公的機関の人材育成事業-2

前回に引き続き、“人づくり”に関わる公的機関の分類、整理です。今回は、中小企業庁系の機関を中心に説明します。公共サービスの背後に無駄があり、関連法人が事業仕分けの対象になっていますが、なかにはばかばかしい仕分けとしか思えない結果もみられます。

公的機関の概要図B
〔人づくりに関係する機関の分類例〕 図のpdfファイル

■中小企業基盤整備機構も事業仕分けの対象に
前回(1回目)の記事では、人材教育に関連する似通った名前の組織が多く存在していること、厚生労働省管轄の団体は職業能力開発促進法が主な法的根拠になっていること、雇用・能力開発機構が関連する職業訓練機関を運営してきたこと、その雇用・能力開発機構は事業仕分けによって廃止されることになっており、来年に別の独立行政法人とくっついて新たな独法となる予定であることなどを説明しました。

1回目の記事の冒頭で挙げた図(初期掲載版から少しupdateしました)と、文章の冒頭で書いた“クイズ”がまだ説明できていないので、それらも参照しながら先を進めます。

このテーマに関連する公的機関は大きく次の4グループに分けられます。
・厚生労働省系
・中小企業庁・経済産業省系
・文部科学省系
・地方自治体が運営するもの

厚労省の場合に、「雇用・能力開発機構」と「職業能力開発促進法」がそれぞれ重要な実行機関と法的根拠であったように、中小企業庁系でもそれぞれ該当する機関と法律があります。

(7)中小企業基盤整備機構
:全国に10の支部(地域オフィスを含めるとそれ以上)
(8)中小企業大学校
:全国に9校

中小企業庁の施策実行の中枢となる実行機関が「独立行政法人中小企業基盤整備機構」で、2000年前後の特殊法人改革の波の中から2004年に出来た法人です。前身は、中小企業総合事業団、地域振興整備公団など。

中小企業大学校は、同機構が設置する教育施設です。つまり組織的には(7)が(8)を含みます。(中小企業大学校ではなく)中小企業基盤整備機構自身が主催する研修セミナーもあります。

雇用・能力開発機構の箱モノ事業ほどではないにせよ、どの程度社会の役に立っているかとなると、厳しい意見が一部にあるようです。かりに末端の事業は高く評価されたり少ない報酬で頑張っていたりしても、機構役員の報酬や外注時の手数料が多額であるといわれます。組織・システムとしてのオーバーヘッドが大きければ、それは見過ごすわけにはいきません。雇用・能力開発機構と同様、国の機関として活動する意義が問われ、第2次の事業仕分けの対象に選ばれています。

これらの組織の名称は長いので、話の中ではよく「機構」と一言で表されます。しかし厚労省の職業訓練の話の中での「機構」と、中小企業支援の文脈での「機構」では、指している組織が違うので注意しなければなりません。

■省庁の枠を超えられるか?
1回目の記事の図と違う視点から、職能大や一般の大学・高専などを比較分類して、冒頭の図(人材育成に関連する機関の分類例)にまとめてみました。

中小企業大学校については、「大学校」とはいっても基本的には一般向け。一般企業の経営者や従業員を対象にした研修と、中小企業の支援者 ― ざっくりいうと中小企業診断士 ― の養成の両方の機能を持っています。

あたりまえのことかもしれませんが、教育機関や教育事業を制度化すると、その学校や研修の指導者の養成、つまり一段階上の「指導者教育機関」が必要になってきます。そうみると、厚労省系でいま廃止するかどうか話題になっている職業総合大については、それを単体で見るのではなく、そもそも国として職業教育のシステムを維持できるかどうかという判断になってくるのかもしれません。

一般の国立大学についても、多々課題はあるものの、経営の仕組みやガバナンスのあり方が変わっていく途上です。もはや省庁が複雑な教育システムを自前で維持する時代でないでしょう。厚労省や中小企業庁の審議会、事業仕分けでの議論など省庁の枠内のみの視点は、時代の流れの下では吹けば飛んでしまいそうな気がします。

■機構と中小企業大学校
中小企業基盤整備機構の主な法的根拠は「中小企業支援法」です。この法律は、人材育成のほか経営支援、技術支援、金融面での支援その他広い意味での中小企業支援について記されています。第1条に「国、都道府県、中小企業基盤整備機構が行う支援事業の推進…」と目的が明記されています。

もとをたどると「中小企業基本法」という基本法があり、その第19条に「(国は)職業能力の開発及び職業紹介の事業の充実その他の必要な施策を講ずる」と書かれています。それを受けるように中小企業支援法の第3条の3項4項に「中小企業の従業員研修」と「中小企業支援者の養成」が示されています。

また「独立行政法人中小企業基盤整備機構法」の第15条の2に、機構の業務は「経済産業省令で定める法人の役員・職員の養成・研修」「都道府県が行うことが困難な中小企業者・従業員の研修」を行うこととされています。これが中小企業大学校の存在根拠のようです。

中小企業大学校の研修については、直接的な評価を耳にする機会はあまり多くないのですが、間接的な評判や研修内容を見る限りでは、悪い印象はありません。ここの研修は結構早めに満員になってしまうという印象があります。もし評価されているとすれば、むしろ完全に国から独立させて民営化ができそうな気がしますが、どうでしょうか。

(参考)昨年の事業仕分けでは、たとえば次のようなコメントつきました。
「中小企業大学校については、講師は比較的低額で協力しているので、9校全体で43億円の運営費は内容に照らして高すぎる」

なお、この19日に、経済産業省から「経済産業省所管独立行政法人の改革について」という発表がありました。(第2次)事業仕分けの前の省内仕分けのような意味を持つのでしょう。中小企業大学については次のような記述があります。

「中小企業大学校の研修事業については、中小企業者のそれぞれの経営課題や現場実態を踏まえた研修に重点をおくこととし、以下の見直しを行う。
1)短期研修については、市場化テストを全校に拡大し、その結果を踏まえて廃止を含めた検討を行う。
2)受講料の水準を見直す。特に、中小企業診断士研修について、研修生が中小企業者や中小企業支援担当者ではない場合には、受講料負担を適正水準まで引き上げる。
3)コストの高い地方中小企業大学校は、地元との協議の上、その在り方を検討する。」

■体系は“混沌”か“柔軟”か
自分だけの印象かもしれませんが、厚労省系のシステムが「職業能力開発促進法」でかなりシステマチックに体系化されていたのに比べると、中小企業庁系の法体系やシステムは、ごちゃごちゃ感が否めません。悪く言えば“混沌”。よく言えば“柔軟”。毎年のように中小企業向け施策の内容が変わり、それに伴って複雑怪奇に形を変えていきます。

毎月どころか毎日事情が変化する経済環境に中小企業が対応していきたい実情を考えると、もしかしたらこうしたフレキシブルな考え方の方がよいのかとも考えられます。

しかしながら政治家の判断(思いつき)と、官僚の優秀さ(辻褄あわせ)が巧みに絡まりあい、見事に複雑化したり、整理されたりします。かつて制定された「中小企業 ○○ 法」「中小企業 ○○ 制度」という名の法律や制度の数は、数十、いや数百あるかもしれません。中小企業診断士になろうとする人は皆、これら名称群に悩まされます。試験に合格するためには、中小企業施策の本質を理解することより、これらの名称の暗記に時間を費やさざるを得ません(今は違うのでしょうか?)。

「中小企業支援センター」「中小企業振興センター」「中小企業応援センター」などの名称が乱立する理由もこの辺にあり、時に同じものを指し、時に違う概念を指します。

■中小企業支援センター
中小企業支援センターは、中小企業基盤整備機構の支部や窓口を指すこともあるのですが、多くの場合は都道府県の機関としてのセンターを指します。都道府県に1カ所づつ。位置付けとしては、中小企業庁傘下ではなく、地方自治体(都道府県)傘下の組織ということになります。制度上は、47カ所すべて「財団法人」です。

(9)中小企業支援センター
:全国で都道府県ごと47カ所(その他いくつかの政令指定都市にある地域中小企業支援センターが13カ所)
全国一括りで言うと「中小企業支援センター」ですが、都道府県別に「振興公社」「振興センター」「支援機構」などの名前になっており、行っている事業もそれぞれ少しづつ異なると思います。例えば東京都の場合は「東京都中小企業振興公社」、神奈川県の場合は「神奈川産業振興センター」、長野県では「長野県中小企業振興センター」などです。
つまり、
(10)中小企業振興センター
は、区分上は(9)の別名の一つに分類できます。

成り立ちはそれぞれ違うところがありますが、各都道府県とも、法的には中小企業支援法によって指定されているはずです。業務としては、中小企業庁関連、厚労省関連、その他もろもろ。多様な事業を持っているので、国というより都道府県の政策実行機関とみる方が正確でしょう。

組織の成り立ちとしては、「全国下請企業振興協会」の都道府県協会が前身だったところが多いかもしれません。東京都について言えば、民法に基づいて設立された財団法人下請企業振興協会という公益法人が母体で、その後東京都勤労福祉協会、東京都の知的財産総合センター事業、社団法人東京産業貿易協会といった団体や事業が次々に統合。一方、産業技術研究、食品技術といった部門が他に移管され、今の財団法人東京都中小企業振興公社になりました。本社は秋葉原の駅近くにあるほか、蒲田、青砥、立川などに支社があります。

それぞれのセンターが、独自の研修メニュー、支援メニューを持って活動しています。地域のニーズに応じて、製造業、商業、サービス業それぞれの内容が組まれています。関東近辺では、埼玉県中小企業振興公社に、結構充実したものづくり系研修があるようです。

■また一つ増えた類似名称
これだけでも類似名称は混乱しますが、この4月1日からまた新たな名称が現れました。2009年秋に行われた、例の事業仕分けの“賜物”です(笑)。

(11)中小企業応援センター
:全国84カ所

この名称は、新たに組織を立ち上げたというより、基本的には既存の機関の一部に付けた別名のようなものです。地域の中小企業がよろず相談を持ちかける先、専門家派遣をしてもらう場所ということです。

実は中小企業の経営課題解決のワンストップ窓口的なものとして、H20から「地域力連携拠点」というものが327カ所指定されていました。これは、先に触れた中小企業支援センターのほか、地域の商工会、商工会議所、信用金庫、中小企業診断士会、中小企業団体中央会などがその窓口になっていました。中小企業から総合相談を受け、必要とあれば適任の専門家を紹介することが主な役割となっていました。

ところが事業仕分けの俎上に上り、めでたく?予算計上の見送りと相成りました(事業仕分けの資料番号2-58)。当初、平成20年度から3年間の計画で全国で動いていたため、廃止は現場の人間にとって結構突然の出来事でした。

(参考)昨年の事業仕分けでは、たとえば次のようなコメントがつきました。
「全国的にまんべんなく事業を行うことに意義はあるのか。商工会議所、財団、地銀、信組に対する支援になっているのではないのか」
「もともと地銀、税理士、商工会議所の本業にあたるところで、政府は地域力連携拠点を作れば十分で、専門家の費用は受益者が払うべきである」

でも、これまた不思議なもので、「仕組みの見直しによる再提出」がされた結果、新たに「中小企業応援センター」という名で似た事業が現れました。これが(11)。まるでゾンビ。

地域力連携拠点の327個所から中小企業応援センターの84個所と、全体が整理されたように見えます。しかし、実は地域の複数の拠点が「コンソーシアム」を組んで、グループとして応援センターの看板をかけた、というのが実態です。応援センターの看板がかからなかった機関も、「ワンストップ相談窓口」がなくなるわけでも、専門家派遣の機能がなくなるわけでもありません。これまで「地域力連携拠点」の認定を受けていなかった団体が新たにいくつか加わっている分、窓口の数はかえって増えたかもしれません。

見かけより何より、いくら「応援センター」として見かけ上の数が整理されたとしても、個々の団体が、まったくそれまでつきあいのなかった(他の拠点の)専門家を自信もって紹介できるということは少ないものです。結果的に、「応援センター」として認定されたかされないかは、予算配分上の損得はあるものの(それは大きいでしょうが)、利用者から見ると、たんに“屋上屋を架した”だけのものに過ぎません。

(参考)地域力連携拠点事業の予算規模は資料によると約58億円でしたが、中小企業応援センターの予算規模は45億円弱。全体としては20%程度の予算削減ということになるようです。

政治家や仕分け人は、「無駄なものを仕分けできてシメシメ」と自己満足しているかもしれません。でも国の官僚や自治体関係者からすると、「政治家が余計なことをしてくれたので、現実とつじつまを合わせるため、新たな仕組み作りと手続きをわざわざやらざるをえなかった」というあたりが本音かもしれません。そして現場の人間や利用する一般企業からすると「また一つ、似たような名が増えて複雑になった」というのが現実です。いやホント、何をやっているのか。

まあ、今日に始まった話ではなく、どうせ数年するとまた改変されたりするでしょう。正直言って迷惑ですが、まったく時代の変化に対応しないよりはまだましと、ある程度達観を決め込む方が精神的に楽です…。

またしても長い文章になってしまいました。

(参考)
はんわしの「評論家気取り」 屋上屋を架す? 中小企業応援センター

▽関連記事:
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