに40軒ほど発見できています。文献や私の過去の記憶から(まだ実際に現場で改めて確認したわけではない)銅板建築の店を加えると70軒以上にはなるでしょうか。銅板建築は一般に集中して存在しており、目立つ1軒の近辺には文献などに載っていない銅板建築が結構存在しています。

まだ調査していない地域のことを勘案すると、都内だけでおそらく150軒~200軒はあるのではないかと推測しています。これまで撮影した銅板建築の写真の一部を一覧にして掲載しました。

銅板建築の写真一覧 (当website内)

まだ限定的に列挙しただけですが、いずれ少し説明も加えていく予定です。機会を見付けて銅板建築の写真を撮り、掲載数も増やすつもりです。

■希少価値に気付いて残してほしい
年々減りつつある銅板建築を保存して残せるのは、おそらく今が最後のチャンスでしょう。店舗作りのアイデアを探している専門家、再生を目指す中小商店の経営者、そしてなによりも今現在銅板建築に住んでいる方や家主。そうした関係者の方々には、その価値にぜひ気付いてほしいものです。