「人・組織の活性化」カテゴリーアーカイブ

“アジア人材を考える勉強会”より

「日本人と違い、どこそこの国の人の性格はこうだ」といった表現がよくあります。実際、国や地域で共通する性質があるのは事実だと思いますが、それ以上に個人の資質や状況の違いを無視してはいけません。パターン化したイメージに囚われていけないのは、国内外を問わないということでしょう。

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〔研究会の資料抜粋〕

「アジアスタンダードを考える企業の人材育成」(NPO法人 アジアITビジネス研究会)(Mar.27)より。

講師は中川直紀氏(グローバル人材活性化プロジェクト代表)。研究会をリードする吉村章氏(台北市コンピュータ協会駐日代表)の解説とともに、示唆に富んだ意見交換がなされていました。中川氏のblog「ふすまを開けて世界に出よう!」に発表の内容が記されています。

同研究会に参加することができましたので、少しメモを残しておきます。以下は発表者の表現そのものでなく、例によって本blog(松山)のフィルターを通じて編集したものですので、その点ご承知おきください。

■異文化の理解に向けて
“ハイコンテキスト理論”によると、文化には次のタイプがある。
(1)ハイコンテキスト:多くの情報・言葉を軸にするというより、聴き手が話の文脈・隠れた意味など読み取ってコミュニケーションをとっていく
(2)ローコンテキスト:曖昧な表現や表情に頼らず、明示的に言葉に出し、情報を示すことでお互いのコミュニケーションをとっていく

一般に欧米はローコンテキスト文化、日本はハイコンテキスト文化で、そこにコミュニケーション上の誤解が生じると言われる。アジアの国でも、例えばインドネシアなどはハイコンテキストの文化だ、といった表現がある。それはその通りかもしれないが、よく見ればハイコンテキストの米国人もいるし、ローコンテキストの日本人もいる。個人の性格でかなりの違いがある。

ようするに、“異文化”は(海外といわず国内でも)どこにでもある。アジアでのビジネス展開や人材確保を考えるときにも同様である。国という属性だけでパターン化した見方をしてはいけない。

グローバルビジネス感覚は、MBAとかで学べるものではなく、現場で苦い経験をしながら得ていくものだ。ただ、背景は違っても、同じ土俵で戦うことは重要。ビジネスの共通項としてのルールがある。日本では(社会に出る前にほとんど教えられていないので)Off-JTによる研修でそうしたルールを学ぶことが肝要。

■国単位、組織単位、個人単位、それぞれの理解を
チームワークの形やリーダーの役割の違いを見ると、例えば日本と中国とインドネシアを比較しても、それぞれ大いに違う。欧米の場合と比べて、軸の取り方はかなり違うのではないだろうか。

ハイコンテキスト(→集団主義など)、ローコンテキスト(→個人主義など)という切り口についても、国単位で一括りに判断はできない。会社単位での性格(企業文化など)もあるが、それだけでも不十分。個人単位での理解も必要となる。

異文化を理解する切り口にはいくつかあるが、今までの切り口でアジアを判断できるかというと、再考する余地がある(中川氏、吉村氏をはじめとして、「グローバル人材活性化」のためのスタンダード作りを進めておられるとのことです)。

*  *  *

この「アジアITビジネス研究会」は吉村氏を中心に興味深い研究会を長く続けておられ、安価な参加料で勉強会に参加できるようです。私もこの日の研究会のほか、その前週「台湾活用型によるビジネス展開の有効性/現場の事例から」に参加させていただきました。現場からの興味深い報告を聴くことができます。アジアビジネスを検討されている方に参考になろうかと思います。

人材活性化と個人のキャリア自律

「社内で人材を育て定年まで企業が面倒見る」といった人材管理のあり方はとうに崩壊しているはずですが、そのわりに企業の人材流動化が進んでいないことが日本経済の一つの課題とされています。要因は、組織・企業側にも、個人の意識の側にも、どちらにもあるようです(経産省のシンポジウムより)。

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[シンポジウムの資料抜粋]

■産業構造の変化に応じた人材流動化の必要性
“組織人材の活性化”と“個人の自律的なキャリア形成”を促す経産省の政策で「多様な『人活』支援サービスの創出・振興」というものがあります。事業の詳細や成果については、経産省のサイトでご確認いただくとして、ここでは先月行われた成果発表に位置付けられるシンポジウム
「新たな人材の流れを促す『人活』支援サービスの可能性~ミドルの自律的キャリア形成と移動がもたらす企業価値の向上」(Mar.18, 2014、主催:経産省、事務局:みずほ情報総研)
より、いくつかメモを書き出してみました。

この事業は、民間の人材紹介等会社を介し、「人材が豊富な経済セクターから、その人材の力を必要としている経済セクターへの、人の移動促進」を促すようなサービスの成功事例をつくろうという試みです。

あえて語弊のある表現をすると、次のような狙いがあるといえます。
・大中企業が持て余している40代~50代ミドルを、中小企業へ転職させる
・成熟企業に定年までしがみつこうとする社員を、成長産業へ転職させる
・組織の都合優先でヒトを考える企業に、個人主導のキャリア形成策を考えさせる
・社内育成した人材の外部流出に消極的な企業に、外部を含めた人材戦略を考えさせる

■政府予算を使った、丁寧な“お見合い”
この事業はH24年度に調査研究がまとめられ、その後に実証事業を展開。昨H25年度に3.5億円、今年度は2.9億円の政府予算がついています。H25年度は実施事業者(サービス提供会社)が8社、プログラム参加者(転職または出向を検討し、研修に参加した人)が約150人、受入候補企業(転職先または出向先として手を挙げた企業)が約270社・約400ポストだったとのこと。

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[『人活』支援サービス創出事業の概要]

単に転職希望者と求人案件を集めるだけではなく、例えば、
・海外勤務経験やグローバルな事業展開に関わった経験がある人
・新規事業創出や事業撤退などの修羅場経験がある人
といった人材条件を決めて、
・主に大企業の人事部門にもちかけて出向希望者を募集
・参加者に「学び直し塾」や「成長分野実践研修」といった研修プログラムを実施
・一つひとつの案件に対して丁寧にマッチング提案をする
といったステップを踏んでいます。その結果、実施事業者のうち(株)インテリジェンスでは11人、(株)パソナでは3人、実際に成約に至った模様です。

シンポジウムでは、守島基博一橋大学教授の基調講演、経産省からの政策背景説明、実施事業者からの成果発表、そしてパネルディスカッションが行われました。パネルディスカッションでの登壇者は以下の通り。
(ファシリテーター)
 原正紀 氏(クオリティ・オブ・ライフ 代表取締役)
(パネリスト)
 守島基博 氏(一橋大学教授)
 高橋俊介 氏(慶大特任教授)
 平岡智信 氏 (インテリジェンス キャリアディビジョン 再就職支援事業部長)
 堂前隆弘 氏 (パソナ グローバル事業部 チーム長)

議論で出た発言を、発言者省略でいくつか下に記します。
(※以下は正確な発言そのものではなく、複数の発言趣旨をまとめたり、表現を調整していることをお断りします)

■社員の転職が外部ネットワークを広げる

この事業がアウトプレースメント(不要となった人材の削減)とは違うのか、という質問がよく来る。次の2点で違う。
 (1)組織として不要な底辺を押し出すことが目的ではない。組織として必要な優秀な人材でも、場合によって、大きな観点から流動化させることを意味する
 (2)組織が社員に約束していたはずの雇用契約を破るような(肩たたきのような)転職勧告ではなく、雇用責任は重視したうえで、人材戦略に沿って展開する

転出元と良い関係を保って外に出る(転職する)人材が一定程度いる会社は、外部ネットワークができやすく、長い目で見て組織としてのメリットも大きい。
一方、退職率が高いといっても、元の組織と良い関係が築けないまま退職させてしまう企業は、(ブラック企業的であり)良い訳はない。
ミドル以降の年齢になると、(転職による)採用機会が本当に少ない。それを整備する中でわかるのは、中小企業が大きな受け皿となりうること。海外進出などを目指し、グローバル人材を求めている。
求職側(受け入れ側)からの引き合いがある一方、転出元企業(またはチャレンジする人)の方が少ない。

■多様なキャリア形成
受け入れ側の中小企業にも、ダイバーシティ対応が問われる。つまり異文化で仕事をしてきた人材を受け入れられる環境がないと、せっかくの転職者(出向者)を生かせない。特に若い成長企業の場合、年配・ベテランをなかなか使いこなせない。逆に、これに対応できると、成長企業にとって大きなプラスとなるだろう。

現在のミドル個人個人は、自分のキャリアを自分でデザインしにくい時代になっている。そのためか、非常に功利的に(損得の問題として)キャリアを考える傾向がある。キャリア自律という言葉を大いに誤解しているのではないだろうか。若いうちから自ら仕掛けていく経験を踏むことが必要か。
研修では、語学や財務のようなスキル研修より、自己理解研修といった内容への反響が大きかった。今までキャリアの棚卸しをしたことがなかった人が多かったためと思われる。

転職は、決してドロップアウトでなく、多様なキャリアの一つであると捉えるべし。
産業構造の変化により、多人数の職種転換が必要となる。何も対策せずにいると、今の40代くらいの世代はあと10-20年経った時に(居場所がなくなり)、大問題になリかねない。

■企業の人材戦略の考え方が問われている
特定の技術知識・市場知識を身につけさせることは、(研修により)対応可能なことが多い。一方、もっと抽象性の高い能力(例えば、その人の持っている意識・性格に強く関連する部分)は、すぐに身につけられないものである。マッチングにあたっては、その見極めが重要。
マッチングにおいて重要なのは、“思い込み”をしないこと。個々の人ができる仕事の内容を分解し、例えば「ある地域で発揮した能力を、他の地域でも応用可能」と判断できることがある。
“To Be Hired”的(あるべき人材能力を厳格に規定してそれに合う人のみを採用する)な人材採用ではなく、今いる人材をこうして活かしていけばよいではないか、という提案がもっと必要だ。

人活産業としては、求人マッチングそのものより、その前工程部分(企業に対する人材コンサルティングや、就業者のキャリア自律支援)にどう取り組むべきかが重要となるだろう。

  *   *   *

以上、あまりまとまっていませんが、もっとあってしかるべき人材流動化に対し、企業側にも個人側にも課題があることがわかります。個人的な感想として、
「企業は、社員を強くコントロールできて当然などと誤解してはいけない」
「個人は、キャリアを積み上げる責任が自分自身にあることを意識せよ」
といったメッセージが聴こえる気がします。

公的機関の人材育成事業-2

前回に引き続き、“人づくり”に関わる公的機関の分類、整理です。今回は、中小企業庁系の機関を中心に説明します。公共サービスの背後に無駄があり、関連法人が事業仕分けの対象になっていますが、なかにはばかばかしい仕分けとしか思えない結果もみられます。

公的機関の概要図B
〔人づくりに関係する機関の分類例〕 図のpdfファイル

■中小企業基盤整備機構も事業仕分けの対象に
前回(1回目)の記事では、人材教育に関連する似通った名前の組織が多く存在していること、厚生労働省管轄の団体は職業能力開発促進法が主な法的根拠になっていること、雇用・能力開発機構が関連する職業訓練機関を運営してきたこと、その雇用・能力開発機構は事業仕分けによって廃止されることになっており、来年に別の独立行政法人とくっついて新たな独法となる予定であることなどを説明しました。

1回目の記事の冒頭で挙げた図(初期掲載版から少しupdateしました)と、文章の冒頭で書いた“クイズ”がまだ説明できていないので、それらも参照しながら先を進めます。

このテーマに関連する公的機関は大きく次の4グループに分けられます。
・厚生労働省系
・中小企業庁・経済産業省系
・文部科学省系
・地方自治体が運営するもの

厚労省の場合に、「雇用・能力開発機構」と「職業能力開発促進法」がそれぞれ重要な実行機関と法的根拠であったように、中小企業庁系でもそれぞれ該当する機関と法律があります。

(7)中小企業基盤整備機構
:全国に10の支部(地域オフィスを含めるとそれ以上)
(8)中小企業大学校
:全国に9校

中小企業庁の施策実行の中枢となる実行機関が「独立行政法人中小企業基盤整備機構」で、2000年前後の特殊法人改革の波の中から2004年に出来た法人です。前身は、中小企業総合事業団、地域振興整備公団など。

中小企業大学校は、同機構が設置する教育施設です。つまり組織的には(7)が(8)を含みます。(中小企業大学校ではなく)中小企業基盤整備機構自身が主催する研修セミナーもあります。

雇用・能力開発機構の箱モノ事業ほどではないにせよ、どの程度社会の役に立っているかとなると、厳しい意見が一部にあるようです。かりに末端の事業は高く評価されたり少ない報酬で頑張っていたりしても、機構役員の報酬や外注時の手数料が多額であるといわれます。組織・システムとしてのオーバーヘッドが大きければ、それは見過ごすわけにはいきません。雇用・能力開発機構と同様、国の機関として活動する意義が問われ、第2次の事業仕分けの対象に選ばれています。

これらの組織の名称は長いので、話の中ではよく「機構」と一言で表されます。しかし厚労省の職業訓練の話の中での「機構」と、中小企業支援の文脈での「機構」では、指している組織が違うので注意しなければなりません。

■省庁の枠を超えられるか?
1回目の記事の図と違う視点から、職能大や一般の大学・高専などを比較分類して、冒頭の図(人材育成に関連する機関の分類例)にまとめてみました。

中小企業大学校については、「大学校」とはいっても基本的には一般向け。一般企業の経営者や従業員を対象にした研修と、中小企業の支援者 ― ざっくりいうと中小企業診断士 ― の養成の両方の機能を持っています。

あたりまえのことかもしれませんが、教育機関や教育事業を制度化すると、その学校や研修の指導者の養成、つまり一段階上の「指導者教育機関」が必要になってきます。そうみると、厚労省系でいま廃止するかどうか話題になっている職業総合大については、それを単体で見るのではなく、そもそも国として職業教育のシステムを維持できるかどうかという判断になってくるのかもしれません。

一般の国立大学についても、多々課題はあるものの、経営の仕組みやガバナンスのあり方が変わっていく途上です。もはや省庁が複雑な教育システムを自前で維持する時代でないでしょう。厚労省や中小企業庁の審議会、事業仕分けでの議論など省庁の枠内のみの視点は、時代の流れの下では吹けば飛んでしまいそうな気がします。

■機構と中小企業大学校
中小企業基盤整備機構の主な法的根拠は「中小企業支援法」です。この法律は、人材育成のほか経営支援、技術支援、金融面での支援その他広い意味での中小企業支援について記されています。第1条に「国、都道府県、中小企業基盤整備機構が行う支援事業の推進…」と目的が明記されています。

もとをたどると「中小企業基本法」という基本法があり、その第19条に「(国は)職業能力の開発及び職業紹介の事業の充実その他の必要な施策を講ずる」と書かれています。それを受けるように中小企業支援法の第3条の3項4項に「中小企業の従業員研修」と「中小企業支援者の養成」が示されています。

また「独立行政法人中小企業基盤整備機構法」の第15条の2に、機構の業務は「経済産業省令で定める法人の役員・職員の養成・研修」「都道府県が行うことが困難な中小企業者・従業員の研修」を行うこととされています。これが中小企業大学校の存在根拠のようです。

中小企業大学校の研修については、直接的な評価を耳にする機会はあまり多くないのですが、間接的な評判や研修内容を見る限りでは、悪い印象はありません。ここの研修は結構早めに満員になってしまうという印象があります。もし評価されているとすれば、むしろ完全に国から独立させて民営化ができそうな気がしますが、どうでしょうか。

(参考)昨年の事業仕分けでは、たとえば次のようなコメントつきました。
「中小企業大学校については、講師は比較的低額で協力しているので、9校全体で43億円の運営費は内容に照らして高すぎる」

なお、この19日に、経済産業省から「経済産業省所管独立行政法人の改革について」という発表がありました。(第2次)事業仕分けの前の省内仕分けのような意味を持つのでしょう。中小企業大学については次のような記述があります。

「中小企業大学校の研修事業については、中小企業者のそれぞれの経営課題や現場実態を踏まえた研修に重点をおくこととし、以下の見直しを行う。
1)短期研修については、市場化テストを全校に拡大し、その結果を踏まえて廃止を含めた検討を行う。
2)受講料の水準を見直す。特に、中小企業診断士研修について、研修生が中小企業者や中小企業支援担当者ではない場合には、受講料負担を適正水準まで引き上げる。
3)コストの高い地方中小企業大学校は、地元との協議の上、その在り方を検討する。」

■体系は“混沌”か“柔軟”か
自分だけの印象かもしれませんが、厚労省系のシステムが「職業能力開発促進法」でかなりシステマチックに体系化されていたのに比べると、中小企業庁系の法体系やシステムは、ごちゃごちゃ感が否めません。悪く言えば“混沌”。よく言えば“柔軟”。毎年のように中小企業向け施策の内容が変わり、それに伴って複雑怪奇に形を変えていきます。

毎月どころか毎日事情が変化する経済環境に中小企業が対応していきたい実情を考えると、もしかしたらこうしたフレキシブルな考え方の方がよいのかとも考えられます。

しかしながら政治家の判断(思いつき)と、官僚の優秀さ(辻褄あわせ)が巧みに絡まりあい、見事に複雑化したり、整理されたりします。かつて制定された「中小企業 ○○ 法」「中小企業 ○○ 制度」という名の法律や制度の数は、数十、いや数百あるかもしれません。中小企業診断士になろうとする人は皆、これら名称群に悩まされます。試験に合格するためには、中小企業施策の本質を理解することより、これらの名称の暗記に時間を費やさざるを得ません(今は違うのでしょうか?)。

「中小企業支援センター」「中小企業振興センター」「中小企業応援センター」などの名称が乱立する理由もこの辺にあり、時に同じものを指し、時に違う概念を指します。

■中小企業支援センター
中小企業支援センターは、中小企業基盤整備機構の支部や窓口を指すこともあるのですが、多くの場合は都道府県の機関としてのセンターを指します。都道府県に1カ所づつ。位置付けとしては、中小企業庁傘下ではなく、地方自治体(都道府県)傘下の組織ということになります。制度上は、47カ所すべて「財団法人」です。

(9)中小企業支援センター
:全国で都道府県ごと47カ所(その他いくつかの政令指定都市にある地域中小企業支援センターが13カ所)
全国一括りで言うと「中小企業支援センター」ですが、都道府県別に「振興公社」「振興センター」「支援機構」などの名前になっており、行っている事業もそれぞれ少しづつ異なると思います。例えば東京都の場合は「東京都中小企業振興公社」、神奈川県の場合は「神奈川産業振興センター」、長野県では「長野県中小企業振興センター」などです。
つまり、
(10)中小企業振興センター
は、区分上は(9)の別名の一つに分類できます。

成り立ちはそれぞれ違うところがありますが、各都道府県とも、法的には中小企業支援法によって指定されているはずです。業務としては、中小企業庁関連、厚労省関連、その他もろもろ。多様な事業を持っているので、国というより都道府県の政策実行機関とみる方が正確でしょう。

組織の成り立ちとしては、「全国下請企業振興協会」の都道府県協会が前身だったところが多いかもしれません。東京都について言えば、民法に基づいて設立された財団法人下請企業振興協会という公益法人が母体で、その後東京都勤労福祉協会、東京都の知的財産総合センター事業、社団法人東京産業貿易協会といった団体や事業が次々に統合。一方、産業技術研究、食品技術といった部門が他に移管され、今の財団法人東京都中小企業振興公社になりました。本社は秋葉原の駅近くにあるほか、蒲田、青砥、立川などに支社があります。

それぞれのセンターが、独自の研修メニュー、支援メニューを持って活動しています。地域のニーズに応じて、製造業、商業、サービス業それぞれの内容が組まれています。関東近辺では、埼玉県中小企業振興公社に、結構充実したものづくり系研修があるようです。

■また一つ増えた類似名称
これだけでも類似名称は混乱しますが、この4月1日からまた新たな名称が現れました。2009年秋に行われた、例の事業仕分けの“賜物”です(笑)。

(11)中小企業応援センター
:全国84カ所

この名称は、新たに組織を立ち上げたというより、基本的には既存の機関の一部に付けた別名のようなものです。地域の中小企業がよろず相談を持ちかける先、専門家派遣をしてもらう場所ということです。

実は中小企業の経営課題解決のワンストップ窓口的なものとして、H20から「地域力連携拠点」というものが327カ所指定されていました。これは、先に触れた中小企業支援センターのほか、地域の商工会、商工会議所、信用金庫、中小企業診断士会、中小企業団体中央会などがその窓口になっていました。中小企業から総合相談を受け、必要とあれば適任の専門家を紹介することが主な役割となっていました。

ところが事業仕分けの俎上に上り、めでたく?予算計上の見送りと相成りました(事業仕分けの資料番号2-58)。当初、平成20年度から3年間の計画で全国で動いていたため、廃止は現場の人間にとって結構突然の出来事でした。

(参考)昨年の事業仕分けでは、たとえば次のようなコメントがつきました。
「全国的にまんべんなく事業を行うことに意義はあるのか。商工会議所、財団、地銀、信組に対する支援になっているのではないのか」
「もともと地銀、税理士、商工会議所の本業にあたるところで、政府は地域力連携拠点を作れば十分で、専門家の費用は受益者が払うべきである」

でも、これまた不思議なもので、「仕組みの見直しによる再提出」がされた結果、新たに「中小企業応援センター」という名で似た事業が現れました。これが(11)。まるでゾンビ。

地域力連携拠点の327個所から中小企業応援センターの84個所と、全体が整理されたように見えます。しかし、実は地域の複数の拠点が「コンソーシアム」を組んで、グループとして応援センターの看板をかけた、というのが実態です。応援センターの看板がかからなかった機関も、「ワンストップ相談窓口」がなくなるわけでも、専門家派遣の機能がなくなるわけでもありません。これまで「地域力連携拠点」の認定を受けていなかった団体が新たにいくつか加わっている分、窓口の数はかえって増えたかもしれません。

見かけより何より、いくら「応援センター」として見かけ上の数が整理されたとしても、個々の団体が、まったくそれまでつきあいのなかった(他の拠点の)専門家を自信もって紹介できるということは少ないものです。結果的に、「応援センター」として認定されたかされないかは、予算配分上の損得はあるものの(それは大きいでしょうが)、利用者から見ると、たんに“屋上屋を架した”だけのものに過ぎません。

(参考)地域力連携拠点事業の予算規模は資料によると約58億円でしたが、中小企業応援センターの予算規模は45億円弱。全体としては20%程度の予算削減ということになるようです。

政治家や仕分け人は、「無駄なものを仕分けできてシメシメ」と自己満足しているかもしれません。でも国の官僚や自治体関係者からすると、「政治家が余計なことをしてくれたので、現実とつじつまを合わせるため、新たな仕組み作りと手続きをわざわざやらざるをえなかった」というあたりが本音かもしれません。そして現場の人間や利用する一般企業からすると「また一つ、似たような名が増えて複雑になった」というのが現実です。いやホント、何をやっているのか。

まあ、今日に始まった話ではなく、どうせ数年するとまた改変されたりするでしょう。正直言って迷惑ですが、まったく時代の変化に対応しないよりはまだましと、ある程度達観を決め込む方が精神的に楽です…。

またしても長い文章になってしまいました。

(参考)
はんわしの「評論家気取り」 屋上屋を架す? 中小企業応援センター

▽関連記事:
公的機関の人材育成事業-1

公的機関の人材育成事業-1

“人づくり”に関わる公的機関。似通った名前も多く、それぞれ微妙に異なる研修や人材育成事業を行っています。研修やサービスの質には批判もありますが、実践研修、ものづくり技能系研修などには、中小企業が利用しやすいものも少なくありません。

公的機関の概要図
〔人づくりに関係する公的機関の概要図 updated 10/04/19〕 図のpdfファイル

■似た名称の団体が居並ぶ世界
クイズです。次の違いを説明してください。

(1)職業能力開発総合大学校
(2)職業能力開発大学校
では次の違いは?
(3)職業能力開発促進センター
(4)職業能力開発校
(5)職業能力開発センター
(6)職業能力開発協会

では次の違いは?
(7)中小企業基盤整備機構
(8)中小企業大学校
(9)中小企業支援センター
(10)中小企業振興センター(振興公社)
(11)中小企業応援センター
(12)中小企業家同友会
(13)地域共同テクノセンター

そして次の違いは?
(14)商工会
(15)商工会議所

で、これら全部、何が違うの?

■一般には分かりにくい全体像
名前を挙げたものはいずれも、主に中小企業や個人向けに“人づくり”の事業を行っている団体です。もちろん行っている事業は人材育成だけでなく、経営相談、補助金申請、福利厚生サービス、紛争解決など多岐にわたりますが、何らかの形で研修事業を手がけているところばかりです。

各団体の違いは、世間から見て“全くわからない”と断言します。行政の縦割り構造があちこちに見え隠れしますが、そんなこと一般利用者にとって本来どうでもよい話です。

いや、わからないのは一般の利用者だけでなく、企業支援の専門家であっても、よほどのことでなければ全体像を把握できません。かく言う筆者(松山)自身、中小企業支援に関わる仕事を15年以上やっていながら、これまで全く理解できていませんでした。最近になってこの分野の施策に直接的に関わるようになり、さすがに理解しなければいけない立場になり、複雑な仕組みを解きほぐそうとしている状況です。

■厚労省、経産省、自治体の複雑な構造
冒頭の図は、関連する公的サービスのできるだけ単純に整理したものです。対象者として
・在職者
・離職者
・若年者(学卒者)
・高齢者
・障害者
それぞれありますが、ここでは在職者訓練を中心に採り上げています。図で色分けしていますが、厳密にはオーバーラップしているところも少なくありません。

分野としては
・ものづくり(製造業)
・商業、サービス業
・共通
それぞれありますが、ここではものづくりの分野に軸足を置いています。

大きく分けて、厚生労働省系の事業、経済産業省系の事業、および地方自治体独自の事業に区分できます。先に挙げた団体では(1)から(6)の「職業能力~」という名称がついているのが厚労省との関係が深いところです。(7)から(11)および(14)(15)は、経産省もしくは中小企業庁との関わりが強いでしょう。(13)は文部科学省の管轄。それとともに(4)(5)(9)(10)(11)(13)(14)(15)あたりは実質的に地方自治体に実行部隊があったり、地域の独自事業と深く関連していたりします。

なお(12)「中小企業家同友会」は、官公庁と直接の関係がない任意団体です。民間組織なのでそもそもこのリストに入れるべきではないかもしれません。

製造業の人材育成では、埼玉県行田市に「ものつくり大学」があります(この大学の名称は「ものつくり」で「づ」と濁りません)。かつてこの大学設立時に政治的な一悶着があったのはご承知の通りでなんとなく公営機関のようなイメージを持ちます。が、実はここはれっきとした私立大学で、やはり本来は上の図に分類すべきものではないかもしれません。

しかし、公共性を持つ民間団体も、一般に見分けがつきにくいもの。混同しやすい団体を識別するという意味で、「中小企業家同友会」「ものつくり大学」も図に加えたことをご承知ください。

■廃止に向けて加速する“無駄遣いの王様”
冒頭のクイズについて説明するまえに、厚労省の外郭団体である「独立行政法人雇用・能力開発機構」が、廃止に向けて動いていることについて触れましょう。

雇用・能力開発機構は、ご存知のように、雇用保険などの金を使って「スパウザ」とか「私のしごと館」とか“箱モノ”を次々に作っていた過去があります。数多ある公共団体のうちでも“無駄遣いの王様”と表現されることがあります。しかし一方で、上記(1)(2)(3)の施設を運営している当事者です。

同機構は、自公政権下の2008年12月、廃止することが閣議決定されていました。「アビリティガーデン」は2008年度ですでに廃止済み。「私のしごと館」は、数日前の2010年3月31日をもって閉鎖されましたが、施設を買い取ってくれる事業者はまだ現れず、廃墟になるかもしれないとウワサされています。8月までにけりをつけるとのことですが、見通しは暗い様子です。

ここは、元をたどると昔の「雇用促進事業団」(雇用促進事業団法に規定)で、それが廃止されて1999年にできた(「雇用・能力開発機構法」、2002以降は「独立行政法人雇用・能力開発機構法」)ばかり。10年かけて焼け太りして、また潰されようとしている、とか表現すると関係者から非難を浴びてしまうでしょうか。

昨年、例の事業仕分けで拍車がかかり、長妻厚労相が事業廃止の前倒しを表明。それを受けて、今国会に廃止法案が提出される予定です。廃止法案の内容について同省の労働政策審議会が年明けから急ピッチで審議を続け、3月23日にまとまりました。

(参考)「独立行政法人雇用・能力開発機構法を廃止する法律案」の諮問及び答申について

2月から3月にかけて、この審議会(職業能力開発分科会)を、数回傍聴してきました。その中で印象的だったことの一つは、同機構が持っているソフトウェア部分 ― 人材育成(職業能力開発)のノウハウ ― を失いかねないことに対する懸念でした。

労働者側、使用者側いずれのメンバーからも、この点について憂慮する意見がでました。「箱物の廃止は当然だが、社保庁解体などとは違い、中の人材の多くは新組織に受け継ぐべき」との意見が多数。つまり、箱モノへの浪費というマイナス面がある一方で、同機構は「ポリテクセンター」と呼ばれる施設などを通じ、ものづくり技能系研修サービスを社会に提供してきたプラス面がある、と一定の評価がされているようです。現民主党政権の方針としても「中小企業等の人材を育成するものづくり訓練の重要性は高まっている」と認識されているのは同じ。機構を潰すと言いながら、これまで続けてきた有用な訓練機能も巻き添えにしかねない危険を孕んでいるというわけです。

審議会の結論は(当初からほぼ既定路線だったようですが)、同機構は別の独立行政法人と合体させながら、現職員は原則として解雇せず、受け皿となる機構に受け継がせるとのことです。受け皿となる機構とは、別の独法「高齢・障害者雇用支援機構」のことで、実質的に両者が合併して「高齢・障害・求職者雇用支援機構」という名になります。

今後「独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構法」(2002年施行)が「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構法」と名前を変え、その中に「求職者その他の労働者の職業の安定」うんぬんといった目的が加わることになることでしょう。

なんだい、これじゃまたしても単なる名前の付け替えではないか、と思う向きもあることでしょう。

■「職業能力開発促進法」で規定される機関
さて、冒頭の説明。

厚労省に関連の深い法律に「職業能力開発促進法」というのがあります。この法律は、国および都道府県が労働者の職業能力の開発を援助するため、公共職業能力開発施設として「(次の各号に掲げる)施設を設置して、職業訓練を行うものとする」と明記されています(第15条の6)。その施設とは(分類の仕方により違いますが)次の5つ。

(1)職業能力開発総合大学校
(2)職業能力開発大学校 & 同短期大学校
(3)職業能力開発促進センター
(4)職業能力開発校
(*)障害者職業能力開発校(国立13校、県立6校)

このうち(1)は
→「国が設置する」
(2)(3)(*)の3つは
→「国が設置する」(都道府県も設置できる)
(4)は
→「都道府県が設置する」(市町村も設置できる)
(1)(2)(3)の国立の施設は、すべて雇用・能力開発機構の事業として運営されています。先に触れたように同機構は廃止に向けて動いているため、今後の行方が流動的です。

■大学校と総合大学校の違い
個々にもう少し詳しく見てみます。まず学卒者訓練を主としている次の2つ。

(1)職業能力開発総合大学校 …「職業総合大」
:国立1校(神奈川県相模原市)
(2)職業能力開発大学校 …「ポリテクカレッジ」
:国立10校、同附属短大12校、県立13校

この2つの名は「総合」という文字がつくかどうかの違いですが、(1)職業総合大は「公共職業訓練施設において、高度で質の高い職業訓練を行う中核的な訓練指導員の養成」を目的としています。単なる職業訓練というより、ここの長期課程(4年制)は学士資格が取得できる本格的な大学校です。一般の技術系大学よりも要求される単位数が相当多く、実践訓練を含めて結構骨太なカリキュラムになっているようです。一般の大学院修士課程に相当する「研究課程」まであります。

一方、(2)ポリテクカレッジは、「高度なものづくり分野において、生産技術・生産管理部門のリーダーとなり得る中核的な人材を育成する施設」とされています。2年の専門課程と、それに続く2年の応用課程があり、併せて4年の課程を修了すると大学卒と同等とみなされます。そのほか、半年とか1年とかの在職者訓練コースがあるようです。

なお(1)職業総合大は、東京都小平市に「東京校」があります。東京校は、組織のうえでは「分校」のような位置付けのようですが、「学士が取れる4年制課程がない」という意味で、実質的には(2)に近いかもしれません。このあたりも、両者を理解するうえで混乱を招いてしまいそうです。

雇用・能力開発機構の廃止が決まっていく過程で、例の事業仕分けの俎上にも乗り、職業総合大について「廃止を含め検討してもらいたい。大学校のありようによっては、広大な土地が不要になるので資産売却を進めるべき」と明記されました(「行政刷新会議の事業仕分けの評価結果の反映」シート番号2-3)。

ようするに、相模原の職業総合大の土地を売り払って東京校に集約させることを検討しているようです。2月20日に長妻厚労相が同東京校に視察に行ったことがマスコミで報道されました。職業総合大をスリムにしようとする意図はわかりますが、ポリテクカレッジや、次に説明するポリテクセンターとの違い、ものづくりにおける役割などをどのように判断したかまでは不明です。

▽追加情報:
4/12に厚労省独自の「事業仕分け」が行われ、特に職業総合大について議論されました。縮小ではなく廃止の方向性が強まっている“空気”があります。

職業総合大やポリテクカレッジは、ものづくりをテーマとした大学という意味で、先に挙げた「ものつくり大学」と似た機能を持っています。当然、カリキュラム内容に似ている面があることでしょう。ものつくり大学も基本的には4年生大学で、社会人向けのセミナーも行っています。

位置付けとして、職業総合大は厚労省管轄の大学であるのに対し、ものつくり大学は文部科学省の仕組みの下にあります。外野から勝手なことを言えば、そんな縦割りなど無視して両者を一緒にしてしまったらどうかと考えたくなるところです。でも、一方は国立大学校、一方は私立大学なので、国がイニシアティブをとって合体させるといった方向に動くことはまずないのでしょう。唯一その可能性があるとすれば、ものつくり大学の側から職業総合大の受け皿になることに手を挙げることでしょうが、それは、職業総合大に経営から見た価値を見出すことができてこその話です。

(参考)文科省管轄以外の省庁が管轄している高等教育機関は「大学」でなく「大学校」と呼ぶそうです。

■さまざまな在職者訓練の施設
ついで、主に在職者、離職者訓練を目的とした次の2つ。

(3)職業能力開発促進センター …「ポリテクセンター」
:国立61校
(4)職業能力開発校 …「技術専門校」「テクノカレッジ」「キャリアアップセンター」など(地域により呼称が異なる)
:都道府県立166校、市立1校(H21年度)

(3)ポリテクセンターは、「ものづくり分野を中心に、中小企業の労働者等に高度な技能と知識を習得させるための在職者訓練と、失業者の早期再就職を図るための離職者訓練を実施する施設」です。訓練機関は、離職者訓練の場合は3~6カ月程度、在職者訓練は2~5日(時間にして10~30時間程度)コースが主です。

在職者訓練は、「機械系」「電気・電子系」「建設系」について実に多岐にわたる専門的なコースが用意されています。事務系のコースも一部にあるようです。推奨される受講フローなども用意されていて、技能者の育成に熱心な製造業には参考になるでしょう。

千葉県に限り「ポリテクセンター千葉」とともに「高度ポリテクセンター」があります。「高度」とあるように、一般のセンターよりもさらに専門性を持ったコースが用意されています。

一方(4)は、ざっくり言って昔の「職業訓練校」のことです。国(雇用・能力開発機構)ではなく都道府県が設置しなければならない施設とされています。訓練内容は地域のニーズに合わせ、施設ごとに大きく違います。

面倒なことにこの呼称が都道府県によってそれぞれ異なり、たとえば東京を含めたいくつかの都道府県では、(4)を「職業能力開発センター」と呼んでいます。つまり、冒頭で挙げた

(5)職業能力開発センター

は、区分上は(4)の別名の一つに分類できます。

このように国が運営するポリテクセンター(3)と、都道府県のセンター(4)は、レベルや研修対象に大きな差があるとはいえ、機能としては相当に重複していることは否めません。何年も前から両者は整理・統合の方向に向かっていることは確かですが、自治体ももちろん財政難を抱えており、おいそれと国の機関を買い取ることはできません。たとえ無償で譲渡されたとしても、人件費などの運営コストに耐えられるかが大きな問題となります。

前述の審議会では、ポリテクセンターの地方移管を促進するため、その受け入れやすい条件を整備する、といった考え方が打ち出されました。結論として、次のような条件が同機構廃止法案に記述されています。

・都道府県が職員の1/2以上を引き受ける場合 →無償で譲渡
・都道府県が職員の1/3以上1/2未満を引き受ける場合 →時価の2割で譲渡
・都道府県が職員の1/3未満を引き受ける場合 →時価の半額で譲渡

■「協会」と「センター」は違う
以上の訓練施設と比べると、

(6)職業能力開発協会

は、かなり色合いが異なります。

ここは、上記各機関と同じく職業能力開発促進法で細かく規定されている法人です。ただし、職業訓練を行う施設というより、「職業能力の開発に関する基本となるべき計画を策定する」と位置付けられています。全国に一つの「中央職業能力開発協会」(JAVADA)と、都道府県別にそれぞれ一つずつの「都道府県中央職業能力開発協会」を置くことが定められています。

文面からすると全体の「経営・企画部門」のような気がしますが、実際には在職者や経営者向けセミナーも独自に行っています。ただしものづくり系研修や技能訓練ではなく、新入社員研修、管理者研修といった階層別研修、経理やマーケティング、営業といった事務系の研修が主です。同協会の主な活動は研修でなく、技能検定、調査・研究、経営者に対する計画的な職業能力開発の啓蒙・促進といった内容です。

……

まあそんなこんなで、一つの町に非常に似通った名称の施設が並列することが珍しくありません。たとえば東京都には、次のような組織が同時に存在してしまっています。

・東京しごと財団(東京しごとセンター) …都の財団法人
・中央職業能力開発協会 …(6)の上部組織
・東京都職業能力開発協会 …(6)
・東京都職業能力開発センター …(4)(5)
・雇用・能力開発機構東京センター & 同飯田橋事務所

「東京しごとセンター」は、高齢者、障害者の雇用を含め労働関連の窓口をできるだけまとめて、利便性を高めようとしてできた施設と聞いています。

上記の事務所は異なる組織が異なる目的で、微妙に異なる場所に事務所を置き運営しています。しかもやっかいなことに、これらの事務所のいくつかがなぜか飯田橋から水道橋の狭い範囲に集中していて、本当に混乱します。

(参考)
・東京しごとセンター:飯田橋の山手線内側
・東京都職業能力開発協会:同上
・東京都職業能力開発センター 中央・城北能力開発センター:飯田橋の山手線外側
・雇用・能力開発機構東京センター飯田橋事務所:飯田橋の山手線外側
・中央職業能力開発協会:水道橋、後楽園の北

■国が事細かに職業教育を指示する?
ついでに少し行政に対して、個人的にぼやいてみます。

これまで触れてきた機関の多くの法的根拠となっている「職業能力開発促進法」という法律は、読めば読むほど無意味に思えて仕方がありません。

まず、国自身について
「職業の安定と労働者の地位の向上を図る、云々、が目的」
「ついては、これこれこういうことをしなければならない」
と立派な目的や理念、役割が書かれています。それらを受けて、

都道府県や教育機関に
「あれもしろ、これもしろ、と数多く指示しながら」
「条文に違反したら罰金や過料」
があるらしい。さらには、

教育訓練を行う事業主に、
「なんとか訓練とかんとか訓練を効果的に使ってほにゃららせよ」
「厚生労働大臣の認定を受けた教科書を使用するように努めよ」
「技能照査の基準は厚生労働省令で定める」
「訓練指導員は都道府県知事の免許を受けたものでなければならない」
と箸の上げ下ろしを指示しているかのようです。

もし本当にこの法律通りに自治体や企業が活動していたら…

職業教育など絶対に成功しないだろう

などと想像してしまいました。

民間企業は、官の“上から目線”に縛られず柔軟に活動してこそ、良い組織づくり、人づくりができるものでしょう。

*   *   *

冒頭の図の説明がまだ半分くらいしか終わっていないのですが、長くなりました。続きは次の回の記事に送ります。

▽関連情報:
雇用・能力開発機構の廃止に関連して、続々と新情報が出ています。廃止法案は、今国会への提出を見送るとの報道あり。

第12回厚生労働省政策会議(4/1)
出席議員から質問等続出「雇用対策やものづくり支援の一環として、国の責任において職業訓練を行う組織とするとされているが、総合大やポリテクセンター等がそのような組織となるかが全く見えない。地域職業訓練センター等は切り捨てて、大元がどのようになるかが全く分からない」。
一方、厚労省側「1月の段階で検討中だったが、能開機構は負の遺産と言われ、廃止法を出さなければ鳩山内閣はまた批判を浴びる。残すわけにもいかないし、スリム化を図ると地元からたたかれる。針を穴に通すように非常に難しい」

3級技能士かもちゃんがゆく 厚生労働省政策会議(雇用・能力開発機構法廃止法案)
廃止法案以外にも、同機構に関連する興味深い記事が多い。

毎日jp 事業仕分け:第2弾候補は127事業、国費投入2.3兆円
雇用・能力開発機構はリストに入っていないが、高齢・障害者雇用支援機構が入っているので、実質的に議論に巻き込まれるはず。ほかに労働政策研究・研修機構、中小企業基盤整備機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構などの名がある。

社民党 独立行政法人雇用・能力開発機構法を廃止する法律案に関する要請
要するに“反対”。「職員の労働契約に係る権利及び義務」を特に問題視。これについては、審議会の現場でも異議が表明されていた。

脳測定を技能向上・伝承に生かせないか

個人の頭の中に閉じ込められている技を他人に伝えたり、言葉にしにくいものをなんとか言葉にしていく…。脳科学を応用してそのプロセスをスマートに進めることはできないものでしょうか。

(今回の記事は、個人的な観測ばかり含めた内容です。紹介している本と記事の内容に強いつながりがあるとは言えませんので、その点ご容赦を)

言語習得に関連する書籍2点
〔日本語は論理的である、脳科学からの第二言語習得論〕

■個人を対象にした脳科学の応用
脳科学の社会への応用が進んでいることを「身体を測る 11-脳の非侵襲的測定」「脳測定とマーケティング」で触れました。ニューロ・マーケティングやニューロ・エコノミクスは普通、多数の人や組織を対象にして、社会の中で戦略・戦術を考える場面で応用されます。

一方、個人を対象とした分野にも脳科学はもちろん応用でき、“脳トレ”がその応用例にあたります。ただし、一足飛びに結果を求める脳トレにまがい物があふれていることは否定しようがありません。現実の科学ではもっと地味な研究が一歩一歩進められているところでしょう。本サイトのテーマからすると、例えば

(1) 個人のより客観的な心理アセスメント
(2) 技能技術の伝承や、暗黙知の形式知化

につながるきっかけを脳科学に期待したいところです。

■技の伝承をスムーズに進めたい
上記2つのテーマのうち(2)、つまり個人がどのように特定の技能を習得していけばよいか、あるいは言葉で伝えにくい技を人に伝承させていけばよいかについて、最近発表されてくる脳科学研究を役に立てることはできないものでしょうか。“ニューロ・ワーディング”(neuro-wording)とでも名付けましょう(つい今しがた、この原稿を書いている間にひねり出した完全な造語です)。

これは一つの問題意識を示しただけで、その確固たる手がかりが私(松山)にあるわけではありません。実際の企業内での人材育成、技術伝承の手法を考えるときには、作業標準・作業手順書の作成、計画的なOJT、小集団活動といった従来からある手法を用い、一歩一歩地道な改善に取り組むといった姿勢が求められます。画期的な“改革”のような手段は、まずありません。

だからこそ、脳科学の研究から、よりスムーズに技の高度化、客観化ができるヒントを得たいと考えています。自分は脳科学者でも臨床精神科医でも何でもないので、たんに“あったらいいな”という希望を述べているに過ぎませんが…

※ wordingは“言葉遣い、言い回し”といった意味ですが、ここではやや広い意味でとらえ、言語だけでなくビデオ映像や録音、再現可能な動きを含めたなんらかの客観的な表現手法を含めて指すことにします。つまり、無理すれば言葉にできなくはないが、手間とわかりやすさを勘案するとその一歩手前で止めておいた方が利用価値がある表現もwordingの対象として分類します。“可視化(見える化)”と似た概念かもしれません。

※ 一つだけむりやりこじつけてしまうと、前回の記事「高田瑞穂著「新釈現代文」」で示されている「内面的運動感覚」なるものを発揮することが、ニューロ・ワーディングを的確に進める原動力になるような… (^_^)v

■言語習得の研究に脳科学
地に足が着いていない観測ばかりを言っても仕方ないので、少し現実に戻り、言語技能の習得と脳の関係が研究されている書籍を2冊ほど紹介します。

「脳科学からの第二言語習得論の研究」NIRSによる脳活性化の研究
【大石晴美(著)、2006年、昭和堂】

一言で言うと「日本人が英語のリスニングとリーディングをしたときの脳血流の活性度合いを測った実験結果」を解説した専門書です。NIRS(光トポグラフィー)を中心にいくつもの実験がされていますが、その実験結果からは例えば次のようなことが見出せたとされています。

・上級学習者では、右脳側面より左脳側面の血液増加量の割合が多かった。これは左脳にある「ウェルニッケ野」が活発に活動していたことを示唆している
・(短期記憶をつかさどる)前頭葉と(言語野がある)左脳側面の血流増を比較すると、中上級学習者は前頭葉より左脳側面に反応が強かった。上級学習者となると言語野近辺に選択的に血流増加がみられた
・大きくみると、
学習し始めたばかりの初学者…無活性型(どこも反応が鈍い)
初学者~中級学習者…過剰活性型(脳のあちこちが反応している)
中級以上の学習者…選択的活性型(言語野に限って強く反応している)
上級…自動活性型(強く反応する部分はかえって少なくなっていく)

「日本語は論理的である」
【月本洋(著)、2009年、講談社刊】

昔も今も「日本語は論理的でない」という誤解が時々語られますが、言語である以上、そんなことはまずありません。もし論理的でない日本語が蔓延しているとすれば、それは日本語の特性からくるものではなく、使う人の姿勢や教育の問題といえるでしょう。本書は、そのあたりを確かめながら、脳科学の視点から日本語の特性や教育論について解説している本です。脳測定の話が多数出てきます。

以前から研究結果として知られていたこと(角田仮説)をあらためてMEG(脳磁図計)などによる実験をした結果、次の事実が確認できたとされています。

・日本語(やポリネシアの言語)を母国語とする人は、母音を左脳で聴く
・英語人をはじめ他の多くの言語を母国語とする人は、母音を右脳で聴く

その他の検討と併せ、次のような考え方ができるとしています。

・人は発話開始時に最初に母音を「聴覚野」で聴く
・「自分と他人を分離して認識する」概念は右脳の聴覚野のすぐ隣で処理される
・右脳で母音を聴くと「自他分離」を処理する野が刺激され、人称代名詞などを多用しやすくなる
・左脳で母音を聴く日本人(やポリネシア人)はその逆に、自他の識別を示す言葉を積極的に使わない傾向がある

これが日本語で主格(主語)が省略されやすい仕組みだとしています。著者の主張については専門家からの異論も相当あるようですが、あくまで一つの仮説として考えるなら興味深い内容といえそうです。

■将棋名人の頭の中は
これらの研究とはまったく別のものですが、将棋の羽生善治名人を被験者の一人にして、脳活性の様子をfMRIで観察した研究がされています(理化学研究所脳科学総合研究センター)。fMRIに入ったままで詰め将棋などを解き、脳の反応を測定したものです。NHKの番組でも採り上げられたのでご存知の方も多いかもしれません。(NIRSではなく)fMRIなので脳の具体的個所や深部まで測定できています。結論として次のようなことが導けたとされています。

・アマチュア棋士は、前頭前野を中心に活性化がみられた
・プロの棋士は、脳のもっと深い大脳基底核尾状核が活性化した
・さらに羽生名人の場合に限っては、海馬にある嗅周皮質や脳幹にある網様体が活性化していた

ようするに何かを深く極めていく過程で、短期的な記憶→長期的な記憶→習慣的な行動や思考→本能的な行動や思考、へと脳内で主に働く部分が変化(高度化・自動化)していくことが示唆されます。常識と照らし合わせても十分納得できる仕組みでしょう。

*  *  *

言語技能や将棋の技能に限らず、高度な技を身に付けた人は、きっと頭の中の活性個所が初心者とも中級者とも異なることでしょう。また、技の伝承が得意な人は、理にかなった言葉の使い方や見せ方ができるものと推測します。

この分野についてもっと詳しい方に、ぜひご意見を伺いたいところです。