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昭和レトロ 5-新スポットの立ち飲みとバー

新オープンする高級な商業施設にも、昭和レトロ感は確実に広がっているようです。運営コストの高い場所での店舗作りは、また違った展開があるかもしれません。

新丸ビルレトロ
[東京の新スポットに出現した、レトロなホルモン処とバー]

■古いものが新しく見える時
昭和レトロに関する記事(秋葉原等居酒屋定食店惣菜店)を書いてきました。昭和というシンボルに代表される“ちょっと昔にあった、忘れかけていた匂い”が、今の社会に新鮮に受け入れられているのは間違いないところでしょう。都電荒川線も“復活版”レトロ車両を1両導入したほか、三ノ輪橋停留場にはガス灯のような照明を設置するそうです。

新たに登場する商業施設の店舗作りにも、昭和に限らず日本的な美しさや懐かしさが取り入れられています。瓢箪やつくばいのようなディスプレイがセンス良く飾られていたり、店の外装にいかにも古い日本家屋の様相をほどこしていたりと、工夫がみられるようです。先ごろオープンした東京駅前の新丸ビルや六本木の東京ミッドタウンも例外でなく、近代的なビルのなかにいくつかの“昭和レトロ”が進出しています。

■立ち飲みがファッション
レストラン街で最もレトロ感のあるのが、写真に挙げたモツ焼きの店「日本再生酒場 い志井」でしょうか。昭和30年代の雰囲気作りを目指した立ち飲み形式の店。例によって、店内には昭和の時代のブリキの看板や人形(写真はタイガース?)、小物がちりばめられていて、ビール片手にモツ焼きなどを気軽に頬張ることができます。

この「日本再生酒場」はすでに路面店として新宿、池袋、蒲田、門前仲町などに展開されています。店舗開発・運営はビーヨンシイ。「もつやき処 い志井」のほうが長い歴史があり、そのノウハウを立ち飲み型店舗に応用し始めているようです。

「日本再生酒場」では女性客を積極的に取り入れようとしているようです。女性が立ち飲みをファッションとして楽しむなど、ちょっと前には考えにくかったところです。料理は臭みが少なく食べやすく調理されています。もっともその分、モツの少し癖のある味が好みの人には物足りないかもしれませんが…。

■女性専用のバー
同じ新丸ビルにはもう1軒、「来夢来人(らいむらいと)」という女性専用の昭和レトロなバーがあります。いかにも場末感のある店作りと、いかにもダサい店名。いや、ダサいというより、普通すぎる店名でしょう(日本全国に「来夢来人」というバーはいったい何軒あるのでしょうか)。この場所でわざわざこの名前をつけたところに、“一見怪しそう。でも本当は安心みたい”と思わせる距離感が絶妙です。

やはり昭和30年代あたりの雰囲気作りがされているようです。客層からいうと、もう少し後の世代がメインなのでしょう。私が通りかかったときには、BGMとして「セーラー服と機関銃」がかかっていました。

「昔から一度はこういった店に入ってみたかった。でも男性(特に会社の上司)に連れられて入るのはまっぴらゴメン。かといって女性だけで入ると他の男性酔客からの視線が気になるし…」とか思って入れなかった女性客でも、ここなら安心して入れるのかもしれません。

両店とも「女性にも気軽に受け入れられる昭和レトロ」というところが店舗イメージのカギとなっているのでしょう。場末感といっても本当の場末ではなく、怪しさといっても劇場型にすぎず、あくまでも洗練された店作りと食材の提供を目指しているといえます。この手のコンセプトの外食店は、おそらく今後多数登場することでしょう。

■場代の高さと昼食時の運営
場末の飲み屋やバーが繁盛するのは、一般的にはその場代の安さが重要な要素となっているはずです。

・立ち飲み店の場合
人通りがそこそこある立地は必要だが、経費は全般に抑えられていて、客単価は安くても回転数は高く、薄利多売的であること
・バーの場合
ガード下とまではいかなくても、繁華街の少し端になどに位置し、常連客がそこそこついていること

などが、十分な利益が出る条件でしょう。

一方、新丸ビルのようなかなり高級な立地ともなると、店の賃貸料は決して安くありません。「日本再生酒場」にしても、以前からある路面店は夜の営業だけでペイしたかもしれませんが、新丸ビル店では昼の時間を寝かしておくわけにはいきません。昼食用に、もつ煮定食(ランチ)を数種類用意してあります。

ご存知のように昼時ともなれば、新丸ビルのレストラン街は相当の人出があり、どの店もあちこちにずらっと入店を待つ客が並んでいます。しかしそうした店に比べると、(あくまでも私が立ち寄ったときの印象に過ぎませんが)立ったまま昼食をとろうという人はさほど多くない様子です。定食の中身にしても、味はともかく、街中の定食店と比べるとどうしてもコスト・パフォーマンスが悪くなってしまうことでしょう。とすると、昼時のリピーターはさほど多くないことも予想されます。

■コスト増とどう折り合うのか
まだ開業したばかりなのでこれからかもしれませんが、仮に夜には強くても、昼の営業は課題が残りそうな様子が窺われます。この店に限らず、本来コストをあまりかけずに済んでいた“昭和レトロ”的業態が、高級な商業地で店舗作りをするとなると、

・場代の高い立地条件で
・女性にも安心して受け入れられる程度に手間とコストをかけ
・味など商品の品質も高めのものが求められる
ことを強いられます。

昭和レトロの外食フォーマットは、まだいろいろ試行が重ねられていくのでしょう。

昭和レトロ 4-和惣菜と懐かしさの組み合わせ

和惣菜と「昭和レトロ」は、誰が考えても相性が良い組み合わせだと思われます。落ち着いた雰囲気が店舗作りに生かされているようです。

高見屋
〔ゴハンノオカズ 高見屋(北千住丸井)〕

■和惣菜と“懐かしさ”のイメージの取り合わせ
居酒屋」「定食店」に続き、今度は昔風の店作りをした惣菜店をご紹介します。

写真は、北千住丸井にある「ゴハンノオカズ 高見屋」の店舗写真です(写真そのものは数年前の撮影で、現在はディスプレイなど少し異なっています)。この店はベーシックな和惣菜を中心にして、さらに焼き魚や煮魚の種類を取り揃えている惣菜店で、“昔懐かしいオカズ”というコンセプトが店舗作りにも反映されています。中心となるお客さんは40代以上の女性と思われます。

「昭和」という括りではなく「江戸の味」という呼び方をしている点で本blogの切り口「昭和レトロ」とは少し異なるかもしれませんが、消費者が持つ懐かしさを醸し出していることに違いはありません。なお「ゴハンのオカズ 高見屋」はここだけで、チェーン店として展開しているとはいえません。といいますか、銀座三越、新宿高島屋、池袋東武など“デパ地下”に複数の店を構える和惣菜店「おふくろの味 高見屋」が基本形で、その別フォーマットといったほうがよいでしょう。同店の経営主体は、主に築地で卸売・小売を手がける北田水産です。

■和のおかずに“昔風”は当たり前すぎ?
同じように懐かしさを前面に出している和惣菜店はいくつかあります。多店舗化している店でいえば、アトレ大森、そごう柏、そごう大宮、船橋西武などにある「大森オカズ本舗」(佃浅商店)がその例でしょう。「大森オカズ本舗」は高見屋同様、デパ地下(上野松坂屋、銀座松坂屋、大井阪急など)にベーシックな和惣菜店を展開する「佃浅」の別フォーマットです。ほか、個店の惣菜店でレトロ風な店構えの店となると、おそらく多数あるはずです。

ただ少し謎なのは、“懐かしさ”が必ずしもこれら惣菜店のコンセプトと強く結びついていないように思われる点です。私的な感想として、たとえば「大森オカズ本舗」の某店は、当初かなり昭和の懐かしさが強い店作りと商品が置かれていたように思えましたが、数年した今は普通の惣菜店と大して変わらない商品の品揃えとイメージに落ち着いていってしまったようにみえます。「ゴハンノオカズ 高見屋」にしても、“レトロ感”は顧客層を広げることが狙いではないようです(どちらかというと「既存の顧客層に安心して購入してもらうためのイメージ作り」といった意味)。

多数の店舗を見て回っているわけではないのであくまでも限られた範囲での感想に過ぎませんが、ベーシックな和惣菜と昭和レトロの組み合わせはあまりに当たり前すぎるのでしょうか。もしくは、和惣菜はずっと受け継がれているイメージ(言葉は悪いかもしれませんが“古臭いイメージ”)が特に若い人たちにはあるので、あえてレトロ風を前面に出しても効果が少ないということなのでしょうか。

デパ地下の惣菜店一般としては、新しい時代のイメージが強い「柿安ダイニング」(柿安本店)や「RF1」(ロックフィールド)が広く成功しています。もしくは、「なだ万厨房」(なだ万)、「美濃吉」(美濃吉食品)といった関西風、特に京都風の高級イメージのほうがインパクトは強いかもしれません。名古屋に本拠を持つ「まつおか」(まつおか)なども、関東で増えています。

それらに比べると、関東風・江戸風の見せ方は(少なくとも関東人にとって)懐かしさの度合いが弱すぎるとも言えなくありません。日常的に食する和惣菜を求めるお客さんの集客を狙うか、ハレの時の高級和惣菜を求めるお客さんを狙うかでも少し違うでしょう。いずれにしても、店の雰囲気や見せ方だけでなくもう一つ工夫が必要なのかもしれません。

昭和レトロ 3-多店舗展開する定食店

多店舗展開を目指す「昭和レトロ」は、定食店にもみられます。居酒屋とはまた違った形で、昭和風店舗フォーマットの確立を目指している様子がうかがわれます。

モダン食堂 東京厨房
〔モダン食堂 東京厨房 目黒店〕

■コンビニ・チェーンの新事業
昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋」で「半兵ヱ」などの居酒屋チェーンを採り上げました。今回は、定食を中心とした外食チェーン「モダン食堂 東京厨房」をみてみます。2006年春ごろから急速にフランチャイズ・チェーン(FC)化が推し進められ、07年1月現在で都心を中心に11店ほどあるようです(直営3店)。

このチェーンを展開しているのは「新鮮組本部」。といっても、ここには近藤静也も猪首も肘方も生倉もいません………(すみません、ボケかましました。映画・ドラマ版「静かなるドン」を結構楽しんで見ていたクチだったもので)。

同社は、東京・千葉・神奈川に約60店舗(「新鮮組」と「ジャストスポット」)を展開するコンビニ・チェーン。コンビニに加え惣菜店や外食店の事業を本格化させるなかで、今最も力を入れている(ようにみえる)のが「東京厨房」です。店のキャッチフレーズは「現代によみがえる下町の洋食」。看板は、文字がわざと“右から左”に書かれていたりします。media for you(m4u)という映像制作会社のページに、社長インタビューを含めたわかりやすいFC募集用動画があります。

新鮮組本部 http://shinsengumihonbu.com/
m4u東京厨房FC募集用動画 http://mediaforyou.tv/2007/01/cm_8.html

■店内と弁当販売の2本柱
メニューのほとんどはセットになった定食です。から揚げ定食、ハンバーグ定食、野菜炒め定食、ねぎとろ丼定食など定番物ばかり。価格はほとんどが680円か780円と「少し安め」のレベル。ほぼ同様のメニューがテイクアウト用弁当として用意されています。昼時は、ずいぶん人が並んでいることがあります。

店内には、昭和の雰囲気を醸し出す小物や写真が飾られています。ポスター類は少ないですが、「アース製薬」の看板など定番モノがあちこちにみられます。映画「ALWAYS 三丁目の夕日」に出てきたような、東京タワーの建築途中の大きな写真などが貼られています。店内に駄菓子コーナーが設けられていて、“ついで買い”を誘います。

来店客は、昼時はやはりビジネス・パーソン(男女)が多いようです。50代から60代の1人客も目に付きました。昼時は酒メニューを前面に出していません。夕方以降になると当然アルコール類での売り上げも期待されるのでしょうが、「半兵ヱモデル」とは異なり、例えば「ホッピー」など昭和コテコテの酒類はあまり置いていないそうです。

ある収支モデルでは次のような数字になっています(項目は簡略化し数字は丸めてある。1カ月)
売上 ―――――――― 650万円
粗利益 ――――――― 460万円
人件費 ――――――― 190万円
その他一般管理費 ―― 150万円
営業利益 ―――――― 120万円

そもそもコンビニの新鮮組は、店内に厨房を持ち、デリコーナーで惣菜を量り売りしているのが特徴です。つまりコンビニとしてはやや特殊なチェーンで、いわば「コンビニ標準型」と「オリジン弁当」との中間的な業態とも言えます。そうした弁当や惣菜を取り扱うノウハウを東京厨房にも生かしていると推測されます。

■昭和の力は多店舗化にプラス? マイナス?
半兵ヱが昭和に出来る限りこだわって店作りしているのに対し、東京厨房はあえてそこまでディープになっていません。昭和レトロ度をむりやり数字化してみると(あくまでも私的な感触ですが)、半兵ヱを「100」としたときに東京厨房は「60~70」といったところでしょうか。悪く言えば“中途半端”、良く言えば“落ち着いた程度”。中高年のお客さんが酒抜きで安心して食事できる場所、という雰囲気が強いといったらよいでしょうか。

昭和の時代から営業されている何の変哲もない定食店は、今もあちこちに残っています。それがブラッシュアップされた形態と考えればよいでしょうか。ちょうど古い雑貨店・青果店・酒店がコンビニに置き換わっていったように、もしかしたら古い定食店がこうした標準フォーマットの店に置き換わっていくのかもしれません。

・比較的安めの定食セット
・定番メニューを常時提供
・ビジネス街の昼食または家庭の日常食に対応

「昭和レトロ」にとらわれず思い起こしてみると、こうした庶民派的な特徴を力にして発展した定食チェーンはいくつもありました。都市部で言えば「大戸屋」、地方で言えば「ジョイフル」など、また以前すかいらーくが低価格店として展開した「ガスト」も該当するかもしれません。

これらのチェーンは、一時期急激に店舗数が増えました。そして地元に根付くことで消費者の確かな支持を得られるのですが、ある時期を過ぎると多店舗化の弊害や、定番メニューであるが故の消費者の飽きが出てくることも避けられません。東京厨房はまだ10店舗そこらですからそうした壁に直面する時期はまだ先かもしれませんが、「昭和レトロ」の力が標準フォーマットの定着にプラスに働くのか、逆にマイナスになるのか…。

やってみなければわからないかもしれませんね。何となく、ショッピングセンターのような商業集積に急いで多店舗出店するより、地味な場所や二等地への出店で固定客を獲得する戦略をとったほうがよいような気もしますが(単なる思い付きの感想でした)。

昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋

懐かしい昭和風の店舗を形式化して、フランチャイズ展開を始めている企業があります。

半兵ヱ

■フランチャイズに足を進める
以前の記事「昭和レトロ 1-昭和風の外食店増える」で、秋葉原UDXビルの「アキバ・イチ」を例に挙げて、昭和レトロ風の趣が強い外食店および商店街が増えていることを書きました。そんな昭和レトロを切り口にして繁華街に店を持ち、本格的なフランチャイズ(FC)展開まで足を進めている外食チェーンが現れています。

冒頭の写真は、居酒屋「半兵ヱ」渋谷店の店内。半兵ヱは、秋田に本拠を持つドリームリンクという会社がチェーン展開をしています。直営店20店のほか、すでにFC店が10店。半兵ヱ以外にもテーマパーク型居酒屋(銀座カンカン)、駄菓子バー、ラーメン店などの外食業態を開発していて、それらを併せると、2007年1月時点で直営店35店、FC店50店とのことです。

半兵ヱ http://www.hanbey.com/index.html
(株)ドリームリンク http://www.dreamlink.co.jp/

半兵ヱのエリア・フランチャイズ制による多店舗化を目指して、この1月から各都道府県のエリア本部募集を開始しました。

外食チェーンのFC展開自体はもちろん珍しいものでなく、事業拡大の一歩と位置づけられるでしょう。やはりここで注目したいのは、「昭和レトロ」の定番作りに踏み出していることです。同社にFC本部(フランチャイザー)としての実力がどの程度あるかは何も確かめていませんが、直営からFC、さらにエリアFCへと体制を構築できるということは、とにかくも店舗の運営をフォーマット化(標準化)していると考えられます。

■ひと月に21回訪れた客がいた
店内の様子は見ての通り。壁は多数のポスターや看板(日活映画、ソース・醤油、洗剤・薬、赤玉スイートワインの有名な女性ポスター…)でいっぱいです。止まった時計、映らないテレビ、コカコーラの250ml復刻缶、鉄腕アトムの人形など、小物・大物がそこかしこにあります。BGMはもちろん昭和の歌謡曲、童謡の類で、次々に懐かしい曲が流れてきます。

メニューは実に多種多様。焼き鳥、串焼き、おでん、鉄板焼き、刺身、漬物、揚げ物、駄菓子、酒(ホッピーや電気ブランから定番ウイスキーまで各種)…。「のりたまご飯」(卵ではなく「のりたま」がかかっているご飯)「永谷園のお茶漬け」「大塚のボンカレー」など、目を惹くものだけでも挙げればきりがありません。

値段は、焼き鳥1本50円、目玉焼90円、“高級ねこまんま”180円、ウイスキーのショット290円、よっちゃんイカ30円…。客単価は2000円前後と一般の居酒屋より安く、酒抜きなら1000円強で済ませることもできるでしょう。「酒を飲みに行く」という感覚より「夕食を食べに行く」気持ちにもなろうものです。

実際、ある店ではひと月に21回も来店した“サラリーマン”(あえて「ビジネスパーソン」という表現を使ってません)がいたそうです。店の人も心得たもので、そのお客さんが「いつものください」と言うだけで、ちゃんと「その人にとっての定番メニュー」が出てくるようになったとか…。ここまでくれば、もう「馴染みの定食屋」を超えて「夕食を食べる別邸」というような存在かもしれません。

お客さんは、昭和を懐かしむオジサンだけでなく、けっこう若い人や女性もいるようです。私が訪れたときには、高校生かと思われるカップルが(もちろん酒ではなく)食事しに来ていました。基本的には昼は店を開けず午後5時以降の開店のようです(店によって違うかも)。2時間の時間制限あり。

■オペレーションに工夫
FC本部の資料によると、「素人でもできるシンプルなオペレーション」で「1カ月の研修で開業可能となる」とのこと。たとえば“お通し”については、生キャベツがテーブルに始めからゴソッと置かれていて客が勝手に好きな量を食べることになっています(自動的にお通し各人380円ナリ)。焼き鳥など料理が出てくる入れ物は、なんて呼べばよいのでしょうか、弁当箱の蓋に網を置いたような金属製の皿です。多くの食材を同じ入れ物で提供できるようにしながら、洗い場の面倒もかけないような工夫がみられます。

オペレーションを単純化しながら多数の「昭和の本物」に近いメニューを提供できる仕組みを工夫して作り上げている様子が伺われます。一つの収支モデルとして、次のような数字が同社の資料に示されています(数字は簡略化し、一部丸めている。1カ月)。

売上高 ――――――― 400万円
売上総利益 ――――― 280万円
人件費 ――――――― 100万円
その他一般管理費 ――  75万円
営業利益 ―――――― 105万円

■濃いレトロ、薄いレトロ
あくまでも外部から見た感想に過ぎませんが、いくつか懸念材料も感じられます。

メニューが非常に多いこと、および薄利多売であることなどからは、厨房で調理をする人の労働負担にかなり頼っているところがありそうです。お客の数がさほど多くない時間帯でも、少し注文が重なると、料理が出てくるのが遅くなってしまったりする可能性があるでしょう。単品の焼鳥屋さん、お好み焼き屋さん、バーとかならカウンター越しにさっと注文してさっと食べることができるのと比べ、顧客にいらいらさせてしまう頻度が高くなってしまうことはないのでしょうか。

もう1つの懸念は、店の運営ではなく店舗コンセプトに関してです。昭和レトロのポスター、料理、小物が、これでもかと店内に満ち溢れているととても面白いのですが、一つ間違って“やりすぎ”にならないかと心配します。単独店で少数の固定客を長くつなぎとめることに成功している店ならともかくも、繁華街を中心に多店舗展開して広く顧客を集めるとしたら、際立って面白い作りは濃すぎて、逆に“飽き”を生じさせるもとになるのではないかと思われます。

つまり、いままでの昭和レトロが「特に意識して訪れる場」「遊園地のように遊びに行く場」つまり“ハレ”の場として注目されていたものだとしたら、「飽きのこない日常集う場」「安心して毎日定食を食べられる場」つまり“ケ”の場としての店舗開発をしていくことが、息の長いフォーマットとして根付くための重要な視点ではなかろうかと思うわけです。「ナンジャタウンの福袋商店街」や「台場1丁目商店街」とは求めるものが少し違うはずです。

でもまあ、それは次のステップなのかもしれません。今は少し尖がっていた方が注目も浴びるし、まだまだ飽きもこないでしょうから…。

■多店舗展開しやすいフォーマットはどれか
他に昭和レトロ居酒屋として次のようなところが挙げられます。

・ハッピー
五反田と新宿(2店、うち1店は立ち飲み店)の計3店。NKG & アソシエイツという会社がプロデュース。マスコミによく取り上げられる店としてはこちらもかなり有名です
NKG & アソシエイツ http://www.nkg.gr.jp/shop/happy.html
五反田ハッピー店長blog http://g-happy.cocolog-nifty.com/blog/
・まんぷく食堂 有楽町コンコース
・朝日食堂 六本木
・ラッキー酒場 麻布十番
・三茶氣 三軒茶屋。経営はエイジア・キッチン
・昭和横丁 蒲田

これも挙げればきりがありません。web上の情報とかを見る限り、“昭和度”の濃さ/薄さ、酒中心/食事中心、価格帯など違いがあります。多店舗化を考えるかどうかは経営者の考え方によるでしょうが、標準フォーマットとして成立しやすい業態はどのあたりにあるのでしょうね。

昭和レトロ 1-昭和風の外食店増える

「昭和テイストの店」が、外食産業にかなり広まってきました。
(正確に言うと「昭和」だけでなく「大正」「明治」もあるのですが、とりあえずここでは「昭和」風という言葉に代表してまとめさせていただきます)

アキバイチ
[秋葉原UDXビルにある店舗]

■日常生活に溶け込んだ“昭和レトロ”
もちろん、昭和風店構えの店はこれまでも多数ありました。ただ、これまではどちらかというと“奇をてらった”というか、少なくとも店構えだけでかなり目を引くことを目的に作られていたかと思います。街全体が昭和レトロを売りにしているところも少なくないわけですが、それは街というものの差別化をめざしたものといってよかったでしょう。日常集う場というより、特に意識して“訪れる”場であったかと思います。

しかし最近は、どうもそういった特別なものではなくなってきたようです。たとえば今注目されている秋葉原、この3月に開業したばかりの「秋葉原UDX」にある約30店舗のレストランのうち半数近くが昭和レトロ風、少なくとも「古い時代」を匂わせる店作りになっています。たとえば次のような店があります。

・須田町食堂(神田須田町にあった食堂-ホテルなどで知られている聚楽(じゅらく)が大正13年に創業した店-を再現したもの。経営はその聚楽さん本体で、新しい業態として成り立たせようとしてる様子がある)
・アキバ海岸(日本古来の煮込みカレーライス。“インド風ではない”とわざわざ謳っているところに、いかにも興味が惹かれる)
・築地食堂源ちゃん(海鮮丼と定食。築地仲買商でもあるサイプレスが経営。江戸前すしの「すし源」という店も展開している)

■まねるだけでは、すでに新味はない
秋葉原のこの場所は、確かにお祭り好きな人が多く集まる場所かもしれませんが、一方ではかなり日常的なロケーションといえます。そんなところに自然に浸透しているところをみると、昭和レトロは単なるブームではなく、ごくあたりまえの店舗フォーマットになったといってよいのでしょう。

逆に言うと、たんに昭和レトロをまねるだけでは新味さえない…。成功のためにはもう一歩踏み込んで、店舗設計をする時代になってきたといえそうです。

■新しい外食店フォーマットになる?
もっとも、よく考えると外食産業にはさまざまな“レトロ”があります。ステーキハウスなどによくある「古きよき時代のアメリカ」を模したアーリーアメリカン調の店。アイルランドの素朴な料理やビールと実にマッチしているアイリッシュ・バー。

さらにこの20年くらいでさまざまな海外の食文化が日本国内で評価され、さまざまなレストランのフォーマットが根付いてきたと思います。昭和レトロも(国内発の文化とはいえ)その一つと言ってしまえば、それだけのことかもしれません。

でも一方で、現代の日本は広い意味で「日本本来の文化」(の見直し、再評価)が意識されている時代とも言われます。そんな日本人の心理変化が、昭和レトロに目を向けさせているのかもしれません。

▽関連情報:
中小企業庁 「がんばる商店街77選」
…“昭和のまち作り”が評価されて選ばれた商店街が3個所もあります。
高畠市昭和縁結び通り/青梅市住江町商店街/豊後高田市昭和の町

ただしこれらが“観光客向けの顔”なのか、昭和レトロとして生活に根付いているものなのかとなると、少しずつ位置づけが異なることでしょう。

大分県豊後高田市 昭和の町
街元気-中心市街地活性化-大分県豊後高田市
山形県高畠市 昭和縁結び通り
・語ろ具 昭和の幻を再び。青梅にある昭和幻燈館で昭和にタイムスリップ!
・東京都港区 台場一丁目商店街

▽追加記事:
昭和レトロ 2-多店舗展開する居酒屋
昭和レトロ 3-多店舗展開する定食店
昭和レトロ 4-和惣菜と懐かしさの組み合わせ
昭和レトロ 5-新スポットの立ち飲みとバー